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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第504話 息子の居る生活


 僕とヴァイオレット様との子供、アレクシスが生まれてから、早くも一ヶ月ほどが経過した。

 王都のお祭り騒ぎもようやく落ち着き始めた中、僕は執務室でいつものように書類業務をこなしていた。

 同じ部屋で作業しているのもいつもの面子。僕の秘書官をしてくれているシャムと、輝く金色の長髪とぶ厚いメガネがチャームポイントな妖精族(ようせいぞく)のフラーシュさんだ。

 フラーシュさんも僕の王妃という立場なので、こうして三人で一緒に作業する事が多い。


「ふぅ…… よし、次。 --ん?」


 決済書類を一つ片付けて次のものに手を伸ばすと、港周辺の治安状況に関する報告書だった。

 目を通すと、ある事故の発生件数などがかなり減っている事が示されていた。


「港の辺りも大分落ち着いて来たか…… よかった。警備の人員を強化したおかげだな」


「タツヒト。それは、海賊の数が減ってきたという事でありますか?」


 僕の独り言のような台詞に、シャムが机から顔を上げた。


「うん。船が海賊船に襲われたり、行方不明になったりする数がかなり減って来てるらしいから、そう考えて良いと思うよ。やー、よかったよかった」


 現在僕らのアウロラ王国は、東西南北に一ヶ所ずつ大きな港を持っている。その内の西と南の周辺海域では、開港以来海賊の出没が問題となっていた。

 うちの海洋戦力は常にカツカツなので、最近になってようやく海賊対策にも手が回るようになって来たのである。


「ふむぅ…… 確かに良かったでありますけど、膨らんだ警備費は帝国に支払って欲しいであります! シャム達ばかりが損をしている状況であります!」


「うーん。それはほんとにそうなんだよねぇ……」


 ぷんぷん怒るシャムに、僕は曖昧に唸るしか無かった。

 この国の南にあるベルンヴァッカ帝国は、アウロラ王国の何倍もの国土を持つ巨大な多民族国家だ。

 そのせいか、あまり国民への統制が効いているとは言えず、うちで捕縛した海賊はその殆どが帝国出身と思わしき人間だった。

 そんな訳で帝国には何度も抗議を入れているのだけれど、のらりくらりと躱されてしまっているのが現状なのだ。やっぱり外交に強い人材が欲しい所だ……

 そのままシャムと帝国への愚痴を言い合っていると、フラーシュさんも作業の手を止めた。


「帝国かぁ…… ね、ねぇタツヒト氏。あそこって、その、奴隷制があるんだよね?」


「へ? ええ、そうですね。ほら、ゼルさんが借金奴隷になったのも帝国領ですし。彼女を買い戻すの、すごく大変だったんですよ。何せ高額商品でしたから」


「そ、そうなんだぁ…… --海賊に捕まった良家の美少年。奴隷落ちした彼を買い取ったのは成り上がりの悪徳女商人。少年は彼女に嫌悪しながらも次第に快楽の沼へと…… ふひっ! 次回作、決まったかも……!」


 フラーシュさんはそう呟くと、とても良い笑顔で筆を走らせ始めた。どうやら、次に執筆するいかがわしい書籍のテーマが決まったようだ。


 彼女のそんな様子にシャムと苦笑いしていると、正午を告げる鐘の音が鳴った。

 すると僕らは誰ともなく席を立ち、いそいそと執務室を出て隣室へと向かった。

 隣室の扉からは、心地よい綺麗な歌声と幼く楽しげな笑い声が聞こえくる。

 それに頬を歪めながら扉を開けると、中には予想通りの光景が広がっていた。


「やぁエリネン妃、ティルヒル妃」


 出迎えてくれたのは、桃色のウサ耳が可愛い兎人族(とじんぞく)のエリネンと、黒い翼と黒真珠のような肌を持つ鳥人族(ちょうじんぞく)のティルヒルさんだった。

 異国の子守唄を歌うティルヒルさんの腕の中にはアレクシスが抱かれていて、エリネンは彼にウサ耳をむんずと掴まれてしまっている。


「あだだ! さすがヴァイオレットとタツヒトの子やわ。力がつよーてつよーて…… あ、ほれ、おまはんの親父(おやじ)が来たで」


「シャムシャムとフーたんもいらっしゃい! ほらアレクシス、おとーさんがきたよー!」


 ティルヒルさんが差し出したアレクシスを、僕は慎重に受け取った。


「二人ともすまないな。やぁアレクシス。ご機嫌いかがかな?」


「あぅー!」


 顔を覗き込むと、彼は満面の笑みで僕の顔をぺちぺちと叩いてきた。

 二人のおかげで大変上機嫌なようだ。クリクリお目々とぷくぷくしたお顔に、こっちまで笑顔になってくる。


「ふふっ、最高のようだな。アマート、もう彼は食事を終えたのかな?」


 僕は側に控えていた侍女の一人に声を掛けた。ラビシュ宰相の遠縁らしい彼女は、柔和な笑みを浮かべながら僕に頷き返した。


「はい、今し方。アレクシス様は本当によくお召し上がりになります。きっと丈夫に育ちますね」


「そうだろうとも。何せ、ヴァイオレット妃のは非常に美味だからな」


「え…… 美味、でござますか……?」


 僕の言葉に、アマートさんが怪訝な表情を浮かべる。あ、やべ。

 アレクシスの食事とは、ヴァイオレット様が今朝仕事に出る前に絞って行った母乳だ。殺菌した容器に詰めて冷蔵し、彼がお腹を空かせて泣く度に温め直している。

 僕がなぜその味を知っているのかと言うと…… なんでだろうね?


「こほん…… いや、しかしたった一ヶ月で随分重くなったものだ。なぁ、アレクシス」


「タツヒト、シャムも抱っこしたいであります」


「あ、あたしもあたしも」


 アレクシスが、僕からシャム、さらにフラーシュさんへとリレーされていく。するとそこへさらに来客が。


「む、出遅れたか」


 部屋に入ってきたのは、アシンメトリーな灰色のショートカットが格好いい鬣犬人族(りょうけんじんぞく)のメームさんだった。


「メーム妃。忙しいだろうに、其方まで来てくれたのか」


「ふふっ、俺だけではありませんよ。後ろの二人から、アレクシス殿下に献上の品があるようです。これは、とても良い商材になる予感がしますよ……!」


 彼女の後から入ってきたのはいつも一緒の二人。青い触腕とケモ耳のようなヒレを頭から生やした蛸人族(たこじんぞく)のアスルと、立派な尾鰭と白黒の体色が特徴的な鯱人族(しゃちじんぞく)のカリバルだ。


「ふふん。見て。陛下から前に聞いた赤ちゃん用のおもちゃ、作ってみた」


「アスルと材料集めて、メームの姉貴に道具仕入れてもらって仕上げたんだぜぇ。結構いい出来だろ?」


 二人が得意げに掲げたのは、えっと、あれだ。正式名称がわからないけど、ベビーベッドの上に吊ってあって、くるくる回るおもちゃ。

 地球で見た物は人形やら星なんかが吊るしてあったけど、彼女達の作品は綺麗な貝殻や海竜の鱗などで作られていて、高価な工芸品のように綺麗だ。


「おぉ……! 美しいな。早速アレクシスの寝台に取り付けてみよう」


 みんなでそのおもちゃをベビーベッドに据え付け、その下へアレクシスを寝かせてみる。すると。


「あぅ…… おー!」


 彼は頭上で煌めきながら回転するそれに、目を見開いて嬉しそうに笑った。

 その様子にアスルとカリバルも会心の笑みを浮かべた。


「あぶっ…… きゃっ、きゃっ!」


 無邪気に喜ぶアレクシスを、僕らも微笑みながら暫し眺める。

 なんか…… いいなぁ、この時間。めちゃくちゃ幸福を感じる。


「--やっぱり、あたしも早く欲しいなぁ。タツヒト君との……」


 しかし、フラーシュさんがそうポツリともらした事で、お妃さん達はアレクシスから僕へと向き直った。

 威圧感すら感じられる彼女達の視線に、思わず後退りしそうになる。


「あー、その…… うむ。我も、これまで以上に努力するとしよう」


 多分少し赤面しながら放った僕の言葉に、お妃さん達も頬を染めながら頷いた。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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