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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

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第491話 n回目の結婚式(2)


 怒涛の連続結婚式は無事終了し、僕と『白の狩人』レギュラーの六人は正式に夫婦となった。ちょっと特殊な形だけど。

 その後は場所を大聖堂から城の大広間へと移し、すぐに他領の領主などを招いた祝賀会が始まった。


「いやぁ。長いこと生きてきましたが、あれほど目まぐるしい結婚式は初めてですよ。地上は凄いですねぇ」


 開会直後。にこやかに声をかけてくれたのは、国内の来賓の中では一番のVIPである南の豊穣公、ラルム公爵だ。

 側妃のみんなとの結婚式だったからか、今回は結構な数の領主が名代の家臣を送ってきている。そんな中、大物領主である彼女は自身で式に参加してくれていた。

 彼女は元々王家と仲が良かったけれど、食料の交易などを通じて最近はより親しくなれた気がする。しかし、この誤解は解いておかねば。


「あー、ラルム公爵よ。これが地上における一般的な結婚の形ではない…… ただ、我が強欲なだけだ」


「ほぅ……? あっはっはっはっ。流石は覆天竜王(ブリトラ)殺しの英雄、タツヒト陛下。気持ちいいほどに正直ですねぇ」


「褒め言葉として受け取っておこう。 --それで例の西と北の件だが、其方から見てその後どうだ? 今日は彼女達の名代も来ているが……」


 僕は周囲を見まわした後、囁くように公爵に尋ねた。

 西と北、宝石公と武戦公を中心とした領主達の叛乱疑惑については、すでにラルム公爵に共有済みだ。

 当初その話に半信半疑だった彼女も、自身で調べる内に僕らの不安を理解してくれていた。


「ふぅむ…… 例の領地と取引のある商人から定期的に話を聞いていますが、やはり、魔物対策の名目で軍備増強に力を入れ続けているようですねぇ。私の領地からも沢山食料も買ってくれていますし…… あっ」


 不味い。そんな表情を浮かべながら公爵は固まってしまった。

 確かに叛乱を疑われる領地に食糧を売る事は、それに協力しているとも取られかねない行為だけど……

 この人、思った事がめちゃくちゃ顔に出ちゃうんだよね。個人的にはすごく好感が持てるんだけど、貴族としては苦労してそう。


「ふふっ。いや、何も問題は無いぞ、公爵。何せまだ疑惑の段階だ。交易で其方の領地が潤う事は、我の味方が富むという事に他ならない。今後も励むがいい」


「ほっ…… ありがとうございます、陛下。ええとそれで、やっぱり怪しいけど怪しいだけという感じですねぇ。

 さっき、例の領地の名代の人達とも話してみましたけど、魔物が多くて困っているのは本当のように感じましたし……」


「そうか…… 了解した。感謝するぞ公爵。我も彼女達と話してみるとしよう」


 公爵にお礼を言って別れた僕は、祝賀会の最中、宝石公と武戦公の名代や彼女と近しい領主達に探りを入れてみた。

 が、正直に言って何も成果は得られなかった。だって、彼女達は僕の十数倍は生きてる老獪(ろうかい)な大貴族だ。若造の僕には、その本心を窺い知ることはできなかった。






 そんな貴族らしい祝賀会が終わると、次は会場を小さめの広間へと移し、第二部の無礼講な祝賀会が始まった。

 参加者は、先ほどの連続結婚式にも参加してくれていた僕やお妃さん達の家族、それから親しい友人という感じだ。

 貴族では無い人達がメインなので、僕も王様口調をやめて肩の力を抜いていた。


「ヴァイオレット様ー! すっごく…… すっごく格好良かった!」


 開式と同時に僕らの元へ突進してきたエマちゃんを、ヴァイオレット様がふんわりと抱き留めて微笑む。


「ふふ、ありがとうエマ。今日の君は一段と可愛らしいな」


「うん! 侍女さん達におめかししてもらったの! タツヒトお兄ちゃんもとっても綺麗だったよ!」


「き、綺麗かぁ…… いや、ありがとうエマちゃん。エマちゃんもお姫様みたいに素敵だよ」


「お姫様…… えへへ〜」


 今度は僕にハグしてくれたエマちゃんの頭を、僕は最大限の愛情を込めてゆっくりと撫でた。

 そんな感じで、第二部の祝賀会はコンセプト通り和やかな雰囲気で始まった。

 そしてエマちゃんの次に僕らの元へ来てくれたのは、シャムと同じ顔をもつ人が三人の人物だった。


「皆さんおめでとうございます! こうして三人で揃ってお祝いできて良かったです。アシャフもペトリアも忙しいですから、集まるのも久しぶりですよね?」


「ふん。カサンドラ、そういう貴様が一番落ち着きがないだろうに。そもそもわざわざ集まる必要も無いしな」


「アシャフ。心にもない事を言うものでは無い。ともかく、今日は稀に見るめでたい日だ。改めて皆に祝福を」


 僕らの前に並んでいるのは、冒険者組合のとても偉い人らしいカサンドラさん、魔導士協会と魔導大学の長を兼任するアシャフ学長。そして、今日の結婚式を取り仕切ってくれた聖教のトップであるペトリア猊下である。

 学長は仮面で顔の上半分を隠しているけれど、シャムも含めて同じ顔が四つも並んでいる事になる。会場の皆さんも、流石に不思議そうな視線を送って来ていた。


「ありがとうございます猊下! 猊下に結婚の祝福を賜われるなんて、夢のようでした……!」


 同じ聖職者として感じ入るものがあったのか、ロスニアさんは拝み倒す勢いで猊下にお礼を言った。


「僕からもお礼を。お三方とも、ご多忙の中来て頂いて本当にありがとうございます」


「何、其方らを祝うためだ。どこえなりとも行くとも。本当ならば、フラーシュの結婚式にも参加したかったのだが……」


「仕方ないよ。まだ覆天竜王(ブリトラ)を倒して間もなかったし、港も開通してなかったもん。でも、ありがとね、ペトリア叔母様」


 少し申し訳なさそうな猊下に、フラーシュさんは気にしないでと笑った。するとその言葉に、カサンドラさんが思い出したように手を打った。


「あ、そうだ。私、皆さんの武勇伝を是非聞かせて欲しかったんですよ。覆天竜王(ブリトラ)は神の領域に足を踏み入れていたと言う話です。やっぱり、強かったですか!?」


 前のめりで聞いてくるカサンドラさんに、僕らは思わず一歩下がってしまった。この人、若干バトルジャンキーっぽい感じがあるんだよな。


「そりゃ強かったにゃ。にゃんつーか、凄すぎてどのくらい強いのかも分からんくらいだったにゃ。

 --あー、でも、同じような奴にゃらもう一人知ってるにゃ。にゃあ、キアニィ?」


「え、ええ。あの、絶対的強者を前に感覚…… わたくしも、とある人物との組み手で毎度感じていましたわぁ」


 ゼルさんとキアニィさんの言葉に、僕らは揃ってカサンドラさんを見てしまった。

 僕らは、これまで何度も彼女に組み手の相手をしてもらって来た。が、誰一人として彼女に勝った人は居ない。

 そして覆天竜王(ブリトラ)を倒した今でも、やっぱりこの人には勝てる気がしないんだよね。


「--あはは、それは流石に買い被りですよ。私は、ただの組合の受付嬢ですから」


 僕らのそんな様子に、カサンドラさんは朗らかに笑って見せた。いや、それは絶対に嘘でしょ……


 その後も祝賀会は続き、大人組はお酒も入って上機嫌に話込み、おネムになったお子様組は次々に別室のベッドへ運び込まれていった。

 そんな和やかな雰囲気の中、僕とシャム、プルーナさんが三人で話していると、アシャフ学長が何やら怖い雰囲気で近づいてきた。


「おい、タツヒト。それからシャムとプルーナもだ。付いて来い」


 学長は顎をしゃくって会場の隅の方を示すと、僕らの返事も待たずにずんずんと進んで行ってしまった。


「は、はい。ただいま」


 なんとも乱暴なお誘いだ。けれど僕らもそんな彼女に慣れてしまっているので、素直にその後に付いて行った。

 すると部屋の角で足を止めた学長は、こちらを振り返って近くに人が居ない事を慎重に確認した。

 仮面のせいで表情はよく分からないけれど、何かとても真剣な様子に見える。一体なんの話だろう……?


「なんでありますかアシャフ。シャムはもう大人の女であります! 二度とアシャフに騙されたりしないでありますよ!」


 シャムが警戒したように学長を睨む。彼女の部品回収のために魔導国を訪れた際、僕らは学長に騙されていいように使われてしまった過去があるのだ。

 結果的に僕らにもメリットがあったので、今では笑い話だけど。


「シャムちゃん。ダメだよう、そんにゃ言い方しちゃぁ…… うふふ……」


 そんなシャムを、プルーナさんが頭をゆらゆらと左右に揺らしながら(たしな)めた。いつもはしっかりと大地を踏み締めている八本の蜘蛛足も、千鳥足のように頼りない。

 完全に酔っ払っている…… 彼女、珈琲を浴びるように飲んでたからなぁ。

 僕とシャムは、先ほどまでこの酔いどれプルーナさんとの会話を楽しんでいたのだけれど、アシャフ学長は不機嫌そうに舌打ちしただけだった。


「ちっ…… 今から話すことは、こいつが素面(しらふ)に戻った時に貴様ら二人から伝えておけ。

 今日俺がわざわざ来てやった一番の目的は、国などという過ぎた物を手に入れた貴様らに釘を刺すためだ」


「釘、ですか……?」


「えぇ…… 釘なんか刺されたら痛いですよぉ。やめて下さいよぉ…… ぐすっ……」


「プルーナ、比喩表現であります。大丈夫でありますよ。あと、ちょっとお口を閉じているであります」


 めそめそし始めたプルーナさんの口を、シャムが後ろから抱きしめるように手で塞いだ。

 二人のそんな様子を一顧だにせず、学長は続ける。


「タツヒト。以前、俺が貴様にした忠告の内容を覚えているか? 魔導大学での研究発表会の後の話だ」


「忠告…… ええ、覚えています。その、僕の研究成果を魔導以外に応用するなという話ですよね……?」


 僕が雷魔法についての研究成果を発表した際、学長からそんな警告を受けたのだ。

 当時の彼女言葉から推測すると、創造神は電気を用いた科学文明の訪れを好ましく思っていないらしい。


「そうだ。あの時の貴様は一介の冒険者だったが、今は国を治める為政者だ。もし思い上がって余計な事をしようとしているのならば、今すぐ止めておくんだな」


「まさか。アシャフ学長、僕らは樹環国で目の当たりにしたんです。禁忌を犯した人々に創造神が下した裁き、その苛烈さを……!

 アラク様に誓って言いますが、僕が学長の忠告を無視する事はありません。この国には大切な人達がたくさん住んでいるんです。そんな危険は絶対に冒しませんよ」


 そう言い切った僕の顔を、アシャフ学長が真っ直ぐに見つめる。

 会場の楽しげなざわめきが背後から聞こえる中、僕らの間にしばし沈黙が流れた。


「--そうか、ならいい。シャムも分かったな? 貴様やプルーナの研究成果も、応用の仕方によっては不味いことになる」


「は、はいであります。プルーナにも、後で必ず言って聞かせるであります」


 学長の硬い声に、シャムは少し怯えたように応えた。一方プルーナさんは……


「はむはむ……」


 自身の口を押さえているシャムの手を食べようとしていた。もうダメだ。早めにベッドに連れていってあげよう。


金曜分です。遅くなりましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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