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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

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第495話 王都襲撃


 時刻は、ロスニアが反乱軍への必死の呼びかけを行なっていた頃に戻る。


 アウロラ王国のとある場所、出口もない巨大な地下空間。巌のような巨躯の男が目を閉じ、坐禅を組むように座っていた。

 極限まで鍛え上げられた肉体はさらに金属質の鱗で覆われており、腰には強靭な尾が、手足には鋭い爪が備わってる。

 男は人間ではなく、竜王の秘技により地竜(テラ・ドラゴン)から人化した魔人だった。


「--そろそろか」


 瞑想から覚めるように、魔人は縦に割れた瞳を開いた。

 魔人の前には、円形の水晶版が曼荼羅(まんだら)のように幾つも並んでいて、ここではないどこかの光と音が流れてた。


 魔人が操る秘術である。その練達した地魔法により、魔人は遠隔地に自身の分体を生成する事ができた。

 分体は組み込まれた魔法陣により、周囲の情報を光の形に変換し、地中を走る水晶の管を介して水晶板へと伝達する。逆に、水晶板から分体へ情報を伝達する事も可能だ。

 この高度な術により、遠くにいる者同士がまるで眼前にいるかのように会話できるのだ。


『同士ムルヴァディカ、聞コエルカ?』


 水晶板の一つに、豪奢な格好をした妖精族(ようせいぞく)が映った。宝石公、バルナ公爵と呼ばれている女だった。

 そのややひび割れた音声に、ムルヴァディカと呼ばれた魔人が頷く。


「うむ。聞こえているぞ、同志バルナ。そろそろ戦端が開かれるようだな」


『アア。私ハ後方ニ待機シテイルノダガ、今、我ガ友ハルプトガ-- オット、同士ノ軍ガ地中カラ姿ヲ表シタゾ。予定通リダナ』


「当然だ、同士バルナよ。貴殿らは手筈通り、我が軍と共に例の馬人族(ばじんぞく)を討ち果たすのだ。

 困難であれば暫くそこへ縛り付けるだけでもいい。事が終わり次第、こちらから増援を送ろう」


『フン、コノ戦力差ダゾ? 目障リナ豊穣公共々、コノママスリ潰シテヤルトモ。同士モ、アノ思イ上ガッタ男ト、フラーシュ王女ノ首ヲ頼ムゾ?

 同士ムルヴァディカハ敵討(カタキウ)チヲ果タシ、コノ私ハ王位ヲ得テ、我ガ友ハルプトハ神器ヲ得ル。ソノタメニ、我ラハ過去ノ(ワダカマ)リヲ捨テテ手ヲ組ンダノダカラナ』


「うむ、分かっているとも。ではな」


『アア--』


 バルナ公爵が映っていた水晶板から光が消え、地下空間に静寂が戻る。


「ふっ、思い上がった男か…… 清々しい程に愚かな女だ」


 ムルヴァディカは頬を歪めながら別の水晶板へと視線を移した。そこには、彼と同じく竜から人化した男女が映っていた。


「二人とも、聞いていたな?」


『勿論ダゼ、ムルヴァディカノ旦那』


『私モヨ。遂二ナノネ?』


「うむ、機は熟した…… この戦いにより我らは先へ進むことができる。これが宿願を叶える第一歩となのだ。

 行けいっ、竜王様の忠実なる戦士達よ! 我らであのお方の遺志を継ぐのだ!」


「オォ!」


「エエ!」


 男女の魔人が応えた後、全ての水晶板から光が消えた。


「--では、こちらも始めるしよう。行くぞ、お前達」


「「ゴアァァ……」」


 暗闇の中でムルヴァディカが立ち上がると、地に伏せていた巨大な影達がゆっくりとその身を起こした。






***






「ふぅ…… 流石に仕事が手につかないな」


 場所は王城の会議室。僕は椅子の背もたれに身を預けながらそう独りごちた。ヴァイオレット様達が王都を発ってから、もう一週間が経過していた。

 目の前には殆ど捌けていない決裁書類の山。蒼穹(そうきゅう)士団の定期報告を聞きながら、通常の王様業をこなそうとしているのだけれど、この状況では書類仕事に集中できる訳も無かった。


「陛下、無理も無いよ…… あたしも、他のみんなもそんな感じだし」


「むぅ…… シャムもいつもより処理速度が落ちているであります。ヴァイオレット達が心配であります……」


 僕の呟きに、フラーシュさんとシャムも力なく頷いた。

 王城の会議室には他にも、ラビシュ宰相を始めとした重臣達、プルーナさん、メームさんが同席しているけれど、全員あまり仕事は進んでいないようだった。

 キアニィさんを始めとした他のお妃さん達は、王都の地下街や空、東の港などの警備に当たってくれている。

 ちなみに戒厳令が発動されてからは、僕もお妃さん達も寝る時以外は完全装備で過ごしている。いつ緊急事態が起こってもいいようにだ。


「うむ。そろそろ、王国軍と反乱軍との戦いが始まる頃だからな…… ん? プルーナ妃よ、どうしたのだ?」


 他のみんなが手元の書類などに目を落としている中、彼女は会議室の中を落ち着かない様子で見渡していた。


「え? あ、いえ、何かを感じたような気がしたんですが…… すみません、気のせいだったみたいです。

 えっと、城塞都市ブナールでの戦いですけど、もしかしたらもう決着が付いているかもしれないんですよね?」


「うむ。事前調査では、個人戦力の面で王国軍が圧倒しているからな。一瞬で勝負が付いていてもおかしくは無い」


「そっかぁ…… ねぇラビシュ。バルナとハルプトは、多分、死んじゃうんだよね……?」


 悲しげ訊ねたフラーシュさんに、ラビシュ宰相が重々しく頷く。


「はい。法務長官らと共に刷新した王国法においても、叛逆罪に対する刑罰は明確に死刑と定められています。

 仮にバルナらが生きて捕縛されたとしても、我々は法に則った裁きを下す必要があります」


「それが当然だろうな。しかし俺には理解できない…… どうして連中は叛乱を起こしたんだ? どう考えても勝ち目のない戦いだろうに」


 メームさんが口にした疑問は、僕も含めてこの場の誰もが感じているものだった。


「分からぬ。もしバルナらを捕縛できた際には、本人達から尋ねるとしよう……」


 キィン……


「「……!?」」


 その時、絆の円環(きずなのえんかん)を介して、王都を発ったヴァイオレット様達の強烈な感情が流れ込んできた。

 驚愕、怒り、焦り、そして僕らへの信頼。それらの思いの後で鮮烈に浮かび上がったのは、地の底から現れた強力な魔物の軍勢と、巨大な九頭毒蛇(ヒュドラ)のイメージだった。


「み、皆様方。一体どうされたのですか……!?」


 目を見開いて固まってしまった僕とお妃さん達に、ラビシュ宰相達が困惑した様子で尋ねる。


「方法は伏せるが…… たった今、ヴァイオレット妃らから急報を受け取った……! 魔物の軍勢が王国軍を急襲したのだ!

 おそらくは竜王の残党、その本隊…… 奴らは地下に潜伏し、我々の捜索を(かわ)し続けていたのだ……!」


「な……!? それはつまり、反乱軍は竜王の残党と通じていたという事ですか!?」


「連中が不利を押して叛乱を起こした理由がそれか……! だが、なんと愚かな!」


 僕の言葉に重臣達がざわめく。しかし、事態はそれで終わらなかった。


 ぞわっ……


「「……!」」


 南の空と東の港。二つの方角から、強力な気配が猛然と接近してきたのだ。この場に居ないお妃さん達からも、絆の円環(きずなのえんかん)を介して緊張感が伝わってくる。

 まだ気配は遠いというのに、戦いに身を置かない重臣達までもが恐怖に震えるほどの殺気。間違いなく紫宝級(しほうきゅう)の難敵だ……!


「皆、感じたな!? この王都に強力な敵が迫っている! 直ぐに守備兵に--」


「タツヒトさん! 下です!」


 全員が王城の外に意識を向ける中、プルーナさんの悲鳴のような声が響いた。

 感じたのはほんの僅かな魔法の気配。殺気は無かった。けれど、心臓が凍りつくかのような嫌な予感に、僕は直ぐにその場から飛び退いた。


 --ジャッ!


 直後。会議室の床から(けぶ)るような速度で石筍が発生した。

 その鋭い石筍は僕が座っていた椅子を微塵に砕き、一瞬で天井を貫くほどに成長した。


「て、敵襲!!」


 たった今死にかけた事に冷や汗を流しながら、僕は槍を手に周囲を観察した。

 すると会議室の角、天井付近に不自然な物を見つけた。竜の頭部を模ったレリーフだ。あんな物、この部屋には無かった筈だ……!


雷よ(フルグル)!』


 バァンッ!


 僕は雷撃でその装飾を破壊すると、すぐにプルーナさんの方を振り返った。


「プルーナさん、助かったよ! でも、今のは……!?」


「おそらく、どちらも敵の地魔法です! 先ほどの竜の装飾でタツヒトさんの位置を掴み、遠隔地から石筍で攻撃したんだと思います!

 魔法発動に対する高い隠蔽技能、高度な索敵能力、この震えがくる程に強力な魔法の気配……! 悔しいですが、相手は僕より遥かに格上の地魔法使いです!」


 彼女の言葉の直後、今度は地下から強烈な気配が急接近してきた。先ほどの地魔法の使い手が、ここへ登ってこようとしているんだ……!

 --ヴァイオレット様達を王都から引き離した上で、強烈な殺気を放つ南と東の敵に意識を逸らし、さらに真下からの奇襲。これは……


「みんな、敵の狙いは僕だ! 城にいる他の人達と一緒に今すぐ退避して! 周辺住民にも避難を!」


「な……!? 馬鹿を言うな! お前を置いて行ける訳が無いだろう!」


「シャムも戦うであります!」


 僕の言葉に、メームさんとシャムが反論する。他のみんなも動く気配がない。凄くありがたいけど、それは駄目だ。

 周囲を石壁に囲まれた環境で練達の地魔法使いと戦う。そんな状況で、僕の他に高位階の前衛がいない今、後衛であるシャムやフラーシュさんを守り切る自身は無い。

 全員で開けた場所まで退避する手もあるけど、それは間に合いそうに無いし、通路なんかで襲われたら最悪だ。

 --やっぱり、僕がここで敵を迎え撃つ必要がある。


「ごめん! 悪いけどみんなが居ると戦えない! ここは僕とプルーナさんに任せて、早く退避を!

 シャムとフラーシュさんは、可能ならティルヒルさんの援護に回って! お願い、早く!!」


「う、うぅ〜…… わ、分かったよぉ…… 二人とも、絶対、絶対死なないでね! 行こう、みんな!」


「くっ、やむを得ませんな……!」


 フラーシュさんの言葉に、宰相を始めとしたみんなは後ろ髪を引かれるようして部屋を出ていった。

 僕はそれを見届けて安堵の息を吐くと、プルーナさんに向き直った。


「ごめんねプルーナさん、付き合わせちゃって」


「いえ、むしろ残らせてくれてありがとうございます。さぁ、来ますよ……!」


 彼女の言葉の直後。地中深くから猛然と城を登ってきた敵が、ついに姿を現した。


遅くなりましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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