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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
17章 叡智の方舟

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第439話 王女の真実(1)


 左右に暖かな温もりを感じ、僕はベッドの上で目を覚ました。


「--おはようございます、タツヒトさん」


 左から聞こえた声に振り向くと、プルーナさんの小動物めいた可愛いお顔が間近にあった。

 長い前髪の奥から覗く二つの瞳と、その周りに配置された複眼の全てが、ひたりと僕の顔を見据えている。

 いつもと同じ彼女の優しげな微笑みに、普段とはまるで違う妖艶さを感じてしまう。背筋がぞくりとするようだった。


「おはよう、プルーナさん。 --その、僕が言うのもなんだけど、雰囲気変わったね……?」


 僕の素っ頓狂な言葉に、彼女は少し目を見開いてからまた妖しく笑った。


「ふふっ、タツヒトさんが変えたんですよ……? シャムちゃんの事も……」


 プルーナさんの楽しげな声に、右側で身じろぎする気配がした。

 今度はそちらの方を振り向くと、人形にように整った顔のシャムがこちらを凝視していた。

 露出した肩の金属関節と、肌の各部に奔るパーティングライン。機械と人体が完全に調和したかのようその姿に、僕は一瞬見惚れてしまった。

 しかし一方で、彼女は僕と目が合った瞬間、視線から逃げるようにシーツを頭から被ってしまった。


「シャム……!? ご、ごめん、怖かった、よね……?」


 昨夜の自分を振り返ると、本当に反省点しかない。

 勇気と覚悟を(もっ)て来てくれた二人に、僕は多分、今の関係が壊れるのを恐れてうだうだと言い訳をしてしまった。

 だというのにいざ始まったら、その、夢中になってしまって、あまり優しくできた覚えが無い…… これ、かなり情けないのでは……?


「ち、違うであります……! タツヒトは、優しくて、格好良かったであります…… で、でも…… だからこそ…… うぅ〜……!」


 シーツの中で悶えるシャムに、プルーナさんがくすくすと笑う。


「うふふ…… 前にもこんなことあったね。シャムちゃん、今更意識しだしたんでしょ……? タツヒトさんの事…… 知識と経験て、全然違うものだよね……」


「それには、同意するであります……! で、でも、プルーナが余裕すぎて、なんだか納得いかないであります!」


 二人はそのまま、昨晩訪ねてきた時とは真逆な感じで仲良く喧嘩し始めた。

 三人の関係は変わってしまったけれど、変わらなかった部分もある。その事に安堵しながら、僕はいつものように二人の仲裁を試みた。






 二人が満足するまで戯れ合った後、僕らは身支度を整えてから寝室のドアへと向かった。


「なんだかお腹が空きましたね。いっぱい運動したからかな? ね、シャムちゃん……?」


「そ、そうでありますね…… うぅ、早く元のプルーナに戻って欲しいでありますぅ……」


「あはは…… じゃあ、ヴァイオレット様たちにも声をかけて、朝ごはんを--」


 がっ。


「ぅ……!?」


 ドアを開けて一歩踏み出した瞬間。足先に何かが当たった。

 同時に聞こえたのは小さな呻き声。慌てて視線を下に向けるもそこには何も無く、掃除の行き届いた床ばかりが見えた。


「……!? 下がって! 何かいる!」


 僕の声に、全員が寝室の方へと大きく跳び退いた。


「シャムちゃん!」


「ありがとうであります!」


 プルーナさんが瞬時に短剣を生成し、シャムに投げ渡した。

 僕もいつでも魔法を放てるよう、自分が(つまず)いたあたりに手のひらを向けた。


「そこにいる奴、姿を現せ! 三つ数える内に従わない場合、攻撃する! 一つ! 二つ! みっ--」


「ま、待って待って! あたしだよ……!」


 聞き覚えのある声と同時に、ドアの前の風景がぐにゃりと歪む。

 そこから現れたのは、びくびくと両手をホールドアップした、見覚えのある眼鏡の妖精族(ようせいぞく)だった。


「フラーシュさん……!? な、なんで僕の寝室の前に……?」


「え、えっと…… それは、そのー…… えへへ……」


 向けていた腕を下げつつそう問いかけるも、彼女は目を泳がせながら誤魔化すように笑っている。


 バァン!


「何事だ!? ん……? フラーシュ殿……!? なぜタツヒトの部屋に……?」


 すると騒ぎを聞きつけたのか、隣室のヴァイオレット様たちも僕の部屋に突入してきた。

 僕らは自然と、床にへたり込んだフラーシュさんをぐるりと取り囲むように集まった。


「フラーシュさん…… お気持ちは非常に分かりますが、他人の秘め事を覗くなど決して褒められたことではありませんよ?」


「だにゃ。あと単純にあぶねーにゃ。どーせ姿消して盗み見してたんにゃろ? そんなあやしーやつ、ぶっ殺されても文句言えねーにゃよ?」


「ご、ごめんなさい……」


 ロスニアさんとゼルさんに(もっと)もなお叱りを受け、彼女はかわいそうなほどに萎れてしまっている。いや、本当に結構危なかったですよ……

 ん……? 今気づいたけど、フラーシュさんの周りの床、文字がぎっしりと書かれた紙がたくさん散乱している。彼女が書いたんだろうか……?


「む、これは……?」


 僕と同じタイミングでそれに気づいたヴァイオレット様が、散らばる紙の一枚を拾い上げた。


「あ……! ま、待って! 読まないでぇ!」


 フラーシュさんが絶叫するように制止するも間に合わず、ヴァイオレット様は紙に目を通し始めた。

 その瞬間、彼女は目を大きく見開き、さらに手をぶるぶると震えさせ始めた。ヴァ、ヴァイオレット様……!?


「こ、この格調高い文体…… それでいて、人に言えぬ劣情が滲み出したかのような表現……! フラーシュ、フラーシュだと……? まさか……!?

 あ、あなたは…… あなた様はもしや、ユシーラフ先生では……!?」


「ひっ……!? ち、違う! あたし、そんな人じゃない! 知らない知らない!!」


 ヴァイオレット様の問いかけに、フラーシュさんは眼鏡が吹っ飛びそうな勢いで顔を横に振り始めた。なんだか図星のようだ。

 しかし、ユシーラフ先生……? あれ。その名前、どこかで聞いたような……?


「ユシーラフ…… それって確か、あなたが愛読している官能小説の作者ではなくって? 本の名前は、確か……」


「淫乱少年侍男(じなん)物語、ユシーラフ先生の最高傑作だ……!」


「そ、そうでしたわぁ」


 食い気味に答えたヴァイオレット様に、キアニィさんがちょっと引いてしまっている。

 --ん? てことは、フラーシュさんがあの本の作者さんなの!? あ…… 確かに逆から読むとユシーラフになるか…… え、本当に……?

 驚く僕を他所に、ヴァイオレット様は項垂れるフラーシュさんの側でゆっくりと膝をついた。

 その様はまるで、主君に(ひざまず)く騎士のようだった。


「違う…… 私は、そんな…… 違うんだよぉ……」


「いえ……! この神が宿ったかのような言葉の旋律…… この唯一無二な文字の芸術は、ユシーラフ先生にしか生み出せません!

 お会いできて、本当に光栄です。その、お分かりかどうか分かりませんが…… 紫の騎士という名前に、お心当たりはありませんか……?」


 恐る恐る問いかけたヴァイオレット様に、フラーシュさんは驚いたように顔を上げた。


「紫の、騎士……? 新作を出すたびに感想の手紙をくれる、あの……? も、もしかして、ヴァイオレット氏が紫の騎士なの……!?」


「……! は、はい……! あぁ、なんたる幸運…… なんたる望外な喜びかっ……! 神よ、感謝いたします!」


 ヴァイオレット様は、頬を涙に濡らしながらフラーシュさんに(こうべ)を垂れた。

 --いや、なんだこの状況……?


お読み頂きありがとうございました!

面白いと思って頂けましたら、是非本作のブックマークをお願い致します。執筆の大きな励みとなります。

⭐︎で評価を付けて頂けますと、作者が更に狂喜乱舞しますm(_ _)m

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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