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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
17章 叡智の方舟

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第447話 竜王の居城(2)


「--や、やっと…… やっとコツが分かってきたかも……!」


 蝙蝠(こうもり)型の魔物の群れをやり過ごした後、フラーシュさんは小さく拳を握りながら呟いた。

 僕らの現在地は大魔巌樹(まがんじゅ)の第50層、おそらく全体の三分の一程度の高さだろう。ここの攻略を始めてからすでに二週間が経過している。

 ここまで時間がかかっているのは、そもそも各階層がかなり広大なのと、僕らという熱源を感知できる蛇や蝙蝠(こうもり)型の魔物に絡まれまくったからだ。

 しかし、それも昨日から鳴りを顰めている。フラーシュさんの光学迷彩魔法が、ついに熱源から出る赤外光をも隠蔽できるようになったのだ。


「流石ですフラーシュさん……! やってくれると思ってましたよ!」


「へ、へへへ…… まぁね? あたしに掛かれば、ね……?」


 得意げに眼鏡をくいくいする彼女を、シャムやキアニィさん達も褒め始める。


「おぉ……! フラーシュの偽装範囲の外から見てみると、赤外線でもみんなの姿を殆ど検出できないであります! 凄いであります!」


「羨ましいですわぁ…… わたくしの場合、自分一人しか存在感を消せませんから」


「えへへ…… これでやっと、みんなも楽になるよね……?」


「ええ勿論、大助かりですよ! 上手くいけば、ここから覆天竜王(ブリトラ)の元まで戦闘無しで行けるかも知れません!」


 この階層に来るまでも、魔法の使用や身体強化は最低限に、なるべく短時間で戦闘を終えるようにしていた。

 けれど、頂上に近い階層で騒いだら流石に覆天竜王(ブリトラ)も気づくかも知れないし、奴に当たるまで体力は温存できた方が良い。

 これで暗殺の成功率が一気に上昇した。そんな風に希望を抱いて第51階層へと上がった僕らだったのだけれど、その階層はこれまでとは様子が違っていた。


「あれ、魔物が居ない……」


 ここまでの階層は結構な密度で魔物が存在していたのに、この階層では暫く歩いてもまだ魔物に遭遇しない。

 だと言うのに、周囲にはまるで戦場のような張り詰めた空気が流れている。一体……?

 そのまま警戒しながら歩みを進めていくと、体育館ほどの大きさの広間に出た。僕らが入って来た入り口の他に、向かって右と左にも入り口が見える。


「フラーシュさん、どちらでしょう?」


「ちょっと待ってね、タツヒト氏。えーっと……」


「んにゃ……? 二人とも静かにするにゃ……! 右…… いや、両方から大勢くるにゃ……!」


 猫耳をピンと立たせたゼルさんの鋭い声に、僕らは急いで壁際へと身を寄せた。

 いや、光学迷彩状態だからあまり意味は無いんだけど、仁王立ちしてるのもちょっと落ち着かないので……


 --ザッザッザッザッ……


 だんだんと、僕の耳にも軍隊のような足音が聞こえ始めた。そして二つの入り口から、数十体からなる魔物の集団が姿を現した。

 向かって左は筋骨隆々な豚鬼(オーク)の集団、右は全身から鋭い棘の生えた熊、針熊(スピノルス)の群れだ。

 どちらも珍しい魔物じゃ無いけど、それらを率いている存在は異質だった。


 群れの先頭に立つのは、率いている魔物たちに比べたら小柄な()()だった。

 豚鬼(オーク)側を率いているのは、豚耳と鋭い牙を生やした大柄な女だ。種族柄か、胸部と臀部がめちゃくちゃ豊満で、それでいて腹筋は見事なシックスパックに割れている。

 針熊(スピノルス)を率いているのは体中から針を生やした野生的な男だ。

 二人は遠目からは亜人にも見えたと思う。でも、よく見れば体の各部に魔物の特徴が強く現れていて、何よりその凶暴な気配が人類とかけ離れていた。


「あいつらは…… 途中の村でも遭遇しましたけど、やはりここにも居ましたね」


「ああ。妙に統制の取れた足音だと思ったが、やはり覆天竜王(ブリトラ)の眷属が率いていたのか……」


 ヴァイオレット様の言うとおり、彼らの引きられた魔物達はきちんと隊列を組み、唸り声も出さずに行進している。

 大魔巌樹(まがんじゅ)に来る途中、僕らは魔物に襲撃されていた都市をいくつも助けて回った。

 その際、今目の前にいるような人型魔物に率いられた魔物の群れを、いくつも討伐したのだ。

 神の領域に至った覆天竜王(ブリトラ)は、魔物を人化させる秘技を使い、統制の取れた配下を増やしているらしい…… 厄介な話だ。


 二つのグループは広間の中央付近で向かい合うと、露骨に殺気をぶつけ合い始めた。

 なんだ……? 合同訓練か何かにしては、殺伐とした雰囲気だけど……?

 そのまま様子を見ていると、先に針熊(スピノルス)の群れのリーダーが口を開いた。


「アバズレ豚ガ…… 逃ゲズニ、ヨクキタ!」


「ソレハ、コチラノ台詞……! オクビョウ熊メ、今日コソ、殺シテヤル!」


「「--ゴァァァァァッ!!」」


 ドガッ!


 突然殺意も露わにぶつかり合ったリーダー達に続き、配下の魔物達も雄叫びを上げて戦い始めた。

 豚鬼(オーク)の棍棒が相手の頭を砕き、針熊(スピノルス)の針が敵の腹を突き破る。

 広間の床はあっという間に赤黒く染まり、周囲には血の匂いと怒号が満ちた。 --訓練なんかじゃ無い…… 殺し合いだ……!


「ど、同士討ち……!? 覆天竜王(ブリトラ)の奴、部下を制御できてないのか……!?」


「……! タツヒトさん。これ、きっと邪神の時と同じです……!」


「え…… プルーナさん、どう言う事ですか……!?」


「えっと…… 僕もタツヒトさん達からの又聞きですけど、邪神は自分の眷属同士を戦わせて、位階の上がり切った個体を手に掛けていたんですよね……?

 覆天竜王(ブリトラ)も、部下同士でそれをさせているんじゃ無いですか……?」


 彼女の言葉に、全員の顔に理解の色と、同時に僅かな嫌悪の色が浮かんだ。


「そうか…… 眷属同士をその群れごと潰し合わせれば、覆天竜王(ブリトラ)は手間なく配下達の位階を上げることが出来る……

 しかも、大魔巌樹(まがんじゅ)が放出する魔素に誘われて、配下となる魔物は勝手に補充されていく……

 だから入り口に門番が居なかったのか……!」


「--グラァァァァァッ!!」


 少し目を離した間に、魔物達の戦いは決着が付いていた。

 大柄な女性型豚鬼(オーク)が、首の捩じ切られた男性型針熊(スピノルス)を踏みつけ、勝鬨を上げていたのだ。

 そこからの展開は凄惨だった。狼狽える針熊(スピノルス)達を、豚鬼(オーク)達は瞬く間に皆殺しにし、その死骸を貪り始めたのだ。


「あぁ、なんという…… 神よ。どうかあの者たちに安らぎが在らんことを……」


 あまりの光景に、ロスニアさんが小さく祈りを呟いた。


「--急がないといけない理由が増えましたね。放っておけば、覆天竜王(ブリトラ)の戦力はどんどん増強されてしまいます…… フラーシュさん、正解の道を教えて頂けますか?」


「あ、うん。えっと…… 右だね。 --ところでタツヒト氏…… 今、豚鬼(オーク)の方を応援してたでしょ? 女の子の眷属の方」


 ジト目のフラーシュさんにそう指摘され、僕の心臓がびくりと跳ねた。な、なぜバレたし……!?


「--いえ。両方敵ですし、どちらも応援なんてしませんよ。何をおっしゃるんですか」


「ふーん…… 本当に……? タツヒト

氏の視線、豚鬼(オーク)の眷属のおっきい胸に釘付けだったけど……」


「あー、それは、そのー……」


「あの、先生。タツヒトは、その、少々気の多い男でして…… しかしご存じの通り気のいい男でもありまして……」


「こ、ここでヴァイオレット氏が擁護するんだ…… ちょっとタツヒト氏に甘すぎじゃない……? いや、あたしにも甘すぎるんだけど……」


「と、ともかく早くこの場を離れましょう……! この件については、全てが片付いてからと言うことで……」


「むー…… わかったよ」


 フラーシュさんは、何故かご自身の胸をチラリと見てから、不承不承という感じで頷いてくれた。

 --ふぅ。よかった、一旦は許してくれたらしい…… しかし、いつもながら自身の節操の無さに自分で驚いてしまう。他のみんなも苦笑いしてるし……

 みんなの視線を背後に感じながら、僕は指示された右手の通路へ足を向けた。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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