第378話 荒野を征く(3)
めちゃくちゃ遅くなりました。先週の金曜分ですm(_ _)m
ちょっと短めです。
野盗の二人からそれぞれ話を聞くと、彼女達はマーイー族という放浪部族らしい。
元々は狩猟や略奪で生きていたらしいけれど、魔物と魔窟が激増したことでそれは困難となり、現在は魔窟に寄生するように暮らしているそうだ。
彼女達には長年の経験の蓄積があって、うまく魔窟の成長を止めて管理する術を持っていた。
似たような事は、有用な魔窟から安定的に資源を得るために他の大陸でも行われているけれど、彼女達の手法はそれよりもさらに洗練されているように思えた。
確かに低階層の魔窟なら寄ってくる魔物も弱いので、この大陸の環境なら外よりむしろ安全なのかも。
今はたまたま魔窟内の魔物が減っていて、自分達でも狩れそうな魔物を探して外に出てきたところで僕らを見つけたそうだ。お互い運が悪かったらしい。
朗報としては、僕らの向かう先にもナパと呼ばれる人が住む土地があるらしい。助かった…… 交渉次第で食料や水を分けてもらえるだろう。
因みに、彼女達は素行が悪くてそこには入れてもらえなかったのだとか。さもありなん。
「も、もういいだろ! 放してくれ!」
「あんたらには二度と近づかねぇよぉ!」
涙と鼻水で顔を汚しながら懇願する野盗達に、僕らは顔を見合わせて頷いた。
野盗として突き出す先も無いから約束通り解放しよう。有益な情報をくれたしね。おっと、一応大陸茸樹怪の事も伝えた方がいいか……
そう思ってプルーナさんに拘束の解除をお願いしようとしたところで、野盗の一人がカッと目を見開いた。
「お、おい! ****だ! 囲まれちまってるじゃねぇか……! は、早く……! 早く外してくれ!」
「え…… 何がいるって?」
彼女の視線の先、背後を振り返ってみたけど、月明かりに照らされた魔窟の入り口がポツポツと荒野に佇んでいるだけだった。
なんだ、何も居ないじゃないか。そう言いかけ、さっき感じた違和感を思い出した。あれ…… 魔窟の入り口、さっきよりさらに増えてないか……!?
「馬鹿野郎! 岩帯獣だ! いいからさっさと--」
ゴトリ。
野盗の絶叫に被さるように、岩の転がるような音が荒野に響いた。
「……! 円陣を組んで周囲を警戒!」
「「応!!」」
僕の声にみんなが即座に陣形を組む。視線を水平に走らせると、最初一つだった音が次第に増え、周り中から聞こえ始めた。
さらに、魔窟の入り口だと思っていたいくつもの影がゆっくりと形を変えていく。盛り土のようだった形状が変形し、綺麗な球形になっていくのだ。
音が止んだ時、僕らは数十の岩の球体に取り囲まれていた。その大きさは直径2m程。辺りにはいつの間にか濃密な殺気が満ちている。
「こいつら…… 擬態してたのか……!? プルーナさん! 彼女達の拘束の解除を!」
「は、はい!」
彼女の返事と共に野盗の拘束が解除され、二人が一斉に走り出した。
「ひぃぃっ……!」
「あっ…… 待って、今離れたら……!」
「ちょっと! お仲間を一人お忘れでしてよ!?」
僕とキアニィさんの静止を無視し、野盗達が走り去っていく。くそっ、失敗した……!
それを合図にしたかのように、岩の球体、岩帯獣達が一斉に転がり始めた。
最初は歩くほどだった速度は一気に加速、轟音を響かせ、土埃を巻き上げながら僕らに殺到する。
ゴォォォォッ!!
四方八方から迫る大質量かつ高速の岩塊。少し離れた位置には僕らが気絶させた野盗が一人。仕方ない……!
「迎え撃ちます! 『爆炎弾!』」
ドンッ!
閃光と爆音。先頭を転がっていた岩帯獣に僕が放った火球が直撃し、側を走っていた数体を巻き込んで吹き飛ぶ。
焼け焦げで地面に転がったのは、球体形態を強制解除されたアルマジロのような魔物だった。さすが魔獣大陸。初めてみる魔物の多いこと。
それはそれとして…… 数が多い!
「防壁を張ります! 『地よ!』」
プルーナさんが地面から分厚い壁を僕らの四方に隆起させ始めた。しかし。
ガガガッ!!
壁が腰丈程になった段階で岩帯獣が殺到、その何割かは弾き返されたり軌道を逸らされたりしたけど、大部分は飛び越えてこちらへ向かってきた。
「だめ…… 間に合いません!」
「いや、よくやった! ふん!」
迫り来る岩帯獣に、前に出たヴァイオレット様が斧槍を振るう。
バゴゴォッ!
石片と血を撒き散らしながら数体がまとめて吹き飛ばされる。彼女の気合いの入った一撃を受けて原形を留めているなんて、よほど頑丈なのだろう。
それを横目で見ながら、僕は爆炎弾を連発し、防壁の構築から迎撃に切り替えたプルーナさんが岩塊を打ち出す。
そうして数秒ほどは、次々に殺到してくる岩帯獣を全員でなんとか食い止めていた。しかし、処理速度が徐々に追いつかなくなっていく。
--ゴォォォォッ……!
遠くから響く嫌な音に目を向けると、月明かりの中を岩の球体の大群がこちらに向かってきているのが見えた。
なんだあの数……!? 駄目だ、とても迎撃が間に合わない……!
視線を周囲に走らせると、気絶した野党はまだ目を覚ましておらず、逃げ出した二人の野盗はちょうどプルーナさんの防壁を乗り越えるところだった。
--やむを得ない。
「地下へ退避します! プルーナさん、入り口を!」
「は、はい! --開けました! 中へ!」
円陣の中央付近に開いた穴に、みんなが入っていく。そんな中ロスニアさんが叫ぶ。
「ま、待って下さい! まだマーイー族の方が--」
「諦めるにゃロスニア! 潰されちまうにゃ!」
ゼルさんが無理やり彼女を地下へと引き摺り込み、みんなが入ったのを確認して最後に僕も穴へと向かう。
最後に見えた地上の光景は、逃げた野盗二人に殺到する岩帯獣の大群だった。
僕はそれから目を逸らすように地下へと滑り込んだ。
「閉めます!」
プルーナさんが入り口を閉じた後、すぐ側まで来ていた岩帯獣が上を通ったのだろう、シェルターの中に轟音と振動が響いた。
その後も頭上からは、獲物を執拗かつ丁寧に轢き殺すかのような轟音が響き続けた。
音が止んだ後も迂闊に動けず、時間が経ってからようやく恐る恐る地上へ出てみると、そこにはもう誰もいなかった。
生きている者は勿論、野盗の遺体や岩帯獣の死体すらなく、ただ血の海だけが広がっていた。
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