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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

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第502話 ツイてる子


 アウロラ王国の内乱は無事終結し、お妃さん達も全員無事だった。

 けれど、竜王の残党から襲撃を受けた城塞都市ブナール、王都、そして東の港では、それぞれかなりの数の犠牲者が出た。

 そして亡くなった中には、元々アウロラ王国に住んでいた人々は勿論、僕がこの国に呼び寄せた移民の人達も居た……


 この破壊的な叛乱に対しては厳正な処罰を下す必要があった。そうしなければ、僕は臣下に甘すぎる王と思われてしまい、近い将来再び反旗を翻す人間が出てくる事になる。

 叛乱に参画した数十の家の当主は処刑は、それを避けるためには必要なことだった。勿論それだけでは済まず、多く家の領地は没収され、当主以外の共謀した者達にも相応の処罰が下された。

 そして…… 首謀者のバルナとハルプトの処刑は、僕が執行した。それが王様としてもケジメだと思ったからだ。


 あまりその時のことは思い出したくないけど、宝石公と呼ばれていたバルナは、最後までとても高位貴族とは思えない酷い振る舞いをしていた。

 武戦公と呼ばれていたハルプトの方も、自分の首を切るなら神器で頼むとか言い出して大変だった。

 刑を執行した日の夜は流石に凹んでしまい、とぼとぼと一人で寝室に向かったのだけれど、お妃さん達が全員で出迎えてくれて…… その夜の事は、素晴らしき思い出として目に焼きついている。


 さておき、あの内乱からもう十ヶ月の月日が経った。

 しばらくは忙しくも平和な日々が続いていたのだけれど、この日の僕らは久しぶりに緊張感に包まれていた。


「多分、あの日の夜なんだよなぁ……」


 王城にある医療棟の待合室、僕は誰に言うでもなくそう呟いた。部屋にはヴァイオレット様、シャム、ロスニアさんの三人を除き、お妃さん達が全員揃っている。その中のキアニィさんが僕の言葉に首を傾げた。


「あの日の夜……? タツヒト君、なんのお話ですの?」


「あ、いえ、その…… いつ頃のが当たっただろうかと考えていたんです。それで、時期的にはおそらく、内乱終結後のあの夜なのかなー、と」


「にゃは! あん時かにゃ! 確かに十ヶ月くらい前だったにゃあ。うんうん、あれ楽しかったにゃ。もう一回やりたいにゃ!」


「ゼルさん、すごく生き生きしてましたもんね…… うーん、僕らもそろそろ当たってもいいと思うんですが……」


「ふふっ。プルーナ、焦ることも無いだろう。しかしヴァイオレットが最初というのは、なんというか順当という感じだな」


 メームさんの言葉にみんながうんうんと頷く。僕はどんな顔をすれば良いのか分からなかったので、曖昧に微笑んだ。もっと頑張らないといけないのだろう。


 一体なんの話かというと、内乱終結から数ヶ月後。なんとヴァイオレット様の懐妊が明らかになったのだ。

 宮廷はその日からお祝いムードに包まれ、お腹の子はその後もすくすくと育った。そして今朝。産気付いた彼女はこの医療棟の分娩室に運び込まれ、今まさに頑張ってくれている最中なのだ。

 彼女の元には、手練の助産師さん達に加え、この国最高の治療魔法使いであるロスニアさん、手術ロボット以上の精密動作が可能なシャムが付いていてくれている。

 だからきっと大丈夫なはずだ。きっと…… そう頭では分かっているのに、僕の足は貧乏ゆすりを止めてくれなかった。


「おう、ちょっと落ち着けやタツヒト。ロスニアとシャムが付いとるから、滅多なことは起こらへんわ」


「エリネン…… う、うん。分かってはいるんだけど…… あっ……」


『ほにゃぁ…… ほにゃぁ……』


 その時、待合室のドアの向こうから元気な泣き声が聞こえて来た。

 僕らは笑顔で頷きあうと、待合室を飛び出して分娩室のドアの前に集合した。

  焦れるような時間が過ぎ、泣き声がおさまった頃にドアが開いた。中から出てきたのは、出産に立ち会ってくれていた助手の方の一人だった。


「わっ……! あ、あの…… お生まれに、なりました」


 彼女は至近距離で待機していた僕らに驚いた後、そう教えてくれた。

 一瞬喜びかけた僕らだったのだけれど、助手の彼女の様子に眉を顰めた。

 彼女の口元は清潔な布で覆われていてよく見えないけれど、何かひどく困惑しているように見えたのだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい……! 何かあったんですか……!? ヴァイオレット様は、子供は無事なんですか!?」


 思わず王様口調を忘れて問いただすと、彼女は後退りながら何度も首を縦に振った。


「は、はい! お二方ともご無事です! ご無事、なのですが…… と、とにかくこちらへ」


 彼女に促され、僕らは不安な思い抱えながら分娩室へと足を踏み入れた。

 すると、白い内装の明るい部屋の中央。馬人族(ばじんぞく)用に特注した分娩台兼ベッドの上に、ヴァイオレット様が座っていた。

 彼女は清潔な布に包まれた何かを優しく抱き、正しく慈母の表情でそれを見つめている。少し疲れている様子だけど、無事なようだ。僕は深い安堵と共に彼女の元へ走り寄った。


「ヴァイオレット様、よかった……! 長い間、本当にお疲れ様でした。その子が……!?」


「あぁ…… 君と私の子、アレクシスだ。さぁ、抱いてやってくれ」


 彼女は優しく微笑むと、おくるみに包まれた僕らの子供、アレクシスを手渡してくれた。

 慎重に受け取って横抱きにすると、腕にずっしりと重く暖かな感覚が伝わってくる。彼女は泣き疲れてしまったのか、穏やかに寝息を立てていた。

 髪は僕譲りの黒髪。顔つきはまだはっきりしていないけれど、ヴァイオレット様の面影がある。きっとお母さんに似たとんでもない美人になるぞ……!

 胸の奥底からじんわりと感謝と感動が溢れ、目が潤む。


「すごい…… ヴァイオレット様、本当にありがとうございます。こんなに…… こんなに可愛い子を産んでくれて……!」


「ゔぅっ……! ヴァイオレット氏! ありがどう! あだし、ヴァイオレット氏と一緒に結婚できてよがったよぉ〜……!」


 フラーシュさんが号泣しながらヴァイオレット様と抱き合う。ぼ、僕より感動してませんか……?


「先生……! 私も同じ気持ちです。是非、先生もアレクシスを抱いてやって下さい」


「どうぞ、フラーシュさん。この子結構立派な体格してますよ?」


「うん……! わぁ…… ずっしりくるね……!」


 僕がアレクシスをフラーシュさんに手渡すと、他のお妃さん達が彼女を取り囲んだ。


「か、可愛い……! 私も、これ欲しい……! すごく……!」


「お、おいアスル。これとか言うなよ…… でもわかるぜぇ。こんなの可愛すぎるもんなぁ……!」


「ほんとにちょーかわいーね! わ、見て見てリッちゃん! おててがこんなにちっちゃーい!」


 アレクシスを中心に、みんながキャイキャイと幸せそうに話だす。ちなみにリッちゃんとはカリバルの事だ。そう呼ぶのはティルヒルさんだけだけど。

 しかし、この子は本当に良い時期に僕らの所へ来てくれたと思う。今は国内のごたごたがほぼ片付いたタイミングで、こうして僕とお妃さんの全員で出産に立ち会う余裕もあるくらいだ。この子は幸運な、ツイてる子なのかも。


 しかし、そこで僕は気づいた。分娩室に控えている助産師さん達や、出産を手伝ってくれたロスニアさんとシャムが妙に静かなのだ。

 よく見ると、ヴァイオレット様の表情にも僅かな不安が見える気がする。


「あの、何があったんですか……? 呼びにきてくれた助手の方も、様子が変でしたし……」


 僕の問いかけに、シャムとロスニアさんが顔を見合わせる。


「う、うーん…… この事態をどう表現すれば良いのか、シャムには判断できないであります…… ただ、あり得ないことが起こっているとしか……」


 シャムの言葉に僕は目を見開き、アレクシスを囲んでいたお妃さん達も静まり返った。

 すると、ロスニアさんが慌てたように補足した。


「あ、安心して下さい! アレクシスくんの健康状態は全く問題ないんです。ただ、その、少し他の子とは変わっていると言いますか……」


「え……? ま、待って下さい。聞き間違いですよね? 今、アレクシスくんて言いましたか……?」


 僕らが混乱していると、それを見守っていたヴァイオレット様が口を開いた。


「うむ、そうなのだ…… 先生、アレクシスを」


「う、うん」


 フラーシュさんからアレクシスを受け取ると、ヴァイオレット様はおもむろにおくるみを解いた。

 現れたのは当然、馬人族(ばじんぞく)の故の只人の上半身、そして腰から下は四つ足の馬体。

 仰向けになったその小さな体に、どこもおかしな所は無いような--


「「あっ……」」


 しかし、全員がほぼ同時にそれに気づいた。

 アレクシスの両後脚の間。そこには、本来無いはずのもの…… 僕ら男性にとっては、とても馴染み深いものが存在していたのだ。


「ロ、ロ、ロスニアさん!? この子、その、あれが……!?」


「はい、そうなんです……! 私も最初は信じられませんでした。 私が教会で学んできた教えでは、決して生まれないとされていましたから……」


「「……!」」


「あはっ……! でもこれ、ちっちゃくてかわいー!」


 全員が絶句する中、それを見たティルヒルさんが楽しげに笑う。

 ヴァイオレット様と僕の間に生まれた子供、アレクシス。

 その子は、小さいながらも確かにその証を持って生まれた、馬人族(ばじんぞく)の男の子だったのだ。






***






 ビーーーッ!! ビーーーッ!! ビーーーッ!!


【……コード9999、崩界(シャフルクトゥ)への発展可能性を検出……】


【……検出座標、北緯45.226、西経-1.869…… ……現地表記、アウロラ王国、王都アルベルティ、王城併設礼拝堂……】


【……コード0000、神威(イル・リムトゥ)に準じる緊急事態につき、可及的速やかな追加調査の必要性を認める……】


【……特記事項、同国の国家元首は、最重要観察対象、個体名ハザマタツヒトであり、本件に関与している可能性大……】


【……上位機能単位へ、至急対応を請う……】






 17章 黎明の王国 完

 19章 創世期の終わり へ続く


遅くなりましたm(_ _)m

18章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございました!

次章は少しお時間を頂きまして、11/24(月)から更新開始予定です。

良ければまたお付き合い頂けますと嬉しいです。


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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