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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第376話 荒野を征く(1)

大変遅くなりました。水曜分ですm(_ _)m


2025年4月25日 話数がずれていたので修正


 地平線を覆いつくす広大な粘菌の足場に、巨大茸の群れが数えきれないほど生えている。

 そんな規格外すぎる化け物であるそいつは、移動そのものはやはり徒歩よりも遅いのだけれど、茸の触手を伸ばす速度は異様に速い。僕らは、その追い縋る無数の触手から必死に逃げた。

 そのまま数十秒程走り続けた所で、奴の触手はようやく停止してずるずると本体の方に引っ込み始めた。

 どうやら射程の限界を越えたようだ。念の為そこからさらに倍以上の距離を走った段階で、僕らはやっと足を止めた。

 5kmほどは離れているはずなのに、地平線の端から端までを蠢く巨大茸群が埋め尽くされている。悪夢のような光景だ。


「はぁっ、はぁっ…… なんとか、逃げ切りましたね…… この辺に魔物や動物がいなかった原因が分かりました…… --キアニィさん。あの巨大茸群、あれに似てますよね?」


「ふぅ、ふぅ…… ええ。以前帝国で遭遇した群体樹怪(クロニアトレント)ですわね?

 樹怪(トレント)の生態は多種多様…… 茸型の亜種も当然存在しますわぁ。でもあの途方もない大きさは、群体というより巨大な津波のようでしたわね……」


「高さは数mから数十m、面積は計測不能、質量も推定不能であります…… 魔物の生態は驚愕に満ちているでありますが、今日ほどびっくりしたのは初めてであります……!」


 群体樹怪(クロニアトレント)とは、文字通り何体もの樹怪(トレント)が根で繋がった群体型の魔物だ。

 僕らとキアニィさんがまだ敵同士だった頃に遭遇して、共闘してなんとか倒し切ったのだ。

 その時の『白の狩人』は、僕、ヴァイオレット様、シャムの三人パーティーだった。


「--みんな、すまない。我々の生命線である物資を、まさかこんな旅の序盤で失ってしまうとは…… 一生の不覚だ……!」


 沈黙していたヴァイオレット様が、悲痛な表情で僕らに頭を下げた。

 ヴァイオレット様が運んでいた荷車は、今やあの巨大茸群の下敷きだ。回収は不可能だろう。


「いえ、誰だってあんなの対処のしようがありませんよ。皮帯を切っちゃったのは僕ですし…… それより、怪我などしていませんか?」


「タツヒト…… あぁ、君のおかげで無傷だ。あの判断が無ければ、私はあのままあれに飲み込まれていただろう。ありがとう……」


「はい…… 本当に、無事で良かったです」


 僕はヴァイオレット様の腕にそっと触れながらそう言った。しかし、彼女の表情はまだ優れない。

 この方めちゃくちゃ責任感強いからなぁ。あんまり気に病まないで欲しいけど……


「にゃ、にゃあ。帰り道はあのデカくて気持ち悪いやつに塞がれちまって、その…… 水も食い物も大分減っちまったにゃ。これから、どうするにゃ……?」


「そうですね…… 残った水と食料などは今背負っている分だけ。およそ一週間分くらいです。

 そして、目的地との往復と探索には二ヶ月程度かかる想定でした。今の状況でこの厳しい環境の中をこのまま進むのは……」


 ゼルさんが少しヴァイオレット様の方を気にしながらみんなに問いかけ、ロスニアさんが言外に撤退を提案する。

 うーん。確かに可能なら撤退したい所だけど……

 

「プルーナさん。例えばプルーナさんの土魔法で、地下を掘って転移魔法陣の部屋まで引き返すことはできますか?」


「えっと、その、かなり難しいと思います…… 遺跡の方角を見失わずに掘り進めるのが困難ですし、あの質量の下に地下道を作るのは……」


「そっか、崩落が怖いですね…… というか、僕らが出てきた転移魔法陣も、すでに奴の重さでぺしゃんこになってる可能性があるのか……

 --わかりました。戻れないなら進みましょう。幸い、このまま奴から逃げる方向に向かえば目的地に辿り着きます。

 問題はまず水と食料ですね。先に進めば奴から逃げた魔物や動物達がいる筈なので、これは何とかなると思います。

 それから帰還の手段ですが、南下を続ければそのまま西ゴンド大陸に渡ることが出来るはずです。

 あの大陸の北側、コメルケル会長の町の近くにも転移魔法陣があるので、時間はかかりますがそこから帰ることはできます。どうでしょう……?」


 僕の提案の困難さを想像してか、みんなが渋い表情になった。

 しかし他に案も思いつかなかったのだろう。最後には全員が頷いてくれた。


「ありがとうございます。そしたらシャム、僕らの今の位置ってわかるかな?」


「もちろんであります! 事前の地理情報と、時刻と太陽の位置から現在地を推定済みであります!」


「よかった、いつも助かるよ。 --よし、それじゃあ行きましょう!」


「「応!!」」






 ***





 遥か南東の山岳地帯を目指して進み始め、今日でもう三日目だ。

 現在の時刻は夜。広大な荒野でそのまま野営するのは酷く目立つので、今はプルーナさん印の地下シェルターの中で休んでいる。

 広さはみんなが余裕を持って寝転べるほどで、高さがあまり無いので若干の圧迫感はある。でも、一晩過ごすには十分すぎる。

 灯火(ルクス・イグニス)が照らし出すみんなの表情は、疲労困憊といった感じで口数も少ない。

 貴重な水で淹れた食後の珈琲をひと啜りすると、芳醇な香りが鼻を抜け、コク深い味わいが口いっぱいに広がる。

 疲れているせいだろうか、異様に美味しく感じる。


「--魔物の数が多いとは知識では知っていましたけど、実際に体験して見ると多いなんてもんじゃ無いですね……」


 魔獣大陸で最初に遭遇したあの茸の化け物。僕らはそれを、この大陸を飲み込んでしまいそうな様子から大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)と名付けた。

 そして元々全体的に魔物の多いこの大陸だけど、奴に追い立てられた西部の魔物が合流したことで、この辺の魔物の生息密度はえらいことになっているようだ。

 大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)から離れるほど魔物と遭遇する頻度が上昇し、この辺まで来ると本当に数分おきに戦闘があった程だ。そのせいで移動速度も思うように出ない。

 夜行性の魔物を警戒して小声で呟いた僕に、ヴァイオレット様が億劫そうに頷く。


「ああ。そして位階の水準も高い。緑鋼級の手強い魔物が普通に出てくるし、日に一度は青鏡級の魔物に遭遇する。まるで成熟魔窟の深層のようだ。

 今日戦った羊の魔物など、年月を経た魔窟の(ぬし)であってもおかしくない強さだった……」


「確かに、今の私達でなければとても無理な旅ですわねぇ…… でも、タツヒト君の予想通り食料には困りませんわぁ。この羊も中々の美味ですし。

 欲を言えばもっとパンとお野菜が-- あぁヴァイオレット、気になさらないで。失言でしたわぁ」


「う、うむ……」


 少し表情を暗くしてしまったヴァイオレット様に、キアニィさんがすまなそうに謝る。彼女はまだ食事中で、手にはこんがりと焼けた骨付き肉が握られている。

 今日の終盤に遭遇した、西洋の悪魔のような見た目をした羊頭の魔物の成れの果てだ。

 自身が強力な身体強化と簡単な土魔法を操るだけでなく、どうやって統率しているのか、他の魔物の群れまで引き連れた強敵だった。

 しかしその悪魔も倒せばただの肉である。少しクセはあったけれど、脂が乗っていてとても美味しかった。


「--すみません、ちょっと小用に…… 数分で戻ります」

 

「あ、出口を開けますね。戻る際にはノックして下さい」


「うん。ありがとうプルーナさん」

 

 プルーナさんにシェルターの天井に穴を開けてもらい、周囲を見渡してから外へ出る。幸い魔物の影は見えず、月明かりに照らされた魔窟の入り口がぽつぽつと見えるくらいだ。

 夜の魔獣大陸は日中以上に冷える。用を足して急いでシェルターに戻ろうとしたところで、景色の中に違和感を見つけた。

 魔窟の入り口の影の数が、日中よりも増えているような気がしたのだ。


「気の、せいかな……?」


 日中に正確な数を数えた訳じゃないし、魔窟が新たに入り口を作るのはよくある事だ。でも、それにしても多いような……?

 違和感を払拭できずにあたりを見回していると、今度は明らかな異常が生じた。


「え……!?」


 数十m離れた魔窟の入り口の一つから、滲み出すように何か出てきたのだ。

 二足歩行するシルエット…… 人型の魔物か? そう思って瞬時に身構える。

 けれど、最初の一体に続いてぞろぞろと出てきたそいつらは、入り口の側で何やら話し込んでいるように見える。その様子からは魔物らしさが感じられない。

 あれって…… もしかして人か……!? 魔獣大陸にも少数の生き残りがいるって話だったけど、こんな所で遭遇するなんて……!

 驚きと好奇心からそのまま観察を続けていると、向こうも僕に気付いたようだった。

 全員が弾かれたようにこちらを振り向き、緊張感が高まる。


「あの…… ど、どうも?」


 対応を決めかね、曖昧に微笑みながら手を挙げてしまった。

 するとその人達はお互いに頷くような仕草を見せた後、こちらに向かって猛然と走り始めた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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