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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第505話 禁書指定


「あぅ……? ぉん……?」


 執務室の隣の子供部屋。腕の中の我が息子、アレクシスが、不思議そうに僕を見上げている。誰だこいつ? とでも言いたげだ。


「おはよ、アレクシス。アタイら今日はちょっと出掛けてくるから、いい子で待ってるんだよ」


 彼は僕の声を聞いてさらに混乱を深めたようで、ちっちゃなお口をぽかんと開けてしまった。

 すると、側で僕らの様子を見ていたヴァイオレット様とフラーシュさんが同時に吹き出した。


「くふっ……! はっはっはっ! そういえば、アレクシスは彼女とは初対面だったな」


「んふふ! 声はタツヒト氏なのに、完全に女の子なんだもんねー。アレクシス君もびっくりだよねー。ふふっ」


 部屋の中に二人の笑い声がこだまし、つられて僕とアレクシスも笑い出す。

 そう。僕は今日、初めてタチアナ姿をアレクシスに披露したのだ。

 しかし彼が寛容な子供で良かった。もし僕がちっちゃい時に父親の女装姿を見てしまったら、恐怖でギャン泣きする自信がある。


 で、なぜタチアナ姿なのかと言うと、ヴィオレット様とフラーシュさんの二人とお忍びデートに行くためだ。

 冬は明けたけどまだ外は肌寒く、三人とも同じデザインで色違いのコートを着てめかし込んでる。

 最近仕事が落ち着いてきた事で、時間の合うお妃さん達と遊びに行くくらいの余裕が出てきたのだ。

 もちろん、タチアナ(イコール)タツヒト王である事は王都のほぼ全住人が知っているのだけれど、有難いことにみんな別人の(てい)で接してくれている。


「さて、そろそろ行こうかね。アマート、悪いけどアレクシスをよろしく頼むよ」


「はい、お任せ下さいタチアナ様。どうかお二方との休日をお楽しみ下さい」


 侍女のアマートさんにアレクシスを預け、僕らは王城を出して街へとくりだした。






「二人とも。まずは噂の新しく出来た本屋に行くって事でいいかい?」


「うむ! どんな作品と出会えるか…… 楽しみですね、先生!」


「だね、ヴァイオレット氏! あたし本屋そのものも好きだから、知らない書店に行けるだけでもワクワクしちゃう……!」


 三人で仲良く並んで王都の大通りを歩く。今話した通り、今日のデートのコンセプトは書店巡りだ。

 このお二人が読む本というと、ついいかがわしい代物を連想してしまうけれど、彼女達は普通の本も好きなのだ。


 なんでも最近、アウロラ王国には国外の書籍がかなり入荷するようになったらしく、各店舗の蔵書も、書店そのものの数も増えてきているそうなのだ。

 うちの国民のおよそ三分の一を占める妖精族(ようせいぞく)は本好きが多く、国内外の商人達がその需要に答えた形だろう。

 その為には国内外で流通が確保されている必要があるのだけれど、南と西の港周辺の海賊が減った事でそれも解決したようだ。


 ちなみに、上から見るとほぼ円形なアウロラ王国は、現在東西南北に四つの大きな港を持っている。

 海賊という障害が取り除かれたことで、各港を経由して王国外周を循環する海の流通路が正常に機能始めたのだ。

 さらに各港から主要都市を結ぶ運河も整備中だ。全ての工事が完了すれば、円環状の海路と国内に張り巡らされた運河により、王国内の物流は劇的に改善される計画だ。


 --まぁ、我が国の物流事情はさておき。今はデートに集中しよう。


「おやタチアナちゃん達! おはようさん。おしゃれしてどこ行くんだい?」


 声に振り向くと、馴染みの屋台のおばさまが僕らに手を振っていた。


「おはよ、アナさん。ちょっと二人と逢引きにね」


 僕の言葉に、ヴァイオレット様が堂々と、フラーシュさんはちょっと恥ずかしそうにアナさんに会釈する。


「あらあら、いいわねぇ〜! ちょうど芋が蒸したてだから、持ってってもらおうかと思ったけど…… ふふっ、両手が塞がってるみたいだから、また今度にしておこうかしらね!」


 おばさまが実に楽しそうに笑う。彼女の言う通り、僕の右手はヴァイオレット様の手を、左手はフラーシュさんの手を握っていて、かなり幸せな状況だった。

 しかし二人とも長身なので、間に挟まれた僕は歳の離れた妹のように見えるかもしれない。


「あ、あはは。そうだね、また今度寄らせてもらうよ。それじゃ」


 今更ながらちょっと恥ずかしくなってしまい、僕はアナさんに別れを告げると少し足早に歩き出した。すると両隣の二人がにこにこと僕の顔を覗き込んでくる。


「おや、どうしたのだタチアナ。もう少しアナ殿と話してもいいだろうに」


「タチアナ氏。顔が真っ赤だよ? うふふっ」


「も、もう。二人とも揶揄わないでおくれよ。ほら、そろそろお目当ての本屋に-- あれ?」


 二人から視線を戻すと、大通りの先に人だかりが出来ていてた。そしてそこは、まさしく僕らが行こうとしていた本屋の場所だった。二人もそれに気づき表情を引き締める。


「む。随分物々しい雰囲気だな……」


「い、行ってみようよ。何かあったのかも……!」


「ああ。王都の揉め事は放って置けないからね」


 頷きあった僕らは小走りで人だかりに近づき、その内側へと分け入った。

 すると視界が開けた先には、厳しい顔つきで書店を取り囲む妖精族(ようせいぞく)の兵士達の姿があった。

 あの人達の顔…… うん、見覚えがある。多分、警邏(けいら)士団第一大隊所属の小隊だ。士団長のゼルさんの姿は無いみたいだけど、どうしたんだろう?


「ちょいとごめんよ。あんた達ゼルんところの連中だろ? 一体何があったんだい?」


 小隊長らしき実直そうな妖精族(ようせいぞく)のお姉さんに声をかけると、彼女は眉を顰めながらこちらを振り向いた。


「ゼル、だと……!? 貴様、我らの士団長に対して-- こ、これはタツッ…… タチアナ殿……! た、大変失礼致しました!」


 しかし彼女は僕の顔を見た瞬間、青い顔で九十度のお辞儀をしてきた。最敬礼である。ちょっと罪悪感を感じてしまう。


「あー、いや、仕事の邪魔をしたのはこっちだから、謝らないでおくれよ。それより随分と物騒な様子だけど、この本屋がどうかしたのかい?」


「は、感謝いたします……! それでこの書店ですが…… 実は、ここで王家を貶める内容の書籍が売られているという情報を得まして、当該書籍の捜索に来た次第であります」


「えっ……!?」


「ほぅ……」


 小隊長さんの返答に、フラーシュさんが驚愕し、ヴァイオレット様が目を細める。

 これには、始祖神レシュトゥ様からこの国を受け継いだ僕も真剣にならざるを得ない。場合によっては……


「へぇ、王家をねぇ…… どんな本なんだい?」


「は。現在部下が接収を行なっているところでして、そろそろ戻ってくる頃だと思うのですが……」


「小隊長、ありました! おそらくこの書籍です!」


 すると、書店の方から何冊かの本を抱えた兵士の人が走ってきた。その彼女を小隊長さんが笑顔で迎える。


「おぉ、でかした! どれ、一体どんな-- こ、これは……!?」


 件の本を受け取った小隊長さんが、赤面しながら顔を引き攣らせる。なんだかちょっと変なリアクションだけど、余程の内容なのは確かだろう。


「小隊長さん。それ、アタイにも見せておくれよ」


「え……!? その、これをタチアナ殿にお見せする訳には……」


「いいから。本当にやばいものなら、どうせ後からアタイも見ることになるんだからさ」


「はっ…… では、どうかお心をしっかりお持ち下さい。これは、禁書に指定される可能性が非常に高い代物です……!」


 小隊長さんは、神妙な面持ちでその本を僕らに差し出した。


「「……!?」」


 そして、それを目にした僕らは目を見開いた。その本のタイトルと著者名に、こう記されていたからだ。


『淫乱少年侍男(じなん)物語 第二十六集 著者:ユシーラフ』


 ユ、ユシーラフ先生…… また貴方ですか……! 前見たのは確か第十八集とかだったから、先生は相変わらず精力的に活動されているようだ。

 今回は表紙も凄い。一対多がテーマの、その、ともかく激しい熱量を感じさせる肌色多めな挿絵だ。

 そして相変わらず主人公の侍男(じなん)が僕に似てる…… いや、これ完全に僕に寄せに行ってないか……?


 作者本人。ユシーラフ名義で官能小説を量産しているフラーシュさんの方を見ると、彼女は青い顔でガタガタと震えていた。


「な、ななな…… なんで……!? どうしてここに!? どうしよう…… バレたらどうしよう……!?」


「せ、先生、どうか落ち着いて下さい……! 私達が漏らさない限りバレようがありません!

 多くの国で人気を博す先生の著作です。この国に入ってくるのは時間の問題だったんです……!」


「ヴァイオレット氏…… でも、でもでもぉ……!」


「しー! 二人とも声が大きいよ!」


 小声でわちゃわちゃと話し込む僕らを、小隊長さんが訝しげに見る。いや、ほんとどうしよう……


「えっと…… 小隊長さん。きちんと調査してくれてありがとね。でもその…… タツヒト王は、この本は取り締まらなくても大丈夫って言うと思うよ。

 禁書に指定する必要もないし、この書店の店主さんにもお咎め無しって事になるんじゃないかな」


「え…… し、しかしこの挿絵はあまりにも陛下に……!」


「うん。分かってる、分かってるよ。ただ、このユシーラフって先生はタツヒト王の…… 親しい友人でね。

 この先生の作品に関しては目を瞑るよう、後から正式に通達があると思うねぇ」


「な、なんと。 --承知いたしました。そう言う事でしたら、我々はすぐに撤収させて頂きます」


「うん、そうしてくれると助かるよ。ほんとありがとね。街が平和なのは、こうして目を光らせてくれてるあんた達のおかげだよ」


「は! 勿体無いお言葉でございます! ではこれにて。お前達、諸事情により捜索は中止! 撤収する!」


「「はっ!」」


 びしりと敬礼した小隊長さんは、すぐに部隊をまとめると足早に去っていった。

 残された僕らに、ひゅるりと冷たい風が吹き付ける。


「--今日の所は、城に帰ってゆっくり過ごそうかね……」


 僕の言葉に、疲れ切った表情の二人が無言で頷いた。


遅くなりましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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