第483話 海の玄関口
その後の祝賀会は、お妃さん達とのダンスで大きなミスをすることも無く、平和的に終えることができた。
百人以上の領主貴族やそのお連れさん達と話したけど、やはり印象に残ったのは三人の公爵だ。
祝賀会の後日。豊穣公ことラルム公爵とは、フラーシュさんやラビシュ宰相も交えたお茶会を開催した。
そこでは和やかな思い出話の他に、今後の食糧の国内生産や輸出入などについても協議した。
あと、チョコレートを甚く気に入ってくれたのでお土産に渡したら、めちゃくちゃ喜んでくれていた。やっぱり公爵の中では彼女が一番付き合いやすい。
武戦公、ハルプト公爵からも後日謁見の申し込みがあった。受けてみると、どこかから黄竜角戟の話を聞きつたらしく、どうしても一目見たいという事だった。
持ち主のヴァイオレット様の許諾が得られたので見せたけど、黄金に輝く神器にハルプト公爵は目を奪われていた。
今後の国内の武器製造や輸出入について話したかったのだけれど、彼女が半ば放心状態だったせいであまり話は進まなかった……
最後に、宝石公バルナ公爵。彼女は、後日お茶会で少しだけ世間話をすると、そのままあっさり領地へ帰ってしまった。
彼女は苦手なので正直ホッとしたけど、大人しすぎてちょっと不気味でもある。
さておき、そんな濃密な祝賀会から二週間が経過した本日。建設中だった東の港が完成したと言うので、僕は予定の合うお妃さん達を引き連れて現場へと向かった。
「おぉ……!」
馬車から降りて港を一望した瞬間、思わずそんな声が出た。
ゴツゴツした岩場だった海岸線は綺麗に整備され、倉庫や待合所のような施設が整然と立ち並び、民間から雇ったらしい港湾業者さん達が忙しそうに行き交っている。
広い船着場にはしっかりと護岸工事が施されていて、大型船が何隻でも停泊できそうだ。
さらに少し沖合の海には防波堤も見え、冬の荒波を防いでくれている。素人目にも本当に立派な港に見えた。
「--監督よ、よくやってくれた! この港は我が国と貴国との交流の要、海の玄関口である。国家の威信を示すに相応しい、本当に素晴らしい出来栄えだ!」
僕は、出迎えてくれた港湾造成工事の専門家達に歩み寄ると、代表である初老の馬人族の手をしかりと握って労った。
「ご満足頂けて何よりでございます、タツヒト王。しかしここの出来栄えは、やはりお妃様方の働きによる所が大きいかと存じます。
技術はお伝えしたので、あとは貴国だけで港を増やして行く事ができるでしょう。良い機会を頂けたことに、こちらこそ感謝を」
満足そうな監督に頷き返した僕は、今度は王都から一緒に来てくれたお妃さん達の方を振り返った。
「プルーナ妃、アスル妃、カリバル妃。短期間で本当によくやってくれた。最高の仕事振りだ!」
「えへへ…… ありがとうございます、陛下。まだ国内の運河と繋げる工事が残っていますが、ひとまず形に出来てよかったです」
プルーナさんが少し誇らしげに笑う。やっぱり彼女は、戦場よりこうしたもの作りの場の方が楽しいみたいだ。
一方、アスルとカリバルは少し恐る恐るといった感じて手を上げた。
「陛下。あの、お願いがある。小さくてもいいから、この港に勇魚の神獣様を讃える社を建てさせて欲しい」
「陛下、俺からもお願いするぜ。俺はあの神様に命を助けてもらったのに、何も返せてねぇからなぁ。せめて毎日拝みてぇ」
「それは…… もちろん構わないとも。ここだけで無く、今後造成予定の北、南、西の港にも社を建てるとしよう。船乗りが航海の安全を祈願したくなるような、立派なものを」
「ほんと!? やった……!」
「さっすが兄貴!」
喜ぶ二人に、僕も頬を歪める。あの厳しくも優しい海神様には、僕も大変お世話になった。是非とも僕らの信仰を受け取って頂きたい。
ちなみに、僕も自室に蜘蛛の神獣の神棚を作って朝晩お祈りをしている。
この機会にもっと大々的にしてもいいかもな…… 僕はアラク様の信徒なので、この国はアラク様に救われたと言っても過言では無いわけだし。
まずは、城内の礼拝堂の隣に、アラク様を讃える社を建ててみるか。後でご本人様に相談してみよう。
「む…… タツヒト陛下。あちらを」
そんな事を考えていると、護衛の名目で同行してくれていたヴァイオレット様が声を上げた。
彼女の指す方を見ると、水平線の向こうから五隻の大型船が近づいてきていた。
「うむ、時間通りだな。皆、出迎えに行こう」
お妃さん達と一緒に船着場に移動して暫く待っていると、船団は無事に港に到着した。
港湾業者がやや辿々しい手つきで船を係留した後、船からは次々と人が降り始めた。
そう、この港が初めて受け入れたのは、東の馬人族の王国からの移民船だったのだ。
下船した船団の代表者と挨拶を交わしながら、船から降りてくる人の流れを横目でチラチラと見る。
すると人々の中に、どこかでみたような二人組を見つけた。どこにでもいそうな栗毛の馬人族と、只人の青年だ。
格好は庶民のものだけど、佇まいに気品があり、身のこなしからも只者ではない事が分かる。
彼女達は僕の視線に気づくと立ち止まり、深々と頭を下げてくれた。僕はそれに小さく頷き返すと、ホッと安堵の息を吐いた。
「無事、お二人も到着したようだな」
側に控えてくれていたヴァイオレット様が、僕の耳元でそう囁く。
「ええ。お二人がこの国でも穏やかに過ごせるよう、頑張らないと行けませんね……」
その後も移民の人たちの下船は滞りなく進み、総勢千人がアウロラ王国に降り立った。
彼女達には一旦騎士団の護衛付きで王都に向かって貰い、王宮側で職業や居住場所の斡旋を行う予定だ。
覆天竜王が暴れ回ったせいで、今この国では土地に対して人が足りていない。
仕事や住む場所にあぶれることは無いだろうし、移民の半数ほどは実は就職先も決まっている。
その半数の人たちを引き連れ、キアニィさんとロスニアさんが僕の側に歩み寄った。
「タツヒト陛下。私の古巣の者達が到着しましたわぁ」
「子供達も一緒です。みんな、健康状態は良いようですね。よかったです」
二人の言葉を合図に、キアニィさんの古巣の人々、元暗殺組織ウリミワチュラの蛙人族達が一斉に跪いた。
彼女達の中には赤子を抱えていたり、小さな子供の手を引いてる人達もいる。以前も目にした、彼女達が面倒を見ている孤児達だろう。新しい環境に戸惑っているのか、泣き出してしまっている子達もいる。
「うむ。無事に渡航できたようで何よりだ。しかし何というか…… 皆、少し遠く無いだろうか?」
僕とロスニアさん達との距離は一メートルも無い。しかし、ロスニアさん達のさらに背後で跪く蛙人族達は、僕から五メートルほども離れている。正直ちょっと話しづらい。
すると、一団の代表である黄色い体色の蛙人族、ナノさんが、恐る恐るといった感じで顔を上げた。
「も、申し訳ございません、我が王。我らは種族がら、その、少し苦手としている種族がございまして……」
彼女達の怯えた視線の先には、ロスニアさんが居た。
あ…… そうだった。蛙人族は、全体的に蛇人族が苦手だったんだ。
一方、その視線を受けたロスニアさんは非常に悲しそうだ。
「私は蛙人族の方が本当に好きなんですけど、こればかりは仕方ないですよね……
そちらのナノさんなんて、ゼルに体の色が似ててすごく親近感が湧くので、是非とも仲良くなりたいんですけど……」
悩ましげなロスニアさんの視線に、ナノさんが表情を強張らせる。ちょっと可哀想。
「ロスニア…… わたくしは違いましてよ?」
「キアニィさん…… ええ、分かっていますよ!」
ロスニアさんと身を寄せるキアニィさんを、蛙人族達が驚愕と畏怖の表情で見つめる。
何だか、彼女達のキアニィさんに対する評価が爆上がりしている気がする。それは良いんだけど、ちょっと変な空気になっちゃったな……
「あー、ナノよ。子供達もいる事だし、まずは落ち着ける場所に移動するとしよう。ああそれと、子供達の受け入れ態勢も万全に整えてある。安心して欲しい」
「は…… はい! 感謝いたします、我が王!」
ずっと硬い表情をしていたナノさんは、僕の言葉にようやく表情を和らげてくれた。
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【日月火木金の19時以降に投稿予定】
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