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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
18章 黎明の王国

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第460話 うっかり即位

前章のあらすじ:

 天空に浮かぶ巨大な方舟へと転移したタツヒト達一行は、方舟の女王にして妖精族(ようせいぞく)の始祖神、レシュトゥに出迎えられた。その後一行は、彼女の遠い子孫であるフラーシュ王女と共に古代遺跡のダンジョンを攻略。目的の部品を回収し、シャムを元の体に戻すことに成功した。だが悲願の達成を喜んだのも束の間、方舟を覆う影、覆天竜王(ブリトラ)の存在が判明。一行は、方舟の民を150年に渡り苦しめ、フラーシュの母の仇でもある竜王の討伐を決意する。

 竜王の居城に侵入した一行は、強力な配下達から身を隠しながら登頂を続け、最上階で竜王と対峙。死闘が始まった。残忍な性質と神に等しい強大な力を持つ竜王に、一行はかつて無い苦戦を強いられる。しかしその時竜王に異変が。フラーシュの母の魔法が、その体をいまだに蝕んでいたのだ。フラーシュの機転によりさらに追い込まれた竜王は、本性である巨大な蛇竜の姿へと変じたが、タツヒトが放った惑星規模の雷撃をその身に受け、ついには討ち滅ぼされた。だが戦いの犠牲はあまりにも大きく、戦場に駆けつけたレシュトゥは討たれ、主機関を破壊された方舟は地上へと墜落してしまう。

 そしておよそ一ヶ月後。タツヒトは、方舟の新たな王として大群衆の前に立っていた。


 方舟の首都、神都アルベルティに位置する大聖堂。そのバルコニーに立つ僕に、眼下の大群衆が割れんばかりの声援を投げかける。


「タツヒト王! フラーシュ様と共にこの国を導いてくれー!」「王様可愛いーー!」「馬鹿! 不敬罪でしょっ引かれるぞ!?」


「あはは…… 凄い声援ですね」


 幾万の声に手を振り返しながら、隣に立つ妖精族(ようせいぞく)のフラーシュさんへ声を掛ける。

 輝く金の長髪と分厚い眼鏡が素敵な彼女なのだけれど、今はその顔色は青ざめ、手を振る動きも機械のようにぎこちなかった。


「はぁっ、はぁっ…… 人が…… いっぱいの人が、あたし注目してる…… は、吐きそう…… うぇっ……」


 あ、これもう駄目っぽい。


「す、すみません、もう少しだけ頑張って下さい……! あと…… あと一分ほどで済ませますから……!」


「うぅ…… しんどいよぉ……」


 涙目で限界を訴える彼女から、国民のみんなへと視線を戻す。

 そして短縮版の演説を打ちながら、僕はつい二週間ほどの前の出来事…… 自分がこの場に立つ事になった経緯を思い起こした。






 ----天空に浮かぶ巨大なお椀型の岩塊、方舟は、僕らを乗せたまま虚海(きょかい)と呼ばれる海に軟着陸した。

 この虚海(きょかい)とは巨大な半円形の湾で、二つの国に跨って存在している。その二国とは、東の馬人族(ばじんぞく)の王国と、南の牛人族(ぎゅうじんぞく)の帝国だ。

 しかし、方舟がそこへすっぽりとおさまった事で虚海(きょかい)は消滅。方舟と二国は、幅10km程の狭い海峡を挟んで隣り合う事態となってしまった。

 さらに方舟の北には、海を隔てて兎人族(とじんぞく)の王国、通称魔導国が存在する。

 方舟を統べるネメクエレク神国からしたら、これまで存在しなかった隣国というものが一気に三つも誕生した形だ。


 僕らは困り果てていた神国の首脳部に協力し、伝手や立場を利用して三国の首脳部に接触を図った。

 そして方舟が墜落してからおよそ二週間後。交渉に出てくれていたみんなが神都アルベルティに帰還し、即座に僕らと神国側による会議が開かれた。

 場所は城の会議室。期待と不安の入り混じった表情をした神国首脳部を代表して、宰相のラビシュ氏が口を開いた。


「タツヒト殿。早速だが、『白の狩人』による交渉の首尾を教えて欲しい……!」


「承知しました、宰相閣下。えっと…… では最初に、東の馬人族(ばじんぞく)の王国に関して報告をお願いできますか?」


 僕の声に頷いて席を立ったのは、深緑色の髪を特徴的な形に編み込んだ妖艶な蛙人族(あじんぞく)、キアニィさんだ。


「ええ。まず、無事に現在の女王陛下に謁見する事が出来ましたわぁ。とても驚いていらっしゃいましたけれど……

 そして神国側の主張、ざっくり申しますと、事故でお隣に墜落してしまったけれど、方舟側に攻撃や侵略の意図は無い。という点についても、陛下から理解が得られましたわぁ。

 ひとまずは、方舟を静観して下さるという事でしてよ」


「「おぉ……!」」


 キアニィさんの報告に、首脳部の方々が明るい表情で感嘆の声を上げる。

 良かった…… 馬人族(ばじんぞく)の王国は、三国の中でも一番僕らと縁が深い。

 王国の首脳部や有力な領主様方にも伝手があったので、この国がダメだったら他の国なんて絶対に無理なはずだ。


「--ただ、ちょっとした揉め事もありましたし、今後の恒久的な関係などについては再度協議という事になりましたけれど……」


「揉め事、ですか……? まさか……!?」


 キアニィさんが苦笑気味に付け足したそのセリフに、僕は馬人族(ばじんぞく)の王国に向かったもう一人、ゼルさんの方を見た。

 ゼルさんは、鮮やかな黄色の短髪と、フワッフワな豹柄毛並みを持つ猟豹人族(りょうひょうじんぞく)だ。

 あと、馬人族(ばじんぞく)の王国の前女王、マリアンヌ三世陛下をぶん殴った前科がある。あの時は有耶無耶のまま無罪にしてもらったけれど……

 その場の全員の視線を受けて、ゼルさんがブンブンと首を横に振る。


「にゃっ……!? ウ、ウチ、今回はにゃにもしてにゃいにゃ! --でも、ウチだけ謁見の間に入れてもらえなかったにゃ…… 差別だにゃ……」


「な、なるほど。そういう…… ともかく、二人ともありがとうございました。馬人族(ばじんぞく)の王国に関しては大丈夫そうですね。では次に、北の魔導国についてお願いします」


「は、はい」


「了解であります!」


 次に席から立ったのはまだ幼さの残る二人。長い茶髪の前髪で目元を隠した奥ゆかしい少女、蜘蛛人族(くもじんぞく)のプルーナさんと、ついに元の体を取り戻した白髪の元気っ子、機械人形(きかいにんぎょう)のシャムだ。


「えっと、報告します。僕らも無事に魔導国の女王陛下と謁見する事が出来ました。

 結論として、馬人族(ばじんぞく)の王国同様、こちらの主張を認めて暫く静観して下さるとの事でした」


「ルフィーナも元気だったであります! 今度はみんなで遊びに来て欲しいと言ってたであります!」


 シャムが言ったルフィーナ様とは魔導国の王女で、僕らが魔導大学に在籍していた頃の同級生でもある。懐かしいなぁ……


「了解、二人ともありがとう。魔導国も大丈夫そうだね。落ち着いたらみんなで挨拶に伺わせてもらおうか。

 --では最後に南の帝国について。如何でしたか……?」


 僕の声にゆっくりと席を立ったのは、先ほどの二人とは対照的な大人の二人。

 紫色の長髪をポニーテールに纏めた麗人、馬人族(ばじんぞく)のヴァイオレット様と、水色の長髪と慈愛の笑みを湛えた聖女、蛇人族(へびじんぞく)のロスニアさんだ。


「報告させてもらう。我々も無事に皇帝陛下と謁見が叶い、他の二国同様に暫し静観して下さるとの回答を得た」


 ヴァイオレット様の端的な回答に、その場の全員が深い安堵の息を吐いた。

 気が抜けすぎて椅子からずり落ちそうになっている人までいるけど、この状況下じゃ無理もないだろう。


「ありがとうございます……! 良かった…… これで、近隣の三国がいきなり攻めてくるなんて事は無さそうですね……

 ところで、よく皇帝陛下と直ぐに謁見できましたね……? 他の二国と違って特別な伝手も無かったので、もっと時間がかかると思っていたんですが……」


 僕の疑問に、ロスニアさんはヴァイオレット様と苦笑気味に顔を見合わせてから答えてくれた。


「はい。私達も不思議に思って陛下にお伺いしたんです。そうしたら、冒険者組合のカサンドラさんから進言があったとかで……」


「カサンドラさんが……!? な、なるほど。相変わらず底知れない人ですね……」


 カサンドラさんは、僕らが頻繁にお世話になっている冒険者組合の偉い人だ。

 実際どのくらい偉いのかまでは知らないのだけれど、大国の皇帝陛下に直言(ちょくげん)できるなんて、それってもう……


「--タツヒト殿、そして『白の狩人』の面々よ、感謝する。この国は貴殿らに救われてばかりだ…… 貴殿らの働きに見合う対価は、必ず支払わせてもらおう」


 僕の思考は、神妙な様子で頭を下げる宰相達によって中断された。


「いえいえそんな、対価なんて……! ともかく、お役に立てて良かったです。その、これでお終いとは行かないと思いますが……」


「うむ…… 三国と長期的関係を形成していくには、やはりこちらの国主が決まらぬ事には……」


 宰相の言葉に、その場の全員の視線がフラーシュさんに集中する。

 会議が始まってから俯いて口を閉ざしていた彼女が、ゆっくりと顔を上げた。


「--うん、分かってる…… 外への対応もそうだけど、始祖様を失って、環境もすごく変わっちゃったみんなには、心の支えが必要なんだって……

 だから、やっぱり誰かが女王として立たなきゃいけないんだと思う…… 例え、向いてなくても……」


 --他のみんなが外交に出てくれている間、僕とフラーシュさんは国内の主だった都市を慰問して回った。

 その時に顔を合わせた誰もが、強い不安と、僕らへの期待を訴えていた。頼むからこの国をなんとかしてくれと、切望しているように見えた。

 けれどその震える声からも、フラーシュさんが女王の座なんて望んでいない事は明らかだった。


「あの…… 本当にフラーシュさんしか居ないんでしょうか……!? 例えば、他に公爵家のような家があったりとか……」


 衝動的に声を上げた僕に、ラビシュ宰相を始めとした首脳陣は鎮痛な表情で首を振った。


「存在はしている…… だが今では各公爵家における始祖神様の血は途絶え、我々と同じ只の妖精族(ようせいぞく)が家を存続させている状況だ。

 始祖神様の血筋は、その、我々以上にお子が出来にくいのだ。その血を残すのは、もはやフラーシュ王女殿下のみなのだ……」


「やはり今の公爵家では…… 始祖神様の血を継ぐ女王で無ければ、王都の民も、各地の領主達も納得しないでしょう」


「それか、民達の不安をかき消すほどの武勇を持つものならば、あるいは……」


「いや、そんな者はもうこの国には…… それにやはり王家として始祖神様の血が続かなければ--」


 そのまま議論を始めた首脳陣の方々の声を聞きながら、僕は考えた。何か…… みんなが幸せになれる方法は無いんだろうか……?


 女王には始祖神レシュトゥ様の血が必須だけど、それを残すのは今やフラーシュさんのみ。でもフラーシュさんは女王になりたくない……

 だったら、例えばフラーシュさんの夫になる人…… その人が王様になればいいのでは……?

 二人のお子さんは始祖神様の血を継ぐ訳だし、これならこの国の人達も許容してくれそうだけど……

 加えて、できればその夫になる人はめちゃくちゃ強い方がいいよな…… そっちの方がみんな安心できるだろうし……

 でも、みんなが納得するくらい強い只人の男って…… ん……?


「--仮に…… 僕がフラーシュさんと結婚して、王様にでもなれば解決するのか……?」


 俯きながら呟いた僕の独り言は、騒がしい会議室に不思議と響き渡り、沈黙を生んだ。

 ハッとして顔を上げると、フラーシュさんは真っ赤な顔で僕を凝視し、他のみんなも目を見開いて僕を見ていた。


「あ…… す、すみません! 失言でした! どうか忘れてーー」


 ガタタッ!


 僕の台詞が終わる前に、宰相達が椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。


「よくぞ…… よくぞ言ってくれた、タツヒト殿! 私はそれを待っていたのだ!」


「ええ! 男の王は前例がありませんが、タツヒト殿ならば皆納得するでしょう!」


「然り! 覆天竜王(ブリトラ)を屠った勇者と、始祖神様の血を継ぐフラーシュ王女が手を取り合う…… 完璧ではないか!」


 まずい……! 宰相達のこの気迫、真剣(マジ)で僕を王様に据える気だ。

 ど、どうしよう……!? 助けを求めるように『白の狩人』のみんなの方を見ると、全員が何か感じ入ったような表情をしていた。あ、あれ……?


「うむ! 先生…… フラーシュ王女とならば私としても歓迎だ! タツヒトと居られるのであれば、私は側室でも構わないしな。

 --タツヒト。一国を背負う重責、よく決心した。さすが私の惚れた男だ……!」


 ヴァイオレット様の言葉に続き、みんながうんうんと何度も頷く。う、受け入れるの早くない……!?


「い、いや、でもフラーシュさんの気持ちが……」


「へ……? あ、あたしも、タツヒト氏とだったら、えっと、嬉しいよ……? その、すっごく……

 それに、仕方無いよね……? あたしは女王なんて絶対向いてないし、王様としてみんなが納得するくらい強い男の人なんて、タツヒト氏しか居ないし……

 だ、だから、仕方ないもんね……!? うふ、うふふふふ…… ふひっ……!」


 仕方ないとは言いつつ、彼女の顔は喜色満面、いや、喜色が顔からはみ出してしまいそうな程にニッコニコだ。光栄な事に喜んでくれてるらしい。

 こ、これは…… あとは僕次第ということか……


 考えてみれば、シャムの体が元に戻った時点で僕らの旅は一区切りついている。今後どこかに腰を据える案もあったから、それがこの国でもいいのか……

 そして『白の狩人』のみんなと一緒に居られるなら、フラーシュさんとの結婚は望むところだ。面白くて素敵な方だし。

 王様になるのはかなり大変そうだけど、もしかしたら各地で知り合った他の人達も呼んで、みんなで一緒に楽しく暮らすなんてこともできるかも…… 何せ王様だし。

 となると…… 断る理由は無い、のかな……?


「--わ、分かりました……! その、僕でよければ……」


「「おぉ……!」」


 その後。希望に目を輝かせた宰相達首脳陣の手により、僕が王位に就くため全ての手続きが速やかに行われた。

 問題となったのは、ぽっと出の只人である僕が王位に就く正当性だったけど、レシュトゥ様が今際(いまわ)(きわ)に言った一言が鍵となった。


『タツヒト君、 フラーシュをお願いね』


 この言葉を持って王権神授が行われたものと超解釈を行い、会議からたった二週間後、僕は王位に就いたのだった----






「「ワァァァァァ……!!」」


 追憶と演説を終え、僕らは大声援を背にバルコニーを後にした。

 国民のみんなの前に立って改めて感じたのは、多くの人々が僕を頼ってくれることへの嬉しさと、それ以上の恐怖だった。

 この国の人口はおよそ800万人。それほど多くの命が僕の差配にかかっていると思うと、覆天竜王(ブリトラ)に挑んだ時以上に震えが来る思いがした。


「ひ、ひとまず終わったね…… タツヒト氏……」


「ええ…… お疲れ様でした、フラーシュさん……」


 フラーシュさんと一緒にヘロヘロと部屋の中へ引っ込むと、『白の狩人』のみんなが労うように出迎えてくれた。


「フラーシュ、よく耐えた。タツヒトも見事な演説だったぞ。次は礼拝堂でレシュトゥ様の葬儀の予定だが…… 二人とも消耗しているようだし、少し時間を遅らせようか……?」


 そう声をかけてくれたヴァイオレット様や、気遣わしげな視線を向けてくれる他のみんなを目にして、僕はハッとした。

 そうだった…… 何も僕一人で国を回さなきゃいけないわけじゃ無い。こんなに頼りになる人達が側に居てくれるんだから、国家運営くらいなんとでもなる……! 


「あ、あたしは大丈夫!」


「僕もです……! 予定通りに行きましょう!」


 少し強がる僕とフラーシュさんに、みんなは笑顔で頷き返してくれた。


18章開始です。お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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