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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第276話 地下五階:エリネンのヤサ

更新が滞ってしまいすみません。結構長めです。

本日はもう一話、十三章の最終話を更新予定です。


 アシャフ学長の元を辞して魔導士協会の外に出ると、時刻は夕方に差し掛かっていた。

 僕らはもう一つの大事な用事を片付けるため、そのまま地下都市へ入った。


「ふぅ…… やっぱり今の季節、地下街の方が涼しいですね」


 この都市に来た頃はまだ冬の終わりくらいだったけど、今や季節は夏に移り変わっていた。

 西陽を受けてうっすらと汗をかいていた肌に、地下街のひんやりとした空気がとても心地いい。

 地下街の通りを見渡すと、混雑というほどでは無いけど沢山の多くの人が行き交っている。

 夕方って地下街にとっては早朝くらいの時間なのに、なんか人が多い気がするな。


「ふぃー、そうだにゃー。ウチらみたいに毛が多い連中には辛い季節だにゃ。

 それにしても、まさかこの街に半年も居ることなるとは思わなかったにゃ。これで遺跡に使えるヤツがにゃかったらガッカリだにゃ」


「南部山脈の遺跡にはたくさん部品が残っていたのに、使えるものはありませんでしたからね……」


 ゼルさんとロスニアさんの言葉を耳にして、僕の中にも少し不安な気持ちが広がった。

 ふとシャムの方を見ると、少し俯いて元気が無いように見えた。僕と同じように不安な気持ちになってしまったのだろうか。


 --そういえば、シャムはさっきアシャフ学長に激怒していた。彼女にしては珍しいことだ。

 確かにアシャフ学長の手法は詐欺的だったけど、僕らが得たものも多くあった。それに対して、シャムがあんなに怒りを露わにしたのがちょっと意外だったんだよね。

 もしかしたら、自分の体を元に戻すための部品の収集のため、僕らに長い時間を使わせてしまったことを負い目に感じているでは……

 そう勝手に想像を膨らませた僕は、シャムの背後から近寄るとそのまま彼女を抱き上げた。


「わっ、びっくりしたであります。タツヒト、どうしたでありますか?」


「ねぇシャム。部品を回収して聖都に戻る途中、ベラーキ村に寄って行こうよ。

 久しぶりにエマちゃん達に会いたいし。リリアちゃんなんて、もう歩いてるかも知れないよ?」


「そ、それは楽しみであります! 大賛成であります! シャムは、お土産をいっぱい買って行きたいであります!」


 途端に眩しい笑顔を見せてくれるシャム。つられてこっちまで口角が上がってくる。


「ふふっ、では私も何か買っていこう。しかし、リリアはまだ生まれて一年程度か。何が良いだろうか……」


「ヴァイオレット。おみゃーが普段読んでる本はまだ早いと思うにゃ」


「ば、馬鹿者! 乳児にそんな物を贈るわけが無いだろう!」


「にゃはははは」


 そんな物て…… まぁ、ヴァイオレット様の愛読書って大体エロ本だからなぁ。

 そのまま地下一階の露天でお土産を探したい所をグッと我慢して、僕らは階段を下った。

 そして着いたのは地下二階の勝手知ったるエリネンの職場、夜曲(やきょく)の警備部の詰所だ。

 入り口に居た人にを呼びしてもらうと、エリネンはすぐに出てきてくれた。

 そしてちょっと面食らう。彼女は、魔窟突入時に使っていたようなウサ耳だけ突き出た覆面を被っていたのだ。


「……早かったなぁ。そしたらさっそく行こか。ドナ、後を頼むで」


「へい、お任せを。お気をつけて」


 部下の人にその場を任せた彼女は、そのまま下の階への階段に向かって歩き始めてしまった。

 僕らはそれにあわてて付いていく。


「エリネン、おみゃーその格好どうしたにゃ。夜曲(やきょく)から強盗に仕事替えたのかにゃ?」


「あほか! おまはんみたいな目立つやつら引き連れて、強盗なんてでけへんわ!」


 ゼルさんに鋭いツッコミを入れるエリネン。


「だとしたらなんで地下都市の中で覆面を…… あ、そっか」


 歩きながら周囲を眺めて気づいた。比較的毛色の薄い人達、地表性の兎人族(とじんぞく)の人達が普段よりずっと多いのだ。

 ここの真下に遭った魔窟を討伐して以来、地表の住民と地下街の住民との間にあった蟠りが徐々に解けて来ているらしい。

 立ち居振る舞いから非番の軍人さんっぽい人もちらほら居るので、軟禁されていた城から逃げ出してきた元王女としては気軽に顔を晒せない状況なのだろう。

 僕の様子に気づいたエリネンが、ふんと鼻を鳴らす。


「ああ、そうや。悪いこととは言われへんけれど、ウチにとっては少々都合が悪いわなぁ」


「そうだよねぇ…… 騎士団長や魔導士団長は目を瞑ってくれた見たいだけど、王国軍の全員がそうしてくれるは限らないからなぁ」


 魔窟討伐に同行してくれたエリネンは、その時も身バレ対策に覆面を被っていた。

 しかしその覆面は(ぬし)との戦闘で破れてしまい、戦闘終了後に思いっきり王国軍のトップ二人に顔を見られてしまったのだ。

 エリネンは毛色こそ違うけど、妹であるルフィーナ王女とかなり似た顔立ちをしている。

 二人ともエリネンの素顔を見て目を見開いていたけど、何も言ってくることは無かったし、寝ているエリネンの元に誰かが尋ねてくることも無かった。

 理由は分からないけど、見て見ぬ振りをしてくれているようだ。

 ちなみに、夜曲(やきょく)の中では公然の秘密という扱いになっているらしい。

 

「そういうことやわ。しかも明日、ウチら名指しで王城に呼び出されとるやろ?

 女王はんの呼び出しを断るわけにもいかへんさかい、もう覆面したまんま出たろうと思とんねん」


 やけくそ気味にそう言い放つエリネン。救国の英雄達に正式に褒賞を授与したいという、エメラルダ女王陛下のご配慮だけど、彼女にとっては結構なピンチだ。


「うーん…… そうするしか無いかぁ。まぁ、もしもの時は一緒にこの国を出ようよ。

 夜曲(やきょく)から、冒険者パーティー『白の狩人』に転職ってことで」


「それはいい! 君ならばいつでも大歓迎だ」


「そうですわぁ。多少後ろ暗い過去があっても、わたくし達は気に致しませんですしぃ?」


「エリネンさんが一緒に来てくれたら心強いです!」


「「……!」」


 僕に続いてヴァイオレット様、キアニィさん、それからプルーナさんが賛成の声を上げ、エリネンがぴたりと歩みを止めた。

 あれ、何かまずいこと言っちゃったかな……?

 いつもは大賛成でありますと言いそうなシャムがあわあわしてるし、ゼルさんとロスニアさんもちょっと気まずげだ。


「そやなぁ。そん時は頼むわ…… ほんまに、決心が--」


 エリネンはこちらを振り返って小さくそう言うと、また歩き始めた。


「えっと、ごめん。後半が良く聞こえなかったんだけど……」


「なんでもあらへん。ほら、階段降りるで。例の部屋は結構下にあるんや」



 



 連れられるまま地下八階まで降った僕らは、そのまま民家のような建物に入ろうとするエリネンに待ったを掛けた。


「あの、エリネン。僕らが探してるのは古代遺跡で、ここは普通の民家に見えるんだけど……?」


「安心せぇや、この家がそうやなんて言わへんわ。まぁ付いてこいや」


 玄関の鍵を開けてすたすた民家の中に入っていくエリネン。僕らはお互いに顔を見合わせたけど、取り合えず着いていくことにした。

 中はやはりちょっと良い造りの民家と言った感じだけど、あまり生活感が感じられない。

 そのまま玄関から寝室に進み、エリネンが壁の絵を操作すると、がこんと音がして床の一部が開いた。


「おぉ、隠し部屋。ただの家じゃないんだね」


「かっこいいであります!」


 開いたところ覗き込んでみると、下に降りる階段が見えた。


「せや。ここは、ウチが成人した時に頭が用意してくれた家でな。念の為ゆーてこんな細工までしてくれたんや。

 まぁ、普段は二階の詰め所で寝泊まりしとるから、殆ど使っておらへんけどな」


 みんなでその階段を降りると、八人も入ると殆ど身動きできないくらいの小部屋だった。


「痛っ。ちょっとゼル、尻尾を踏まないで下さい!」


「しょうがにゃいにゃ。狭いんだにゃ」


「我慢しぃ。今開けるさかい」


 そう言ってエリネンが壁に立てかけてあった大きな板をどかすと、大きな亀裂が顔を覗かせた。

 ヴァイオレット様でもなんとか入っていけそうなそれは、ずっと奥まで続いているようだった。


「「おぉ……!」」


「な? この家をもらってすぐくらいん時か。転けてここの壁に手ぇつたら崩れてな。先があるみたいやったから、おもろい思て壁を突き崩して入っていけるようにしたんや。

 ただまぁ、貰い物の家をこんだけ壊してもーたらまずいと後から気づいてな。蓋して知らん顔しとったんや。

 タツヒト。変な空気がでとらんことは確認済みやから、明かり頼むわ」


「う、うん。『灯火(ルクス・イグニス)』」


 明かりを掲げて全員で亀裂に入り、狭い道をずりずりと進むことしばし。亀裂の先には、かなり大きな縦長の空間が存在していた。

 高さは灯火の明かりが届かないほど高く、足元には土砂が堆積している。そしてそこに半ば埋まるようにそれは在った。

 直径15m程のドーム状の建物。灯火に照らされた外観はのっぺりとした金属質で窓がなく、入り口らしき切れ目にはドアノブも無く、横に掌紋認証装置のようなものが備え付けられている。

 シャムがいたものとそっくりな、まさしくこの世界における古代遺跡だった。 


「あ…… エリネン! これであります! シャム達は、この古代遺跡を探していたんであります!」


「ありがとう! エリネンに出会わなかったら、絶対に見つけられなかったよ!」


 僕とシャムにそれぞれ手をに握られたエリネンは、ちょっと引き気味に仰け反った。


「お、おぅ。ウチも安心したわ。これで見当はずれだったら気まずいからなぁ。

 しかし、えらい頑丈で扉の開け方も分からんかったんやで? ヴァイオレットあたりならぶった斬って中に入れるかもしれんけど……」


「うむ。そういった方法も可能かもしれないが、何かしらの防衛機能が働いてしまう可能性がある。ここは正攻法で行こう。シャム」


「はいであります!」


 シャムが掌紋認証装置に手を置くと、古代遺跡のドアはあっけなく開いた。

 期待一杯に全員で中を覗き込むと、LED照明のような人工的な光が照らす廊下は、その半ばほどが土砂で埋まっていた。それを目にして全員の顔が曇る。

 

「本当に開きよった…… しっかし、これはひどいなぁ」


「うむ。壁のどこかが破損してしまっているのか、かなり土砂に侵食されてしまっている。遺跡の機能は生きているようだが……」


「……ともかく探してみましょう。運が良ければ、使える部品があるかもしれません」


 それから僕らは、手分けして古代遺跡の中を捜索した。

 わかりやすく人の一部のようなものを重点的に、機械人形の部品らしき物を掘り起こし、土砂に侵食されていない場所に集めていく。

 集めた中で最も有望だったのは、カプセルのようなものに入った人の腕や脚のようなものだった。

 見た目そのまま機械人形の部品なので期待が高まるけど、見つけたものの大半はカプセルが割れていて、見た目にも劣化が激しかった。


「これも、こっちもダメですね…… そして、これが最後ですか……」


 ロスニアさんは、僕らが集めた部品を次々に判別魔法で確認していき、使用不能の部品ばかりが積み上がっていく。

 彼女が最後に手に取ったのは、唯一カプセルが割れず、液体が充填されたままの左腕らしき部品だった。

 全員が固唾を飲んで見守る中、ロスニアさんの判別魔法が発動した。

 すると、左腕の部品全体が数秒ほぼ発光した。これまで使用不可だった部品は、判別魔法を使用しても光ったりしなかった。

 

「ロ、ロスニア。どうでありますか……!」


 全員の気持ちを代弁してシャムが恐る恐る尋ねると、ロスニアさんが満面の笑みで顔を上げた。


「これは…… 使用可能の反応です! シャムちゃん、これ使えますよ!」


「や、やったであります! まずは左腕……! ついに入手したであります!」


「「おー!」」


 左腕の部品を手に取って嬉しそうに掲げるシャムに、なぜかみんなが拍手を贈る。

 よかった…… 半年もかかってしまったけど、ようやく一つ使用可能な部品を入手できた。

 感無量な様子の僕らに釣られて、エリネンもパチパチと手を叩いている。


「おー、ようわからんし絵面が酷いけど、目的のもんが見つかってよかったなぁ」


「エリネン、みんなもありがとうであります! 早速聖都に帰って、ペトリアに腕を付け替えてもらうであります!」


 シャムの言葉に全員が拍手を止めた。いや、今のお子様ボディに成人女性の腕を取り付けたら、かなり不自然な感じになってしまうのでは……

 今度はプルーナさんが僕らの気持ちを代弁し、おずおずとシャムに語りかける。


「シャ、シャムちゃん落ち着いて。換装するのは、全部の部品が揃ってからにしよう?」


「どうしてでありますか!? シャムは今すぐ元の体に近づきたいであります!」


「えっと、うーん。気持ちは分かるんだけど、左腕だけ戻しちゃうと逆に遠ざかるというか……」


 それから全員で30分ほど説得を続け、シャムはようやく全ての部品が揃ってから換装を行うことに納得してくれた。

 よかった。本当に良かった……


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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― 新着の感想 ―
うーん、一個のパーツだけか。なかなかそう都合よくはいきませんよね。 エリネンと王女の邂逅は果たして・・・
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