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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第309話 陽光の大樹


 装備の整備と食料などの買い出しが終わり、マニルさんから呪炎竜(ファーブニル)の話も聞けた。

 神託の件は気になる所だけど、あの件はロベルタ司教様にお任せするしか無い。

 ここに留まる理由は無くなり、全員でラスター火山に向かうべく都市防壁の門に向かって歩き始めた所で、シャムが足を止めた。

 俯いて硬い表情…… これは、また何か考え過ぎている顔だな。

 そう思って僕が声をかける前に、ゼルさんがさっと彼女を肩車してしまった。


「わわっ……!?」


「シャム。おみゃー、またつまんにゃいこと考えてるにゃ? どうせマニルの話を聞いて、ウチらに妙な気を使っているんだにゃ」


「うっ……! だ、だって……! 今回は危険すぎるであります! シャムのために誰かが死んでしまうかもしれないなら……!」


 呆れたようにそう言うゼルさんに、シャムは目に涙を溜めて反論する。確かに、今回は魔導国の時とは状況が違う。

 あの時は結果的に危機的状況に陥ったものの、当初の予定ではそこまで命を危険に晒さずに古代遺跡に到達できるはずだったのだ。

 しかし今回は、紫宝級の竜種である呪炎竜(ファーブニル)のお宅に古代遺跡があるのだ。

 シャムの部品を回収する際には、高確率で家主と遭遇することになるだろう。でも……


「危険はいつもの事だよシャム。まだ必ず戦うって決まった訳じゃないし、行ってみれば案外簡単に部品を回収できるかも。

 それに、僕は自分のためにシャムの部品を集めているんだ。シャムの喜ぶ顔が見たいからね」


「僕もタツヒトさんと同じだよ、シャムちゃん。あ、あとはその…… シャムちゃんが元の身体に戻ってくれないと、タツヒトさんと先に進めないし……」


 僕に続いてプルーナさんもシャムに語りかけるけど、その顔は少し赤く、視線もチラチラと僕に向けられてる。

 そ、そんな話もありましたね…… さておき、他のみんなも笑顔でシャムに頷きかけた。


「みんな…… ありがとうであります! シャムは幸せ者であります!」


 そうして不安げだったシャムの表情にも生気が戻り、みんなで都市防壁の門に向かって歩き出そうとしたその時、大地が揺れた。






 --ゴゴゴゴゴ……!!


 立って居られなくなるほど体が揺さぶられ、地響きのような大きな音が街中に木霊する。

 最初は地震かと思ったけど、音の発生源は地面では無く外。ちょうど巨大魔法陣の方角から聞こえていた。


「あの方角は……」


「タツヒトさん! 上を…… 防壁の向こうを見て下さい!」


 地面に手をつきながら叫ぶロスニアさん。その彼女が指し示す先を降り仰ぎ、僕は絶句した。

 降灰の影響で、昼前だと言うのに辺りは夜の様に暗い。その中でもはっきりと、黒く巨大な柱のようなものが見えた。

 巨柱は高さ数十mの都市防壁越しに見えるほど大きく、轟音を響かせながら尚も天に向かって成長していた。

 僕らも居合わせた街の人達も、暫く呆然とそれを見守るしかなかった。


 そして巨柱がまさに天を突くほどに成長した所で、地響きは突然収まった。

 恐る恐る立ち上がって柱を見上げると--


 ギョルルッ!


 柱から放射状に、触手のようなものが広がった。

 それらは無数に枝分かれしながら、凄まじい勢いで街の方へ手を伸ばしてきた。


「「う…… うわぁぁぁぁっ!?」」


 巨大かつ生理的嫌悪を誘うその光景を目にした街の人々が、恐慌状態になって走り始めた。

 ……僕らもぼーっとしていられない!


「みんな、湖へ急いで!」


「「お、応!」」


 僕が近くに居たロスニアさんを、ヴァイオレット様がプルーナさんを抱え、全員で街の人達と一緒に湖側へ走った。

 湖は、触手の発生源である巨柱から見て、ロプロタを挟んだ反対側ある。

 あれが何なのか分からないけど、とにかく距離を取らないと……!


 時折後ろを振り返りながら、街の人たちの間を縫って全力で走る。

 しかし、都市の中心部あたりまで来た所で、ぽつぽつと街の人達が立ち止まり始めた。

 巨柱の方を指差す人々に釣られて後ろを振り返えると、街の中心部上空まで手を伸ばした触手群が、ぴたりとその動きを止めていた。


「ちょ…… ちょっと待って、一旦停止して下さい! 触手が止まったみたいです!」


 僕の声にみんなが足を止め、息を整えながら巨柱の方を見上げる。

 巨柱から放射状に広がる触手は、先細りしながら無数に枝分かれしている。

 静止している今は、蠢いていた時とは全く違った印象だ。あれ、これって……


「これは…… 樹木でありますか……!? でも、枝張の直径が4イング以上、この都市の直径の二倍以上であります! きょ、巨大すぎるであります!」


 ゼルさんの肩から降りたシャムが驚愕の声を上げる。

 そう。黒く巨大な点を除き、それの見た目は巨大な木に他ならなかった。

 目を凝らすと、枝の先端には葉っぱのようなものまで生い茂っている。

 ……都市の外の巨大魔法陣から現れた巨木。僕の脳裏に、数日前の神託の内容が思い起こされる。


 『--山の(みね)に座す白き都の民よ…… (いにしえ)若木(わかぎ)()福音(ふくいん)にあらず…… 呼び覚まさば、大いなる(わざわい)()(きた)らん……』


「樹木……? あぁ…… そんなまさか!?」


 ロスニアさんも同じ答えに至ったのか、僕に抱えられたまま悲鳴のような声を上げた。

 残念ながら、ロベルタ司教様はこの国の首脳部の説得に失敗したらしい。

 そして、息を吐く暇も無く巨木に次の変化が訪れた。


 ……カッ!


 巨木に生い茂る数えきれない程の木の葉、その全てが光を発し始めたのだ。

 その光はこの国の人々が今求めてやまないもの、太陽の光そのものだった。

 黒い巨木は光の大樹とも言える神々しい姿となり、暗闇に包まれたロプロタの街を真昼の様に照らした。

 

「「おぉ…… おぉぉぉっ……!!」」


 先ほどまで怯えたように巨木を見上げていた街の人達、特に樹人族(じゅじんぞく)の人々は、降り注ぐ陽光に体を広げ歓声を上げた。

 街の人達の表情は歓喜そのものだったけど、僕らはその真逆とも言える険しい表情だった。

 (いにしえ)若木(わかぎ)は呼び覚まされてしまった。なら、次は……?


『--あー、聞こえるかの、タツヒト』


「え……? アラク様ですか!?」


 目まぐるしく状況が変化する中、脳内に突然アラク様の声が響いた。

 状況を察したみんなが、虚空に向けて喋る僕を固唾を飲んで見守る。


『うむ…… 残念じゃが手遅れの様じゃ。今すぐ、その木から離れるのじゃ』


 いつもは柔らかく、慈悲の心が伝わってくるようなアラク様の声。しかしこの時の声は硬く、諦念の響きが込められていた。






***






ビーーーッ、ビーーーッ、ビーーーッ!!


【……現地表記カテナ・ラディクム連邦、通称樹環国の首都ロプロタ近郊において、抹消指定魔導具、陽光の大樹(シャマ・ラビシュ)の起動を確認

 第六大龍穴周辺における魔素の大量消費を観測、消費量は尚も増大中……】


【……コード00601発令、第六大龍穴融合個体の精密観測を開始 ……現在は沈黙状態

 当該魔導具の使用継続および拡散が、コード00000、神威(イル・リムトゥ)に発展する可能性38.4%……】


【……経緯、情報提供に基づき、外部隷下組織「聖教会」の構成員、個体名「ロスニア」へ抽象位階での情報転送を実行

 当該都市における聖教会幹部を介し、当方の警告の伝達を試行

 結果、現地政府は当方の警告を無視、当該魔導具の起動を強行したものと判断……】


【……上位機能単位へ対応を請う、備考、同都市には観察対象、個体名「ハザマ・タツヒト」および「シャム」が逗留中……】


【……】


【……上位機能単位へ、再度対応を請う……】


【……】


【……上位機能単位からの返答、コード00000の阻止を最優先

 外部機能単位に対し、陽光の大樹(シャマ・ラビシュ)の破壊命令を発令、都市への被害は考慮せず確実に--】


お読み頂きありがとうございます。

よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。

また、誤字報告も大変助かります。

【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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