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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
17章 叡智の方舟

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第438話 待っていた二人


 全裸状態から普段着に着替えたシャムと一緒に、僕らは治療棟から再びレシュトゥ様の私室へと移動した。

 ちなみに、フラーシュさんはへろへろで歩ける状態では無かったので、僕が背負った。

 よほど激しい手術だったのだろう。私室へ向かう最中、彼女は僕の背中でずっと荒い呼吸を繰り返していた。


「あはははっ! この体、凄いであります! プルーナを抱っこできるでありますぅ!」


「ちょっ、シャムちゃん下ろして……! もうっ…… ふふっ」


 移動中も、私室に場所を移してからも、シャムはずっとハイテンションのままだった。

 プルーナさんを抱えてくるくる回るシャムを、みんなが微笑ましく見守っている。


「無事に換装が済んで本当によかったわぁ…… さて、みんなお腹空いたでしょ? 食事を運んでもらいましょ。

 もう遅い時間だからから軽めの…… あぁ、でも量はたくさんもらいましょうね」


 イタズラっぽく微笑むレシュトゥ様に、ヴァイレット様とキアニィさんは恐縮しながら頷いた。

 すぐに使用人の方が私室を訪れ、僕らが囲むテーブルは大量の軽食で埋め尽くされた。


「さぁ食べましょう! 改めておめでとう、シャム。気分はどう?」


 微笑むレシュトゥ様に、シャムもサンドイッチを頬張りながらにっこり微笑んだ。


「最高でありまふ! むぐむぐ…… 思った通りに体が動く…… それがどんなに素晴らしいことか……! それを噛み締めているであります! レシュトゥ様、ありがとうであります!」


「うふふ、どういたしまして」


「フラーシュさんも、本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか……」


「あはは…… いいよいいよ、タツヒト氏。報酬は、もうたっぷりと堪能させてもらったからさ…… ふひひ……」


 フラーシュさんは、まだ若干ふらつきながらも良い笑顔で応えてくれた。やはり疲れているのだろう。ちょっとテンションが変だ。


「ロスニア、あなたもお疲れ様でしたわぁ。立派にやり遂げましたのね」


「はい…… 猊下からの教え、その集大成のような施術でした…… 神を近くに感じました……」


 大活躍したロスニアさんは、キアニィさんに寄りかかりながら少し遠い目をしている。

 二年半ほどかかった旅の目的を果たし、みんな穏やかな疲労感と達成感味わっているかのようだった。

 それから、暫くはただ静かに軽食を食べる時間が過ぎた。すると、ちょっと復活してきたフラーシュさんがおずおずと切り出した。


「ね、ねぇ…… タツヒト氏達は、この後どうするの? シャム氏の体を、元に戻すのが目的だったんでしょ?」


「あー、それがですね…… 必死すぎて、その先の事は何も考えてなかったですよ。お世話になった人達に挨拶回りはしなきゃですけど……」


「それなら今度は、シャムがみんなに貢献したいであります! タツヒトは、何かやりたい事はないでありますか?」


「ウチもリーダーに従うにゃ。あ、でも魔導都市の地下街にはもう一回行きたいにゃ」


「あはは、ゼルさんも好きですね。挨拶回りの時に寄りましょうか。 --でも、やりたい事かぁ…… うーん……

 正直、誰も欠けずにシャムの体が元に戻って、ものすごく満ち足りてるんですよね…… 僕、みんなと楽しく暮らせれば、それで良いのかもしれないです」


 思ったままの言葉を口にすると、みんなは少しぽかんとした後、なんだか優しい笑みを浮かべながら僕を見た。

 あれ…… ちょ、ちょっと恥ずかしいこと言ったかも……


「ふ、ふぅん…… な、ならさ、みんなでここに腰を落ち着けてもいいじゃないかな……? なんて……」


 フラーシュさんが、人差し指同士を合わせながら上目遣いでこちらを伺う。この人めちゃくちゃ年上なのに、どこか子供っぽいんだよね。


「あぁ、それも良いですね…… エルツェトのみんなには、転移魔法陣で会いに行けるわけですし」


「え…… ほ、ほんと……!? じゃあ--」


「フラーシュ」


「ひゃいっ……!?」


 嬉しそうな表情から一転。レシュトゥ様の硬い声に、フラーシュさんがびしりと背筋を伸ばした。


「彼らはエルツェトの人間よ。目的を果たした今、この切り離された場所に長く引き留めるべきではないわ。特に今は…… わかるわね?」


「は、はぃ……」


 和やかだった空気が張り詰め、沈黙が降りる。すると、空気に気付いたレシュトゥ様は慌てたように表情を緩めた。


「あら、ごめんなさい。おめでたい席なのにね……」


 只事ではない雰囲気に、ヴァイオレット様と僕は頷きあった。


「いえ…… しかしレシュトゥ様。我々にはあなた方への恩義があり、時間も、それなりの力もあります。

 そしてあなた方は何かお困りのご様子…… どうか、私たちに恩返しの機会を頂けませんか?」


「僕らはここへ来る際、何人かの方から忠告されました。凄まじい困難が立ち塞がるだろう、覚悟して向かえと……

 一体、この国で何が起こっているんですか? 思えば、街の人たちの表情も優れませんでしたし……」


 僕らの言葉に、レシュトゥ様は暫く口を閉ざしていた。しかし、最後には済まなそうに首を振ってしまわれた。


「--ありがとう。あなた達の気持ち、本当に嬉しいわ。でも、これはこの国の問題なの。

 勿論、すぐに出て行けなんて言わないわ。しばらくは、ゆっくり体を休めていきなさい」


 結局核心は語られないまま、その場はお開きとなってしまった。






 夜。割り当てられた客室に引っ込み、僕は一人ベッドに寝転んで天井を見ていた。

 部屋に引っ込む前、先ほどの会話についてみんなと軽く話した。結果、エルツェトに帰る前に、無理矢理にでも恩返ししてしまおうという意見で一致した。もらった恩は倍にして返さないと。

 でも、一体どんな脅威がこの国に降りかかっているんだろう…… フラーシュさんなら、粘れば話してくれそうな雰囲気だったけど……


「まぁもしダメでも、城下町の人達から情報を得る手もあるか。只人の僕なら、変装しなくても聞き込みできるだろうし……」


 一人呟き、目を閉じる。すると、思考はエルツェトに帰った後の事に流れていった。

 今が満ち足りていて、みんなと一緒にいれたらそれで良いと言ったのは本心だ。

 しかし、そうすると先立つものが必要だ。


「何して稼ごうか…… 冒険者は性にあってるから、聖都あたりに腰を据えて冒険者を続けるのも良いのかも。みんなも冒険者稼業は嫌いじゃないみたいだし」


 『白の狩人』みんなの顔が脳裏に浮かぶ。続いて、聖都のメームさん、魔導国のエリネン、樹環国のコメルケル会長、ハルリカ連邦のアスルやカリバル、魔獣大陸のティルヒルさん、フラーシュさん…… 一緒に苦楽を共にしたみんなの顔も次々に浮かんでくる。

 --みんなにも生活や都合があるから、現実的には無理だろうけど、もしこの全員で一緒に暮らせたら最高に楽しいだろうなぁ……


「ふふっ、めちゃくちゃ大所帯になっちゃうな。聖都でそんなに馬鹿でかい家を買おうとすると、かなり掛かるだろうし…… いっぱい稼がないと」


 妄想はそこで止まらず、エマちゃんや村長夫妻のいるベラーキの村、アラク様達、エラフ君達、ヴァイオレット様のご家族、今まで訪れたあらゆる街や国…… この世界に来てから出会ったみんなの顔が、次々に瞼の裏に映し出された。

 そこまで考え、僕は、自分が言った『みんな』の範囲がやたらと広い事に気づいた。


「あ、あれ…… 僕って、もしかしてかなり欲張りな奴なのか……?」


 仮に、今頭に浮かんだ全員と一緒にいようと思うと…… 大所帯とかでかい家どころじゃなくて、もっと--


 コンコンコン!


 半分くらい眠りながらつらつらと考えていると、元気なノックの音が聞こえてきた。これは……


「はーい」


 ベッドから起き上がり、寝室を出て客室の扉を開けると、やっぱりシャムだった。一緒にプルーナさんも立っている。

 前者はにっこにこの笑顔、後者は赤い顔で俯きがちだ。どうしたんだろ?


「タツヒト! こんばんはであります!」


「や、夜分にすみません…… あの、入っても……?」


「うん、勿論。どうぞ」


 二人を客室に招き入れ、一緒に居室のテーブルに座る。こういう場合、いつもは幼女なシャムをプルーナさんが抱えてくれていたのだけれど、今は二人ともきちんと椅子に座っている。


「ふふっ。シャムの視線が同じ高さなの、なんだか嬉しいね」


「シャムもであります! --シャム達がなぜここに来たか…… 分かるでありますよね?」


「へ……? えっと、なんだろ……? あ、目が冴えて眠れないとか? いいよ、ちょっとお話ししようか。今お茶を……」


「もー! 違うであります! なんで覚えていないでありますか!?」


「ご、ごめん! 待って、今思い出すから……!」


 プンスカ怒るシャムに、必死に頭をひねる。けれど思い出せない。あっれ、なんだっけ……!? 彼女がここまで言うなら、よほど大事な約束なんだろうけど……


「あ、あはは…… 仕方ないよシャムちゃん。あれから二年以上経ってるから……

 --タツヒトさん。邪神討伐作戦の直前、僕とシャムちゃんはタツヒトさんにあるお願いをしたんです。

 シャムちゃんが縮んでしまって、延び延びになっていましたけど…… 今なら、応えて頂けますよね……?」


「邪神討伐…… --あ……!?」


 プルーナさんの言葉に、一瞬でその時の情景が蘇った。

 大森林で邪神討伐作戦の準備をしている時、目の前に座る二人は、顔を真っ赤に染めながら僕に想いを告げてくれたのだ。

 僕はその時日和って返事を先延ばしにしてしまったのだけれど……


「やっと思い出したでありますね……! では、約束を履行してもらうであります! さあ、すぐに寝室へ行くであります!」


 シャムは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、僕の手を取ってぐいぐいと寝室のドアへ向かい始めた。


「ちょ、ちょっと待って! あの、その、 気持ちはすごく嬉しいんだけど……! あ、ほら! 二人とも、もう少し大人になってから--」


 どうにもこの二人はお子様組という認識があって、咄嗟にそんな言い訳をしてしまった。

 すると二人は予想してたのか、顔を見合わせてニコリと笑った。


「ふふん! 問題など無いであります! シャムの製造年代を考えると、シャムはタツヒトよりものすごく年上という事になるであります!」


「僕も、もう成人してます。今度こそ、ちゃんと……」


 そ、それもそうか……! 答えに窮している間に、僕は寝室のベッド際まで追い詰められていた。


「わ、わかったよ。でも、ま、まだ心の準備が…… ほら、雰囲気とかも大事だし……!」


「準備、雰囲気……? --すみません。もう、待てません……」


 プルーナさんはそう言って背中の方に手をやると、どこからともなく糸を取り出し、僕をあっという間に縛り上げてしまった。これ、プルーナさんの蜘蛛の糸か……!?


「僕、ずっと待っていたんです…… 待ちすぎて、待ちすぎて、頭がおかしくなるくらい…… だから、もう、いいですよね……?」


「プルーナ、良い仕事であります! よい、しょっ!」


「わっ……!?」


 糸で縛られた僕は、為す術も無くシャムにベッドへ転がされてしまった。

 覆い被さってくる二人に、反射的に拘束を解こうと力を込める。すると、プルーナさんの糸が軋む音がした。あ、これなら千切れ--


「タツヒトさん…… タツヒトさんなら、僕の拘束なんて簡単に破れると思います。

 僕らとするのがそこまでお嫌でしたら、その糸を切っていただいて構いません…… でも、そうされたら僕、悲しくて泣いちゃうかもしれません……」


 しかし、プルーナさんがそう耳元で囁いた事で、僕は全く動けなくなってしまった。そ、そんな事言われてたら……!


「うふふ…… やっぱり優しいですね、タツヒトさん。そんなあなただから、僕は……」


「タツヒト、安心するであります! シャム達には十分な観戦経験があるであります! さぁ、観念して身を委ねるであります!」


「うぅ…… うぅーっ……! --りょ、了解であります……」


 荒い息遣いで迫る二人に、僕はついに白旗を上げた。


※あとがき

大変遅くなりましたm(_ _)m

お読み頂きありがとうございました!

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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