第380話 黒翼の天使(2)
大変遅くなりました。火曜分ですm(_ _)m
「あ、えっと…… こんにちはティルヒルさん。僕らは『白の狩人』と言う冒険者パーティーでして、僕はリーダーのタツヒトと言います。初めまして」
目の前に降り立った天使のような黒ギャル、ティルヒルさんに何とかそう答える。
彼女からマシンガンのように質問を浴びさられた気がするけど、色々と衝撃がすごくて名乗るだけで精一杯だったのだ。
「ぼうけんしゃ……? え、てかその声と名前…… 君もしかして男子!? ごっめ、完全に女子だと思ってた……」
僕の声を聞いた途端、うっそー!? といった感じで口に両手を当ててリアクションするティルヒルさん。
そしてその直後には申し訳なさそうな表情で体を縮こませる。 --どうやらものすごく感情表現が豊かな人のようだ。
「あー、いえ。よく間違われるのでお気になさらずに」
「まじ? ありー。君、綺麗な顔してるもんね…… あ、それでタツヒト君…… 君も後ろの娘たちもすごく強そうだけど、この先に何か用事でもある感じ……?」
そう改めて問う彼女の表情はとてもにこやかだ。しかし目の奥には強い決意が見え、立ち姿には全く隙が無い。
--これはあれだ。この世界で幾度となく対峙してきた、何かを命懸けで守る人の目だ。
彼女の僅かな雰囲気の変化に、みんなの緊張感が高まるのを背後に感じる。ここは慎重に答えなければ。
「はい、この先にある山岳地帯に用がありまして…… できれば、是非ティルヒルさんの村にもご挨拶させて頂きたいのですが、もちろんご迷惑でしたら近寄りま--」
キュルルッ……
張り詰めたその場の空気が、可愛らしいお腹の音で弛緩する。
音の主、ティルヒルさんは、お腹を抑えながら恥ずかしそうに顔を赤らめている。本当に表情がコロコロ変わる人だ。
「お腹が空いているのでありますか?」
「あ、あはははは…… うん。今日はちょとお昼持って来忘れちゃって…… なんかめっちゃいい匂いするし……」
シャムの問いかけに、ティルヒルさんは竈門にかかった鍋をチラチラ見ながらそう答える。
うん、やっぱり悪い人には見えないな。ちらりと後ろを振り返ると、みんなもちょっと苦笑い気味に頷いてくれた。
「あの、良ければ一緒に食べませんか? どうせ僕らだけじゃ食べきれませんし、色々とお話したいこともあるので」
「ほんと!? 助かるー! もうお腹減って墜落しそうだったんだよねー!」
「あ、じゃあこちらにお座り下さい。食器も新しいの作らないと……」
プルーナさんが手を振ると地面から椅子が生え、彼女の手の中に食器類などが一瞬で生成された。相変わらず上手い。
僕はプルーナさんからお皿などを受け取ると、早速ティルヒルさんの分の料理を作り始めた。
その様子を見ていたティルヒルさんがまた目を丸くする。
「わっ、すごーい! こんなに早くて綺麗な土の呪術、初めて見た!」
「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます」
「ふふん。プルーナは土魔法の天才なのであります!」
そうして僕が料理を準備する間、全員で情報交換をする事になった。
まずティルヒルさんの住むアゥル村だけど、やはりこの先のナパと呼ばれる場所にある村の一つだそうだ。
ナパには、彼女のようなアツァー族の他に、ナアズィ族という土竜人族っぽい種族も住んでいるのだとか。
まだ警戒感があるのか、村の詳しい場所や特徴などは教えてもらえなかったけれど、彼女は村の戦士長的な立場にあるらしい。
歳は僕の一個上くらいだそうけど、責任ある立場の人のようだ。僕らとも、日課の見回り兼散歩の最中に遭遇したのだとか。
あと、最初は装飾品か何かだと思ったのだけれど、彼女はその両腰に、1mに届きそうな大きなブーメランのようなもの下げている。体の前面にも手のひらサイズのブーメランが幾つも装備されている。
なるほど。風属性の万能型が使うのにものすごく相性の良さそうな武装だ。
ついでに聞いてみると、世界的組織である冒険者組合、魔導士協会、聖教会のどれもこの地には存在しておらず、国という概念もなさそうだった。
これには特にロスニアさんが衝撃を受けていた。この大陸以外だと、教会ってどんな小さな村にもあるからなぁ。
次に僕らの方からは軽い自己紹介と、西の海を経て外の大陸からここへ来た事などを伝えさせてもらった。
ティルヒルさんは、それに対してもやはりいいリアクションを見せてくれた。
どうやら普段は遠出してもこの辺までで、役目もあってあまり村から離れられないらしい。
西の海も一度見ただけで、外の世界の存在も村の古老から話だけ聞いていたという感じだった。やっぱり、この大陸は外界から隔絶されて久しいようだ。
「うっま……! このお肉ちょー美味しい! めっちゃ柔らかいし、なんかいい匂い!」
「ふふっ、そうだろう。タツヒトの料理は世界で一番美味しいのだ」
「ヴァイオレット様…… 待って下さい。今お替わりを焼きます」
「ヴィーちゃん…… それ、マジかも。この汁物も絶品だし! あ、ゼルにゃー。そこのカンパン取って!」
「にゃはは! ティルヒルおみゃー、一瞬で馴染みすぎだにゃ。ほれ」
「あ、こらゼル、投げないの! すみません、ティルヒルさん」
「あはは、いーってニアニア。でもいーなーみんな。こんなに美味しいタツヒト君の料理を、いつでも食べさせてもらえるんでしょ?」
「うふふ、そうですわねぇ。わたくしなんて、彼の料理に釣られて仲間になりましたから」
「えー! キーちゃん胃袋に支配されてんじゃん! でも、そういう生き方っていいよねー」
そして僕が料理を提供する頃には、ティルヒルさんはこんな感じで既にみんなと打ち解けてしまっていた。
すごい…… ゼルさん並みのコミュ力だ。さすがギャル。
ちなみに、他のみんなは彼女から可愛いあだ名を貰っていたけど、なぜか僕だけタツヒト君呼びだ。ちょっとだけ残念。
さておき、楽しい事ばかりを話しているわけには行かない。彼女が満足そうに食事を終えたところで、僕は重い話題を切り出した。
僕らが遭遇した大陸茸樹怪の事だ。奴がこのまま勢力を伸ばし続けるとしたら、彼女の村も無関係ではいられない筈だ。
話を聞いた彼女は、驚愕と恐怖に表情を強張らせ、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「ちょっ…… それマジ……!? そんなのちょーやばいじゃん!」
「ええ、マジでやばいです…… シャムの計算によると、奴の侵攻速度なら数ヶ月から一年ほどでナパに到達するそうです。対策が必要でしょう」
「だよねー…… ちょっとあーしも見て来ていい? こっから北西にずっと行けば居るんでしょ?
その大陸茸樹怪を確認したらあーしもすぐに引き返すから、君たちはこのまま南東に進んでて。
この先に大きな渓谷があるんだけど、多分そのへんでまた合流できるっしょ」
「わかりました。 --あの、本当に気をつけて下さいね。奴の触手は素早いですし、射程も、えっと、人の身長の500倍くらいありました」
「え、こっわ。りょーかい、ありがと。でも、あーしも結構強いから心配しないで。それじゃ!」
ティルヒルさんは最後に笑顔で僕らに手を振ると、現れた時と同じように優雅に飛び立ち、凄まじい速度で北西の空に消えていった。
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