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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
17章 叡智の方舟

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第432話 禁書庫のダンジョン(3)


 数時間かけて下へ下へと降り続け、現在僕らは地下10階の位置まで来ていた。

 そして階を下るほどに、出没する警備機械人形(きかいにんぎょう)の装備は殺傷力の高いものへと変わっていった。

 最初は警棒や盾といった非殺傷気味のものだったのが、刀剣の類に変化し、先ほど襲ってきた群れはさらに殺意の高い装備を持っていた。


「いやー、さっきはびっくりしましたね…… フラーシュさんが居てくれて良かったです」


「ですね…… 僕の地魔法の防壁だと、展開に数秒ほど掛かってしまいますから」


 僕とプルーナさんの言葉に、フラーシュさんが硬い表情でこくこくと頷く。まだ先程の戦闘の緊張を引きずっているみたいだ。


「う、うん…… 咄嗟に使った曲光(フレクス・ルクス)が効いて良かったよ……

 所で、みんな本当に頑丈だよね。その辺の小緑鬼(ゴブリン)とかだったら、体が穴だらけになってそうな攻撃だったのに……」


 通路を進みながらみんなでちらりと後方を伺う。そこには、銃を持った警備機械人形(きかいにんぎょう)の残骸が数体分転がっていた。

 通路の曲がり角から突然現れた奴らは、一斉に僕らへ銃を向け、光線(リニア・ルクス)に似た攻撃を連射してきたのだ。

 僕ら前衛組は咄嗟に身体強化を最大化して後衛組を庇ったけど、光の速さで迫る実体の無い攻撃を捌くことが出来ずにいた。

 その時、フラーシュさんが光魔法で奴らの攻撃を逸らしてくれた事で、僕らは反撃に転じる事ができたのだ。


「あはは、鍛えてますから。結構痛かったですけど……」


「--タツヒトさんは、ご自身の頑丈さを過信しすぎです。それで毎回ボロボロになってしまうんですから……」


「うっ…… すみませんロスニアさん。いつも治療してくれて感謝してます」


「--ふふっ。はい。こちらこそ、いつも守ってくれてありがとうございますね」


 そう言ってにっこりと微笑んでくれるロスニアさんに、心がじんわりと温かくなる。

 この聖女を悲しませないためにも、被弾は最小限に留めるべきだろう。

 以降、遭遇する警備機械人形(きかいにんぎょう)は全て光学銃を装備したものとなり、迷路も複雑さを増していった。

 どうやら地下ダンジョンが本気を出し始めたようである。


「ふぅ…… 敵も手強くなってきましたけれど、通路もかなりややこしくなって来ましたわねぇ……

 シャム、わたくしはもう道順を把握しきれなくなって来たのですけれど……」


「キアニィ、大丈夫であります! シャムがちゃんと自己位置を把握しているであります! むむむ…… これまでの傾向から、きっとこっちで有ります! あ、ほら!」


 慎重に通路を曲がると、シャムが嬉しそうに声をあげた。少し先に広間が見えたのである。

 どうやらこの地下ダンジョンでは、正解の道への経路には広間が設置してあるようなのだ。

 一方で、広間には必ず大量の警備機械人形(きかいにんぎょう)が詰めている。僕らは慎重にそこへ足を踏み入れた。


「--あれ、仕掛けて来ませんね……?」


 しかし、広間の中程まで進んでも何も起きなかった。いつもならもう壁から敵がわんさか現れている頃なのだけど……


「油断してはいけませんわぁ…… 罠に緩急をつけるのは基本--」


 バシャシャッ!


 斥候であるキアニィさんの台詞を遮り、広間の壁と天井の至る所から何かが飛び出した。

 飛び出して来のは、数え切れないほどの銃座だった。そしてそれらの全ての銃口は、僕らに向けられている。


「……!? 円陣防御!」


地よ(テーラ)!』


『フ、曲光(フレクス・ルクス)!』


 僕らは瞬時に円陣を組み、プルーナさんが地属性、フラーシュさんが光属性の防御魔法をそれぞれ発動させた。金属質の床が防壁の形に競り上がり始め、周囲の景色が僅かに歪む。

 数秒にも満たない時間の中、防御が間に合いそうだという安堵を感じる一方で、僕は周囲を取り囲む銃座に僅かな違和感を見つけていた。

 あれ、なんだか銃の形が違う気が…… まさか……!?

 僕は咄嗟に雷槍天叢雲らいそう・あめのむらくもを掲げると、アラク様に習った魔法の一つを発動させた。


八重垣(やえがき)!』


 ビュゴォッ!!

 僕らを半球状に覆うように、凄まじい破壊力を秘めた暴風の結界が生成された。アラク様の眷属、邪神と呼ばれた強大な魔物がかつて操った、強力無比な風の防御魔法だ。

 そして結界の発動直後、すべての銃座が一斉に火を吹いた。


 ガガガガガガッ!!


 全方位から僕らに殺到したのは、光ではなく鉛玉の雨。人を殺すのに十二分な威力を持ったそれらは、轟音を上げる暴風結界によりすべて弾き飛ばされた。


「えっ…… 何これ!? 光じゃないの!?」


「実弾です! フラーシュさんは光魔法で銃座を! この障壁は透過できるはずです! 早く……! 長くは持ちません!」


「わ、わかった!」


 フラーシュさんは曲光(フレクス・ルクス)を解除すると、周囲を見回すようにその場でくるりと回転した。

 そして両手を頭上に掲げると、その手から強烈な白い光が溢れ始める。


『--虹線(セプテム・ルクス)!』


 強力な気配と共に発動したのは、まるで至近距離で弾けた花火の様な魔法だった。


 ジュジュジュゥンッ!!


 彼女の手から放たれた、百を越える美しい七色の光の束。それらは僕らを取り囲む銃座群に殺到すると、その(ことごと)くを一瞬にして蒸発させてしまった。

 銃撃の音が止み、周囲には暴風結界の音のみが響く。


「--ぶはぁっ! あ、危なかった……! --フラーシュさん、助かりました! 何ですか今の魔法……! めちゃくちゃ格好良かったですよ!」


 結界を解いた僕は、ピンチを乗り切ったハイテンションのままフラーシュさん向かって手を掲げた。


「へ……? わわっ……」


 ぱんっ。


 彼女は戸惑いつつも、僕に応じて小さくハイタッチしてくれた。あ、やべ。王女様相手にちょっと気安かったかも……


「フラーシュすげーにゃ! 流石にさっきの数は捌ききれにゃかったにゃ!」


「うむ、凄まじい殲滅力と精度だった! 百以上の的に一瞬で照準するとは……」


 ゼルさんとヴァイオレット様の賞賛に、彼女はニヨニヨとしながら視線を逸らす。すっごい嬉しそう。


「え、えへへ…… ま、まぁね。これくらいはね? タツヒト氏の風の障壁も凄かったよ……!

 それと、よく銃の違いに気づいたね。さっきの、確か火薬ってやつを使った銃でしょ? 前に始祖様から聞いたことがあるよ」


「はい。警備機械人形(きかいにんぎょう)が持ってた光学銃と形が違ったので。間に合ってよかったです……」


 ギギギギギッ……


 みんなで生き残ったことを喜んでいると、壁と天井の壊れた銃座群がガタつきながら中へ引っ込み始めた。


 「げっ…… 急いでここを離れましょう! また同じ事をやられたら堪りません……!」


 「「応!」」


 おかわりの気配を感じた僕らは、足早に広間を後にした。

 しかし性格の悪い罠だった。直前で光学銃を見せておいて、いきなり実弾銃の罠で仕留めようとしてくるなんて……

 このダンジョン、始祖神様が言ってたよりだいぶ難易度が高くないか……?


お読み頂きありがとうございました!

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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