表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

496/528

第496話 地竜将軍ムルヴァディカ


 トプンッ……


 会議室の石畳に波紋が広がり、相手の頭部らしき物が現れた。その瞬間、僕とプルーナさんは同時に叫んでいた。


剛雷フォルティス・フルグル!』『螺旋鋼弾(スピラル・グロブス)!』


 バギャァンッ!


 最初に命中したのは、目一杯蓄電した上で放った僕の雷撃だった。

 だがその強烈な電流は、敵の体を覆う金属鎧によって避雷され、周囲の石畳を爆散させるに止まった。

 刹那の後、飛び上がるように全身を浮上させた敵に、プルーナさんの砲弾が迫る。

 しかし、中空にあった奴が流麗な動作で腕を回すと、螺旋回転する鋼鉄の塊はあっさりと受け流されてしまった。


 ドガガァッ!


 受け流された弾丸が会議室の壁を貫通し、さらにその先の部屋まで破壊した音が響く。

 その轟音の中、会議室に現れた全身鎧の巨漢は静かに床へ着地。直後、凄まじい踏み込みで僕の眼前へ迫った。


「……!」


 繰り出されたのは最短距離の中段突き。狙いは僕の頭部。

 すでに雷化(アッシミア・フルグル)を発動させていた事で、僕はなんとか体を捻ってその攻撃から身を逸らした。


 --ジャッ!


「……!?」


 そこへ予想外の追撃。奴の全身を覆う金属鎧が変形し、刃となって僕の首に迫ったのだ。

 完全に虚を突かれた僕は、反射的に左腕を掲げて首を庇った。()られる……!?


 ガッ……!


 けれどその予感は、左手首に着けていた絆の円環(きずなのえんかん)によって覆された。

 手首ごと僕の首を断つ筈だった奴の刃は、運良く円環によって防がれていた。


「ぉ…… おぉっ!」


 僕はすぐに攻撃に転じ、右手で短く持ち替えた槍を敵の脇腹へ突き込んだ。

 槍の穂先が硬い鎧を突き破り、中の肉を断つ感触が手に伝わる。すると、相手は即座に後ろへ飛んだ。

 逃がさない……! 直ぐに追い縋る僕に、奴が気合と共に手を振った。


「ふんっ!」


 ドシュシュシュッ!


 僕を迎え撃つように、眼前の石畳から剣山のような無数の石筍が発生した。


 やばい……!?


 必死に足でブレーキをかける僕に、石の槍衾(やりぶすま)が迫る。


地よ(テラ)!』


 そこにプルーナさんの一喝が響き、石の槍が迫る速度が急速に鈍化した。

 僕は切先の直前でやっと停止すると、大きく後ろに飛んでプルーナさんと合流した。


 この間、僅か数秒。

 にも関わらず、僕の全身は冷や汗に濡れ、心臓は破裂しそうな程の速さで鼓動を刻んでいた。


「ぜっ、ぜっ……! あ、ありがとう、プルーナさん! 助かったよ!」


「はぁ、はぁっ…… はい……! でも、妨害が精一杯です! やっぱり、あの領域にある相手に僕の攻撃は通じません……!」


「それで十分以上だよ! この敵は、僕一人じゃちょっと厳しいから……!」


 油断なく視線を送る僕らに、敵は僅かに血が流れる自身の脇腹と僕の左手首を見比べた。


『--ふむ。タツヒト王が持つ神器は一つという話だったが、情報に誤りがあったようだな』


 くぐもった声の後、敵を覆っていた全身鎧が溶けるように(ほど)けた。

 中から現れたのは、全身を金属の鱗で覆われた巨躯の男だった。おそらくは竜種の魔人。まるで仁王のような鍛え上げられた肉体をしている。

 震えが来るほどの威圧感と、先程見せた凄まじい体術と地魔法の技量。さらに僕の得意魔法の弱点も割れているようだ。

 敵の手強さに戦慄する僕らをよそに、その魔人が言葉を続ける。


「そこな蜘蛛の娘も情報より遥かに手練。バルナめ、情報は正確にとあれほど申し付けたと言うのに。

 --いや、戦場では予想外が常。我も、まだまだ未熟のようだ」


 さらに厄介そうなのは、奴の、まるで仏像のような静かな目だ。高い実力にも関わらず、精神的な隙が全く見出せない……!

 奴はすっと胸の前で手のひらを合わせると、僕らから目を外さずに浅くお辞儀した。


「お初にお目に掛かる。我が王の(かたき)、タツヒト王よ。我は竜王様が配下、地竜将軍ムルヴァディカ。本日は、貴殿らの首を頂きに参った」


 奴の言葉に、僕は自分の推測が間違っていなかった事を悟った。

 やはり、反乱軍は竜王の残党と手を組んでいたのだ。そして王国側の二大戦力の片割れ、ヴァイオレット様を王都から遠ざけ、強力な戦力による強襲で一気に僕を叩くつもりだったのだ。

 しかし、えげつない手を使ってきた割に嫌に丁寧だな、このデカい筋肉おじさん。

 日本人の(さが)か、僕は奴の挨拶に浅いお辞儀で返礼してしまった。


「ご丁寧にどうも、ムルヴァディカ将軍。知ってるようだけど、僕はこの国の王様をやってるタツヒトだ。

 地竜将軍ということは、あの火竜将軍アグニディカの同僚かな? 領主達からの聞き取りで、奴と同格の魔人がいる事は分かってたけど…… まさかご本人が直接会いに来てくれるなんてね」


 僕の言葉に目を細めた将軍から濃密な殺気が漏れ出し、背後にいるプルーナさんが息を飲んだ。どうやら正解だったようだ。


「--(しか)り。やはり、アグニディカも貴殿らに殺されていたか…… 奴は甘ったれの未熟者ではあったが、竜王様への忠愛は人一倍であった。貴殿を討つべき理由がもう一つ増えたな」


「いや…… 確かに僕らはアグニディカを追い詰めたけど、奴にトドメを刺したのは竜王本人だよ。

 あいつは、悲鳴をあげて命乞いするアグニディカを笑いながら殺した。自分の窮地に駆けつけた他の部下達も、いとも簡単に消し飛ばして見せた。

 --だから分らない。なぜ君たちはあんな王の仇討ちを? とても忠義を捧げるに相応しい相手とは思えないよ」


 疑問に思っていた事をムルヴァディカにぶつけると、奴は目を見開いて殺気を霧散させた。

 その表情には、僅かな困惑と悲しみが浮かんでいた。


「--そうか。竜王様も、以前はあれほど酷薄ではなかった。大望を掲げ、自身に付き従う配下への信賞必罰を徹底した素晴らしき王だったのだ。だが、呪いを受けてからは--」


 ズズンッ……


 王城が大きく揺れた。すると、絆の円環(きずなのえんかん)を介してお妃さん達の感情とイメージが流れ込んできた。


 東の海からの接近していた敵は、王都に向かって運河を進んでいたアスルとカリバル達が止めてくれたようだ。

 そして南の空から王都に飛来した敵は、ティルヒルさん達が迎撃中のようだ。シャムとフラーシュさんが彼女の援護についてくれている。

 最後に王都の地下街では、キアニィさんとエリネンが巨大な地竜(テラ・ドラゴン)と対峙していた。


「む、その表情…… 我が配下と朋輩(ほうはい)は、貴殿の仲間達に阻まれたようだな。例の馬人族(ばじんぞく)達への奇襲も割れていた様子。さてはその神器、遠方の者と通じ合う力があるのだな?」


 ムルヴァディカは、僕らの表情と、左腕にはめた絆の円環(きずなのえんかん)を見てそう言った。

 なるほど。僕らと会話していたのは、地下からの増援を待つための時間稼ぎだったのか。やっぱり油断できない相手だ……


「さてね。それで、まだ時間稼ぎするの? きっと、将軍の仲間は直ぐに倒されるよ。なんたって、相手をしているのは僕のお妃さん達なんだから」


 にやりと笑ってみせたけど、本当は今直ぐにでもみんなを助けに行きたい。けれど、こいつは野放しにするには危険すぎる。ここで倒さないと……!


「ふぅ…… つくづく予定通りに行かん。やはり、詭道、奇襲は性に合わぬな…… だが、むしろ良かったかもしれん。真っ向勝負。そちらの方が、余程我の性に合っている」


 将軍が自身の鱗から曲刀と盾を生成し、濃密な殺気を発しながら構えた。


「プルーナさん、援護をお願い……!」


「ええ、お任せ下さい……!」


 一瞬の睨み合いの後、再び死闘が始まった。


お読み頂きありがとうございました。

よければ是非「ブックマーク」をお願い致します!

画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けますと大変励みになりますm(_ _)m

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ