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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第382話 空の民の村(1)

大変遅くなりました、木曜分ですm(_ _)m

そして重ねてすみません。次回更新は、金曜分を飛ばして月曜とさせて頂きます。。。


 飛び去ったティルヒルさんを追うように、僕らは東へと歩みを進めた。

 目の前に横たわる雄大な峡谷は、見るだけなら素晴らしいだけど渡るのはかなりしんどかった。

 谷底まで滑落しないように慎重に降りて、谷底の急流をプルーナさんの橋で渡り、また踏み外さないように谷を上り切ると、もう日が落ちていた。

 その日はそこでそのまま野営し、翌朝周囲の状況を確認した僕らは、戦士型が魔法型を担いで走る高速モードで移動し始めた。

 

 この大陸に来てからは魔物が馬鹿みたいに多かったので、隙が大きいこの高速移動モードは使えなかった。

 けれどあの深すぎる渓谷が良い障壁になっているのか、今は目に見えて魔物の数が減っている。ここはもうおそらくナパと呼ばれる土地なんだろう。

 地獄のような魔獣大陸の中にあってこれだけ魔物が少ないなら、ナパに人類が定住するのも頷ける話だ。


 ただ、ナパの中でも全く絡まれない訳には行かず、お昼のちょっと前くらいに魔物の襲撃を受けた。

 なだらかな丘陵の向こう側から現れたのは、可愛いウサギ型の魔物の大群だった。ただしサイズは中型犬程もあった。

 長大な耳が刃物のようになっていて、低い姿勢で足を切り裂くように突進してくるので結構ビビった。

 そんなキュートでアグレッシブな兎達を範囲魔法攻撃で蹴散らし、捌いて乾燥野菜なんかと煮込んでシチューを作っていると、南東の空からお馴染みの翼影が僕らの元に降り立った。


「ティルヒルさん! こんにちは、ちょうどお昼の準備をしていたところですよ」


「にゃはは。おみゃー、さては昼時を狙ってきてるにゃ?」


 ゼルさんの指摘に、ティルヒルさんが少し恥ずかしそうに笑う。


「えへへ、バレてた? ねぇねぇ! 今煮込んでるそれって、もしかして切り裂き兎(ディール・ガー)? あーし好きなんだよねー!

 --ってそうじゃなかった。大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)と君たちのこと、村のみんなに伝えてきたよ!

 ナーツィリドおばーちゃん…… あ、今の、あーしの村の長老さんなんだけど、おばーちゃんが君達に会いたいから、村に来てくれないかだって!」


「それはよかった……! では、昼食を摂ったら直ぐに村に向かわせてもらおう。ティルヒル殿も是非一緒に食べていってくれ」


「やた! ヴィーちゃんありがとー!」


 ヴァイオレット様の招待に、ティルヒルさんが嬉しそうに僕らの輪の中に入る。

 すると、彼女の隣になったロスニアさんが少し心配げに声を掛けた。


「あの、ティルヒルさん。あれから体調は大丈夫ですか? 魔物の咬傷は病気の原因になりやすいので…… 熱など出ていませんか?」


「うん、だいじょぶ! 一晩眠ったらこの通り! ニアニア、ほんとありがとねー!」


 にこにこ笑顔のティルヒルさんが、ごく自然な動作でロスニアさんをハグする。


「い、いえ! その、聖職者として当然の事をしたまでですので……」


 ハグされた方のロスニアさんは、顔をほんのり赤らめながらも、ちらちらとキアニィさんの方を気にしている。


「うふふ、仲がよろしくて大変結構ですわぁ……」


 キアニィさんはというと、穏やかに微笑みながらも目は笑っていなかった。

 色々と状況は違うけれど、なんだかロスニアさんに対する親近感のようなものが湧き上がってくるぞ。

 そんなちょっとスリリングな昼食を終えた後、結構量を召し上がったにも関わらず、やはりティルヒルさんは優雅に飛び上がった。

 村に向かって低空低速で飛行してくれる彼女に先導してもらい、僕らは今度は北東の方に向かって走った。


 本来の目的地である、シャムの部品があるはずの古代遺跡。その場所はここから南東の山岳地帯だ。

 僕らが今向かっているのはその場所からは遠ざかる方向だけど、今はこっちの方が優先だろう。

 あの大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)相手に逃げるのか、それとも立ち向かうのか。ナパに住む人達がどんな選択をするにせよ、対応は早いに越したことは無いはずなのだ。


 時折襲ってくる魔物を蹴散らしながら進んでいくと、陽が傾いて辺りがオレンジ色に染まり始めた。

 周囲の地形も変化し、起伏に富んでいた地面はまた平坦になり、遠くの方に巨大な岩棚や、円柱のような整った形の岩塊が見え始めた。

 このダイナミックで奇妙な景色…… これもテレビか何かで見たことがある。確かモニュメントバレーってやつだ。

 景色に感動しながらさらに走ると、テレビでも見たことのないような奇怪な形の岩塊が見え始めた。

 シルエットは太った砂時計のようで、円柱の上端と下端が少しでっぱっていて、真ん中がややくびれている。

 そんなひどく人工的で巨大な岩山が、広大な荒野の中にいくつも点在しているのだ。

 そして僕らの前を飛ぶ翼影(よくえい)は、その中でも一際大きいものに進路をとっているように見える。


「タツヒトさん! ティルヒルさん、あの奇妙な形の岩山に向かって飛んでいませんか!?」


 高速移動中に付き僕の背中に乗車しているプルーナさんが、走行音や風切音に負けない大きな声を出しながら岩山を指した。


「みたいだね! 村らしいものはまだ見えないけど、あの岩山の影とかなのかな!?」


 僕らの疑問は晴れないままティルヒルさんは徐々に高度を落とし、その岩山の麓に着地してしまった。少し遅れて僕らも彼女の側で足を止めた。

 夕陽に色づく東京タワー程に巨大な岩塊を、全員がほへーという感じで見上げる。特にお子様組は目を輝かせている。

 

「大きいであります……! 高さは300メティモル、直径は最大でその1.5倍はあるであります! 自然にできたとは思えない形状でありますね!」


「んふふ…… シャムシャム正解! この岩山は元々切り株みたいな形だったんだけど、あーしの遠い遠いご先祖さまの代からちょっとずつ盛っていって、今の大きさになったらしーよ!」


「え…… そ、それって、ただの岩山を、土魔法で何世代もかけて拡張していったってことですか!?」


 プルーナさんが辺りを見回しながら目を見開く。

 確かに、この岩山の周囲は堀のようになだらかに窪んでいる。これ、周りの土を使って岩山を育てたってことなのか…… なんとも気の遠くなるような話だ。


「プルプルも正解! やっぱ、土の呪術の使い手にはわかるんだねー」


「すごいですけど…… もしかして、ティルヒルさんの村ってこの上にあるんですか……!? 流石にここを登るのは……」


「あはは、だいじょぶ。こっちこっち! よい…… しょ!」


 岩壁の根元のやや窪んだ場所。ティルヒルさんがそこに手をかけると、岩壁の一部が横にスライドし、上へと続く石造りの階段が現れた。


「「おぉ……!」」


「どうよ? かっこいいっしょ? 村には只人の人もいるからさー、こーゆーのが必要って訳。着いてきて、こっち!」


 自慢の村を披露できてご機嫌なティルヒルさんに続き、大きな円弧を描く螺旋階段を全員で登っていく。

 円の外側には小さな採光用の窓が等間隔に空いているので、薄暗いけどなんとか足元は見える。

 そして数十分後、魔法型のメンバーが息を切らし始め陽も落ちた頃、僕らは漸く階段を登り切った。


「「……!?」」


 そして、全員が驚きに思わず足を止めてしまった。篝火が焚かれた階段の出口の前には、沢山の人達が集まっていたのだ。

 加えてその人々の外見。只人の男女がいるのは予想していたけれど、人だかりの三分の一程を占める鳥人族(ちょうじんぞく)の人達は、ティルヒルさんとはかなり違った見た目をしている。

 両腕が翼になっていて鳥脚なのは変わらないのだけれど、髪は白髪、翼は茶色、足と唇は黄色なのだ。この配色…… 多分白頭鷲か何かの種族だろう。

 服装も、ティルヒルさんのシンプルで洗練された物と雰囲気が異なり、幾何学模様の刻まれた民族衣装風の装いだ。

 僕らの混乱をよそに、ティルヒルさんは人々に嬉しそうに声を掛ける。


「みんな、待っててくれたんだ! ありー。 えーっと…… 居た! ナーツィリドおばーちゃん! ほら。連れてきたよ、『白の狩人』の人達!」


 彼女の声に、人々の中央にいたご高齢の鳥人族(ちょうじんぞく)の人が前に出た。

 片目はひどい傷で潰れていて、しかし残った目は鋭い眼光を放ち、顔には深い皺が刻まれている。年齢とともに積み重なったような威厳に、僕らは自然と頭を下げていた。


「ご苦労、勇者ティルヒルよ…… そしてよくぞ参った。外なる世界の戦士達。お主達を歓迎しよう」


 長老さんらしき彼女のしわがれ声が、まるで歌うように朗々と響いた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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