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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第507話 国家プロジェクト


 ざわざわざわ……


 明るすぎない照明の中、周り中から人々の話し声が聞こえてくる。

 場所は、王都の一等地に新設された大きな歌劇場だ。十階建てマンションを丸々収容できそうな程に天井が高い。

 今は幕が降りているステージの正面には、楽団の演奏スペースを挟んで観客席がずらりと並び、両サイドの壁にも立体的にバルコニー席が配置されている。

 合計数千人は座れる席が今日は全て埋まっていて、歌劇場全体が期待感に満たされている。

 そんな雰囲気の中、僕とメームさんは個室のバルコニー席に寄り添うように座り、開幕を待っていた。


「見事に満員ですね…… 流石メームさんです」


「うむ。ひとまず宣伝は上手く行ったようだな。良かった。後は観客の演目への反応だな……」


 流石に少し緊張しているのか、メームさんは硬い表情でステージを見つめている。その手をそっと握ると、彼女は嬉しそうに微笑み返してくれた。


「ふぅ…… 俺の仕事はすでに終わっているのに、どうにも緊張してしまうな。少し別の話をでもするか……

 そうだ。例の豚鬼(オーク)の魔人だが、お前は彼女をどうするつもりなんだ? 側妃にするには国民が納得しないだろうし、経緯を考えると俺も少し受け入れ難いんだが……」


「そ、側妃にはしませんよ! えっと…… 彼女の処遇については一応考えはあるんですが、まだ色々と確認待ちの段階ですね……」


 先日魔物の領域の深層で遭遇した豚鬼(オーク)の魔人、シュカーラについては、お妃さん達と重臣達に共有済みだ。そして当然、僕の行動はなかなかに物議を呼んだ。特に重臣達の反応は激しかった。

 散々竜王やその配下に苦しめられて来たこの国では、魔人への憎悪は魔物の比じゃない。

 ある種災害的な側面がある魔物と違って、魔人はその名の通り人格を持っている。その分、彼らに向かう国民の負の感情はかなり激しいのだ。


 そこを何とか頼み込んで、シュカーラ達が過去、未来において本当に人類の敵ではないのか調査する事となった。過去の事件を調べつつ、キアニィさん達諜報部隊にも監視してもらう形だ。

 それで大丈夫そうなら、次の段階として彼女達には移住を提案するつもりだ。今のこの国には、彼女達のいた深層までいけるパーティーは少ないけど、今後は分からない。もしかち合ったらお互いに不幸な事になってしまう。

 その移住先に関しては、幸い僕には頼りになる魔物の友人がいるので、彼に相談させてもらう予定だ。全部上手く行くといいけど……


「ふむ、そうか…… お、始まるな」


 メームさんの声と共に会場の照明が落とされ、ブザー音が鳴り響く。すると会場のざわめきが止まり、ステージの幕が上がった


 --カッ。


 スポットライトのような光が、ステージ上に立つ人影を照らし出す。

 漆黒の翼と黒真珠のような美しい肌、スーパーモデルのようなスラリとしたプロポーション、身に纏うのは純白の衣装と煌びやかな宝飾品の数々…… 僕らのティルヒルさんだ。


 ただそこに佇んでいるだけでも美しい立ち姿に、観客席から感嘆の声が漏れる。

 彼女はこっちが気後れしてしまう程の美貌に対して、物凄く気さくで人懐っこい。宝飾品や衣服への造詣も深いので王都のファッションリーダー的存在でもある。要は、王都でも随一の超人気者なのだ。


『--ラァー…… ラァアァー……』


 楽団が静かに音を奏で始め、ティルヒルさんの澄んだ歌声が劇場に木霊し、舞台が始まった。

 演目は彼女達の故郷、魔獣大陸のナパに伝わる神話をなぞったものだ。

 彼女達は初め、魔物との闘争と混沌に満ちた世界に在った。そこから精霊達の導きで幾つもの世界を渡り、困難の末に現在の調和に満ちた世界、ナパへと至る。そんな物語だ。


 途中から彼女と同郷の鳥人族(ちょうじんぞく)、白い翼をもつアツァー族達も舞台に上がり、歌とダンスを伴う演目は進んでいく。

 そしてクライマックス。彼女達は一斉にステージを蹴り、観客席の上空へと飛び上がった。

 ステージ奥と天井は白壁のスクリーンになっていて、そこには演目に合わせた映像が映し出されている。

 それらを背景に舞い飛ぶティルヒルさん達に、観客席からは抑えきれない歓声が上がった。


 その後も演目は進み、彼女達が安住の地へと至る場面へと進んだ。

 ステージ戻ったティルヒルさん達が最敬礼する中、幕が降り始める。


「「--ワァァァァァッ!」」


 幕が降り切った直後、観客席から万雷の拍手が巻き起こった。僕とメームさんも自然と席を立ち、呆然とステージに拍手を送る。

 すると、黒い翼影(よくえい)が幕の隙間からするりと抜け出し、僕らのいるバルコニー席へと飛び込んできた。

 影の正体、ティルヒルさんは、その勢いのまま僕とメームさんをまとめて抱擁した。


「タツヒト君、メムメム! 見に来てくれてありがと〜! もぉー、すっごい緊張したよ〜!」


「ご苦労様だったな、ティルヒル! しかし礼を言うのはこちらの方だ。実に、実に素晴らしい舞台だった……! これならば、計画通りに進めて問題ないだろう」


 泣き笑いのような表情のティルヒルさんに、メームさんが会心の笑みを浮かべる。

 メームさんの計画。それはティルヒルさん達の素晴らしい舞台を、我が国のエンタメ事業の柱に据えるというものだ。


 歌って踊るのが大好きなティルヒルさん達、新しい事業を常に考えているメームさん、そして地球世界のアイドル文化を知る僕。この三者が今日のような歌劇事業にたどり着くのは、時間の問題だったと思う。

 その最初の試みが、ホームタウンである王都で行われた今日のライブだ。

 結果、メームさんプロデュースの初公演は満員御礼。お客さん達の反応も最高だった。

 これなら、国内の他の主要都市にも歌劇場を作り、さらに国外からも富裕層のお客さんを呼び込むというストーリーも行けるだろう。


 演者が歌劇場間を移動するのが大変そうだけど、主要キャストのティルヒルさん達は空を高速移動できるので問題にならない。結構すごい仕組みなんじゃないだろうか?

 ちなみに光魔法を多用した舞台装置は、フラーシュさん、シャム、プルーナが苦心して作ってれた力作だ。今日のライブ以外にも応用できるので、メームさんは他にも色々と催し物を考えているらしい。

 さておき、今はこの感動を彼女に伝えたい。


「本当に凄かったです……! 僕、こっちの世界に来る前にいろんな演劇を見ましたけど、今日ほど感動したのは初めてです! ほら、見てくださいよこれ。まだゾクゾクした感覚が続いてますもん」


 僕は興奮しながら袖を捲ると、鳥肌のたった腕をティルヒルさんに見せた。観客席からもいまだに拍手が鳴り止まない。ちらほら泣いている人達までいる。

 僕らの手放しの賞賛に、ティルヒルさんが頬を染めて笑う。とても満足げだ。


「えへへ〜…… 楽しんでもらえてよかったよー! みんなと一緒にいっぱい練習したからさ。

 ね、ね。ちょっと早いけど晩御飯食べに行こーよ。あーしお腹すいちゃった!」


「勿論だとも! 最高級の料亭を押さえてあるぞ」


「流石メームさんです! 早速行きましょう!」


「ああ。だがそれだけではなく、最高級の宿も押さえているぞ……? 王城とはまた違った趣のある、実に良い部屋だ。

 --大仕事を終えて気が昂っていてな。正直、今すぐ宿の方に行きたいくらいだ」


「あはっ、メムメムも? 実はあーしも…… たくさん踊ったら興奮して来ちゃってさ……」


 身を寄せてきた二人の熱い吐息が両頬にかかり、思わずごくりと喉が鳴る。


「えっと…… ま、まずはご飯を食べましょうよ。その、最中にお腹が減ったら集中できないでしょう……?」


 僕の言葉に、二人が顔を見合わせてにんまりと笑う。


「ふふっ、そうだな。何せ今日は長い夜になる」


「んふふふふっ……! 行こっ! 早く行こっ!」


 長身の二人が、ガッチリと僕の両腕を取る。

 未だ続く拍手に若干の後ろめたさを覚えながら、僕らは足早に歌劇場を後にした。


お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

そして、今後は土曜も更新していく事にしました。

なので本話は昨日分という事になります。そうです。早速遅れてしまいました。。。

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【水曜以外の19時以降に投稿予定】


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