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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第313話 トゥヌバ塩湖の幽霊(1)


 首都ロプロタからラスター火山の麓までは、直線距離で200km程も離れている上に、道が山がちで起伏に富んでいる。

 普通に歩いて行ったら頑張っても二週間弱はかかる道のりを、僕らは戦士型が魔法型を背負って走る高速移動モードで駆け抜けていた。これなら麓まで二日ほどで到達できるはずだ。

 日中なのに夜のように暗い道を灯火(ルクス・イグニス)で照らしながら爆走するのは、正直に言って危険だ。

 転倒したら戦士型の人はまだしも、背中におぶさった魔法型の人が怪我しかねない。

 でもモタモタしていると首都の住民の死者はどんどん増えていくはずだ。今はとにかく時間が惜しい。


「--走りながらですけど、ちょっと作戦を詰めていきましょうか。

 基本戦略は不意打ち。観察して攻撃の機を見極め、僕が遠距離狙撃か近接での急所への一撃を放って勝負を決める…… でしたね?」


「そ、そうだったな。俺にはその辺りの機微はわからないが、どちらの方法がいいんだ?」


 僕の言葉に、背中のメームさんがちょっと上擦った声で反応してくれた。

 彼女は商人ながら鍛えていて橙銀級だけれど、それでも僕らの中では相対的に位階が低い。

 なので今回は背負われる側に回ってもらったのだけれど、長身を縮め、恥ずかしそうにおぶさってくるのでギャップがすごかった。


「シャムとしては、危険度の低い遠距離狙撃を推したいであります! シャムも観測手としてタツヒトの狙撃を手伝えるはずであります! 

 ただ、今回の対象は飛翔能力を有しているので、その速度や軌道の複雑さによってはかなり高難度となる事が予想されるであります。

 あとタツヒトの天雷フルグル・カエレスティスは、とても予備動作が大きいことも懸念材料であります。

 突然頭上に巨大な積乱雲が出現したら、対象も流石に不自然に感じてしまうと思うであります……」


 小さな体で飛び跳ねるように走るシャムが、遠距離狙撃に一票を投じた。

 そうなんだよね。最大威力で天雷フルグル・カエレスティスを放つには、天叢雲槍(あめのむらくものやり)で十分に積乱雲を育て、電荷を蓄積する必要がある。

 不意を突きたいはずなのに、相手に警戒の機会を与えてしまうのだ。


「そうですわねぇ。現場や対象を見てみないと確たることは言えませんけれど、今回は遠距離狙撃は確実性に欠けるかも知れませんわぁ。

 その点、危険度は高いものの、寝込みを狙って急所に一撃を叩き込む方法は暗殺の王道。高い成功率を誇りますの。

 --まぁわたくし、その方法でヴァイオレットの暗殺に失敗していますから、強くは言えませんけれど……」


 キアニィさんがちょっと自信なさげに近接案に一票を投じた。

 そういえばこの腹ペコ暗殺者さん、部屋へ置いてあったチェリーパイに気を取られて仕事に失敗してたんだよな。まぁそのおかげで今の関係があるんだけどね。

 さておき、近接案の方が確実性が高いのは確かだ。例えば呪炎竜(ファーブニル)が洞窟でおやすみ中の所に忍び寄り、都牟刈(つむかり)で首を落とすか心臓を突けば討伐完了だ。理想的には……


「ふふっ、そうだったな。今となっては懐かしいが、当時は暗殺組織に捕捉された事で心胆の冷える思いだった。

 --しかし、姿隠しの魔導具が部隊ごと失われてしまったのは本当に惜しい。あれがあれば、どちらの作戦でも難易度は大きく下がったものの……」


「大隊長さんも、本当に悔しそうにしておられましたね…… あの天から火が無ければ……

 --あぁ、私はまた……! 神よ、迷える私をお許し下さい」


 ヴァイオレット様が残念そうに語り、その背に乗ったロスニアさんは同意しながらも葛藤している。

 姿隠しの魔導具とは、大きな盾のような形状をしたもので、相手側から使用者の姿を見えなくしてしまう光学迷彩の魔導具だ。

 ロプロタを出る際、大隊長にこれを借用できないか交渉しようとしたのだけれど、ちょうど持ち出していた部隊が大樹の下敷きになってしまったそうなのだ。

 僕とヴァイオレット様がヴァロンソル領軍に在籍していた頃、この魔導具は火竜(イグニス・ドラゴン)討伐作戦でとても重宝したのだけれど…… 


「そうでしたね…… でも、今ある手札で、ここにいる僕らでなんとかするしかありません。遠距離案と近接案、両方とももう少し詰めてみましょう」


 その後も色々と意見を出し合っているうちに時間は過ぎ、時刻は夕刻となった。

 すると、街道の先に本日の宿泊先と目していた街の明かりが見えてきた。

 この周辺一帯の塩の需要を賄う重要な街、巨大な塩湖を臨む製塩都市トゥヌバだ。






 塩という重要すぎる資源を産出する街だけあって、トゥヌバは防壁のしっかりした大きな街だった。

 都市内の通りも整備されていて、十分な人数の魔法使いが居るのか街の中に灰も落ちていない。

 一方で、街の人々の表情は暗く、どこか不安そうに辺りを見回しながら足早に通りを行き交っている。

 火山に近い街としてはロプロタと同じ気もするのだけれど、それとはまた違った雰囲気にも感じられた。


「何か、他の街とも違った落ち着かない雰囲気ですね……」


「にゃー…… 暗くてしんどいとかじゃにゃくて、にゃんかに怯えてる感じだにゃ」


呪炎竜(ファーブニル)に、でしょうか? でも、それにしては皆さん、上じゃなくて街の中を警戒しているように見えますね。うーん……」


 同じ感想を受けて、ゼルさんとプルーナさんも辺りを見回して首を傾げる。

 ここの人達の様子は確かに気になる。けれど、今はそれより優先すべき事がある。

 この日は冒険者組合に寄って呪炎竜(ファーブニル)の情報を聞いたら、すぐに宿を取って休もうということになった。しかし--


「お願いします! この依頼を受けてくれませんか……!?」


 立ち寄った冒険者組合の受付で話を聞こうとすると、僕らの冒険者等級を確認した受付のお兄さんが懇願するよう依頼書を差し出してきた。


「すみません、ちょっと今は急いでおりまして--」


「そこを何とか……! このままだと、この街で塩を作れなくなってしまうんです!」


「それは…… かなりの大事ですね」


 ただならぬ様子に依頼書を全員で見ると、そこにはこう書かれていた。『トゥヌバ塩湖の幽霊の討伐』。

 場所は街に隣接した巨大な塩湖、推奨等級は緑鋼級以上、特記事項として、パーティー内に聖職者が居る事が望ましいともある。

 しかし何より気になるのが、対象となるその『幽霊』についての情報がほとんど記載されていないのだ。


「あの、この『幽霊』というのは……? どんな魔物なのか分からないと、討伐のしようがないのですが……」


「それが…… すみません、私たちにも分からないんです」


「……えっと」


 何ともふわふわした話に、思わずみんなと顔を見合わせてしまった。みんな困惑顔だ。

 しかし、一人だけ何か考え込むような表情をしていたロスニアさんが口を開いた。


「--その『幽霊』は、なぜそう呼ばれているのでしょう? 何か、そう呼ばれるに至った経緯があると思うのですが…… ゆっくりで構いません、詳しく話していただけますか?」


「あぁ、すみません……! 全く説明が足りていませんでした」


 落ち着いた調子で語りかけるロスニアさんに、受付のお兄さんは深呼吸してから話し始めた。


「--始まりは一月ほど前の事です。塩湖で塩を採る作業をされていた方が一人、居なくなってしまったんです。

 広大な塩湖では時折迷子になってしまう人もいます。でも視界を遮るものも殆ど無いので、余程遠くに行ったのでなければすぐに見つかるはずでした。

 けれど、いくら探しても居なくなった方は見つけられなかったんです。

 翌日、人数を増やして捜索が行われたんですが…… 結局見つからず、今度は捜索隊の人がまた一人消えていました」


 ごくりと、誰かが唾を飲み込む音がした。

 ふと視線を感じて後ろを振り向くと、組合の待合所にいた冒険者の人たちが気まずげに目を逸らした。

 彼女達の表情は暗く、最初の頃のロプロタの街の冒険者達に雰囲気が似ていた。


「街は大混乱に陥りました。大規模な捜索作戦や、塩湖にいるであろう何者かの討伐作戦も行われましたが、何も見つかりませんでした。

 そして塩湖に人が入ると、必ず一日に一人誰かが居なくなります。この街で最高の冒険者パーティーからも行方不明者が出てしまっているんです。

 いつしか、塩湖には姿も見えず、生者を憎む幽霊が住み着いているのだと(まこと)しやかに語られるようになりました。

 今ではその幽霊を恐れ、誰も塩湖に立ち入れなくなっています。このままではこの街は、いえ、塩の供給源を失ったこの国だって危ないかも知れません。

 高い位階を有し、聖職者の方もいらっしゃる皆さんならあるいは……!

 これは非常に危険な仕事です。ですが、どうかこの依頼を受けては頂けないでしょうか……!?」


 受付のお兄さんは、今度は深々と頭を下げながらそう言った。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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