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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

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第499話 武の極地(1)


 ティルヒル達が風竜将軍ヴァーユディカとぶつかった時、王都を円環上に囲う地下街でも戦いが始まっていた。

 強化された外壁を突き破り、二体の地竜(テラ・ドラゴン)が侵入してきたのだ。

 大地を揺るがす巨体と分厚く強靭な甲殻。生体戦車とも呼べるその怪物を迎え撃ったのは、キアニィとエリネンが率いる警邏(けいら)士団だった。


「しっ!」


 ガァンッ!


 キアニィが放った蹴りが地竜(テラ・ドラゴン)の顔面に炸裂し、広大な地下空間に轟音が響く。


「ガァッ……!」


 地竜(テラ・ドラゴン)は衝撃にふらつきながらキアニィを睨んだが、反撃には転じず、地魔法を使ってその巨体を地面に沈め始めた。

 それに対してキアニィは慌てず、周囲に展開しているナノ達蛙人族(あじんぞく)へ声を張り上げた。


「あなた達! 逃してはいけませんわよぉ!」


「「承知!」」


 ナノ達が一斉に放ったのは鉤縄(かぎなわ)だった。何十もの(かぎ)地竜(テラ・ドラゴン)の体に食い込み、数百人の蛙人族(あじんぞく)が一斉に縄を引く。

 すると流石に力負けしたのか、巨竜は地面の上に引きずり出された。


「グルルルッ…… ボガッ!?」


 苛立たしげに唸る地竜(テラ・ドラゴン)の顔面に、再びキアニィの蹴りが炸裂する。


「ふふっ、隙だらけですわぁ。そんなに慌てないで、もっとわたくし達と遊びましょう?」


 地下街に侵入した地竜(テラ・ドラゴン)達は、キアニィ達を無視して王城の方へ向かおうとしていた。

 しかし彼女達がそれを許すはずも無い。もう一体の地竜(テラ・ドラゴン)の方にも、決死の足止めが行われていた。


「おらぁっ!」


 エリネンが別の地竜(テラ・ドラゴン)の側を風のように駆け抜け、気合いと共に夜曲刀(やきょくとう)を振り抜く。


 ザシュッ!


「グルッ……!」


 甲殻の隙間を狙った鋭い斬撃。それは深傷を負わせるものではなかったが、巨竜の強力な身体強化を貫通して肉を断った。

 対する地竜(テラ・ドラゴン)は、やはり地中に潜ろうとした。しかし、周囲に展開したナァズィ族の地魔法と、兎人族(とじんぞく)による鉤縄(かぎなわ)により、その巨体は地面の上に引き戻された。


「よっしゃあ! おまはんら、そのまま頼むでぇ!」


「「おぉ!」」


 そうした攻防が何度が続き、キアニィ側の地竜(テラ・ドラゴン)の甲殻には所々ヒビが入り始め、エリネン側の個体は巨体を血に染めていった。すると。


 ズズンッ……!


 強い揺れと共に、王城の方から肌が泡立つような凄まじい殺気が放射されてきた。エリネンが悔しげに眉をしかめる。


「おいキアニィ。この揺れと気配…… さっきウチらが通してもた奴とタツヒトらが戦っとるんやんな?」


 地下街を警備していた二人は、港と空からの強烈な殺気に気を取られ、何者かが高速で地下街を通過するのを許してしまったのだ。

 その後を追いかけるように地下街に侵入してきたのが、眼前の二体の地竜(テラ・ドラゴン)だった。


「ええ、痛恨の不手際ですわぁ。せめてこの方達をここで足止めしなければ…… あら?」


「「グルルルルッ……!」」


 気づくと、地竜(テラ・ドラゴン)達の雰囲気が変わっていた。

 先程まではなんとかこの先に進もうと必死だった二体は、今は明確で強い殺意を二人に向けていた。


「どうやら、先にわたくし達を倒す事にして下さったようですわねぇ。エリネン、お気をつけ遊ばせ?」


「はん、誰にもの言うとんねん! さっさとこのデカブツども片づけて、タツヒト達を助けに行くで!」


「「ボガァァァァァッ!!」」


 怒りの咆哮を上げて迫る地竜(テラ・ドラゴン)達を、二人は不敵な笑みを浮かべながら迎え撃った。






***






 奇襲から始まった地竜将軍ムルヴァディカと僕との戦いは、加速度的に激しさを増していた。


「しっ!」


 ギィンッ!


 突き込んだ槍が将軍の盾で横に逸らされ、僕の体制が僅かに崩れる。


「ぬぅんっ!」


 その隙を逃さず、将軍がもう一方の手に持ったサーベルを振るう。

 槍の引き戻しは間に合わない。僕は槍から離した片手を将軍に向けた。


雷よ(フルグル)!』


 バリッ……!


 至近距離での雷撃。回避など間に合わないはずの一撃は、しかし将軍にダメージを与えなかった。

 奴は僕が雷撃を放つ予備動作を見た瞬間、サーベルの軌道を無理やり変えて地面に突き刺したのだ。

 結果、雷撃の大部分はサーベルから床に避雷されてしまい、その奥に居た将軍には届かなかったのである。まるで最初の奇襲の時の焼き増しだ。


 火魔法も試してみたのだけれど、火球は何度放っても受け流されてしまい、会議室の天井や壁が壊れただけだった。

 少しでも衝撃が加わると爆裂する、ほとんど実体の無い火球を受け流す…… どうやったらそんな芸当ができるのか全く分からないのだけれど、将軍は涼しい顔でそれを実演していた。

 さておき、雷撃は槍を引き戻す時間稼ぎにはなった。


「ぜぁっ!」


 次に僕は、穂先に遠心力を加え、敵の頭部を断ち割るつもりで大上段から槍を打ち下ろした。


 ギャリッ……!


 しかし、その渾身の一撃がまたしても防がれる。将軍は奇妙な形の短剣を頭上に交差させ、僕の槍の穂先を受け止めていた。

 いつの間に生成したのだろうか。短剣は、持ち手に対して垂直に刃が付いた特殊な形状をしている。


「ふん……! はぁぁぁっ!!」


 気合いと共に槍が押し返される。次の瞬間、将軍の戦い方は、先ほどまでのサーベルと盾を用いた堅実なものから一変した。

 短剣での刺突を高速かつ連続で放つ、超攻撃的スタイルへと変化したのだ。


「くぅっ……!?」


 僕は今、身体能力と神経伝達速度を強化する雷化(アッシミア・フルグル)の魔法を使用している。

 だというのに、将軍が繰り出す高速連撃は僕の処理能力の限界を超えつつあった。

 速いだけじゃない。まるで、次の攻撃がどんどん受けづらくなるよう、全て計算されているかのような攻撃だ。

 防戦一方の中、剣戟の音は際限なく加速していき、途切れ目を認識できない甲高い金属音を奏で始める。

 不味い…… もう、捌ききれない……!


 パキッ……!


 そう思いかけた時、将軍の短剣が中程から砕けた。武器の方が耐えきれなかったのだ。


「むっ……!?」


「ぶはぁ……!」


 将軍が一歩下がると、僕が一呼吸つく。その直後、将軍はまた別の武器を生成して襲いかかってきた。

 それから彼は、根、槍、大剣、暗器…… あらゆる武器を生成し、その全てを達人級の業前で操り、独特の野生的な体術も絡めて僕にぶつけて来た。

 一体どれほどの修行を積めばこれほどの領域に至れるのか…… その攻撃を必死に捌く内に、僕の中には敵である将軍への畏敬の念さえ生まれ始めていた。

 僕はいつの間にか、将軍との戦いに夢中になっていたのだ。


「……?」


 そんな攻防が暫く続いた後、将軍が初めて僕から意識を逸らし、腕を大きく引き絞った。

 なんで僕との戦いの最中に僕以外を見ているんだ……? 視線は先は…… 僕の背後? --しまった、プルーナさんだ!


「ぅあぁぁぁっ!?」


 僕は悲鳴のような声を上げながら、伸びかけた将軍の腕を槍でかちあげた。


 ゾンッ……!


 放たれたのは正拳突きのような延撃(えんげき)。それは極太の光の帯となって王城を穿った。

 急いで背後を振り返ると、会議室の壁には綺麗な大穴が開いていて、それは巨大な構造物である王城の奥深くまで続いていた。

 そして、まだうっすらと煙を上げる大穴のすぐ下に、恐怖に顔を引き攣らせたプルーナさんが立っていた。

 よ、よかった……! 寸前で軌道を上に逸らすことに成功したらしい。安堵感に思わずへたり込みそうになる。

 が、僕はそれをなんとか耐え、残心する将軍から視線を外さずにプルーナさんの側まで下がった。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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