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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
17章 叡智の方舟

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第436話 調停者


「うおっ……!?」


 自分が放った雷撃の予想以上の威力に驚きつつ、僕は頭を失った石像鬼(ガーゴイル)を油断なく観察した。

 警備機械人形(きかいにんぎょう)みたいに、急所が頭じゃない可能性もある。

 しかし、鎧を着込んだ巨体はそのままぐらりと傾き、音を立てて地面に倒れ伏した。


「--ふぅ…… いまいちまだ加減が分からないんだよね……」


 雷光を帯びた槍の穂先に目をやりながら、ポツリと呟く。

 アラク様に槍を強化してもらってから、通常の雷撃でもかなり威力が出るようになってしまったのだ。

 大変ありがたいのだけれど、制御できない力はチーム戦では危険だ。もっと練習しないとな……

 槍の穂先を下げて残心を解くと、僕の元へ後衛のみんなが駆け寄ってきた。


「タツヒトさん、お見事です! でもまた無茶なことを…… すぐに腕を見せて下さい!」


「す、すみませんロスニアさん。いてて……」


 水流ブレスにさらされて所々出血している腕を掲げると、ロスニアさんはすぐに治療を始めてくれた。


「ね、ねぇタツヒト氏。これって魔物だよね? なんでうちの城の地下に……!?」


 フラーシュさんが、石像鬼(ガーゴイル)の死骸を恐々と指差しながら言う。確かに、実家の地下にこんなのがいたらびっくりするか。


「はい…… 放射光もありましたし、魔物で間違いないと思います。警備機械人形(きかいにんぎょう)よりかなり強力な門番でしたけど、この場には色々と場違いですね……」


 この地下ダンジョンを作ったのは創造神なので、この門番を配置したのも、かの神はずだ。

 そして創造神の教えである聖教では、魔物は敵という事になっている。なのになぜ……?


「--はい。治りましたよ、タツヒトさん」


「っと…… いつもありがとうございます、ロスニアさん」


「どういたしまして。うふふ」


 微笑むロスニアさんに一瞬見惚れてしまう。そこへ、僕が吹き飛ばしてしまった前衛の三人も合流した。


「あ…… みんな大丈夫ですか!? すみません、咄嗟に吹き飛ばしてしまって……」


「いや、あぶにゃー所だったから助かったにゃ!」


「水魔法使いは文字通り絡め手も得意なのに…… 油断しましたわぁ」


「しかし、位階の割に妙に手強い魔物だったな…… この鎧が特殊なのだろうか? いや、それだけとは--」


 石像鬼(ガーゴイル)の死骸、頭が吹き飛んだ首元を覗き込んだヴァイオレット様が、目を見開いて動きを止めた。なんだ……?


「ヴァイオレット、どうしたでありますか?」


「ま、待てシャム! なんでも--」


 その制止は間に合わず、同じものを見たシャムまでもがびくりと体を硬直させた。

 二人の尋常でない様子に、全員が慌てて死骸の首元を覗き込んだ。


 死骸の首元、肉が焼けこげた断面からは血が流れ、まだうっすらと煙が立ち上っている。

 最初は二人が何に驚いているのか分からなかった。けれど、僕もやっとその異常に気づいた。断面から除く首の骨が、金属のような光沢を放っていたのだ。

 さらに観察すると、それはただの金属でもなかった。非常に微細は、緻密な電子回路を思わせる人工的な構造を持ってい他のだ。

 どう見ても自然のものじゃない、明らかな改造跡…… それにこの技術…… 


「--し、神経増強回路、それに化学合成器官を有する高強度金属骨格…… 骨格筋や臓器にも、改造の跡が見られるであります…… シャムと、同じであります……」


 首なし石像鬼(ガーゴイル)の前に膝を着き、呆然と言葉を紡ぐシャム。その姿に、僕も含めた全員の表情が強張った。


「この魔物には、シャムの体と同じ技術が…… 同じ、戦闘偏重の設計が見られるであります……

 なら、シャムも……? シャムもあんなふうに、人を襲うために……?」


「シャ、シャムちゃん! 違うよ…… あれは魔物で、シャムちゃんとは違う……! 同じなわけが無いよ!」


「シャム、落ち着くのだ……! 同じ技術が使われていただけだろう……!? 目的まで同じとは限らないはずだ……!」


 プルーナさんとヴァイオレット様がシャムの肩を揺らし、全員が口々に彼女を慮る言葉を掛ける。

 すると、彼女はハッとしたように顔を上げ、僕ら顔をゆっくりと見回した。


「みんな…… た、確かに、不確定な情報のみで判断すべきでは無いでありますね…… ありがとうであります。もう大丈夫。心配かけて、ごめんであります」


 そう言ってぎこちなく笑う彼女に、みんなそれ以上何も言う事ができなかった。






 それから僕らは、石像鬼(ガーゴイル)が守っていた通路の先へと進んだ。

 その突き当たりには頑丈そうな隔壁があり、脇にはお馴染みの読み取り装置もあった。しかし……


 ビーッ…… ビーッ……


「あ、あれ……? な、なんで……!?」


 フラーシュさんが何度装置に手をかざしても、エラー音がするだけで隔壁が動かないのだ。


「--フラーシュ、ちょっとシャムにもやらせて欲しいであります」


「シャム氏……? う、うん。でも、ここって王家の人しか--」


 --ガシュンッ……! ガァァァァ……


 しかし、シャムが背伸びして装置に手をかざした瞬間、隔壁はあっけなく開き始めた。


「あ、開いちゃった…… なんでぇ……? あたし、王族なのに……」


「やっぱり…… みんな、入るであります」


 硬い表情のシャムに続いて隔壁を潜ると、そこには既視感のある光景が広がっていた。

 部屋の中央に鎮座するのは、人間大の透明なカプセルが四つ。中身は空だけど、シャムが眠っていたものと酷似している。

 そしてその周囲には様々な装置や計器、コンソールらしきものが並んでいる。


「似てるね…… シャムが居た古代遺跡と」


「はいであります…… 少し、調べてみるであります」


 そう言ってコンソールを操作し始めたシャムだったけれど、彼女は数分もせずに手を止めてしまった。


「ダメでありますね…… すでに、全ての情報が消去されているであります……

 この容器の規格…… きっと中には、シャムと同型の機械人形(きかいにんぎょう)が入っていたはずであります…… 一体、今はどこに……」


 消え入るようなシャムの声に、部屋の中に沈黙が降りる。そんな中、周囲を観察していたキアニィさんが声を上げた。


「あら…… シャム。あの容器の下の方、何か書いてありますわよ?」


「……! み、見せて欲しいであります!」


 全員でカプセルの所に集まると、確かに商標のような感じで何かの文字が印字してあった。


「これ、古代語だね…… パリス、ビルティ…… 意味は、調停者(ちょうていしゃ)、かな……?」


「ちょうていしゃ……? どんな意味だにゃ?」


 フラーシュさんの翻訳に、ゼルさんが首を傾げた。


「えっと、争い事を仲裁する人…… 喧嘩している人達の仲直りを手伝ってくれる人、って感じですかね。

 --もしここに居たのがシャムと同型なら、シャムは、平和のために創られたのかもしれないね……」


「平和の、ため…… そうでありますか……」


 僕の言葉に、シャムは安堵したようにゆっくりと息を吐いた。


「--まぁ、あんまり気にしなくていいと思うけど」


「え…… な、なんででありますか!?」


 目を見開くシャムに、僕は言葉を続けた。


「だって、シャム自身が言ってくれてたじゃない。シャムは僕らの家族で、仲間で、それが一番大事だって。あれ、嬉しかったなぁ……

 さっきの魔物には僕もびっくりしたけど…… やっぱり、シャムがどう生まれたかよりも、どうしたいのか……

 今、僕らと一緒に居たいと思ってくれている事の方が、よっぽど大切だと思うんだよね」


「あ…… 確かに、言ったであります…… --あはっ…… あはは……! そうであります……! そうだったであります!」


 驚愕の表情から一転。シャムは花が咲くような笑顔で僕に飛びついてきた。

 嬉しくなって抱き返すと、他のみんなも僕ごとシャムを抱きしめてくれた。フラーシュさんもおずおずと抱擁に参加してくれている。


「タツヒト、みんな、ありがとうであります…… --では、当初の目的を果たすであります! みんな、部品の捜索を手伝って欲しいであります!」


 元気を取り戻したシャムの元、僕らは部屋の中を隈なく捜索した。

 すると、奥の方に部品庫のような部屋を見つけた。全員でそこをひっくり返すように探すと、いくつもの機械部品や生体部品の中に、それはあった。

 透明なカプセルに封入された、人の胴体部分の金属骨格標本…… (まさ)しく、機械人形(きかいにんぎょう)の胴体パーツだった。


遅くなりましたm(_ _)m

お読み頂きありがとうございました!

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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