第292話 噂の悪徳商人(1)
遅くなりました。金曜分ですm(_ _)m
2024/12/25 双子の紹介文が逆になっていたので修正。兄がトゥヤ、弟がピリュワ。
コメルケル会長らしき樹人族の人から少し遅れて、奴隷の二人も目を覚ました。
最初は恐慌状態だった奴隷の二人は、彼女に宥められ、腹を割かれて横たわる双頭大蛇を目にしてからやっと落ち着いた。
今は三人揃って腰を下ろし、ゆっくりと水を飲んでいる。立場は違えど、彼女達の間には何か信頼関係のようなものがあるようだ。
『水を飲みながらで聞いて欲しい。俺達はアマンカ副商会長に頼まれ、コメルケル商会長を探しに来た。あなたがそうか? 一体何があった?』
メームさんがゆっくりと樹環国語で話しかけると、コメルケル会長が少し目を見開いてから頷いた。
「お前達、噂の『白の狩人』だろう。帝国語で構わんぞ。アマンカめ、相変わらず気の利く奴だ。帰って褒めてやらねば……
質問に答えると、俺様がコメルケルだ。何があったかだが、この先の村に行く途中、そこに転がっている巨大な双頭大蛇に襲われたのだ。
護衛の連中が時間を稼いでくれている間に、俺様達三人は何とか洞穴に逃れたのだが、異様に執念深いやつでな……」
彼女は、先ほどまで自分達が立て籠っていた洞穴をチラリと振り返った。
「延々と繰り返される奴の突進で、洞穴の入り口が段々と広がっていく……
そんな中、俺様達はただただ救援を待つしかなかった。正直気が狂いそうだった。
やっと駆けつけてくれた緑鋼級冒険者達が奴に敗れて丸呑みにされた時には、さすがにここまでかと思ったが……
ともかく救援に感謝する。この俺様の命を助けたんだ、礼は期待していいぞ」
青い顔で傲岸不遜な笑みを浮かべるコメルケル会長。なるほど、こういう感じの人か。
しかし、彼女はその笑みをすぐに引っ込めてあたりを見回し、少し離れた場所に横たわる人々に目を留めた。
「--すまんが、連中のところに連れて行ってくれるか?」
「……ええ、肩をどうぞ」
隣にいた僕は彼女の腕の下に肩を差し入れ、ゆっくりと立ち上がらせた。
数m歩くのもやっとな様子の彼女は、未だ意識が戻らない緑鋼級冒険者達の元に来ると、独り言のように呟いた。
「--こいつらは、相手が悪いから逃げろという俺様の言葉を無視して、あの巨大な双頭大蛇に立ち向かった。
全くけしからん奴等だ。だが叱り飛ばすにも、まず回復して貰わねば。司祭殿、こいつらは大丈夫なのか?」
「ええ。怪我は全て治療することができましたし、容体も安定しています。
完全に回復するには休養が必要ですが、直に目を覚ましますよ。ですが……」
ちょうど緑鋼級冒険者達の治療を終えたところだったロスニアさんは、少し離れた場所に安置されている遺体に目を移した。
あまりにひどい状態だったため、彼女達には野営用に持ってきていた毛布を被せている。
「ああ…… 毛布をめくってくれるか? 顔を見たい」
「--その、かなり惨い状態なのですが……」
「構わん」
引かない構えのコメルケル会長に、ロスニアさんがゆっくりと毛布を捲る。
瞬間、毛布の下を目にしたコメルケル会長の全身が強張った。
『--お前達のおかげで、俺様達は今こうして生きている。本当によくやってくれた。感謝する。
残された家族のことは任せろ。この俺様が必ず面倒を見る……! だから、安心して眠れ……』
立っているのがやっとのはずのコメルケル会長は、横たわる彼女達に樹環国語で語り掛けると、長い黙祷を捧げた。
--悪徳商人と聞いていたけど、噂なんて当てにならないもんだな。
念の為にとロスニアさんが診察したところ、コメルケル会長と奴隷の双子には大きな怪我などはなかった。
しかし彼女達は、日光が火山灰で遮られ気温が下がった中で、なんと三日もあの洞穴の中に閉じ込められていたそうだ。
そのせいで脱水に加え、低体温症や低血糖などの症状が出ていたので、まずは火に当たってもらっている。
今火を囲んで車座に座っているのは、コメルケル会長達と僕、キアニィさん、メームさんで、とりあえずこの六人で軽く自己紹介をした。
他のみんなは、まだ意識の戻らない緑鋼級冒険者達と、護衛の方々のご遺体、それから双頭大蛇の素材を運ぶための準備をしてくれている。
奴隷の双子は、ショートカットで活発な印象の子が弟のピリュワさん。長髪でおとなしい印象の子が兄のトゥヤさんというそうだ。
「いやー、マジで助かったよ。感謝感謝。俺らの魔法じゃ全く歯が立たなくてさぁ」
「ちょ、ちょっとピリュワ。すみません、弟が…… でも、タツヒトさん本当にすごいですね。
歳も私達とそんなに変わらないのに、あんなに強力な魔物を倒しちゃうなんて」
見た目通りの喋り方をするこの子達は、何と二人とも橙銀級の魔法使いらしい。
でも、あの巨大な双頭大蛇の身体強化を貫くほどの魔法は使えなかったようだ。
「ありがとうございます。でも、『白の狩人』のみんなで戦ったおかげですよ。あ、寒くありませんか? もっと火を大きくしましょうか?」
「いや、十分だ。しかし、男の身で青鏡級、しかも万能型、さらに美形と来ている…… ふむ、良い。とても良いな」
コメルケル会長が、僕に何かじっとりとした視線を向けてくる。
「先ほどまで死にかけていましたのに、元気ですわねぇ……」
「だからこそ、あの状況下で生き残ったのだろうな」
「えっと…… あ、お腹空いてますよね。これどうぞ。チョコレートというお菓子です」
リアクションに困った僕は、誤魔化すように会長達へチョコレートを渡した。
最初はいつも持ち歩いている硬めの保存食、堅果焼きを渡そうとしたのだけれど、三日ぶりの食事としては少ししんどいかもと思ったのだ。
その点チョコレートは食べやすいし、とても高カロリーだ。
遭難した時にチョコレートで生き残ったって話も聞いたことがあるし、今の枯渇した彼女達にはぴったりのはずだ。
初めて目にする黒い板状の物体に少し戸惑った彼女達は、一口食べた瞬間に目を見開いた。
「な…… 何だこれは……!? 甘く蕩ける口溶けと鼻腔を通る芳香…… 美食は数々経験してきたが、こんな物は初めて食べるぞ……!」
「やっば、何これ!」
「あ、甘い……」
三者三様の良いリアクションだ。若さゆえの食欲ですぐに食べ切りそうな双子に対し、コメルケル会長は味わうように食べ進めている。
「美味い…… 美味いが、その正体がわからん。チョコレートと言ったか、タツヒト。これは一体何から作られているのだ? どこで買った物なのだ?」
「それはですね--」
コホンッ……
咳払いに視線を移すと、苦笑いのキアニィさんと、小さく首を横にふるメームさんが居た。
あ、やばい。気を良くしてペラペラと喋ってしまうところだった。
メームさんとはチョコレートの事業戦略的な事を少し話していて、当然原料や製法なんかは部外者に教えていい物じゃない。
「えっと、それはちょっと言えないんです。あの、チョコレートのことはできれば内密に……
とても栄養があって、今の皆さんに必要だと思ったから渡したんです」
「む、そうか…… わかった。今は従おう。しかし、美味い…… それに、体の奥から活力が漲ってくるようだ。ふむ……」
僕から聞き出すのを諦め、何かを探るような様子でチョコレートを食べ進めるコメルケル会長。
すると、準備を進めてくれていたプルーナさん達から声が掛かった。
「タツヒトさん、準備できましたー!」
振り向くと、彼女が土魔法で作ってくれたのだろう、大きめの荷車が四つ並んでいた。内三つは人や素材などで埋まっていてる。
「ありがとう、プルーナさん、みんな! では皆さん、街へ戻りましょう。アマンカ副会長が心配しているはずです。三人は空いている荷車に乗ってください」
「うむ、頼む。世話をかけるな」
「いえいえ」
その場を撤収した僕らは、港湾都市べレムへの帰途に着いた。
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