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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
17章 叡智の方舟

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第433話 ガールズトーク


 全方位銃撃トラップの部屋以降、警備機械人形(きかいにんぎょう)達は、実弾銃と光学銃の両方を織り交ぜて襲撃してくる様になった。

 鉛玉と光線が入り混じった攻撃は、僕の風の防壁とフラーシュさんの光学防壁の双方を張れば防ぐ事ができる。

 でも、いちいちそんな事をやってたら魔力が持たないし、こっちからも攻撃できない。

 なので僕らは、身体強化を最大化した前衛組が突貫して敵を蹴散らすという、非常に脳筋な方法でダンジョン攻略を進めていた。


「ふぅー…… やっとこの階の資料庫に着きましたね」


 通路を抜けた先に広がったサーバールームのような光景に、僕はほっと息をついた。

 この禁書庫のダンジョンの地下六階以降は、広大な迷路区画を抜けた先に、こうした資料庫スペースが設けてある構造になっている。

 ここには次の階層に続く階段もある上に、敵が出現しない安全地帯でもあるのだ。


「ああ、中々大変な階層だった…… さて、もう時間的には夜だ。今日はここで野営にしよう」


 ヴァイオレット様の言葉に全員が頷き、テキパキと寝床と食事の用意を始めた。

 そしてみんなで食事を始めて暫し経った頃、口数も少なく何かを考え込んでいたフラーシュさんが口を開いた。


「--ねぇみんな。なんかここ、始祖様が言ってたより難易度高くない……? さっきの実弾銃の罠の部屋とか、もしタツヒト氏がいなかったら……」


「ええ…… 後衛は、全滅していたかも知れませんわねぇ。本来ならわたくしが未然に防ぐべきだったのに、情けない限りですわぁ……」


 キアニィさんが悔しそうな表情で俯く。彼女はこのパーティーの斥候なので、責任を感じてしまっているようだ。


「いやいや、あんなの気付きようが無いですよ…… フラーシュさん言うとおり、難易度が聞いてたより高い印象でしたし。ちょっと殺意が高すぎますよね。

 もしかしたら、レシュトゥ様も想定していないような、何か不測の事態が生じているのかも……」


「そ、そうかなぁ……? あたし、普段の行いが行いだから、始祖様から厄介払いされてもおかしく無いかなー、なんて……」


「うふふ、考えすぎですよ。レシュトゥ様がフラーシュさんに向ける眼差しは、慈愛に満ちたものでしたから」


「むむむ…… ロスニア氏がそう言うなら、そう、なのかなぁ……」


 僕らの言葉を受けて、フラーシュさんの不安げだった表情は幾分か和らいだようだった。

 安心して食事に戻ろうとした所で、今度はシャムが思い詰めた表情をしているのが目に入った。あれ、どうしたんだろう?


「--フラーシュ、提案があるであります。フラーシュは、ここで引き返すべきであります。

 もちろん安全な地下五階までシャム達が送るであります。あとは、シャム達で何とかして見せるであります……!」


 シャムの言葉に、僕らは驚きつつも少し納得してしまった。このダンジョン攻略の目的は、シャムの部品の回収だ。

 それが想定より危険だとわかったのなら、これ以上自分の事情にフラーシュさんを巻き込むわけには行かない。シャムはそう考えたのだろう。


「え…… あ、あたし…… もしかして邪魔だった……?」


 しかし、僕らはシャムの意図を理解できたけど、まだ付き合いの浅いフラーシュさんには通じなかった。

 彼女は驚愕の表情を浮かべると、その目からぽろぽろと涙を流し始めた。な、泣かせてしまった……!


「わ……!? いいい、いや! 違うであります! えっと、その、シャム達はいつもこんな感じで、命懸けになる事を覚悟しているであります!

 で、でも、フラーシュはそこまで想定していなかったはずで…… だから……! あわわ……」


 フラーシュさんの頭を高速で撫でながら、シャムは必死に弁明を繰り返した。するとフラーシュさんの顔に理解の色が浮かび、涙も徐々に止まっていった。

 二人を見守っていた僕らは、その様子にほっと安堵の息を吐いた。あ、焦ったぁ……


「そ、そういうこと……? よ、よかったぁ…… --ありがとう、シャム氏。でも、せっかくここまで来たし、あたしもついていくよ。その、ちょっとは役に立ててるみたいだし……」


「いやいや、ちょっとどころじゃないですよ。フラーシュさんが居てくれたら物凄く心強いです!」


「そ、そう? な、ならよかったよ……」


 僕の言葉に、フラーシュさんはふいと顔をそむけてしまった。

 あ、あれ……? もしかして、さっきのハイタッチ、やっぱり不味かっただろうか……?

 --フラーシュさんて、僕の地球世界のオタクな友達、秋山くんと何だか似てるんだよね。雰囲気とか、喋り方とか、眼鏡な所とか……

 多分そのせいで、僕は彼女に変な親近感を覚えてしまっているんだ。距離感を間違えてしまわないように気をつけないと……






***






 時刻は深夜。早番だったタツヒト達は床についており、今は穏やかな寝息を立てている。

 一方、遅番であるヴァイオレット、ゼル、プルーナ、フラーシュの四人は、タツヒトが出した小さな灯火を囲みながら話し込んでいた。


「ま、魔導国の地下街って、そんなにすごい場所なんだね…… へ、へぇー……」


「そうだにゃ。裸よりえろい格好のにいちゃん達が、通り中に何十人も並んでて、それが何階層も続いてるんだにゃ! フラーシュも一回行ってみるといいにゃ」


「と、通り中に、何十人も……! ゴクリッ……」


 ゼルの語る魔導国の様子を、フラーシュは顔を赤らめながら熱心に聞いている。

 一方プルーナとヴァイオレットは苦笑いしていた。


「えっと…… 名前通り、ちゃんと魔導教育も進んだ所でしたよ? その、確かに地下街もすごかったですけど……」


「ふふっ、彼女にとっては正に理想郷だったのだろう。 --ところでゼル。あそこの賭博場で君が何度無一文になったのか…… 覚えているだろうか?」


「そんにゃの、覚えているわけにゃいにゃ! でも、素寒貧に泣いているウチを、みんにゃが迎えに来てくれた事は覚えてるにゃ! いつもありがとうだにゃ!」


「ほぅ。回数は覚えていないが、感謝は忘れていない、と…… 不思議な事を言う女だな、君は」


 ヴァイオレットの言葉に穏やかな笑い声が起こり、会話が一瞬途切れる。

 フラーシュは、共に灯火を囲む仲間達に目をやりながら、とても穏やかな心持ちで微笑んだ。


 内向的で人見知りだった彼女は、始祖神の直系としての周囲からの敬いと期待に耐えられず、あの巨大な城の中でひっそりと隠れるように暮らしてきた。

 とある出来事をきっかけに、母である先代の女王を亡くしてからは、その傾向はより強くなっていた。

 しかし、これは彼女自身も驚いている事だが、タツヒト達とは不思議と楽しく過ごすことが出来ている。

 この国に対して完全なる部外者だからか、彼らはフラーシュを王女ではなく、ただの仲間として扱ってくれている。それが、彼女にとってとても心地よいのだ。


「みんな、よく眠ってるね……」


 フラーシュは、寝息を立てている仲間達の方へと視線を向けてそう呟いた。

 そして、毛布に包まり無防備な寝顔を晒しているタツヒトを目にした瞬間、彼女の心臓が大きく跳ねた。

 慌てて視線を戻し、今度は自身の手をじっと見つめる。今日、彼と触れ合った自身の手を。


 彼女がタツヒト以外に触れた事のある異性は、二百年以上前に亡くなってしまった彼女の父親だけだった。

 タツヒトの手に触れた事を思い出すと自然と顔が綻び、鼓動が早くなっていく…… フラーシュは、タツヒトに向ける自身の感情に気づき始めていた。


「おいフラーシュ、どうしたにゃ。ニヤニヤしながら耳の先まで真っ赤にして。さっきの話で興奮したのかにゃ?」


「ち、違うよ! ただ、その、こんな風にみんなと野営してお喋りするのって、すごく楽しいなぁって……

 --でもみんなは、シャム氏が治ったら、エルツェトに帰っちゃうんだよね……?」


 寂しげなフラーシュの言葉に、ヴァイオレット達はすぐに答えることが出来なかった。


「えっと、きっとまた遊びに来ますよ……! シャムちゃんが元の体に戻ったら、僕らも世界中を飛び回る必要が無くなりますし。

 --あ、そっか…… もうすぐ、もうすぐシャムちゃんが元の体に戻るんだ…… そうしたら……」


 急に赤面して黙り込んだプルーナを、フラーシュが怪訝な表情で見つめる。


「ね、ねぇ…… プルーナ氏、どうしちゃったの……?」


「んにゃあ……? --ああ! そういやそうだったにゃ。シャムが元の体に戻ったら、シャムとプルーナがタツヒトとヤルって話だったんだにゃ! そりゃ楽しみだよにゃあ?」


「ちょっ…… ゼルさん! 何でいっつも全部言っちゃうんですか!?」


「もがが?」


 顔をさらに赤くしたプルーナが、慌ててゼルの口を塞いだ。


「あ、そうなんだ…… --って、ええ!? タツヒト氏が、シャム氏とプルーナ氏と!? な、なんで!? タツヒト氏って、ヴァイオレット氏と付き合ってるんじゃないの!?」


「ほぅ…… フラーシュ、なぜそう思ったのだろうか?」


「だ、だって…… タツヒト氏、みんなと仲良くしてるけど、特にヴァイオレット氏と一番距離が近いし、視線を向ける回数も一番多いし……」


「そ、そうか…… それは何というか、面映いな…… まぁその、正解ではあるが完璧では無いな。

 彼は、君以外のこの場の全員と付き合っていると言えるし、何ならこの場に居ない何人かとも関係を持っているぞ?」


「へ……? う、うそ…… 本当にぃ……?」


 ヴァイオレットの言葉に、フラーシュは信じられない思いで再びタツヒトの方を見た。

 やはりあどけない寝顔だ。その可愛らしい顔で何人もの女に手を出している…… その様子を想像してしまい、彼女は背筋がぞくりとするような初めての感覚に襲われていた。


「本当だにゃ。あとついでに、ロスニアとキアニィもデキてるにゃ」


「えっ……!? あの二人、距離近いなーとは思ってたけど…… --あたし、まだまだエルツェトについての勉強が足りてなかったよ…… こんなの、下手な官能小説よりえっちだよぉ……」


 ゼルから知らされた更なる情報に、フラーシュはがっくりとその場に手をついてしまった。驚き疲れてしまったらしい。


「い、いえ、僕らの関係がエルツェトで一般的かというと、その……」


「ふふっ。プルーナの言うとおり、我々は少し変わった間柄だろうな。フラーシュ、すまなかった。少々刺激が強すぎたようだ…… 勧誘はまた今度にしておこう」


「勧誘……? なんのぉ……?」


「何、こっちの話さ…… ふふふ……」


 楽しげに笑うヴァイオレットを、フラーシュはただただ呆然と見上げた。


金曜分です。遅くなりましたm(_ _)m

お読み頂きありがとうございました!

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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