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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

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第500話 武の極地(2)


「プルーナさん、怪我は無い!?」


「は、はい……! タツヒトさんのおかげで」


 僕の言葉に答えたプルーナさんの声は、かすかに震えていた。

 ちらりと彼女の方を伺うと、その全身には数え切れない程の小さな傷が刻まれていた。

 僕とムルヴァディカ将軍が好き勝手に戦った余波によるものだろう。こんなになるまで気づかないなんて……

 僕が泣きそうな気持ちでいると、彼女は慌てたように笑って励ましてくれた。


「だ、大丈夫です……! 重症はありませんから! それよりありがとうございました。地魔法なら防げたかも知れませんが、今の延撃(えんげき)は絶対に無理でしたから……」


 プルーナさんが背後に空いた大穴を恐々(こわごわ)と見やる。僕もまだ震えが治らない。彼女を失いかけた恐怖がまだ抜けないのだ。

 将軍は最初の奇襲と攻防において、石畳の床を地魔法で操って攻撃してきた。しかしそれ以降、彼は自身の鱗を変化させた武器と体術を中心に戦っていた。

 その理由は、手練の地属性魔導士であるプルーナさんが、将軍の床への干渉を妨害していたからである。それなのに、戦いに夢中になって彼女の事を忘れるなんて……!


「ごめんなさいプルーナさん。僕はプルーナさんのおかげで将軍と互角に戦えていたのに、本当にごめん……!」


「大丈夫ですって、分かっていますよ。きっと、タツヒトさんがそうなってしまうほどの強敵なんです。何か…… もっと僕にも何か出来れば……!」


 僕らの視線を受けて将軍が残心を解き、僅かに頬を歪める。


「戦いの狂気呑まれ、狭窄(きょうさく)に陥っていたと見えたが…… よくぞ持ち直したものだ。流石は我が王の(かたき)よ。

 貴殿がこれまで屠ってきた強者ども、積み上げた鍛錬が目に浮かぶかのようだ。敵ながら賞賛の念を禁じ得ん」


「それはこっちの台詞だよ。さっきまでの技の数々…… 将軍を言い表すのに、達人なんて言葉じゃまるで足りない。敵じゃ無かったら教えを乞いたいくらいだよ」


 将軍の言う通り、僕もそれなりの修羅場を潜って日々鍛錬を積んできつもりだ。けれど、将軍が見せた技はそれが児戯に思えるほどの高みにあった。

 まさに武の極地。これほど隔絶した技量の差を感じたのは、カサンドラさん以来始めてだった。


 しかもこっちは全てを出し切る全力戦闘で疲労困憊、全身傷だらけなのに、向こうは全く息を乱していない。

 傷らしい傷も、最初に脇腹を浅く刺したものくらいだ。何とかしないと…… このままじゃ、僕らはこの武の化身に勝つことが出来ない……!

 僕の台詞に、将軍が笑みを深める。


「何とも光栄な言葉だが、貴殿はそれを凌ぎ切ったのだ。我が数千年鍛え上げた技の(ことごと)くを、その百分の一も生きていない貴殿が……!

 あぁ…… 仇討ちの最中だというのに、これほど心が湧き立つのは何百年ぶりだろうか。我もまだまだ未熟、我はまだ武の頂を目指して成長できるのだ……!」


 わなわなと体を打ち震わせる将軍に、僕も釣られて笑ってしまった。


「楽しそうだね…… でも、ちょっと気持ちは分かるよ」


「ふふっ…… 否定はせぬ。確かに我は貴殿との戦いに喜びを感じている。貴殿が隠している奥の手すらも、楽しみな程にな」


 そしてその言葉にひやりとした。 --どこまで悟られた……?


「奥の手? 僕はもう全身全霊で戦っているよ」


「何、その目を見れば分かる。希望を持ち、機を伺う目だ。おそらく、我が王を討ったという極大の雷撃では無いだろう。

 あれ程の力を操るには何某(なにがし)かの備えが要るはず。例え備えが出来ていたとしても、自身が治める街の只中では使えまい。さて、どんな技を見せてくれるのか……」


 これだから長命種は……! 人の表情やらから、無闇に内心を暴かないで欲しい。僕は笑みを消して槍を構え直した。


「ちょっと喋りすぎたね。そろそろ決着を付けさせてもらうよ。他のお妃さん達の応援に行かなきゃいけないから」


「残念ながらそれは叶わぬ。なぜなら貴殿は我らの宿願のため…… ここで死ぬからだ!」


 将軍から再び濃密な殺気が漏れ出す。震えが来るほどの圧力だけど、僕はあれに一人で立ち向かうわけじゃない。


「プルーナさん、援護お願い! 二人で勝とう!」


「はい!」


 プルーナさんと頷き合った僕は、身体強化を最大化させて将軍へ走った。

 僕を待ち受ける将軍が、またしても両手に新たな武器を生成する。それは、持ち手から金属の(おび)のようなものを幾つも垂らした、何とも奇妙な形をしていた。何だ、あれ……?

 僕の疑問を他所に、将軍は流麗な動作でその武器を操り始めた。


 ヒュン…… ヒュヒュヒュヒュッ……!


 金属の帯が風切り音を立てながら舞う。将軍の腕が(けぶ)るような速度で動き、帯の先端はすぐに目視が困難なほどに加速していった。

 鞭の一種なのか……!? 嫌な予感がして僕がブレーキをかけるのと同時、将軍が大きく踏み込んで僕の方にその金属の鞭を振るった。


「はぁっ!」


 バシャァンッ!


 響いたのは、まるで雷鳴のような激しい破裂音と金属音。

 反射的に横へ飛んだけれど避けきれず、僕の右半身はズタズタに引き裂かれてしまった。


「ぐぅっ……!?」


 嘘だろ……!? まだ全然間合いの外だったはずだ!


「タツヒトさん!?」


「だい、じょうぶ……! 見た目ほど酷い傷じゃない!」


 プルーナさんの悲鳴のような声にそう強がって見せたけど、めちゃくちゃ痛いし出血もかなりある。かなりやばい攻撃だ。

 恐らく将軍は、攻撃の瞬間あの金属の鞭を大きく伸長させたんだ。あれが、元々彼の鱗から変形、生成されたものだと忘れていた。

 目視困難な速度で迫る、間合いも、おそらく本数も自由自在な鋭い金属の鞭。

 あんなのとまともに撃ち合っていたら、あっという間に挽肉にされてしまう。ここは距離をとって雷撃で--


「うっ……!?」


 そう思って僕が大きく後ろに飛んだ瞬間、将軍はそれにピッタリと追いすがり、再び金属の鞭を振るってきた。


 バシャシャァンッ!


 鞭ではなく将軍の手元を見ることで、僕はなんとか攻撃の大部分を回避することに成功した。しかし、またいくつもの傷が体に刻まれてしまった。


「流石だ! もう対応し始めるとは! だが雷撃を使う(いとま)は与えぬ! このまま削り殺してくれよう!」


 その後、将軍は言葉通り息をつく暇もない猛攻を仕掛けてきた。

 間合いは完全に将軍に支配され、こちらの槍は届かず、ひたすら鞭を避け続ける選択肢を強いられる。

 雷槍天叢雲らいそうあめのむらくもの力の一つ、暴風結界を張る八重垣(やえがき)も試してみたけど、防げたのは一度だけ。

 全ての帯を風向きに対して水平にして結界を突破する妙技により、すぐに対応されてしまった。

 やはりあの攻撃を完全に避け切ることは不可能で、負傷はどんどん蓄積されていった。

 このままじゃ本当に削り殺される…… 被弾を承知で間合いを潰して、一撃で決着を付けるしか……!


「--おぉぉぉぉっ!!」


 覚悟を決めた僕は一気に転身し、鋭く身を裂く金属の暴風域へと突貫した。その瞬間。


 わらっ……


 高速で舞っていた金属の帯の群れが突然動きを止め、僕の目の前いっぱいに漂い広がった。

 視界が……!? 反射的に後ろに下がろうとした時、プルーナさんから鋭い声が飛んできた。


「タツヒトさん、後ろ!」


 同時に感じたぞくりとするような気配。僕は振り向きざまに槍を水平に薙いだ。


「らぁっ!」


 しかし手応えは無く、そこにはいつの間に背後に回ったのだろう、地に伏せるような姿勢で体を撓める将軍が居た。


 この間合い…… まずい……!


 驚愕の連続に一瞬体が硬直し、重大な危機を察知した脳が体感時間を引き延ばす。

 スローモーションの世界の中で、将軍が体を起きしながら左の突きを放った。

 拳の握りは、中指の関節だけを尖らせた一本拳。それが僕の右脚に突き刺さる。


「……!?」


 すると、鋭い痛みと共に右足の感覚が消失し、がっくりと体勢が崩れる。何をされた……!?

 困難の中、僕は何とか重心を左脚に移して転倒を免れた。

 だが意識を将軍に戻した時には、すでに僕の眼前には引き絞られた彼の右腕があった。


「さらばだ……! 我が好敵手よ!」


 会心の笑みが浮かべた将軍が、延撃(えんげき)の眩い光と共に渾身の突き放った。

 その絶望的な光から必死に逃れようとしながら悟る。この一撃は、絶対に避けきれないし耐えきれない。

 圧倒的な死の予感に、僕は自分の頭部が消失する未来を幻視した。その時。


 キィンッ……!


絆の円環(きずなのえんかん)から、プルーナさんの絶叫のような思念が流れ込んできた。


『--させない!』


 直後。将軍の蹴り足の床が僅かに凹んだのが見えた。


「ぬぅっ!?」


 ゾンッ……!


 将軍が大きく体勢を崩し、延撃(えんげき)は轟音と共に僕の顔のすぐ右横を通過した。

 右耳が消失した激痛に襲われるも、今はそんな事はどうでも良かった。

 目の前には大技を外して致命的な隙を晒す将軍。おそらくはこれが最初で最後の好機。僕は奥の手を切った。


『--都牟刈(つむかり)!』


 穂先に生成されたのは、凄まじい力を秘めた万物を断ち切る風の刃。

 僕は左脚のみで全力で床を蹴り、将軍の胸の中心目掛けて槍を突き込んだ。


「それが……!?」


 これが僕の奥の手だと一瞬で悟ったのだろう。将軍は金属の鱗を両腕に集中させ、心臓を守りながら後方へと飛んだ。しかし。


 ジュゥンッ……!


 異様な音と鉛のように重い手応え。追い縋った風の刃が、将軍の両腕ごとその心臓を穿った。


「がはっ……!」


 胸に大穴を開け、両腕を失いながらも、将軍は何と倒れずに着地した。

 魔力切れで地面に倒れ込んだ僕は、それを見て驚愕に目を見開いた。まさか、まだ……!?


 しかし、将軍は後ろに飛んだ勢いを殺しきれず、そのままよろよろと後ずさっていった。

 激戦の後の静寂の中、後ろに下がり続けたその体が、軽い音を立てて壁に当たる。


「--見事、(なり)……」


 彼は僕らを見据えてそう呟くと、壁に背を預けながらゆっくりと崩れ落ちた。


遅くなりました。気づいたら本話が500話でした。

ここまで来れたのは、お読み頂いている皆さまのおかげです。

今後も「亜人の王」をよろしくお願い致しますm(_ _)m

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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