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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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275/528

第275話 五時限目:卒業式

月曜分ですm(_ _)m

結構長めです。


『--では次に、聖暦1255年度、後期卒業生の表彰に移ります。

 魔導学部最優秀発表賞、ガートルード研究室所属、プルーナ魔導士。壇上へお上がり下さい』


「は、はい!」


 都市の地下に存在した魔窟を討伐してからおよそ3週間後。例年より少し遅れてしまったそうだけど、今日は魔導大学の卒業式である。

 僕らがいる大講堂は、数千人のキャパを誇る魔導大学で一番大きな部屋だけど、今はそこが殆ど埋まってしまっている。

 その大観衆の中、司会の先生に拡声の風魔法で呼ばれたプルーナさんがぎこちなく前へ進み、壇上のアシャフ学長の前へ立った。


『プルーナ魔導士。短時間でよくやった。貴様の多孔質石筍魔法は、魔力の効率化な運用の観点で非常に示唆に富み、優れたものだった。よってここに表彰する』


 学長はいつもの尊大な調子でプルーナさんを一言褒め、彼女に賞状を手渡した。

 僕が手を叩き始めると、その音を遥かに上回る割れんばかりの拍手が会場から響いた。

 一際大きな拍手をしているのは、ガートルード研究室の、ルフィーナ王女殿下達だ。

 プルーナさんは会場のそんな様子に恐縮しつつも、ともて嬉しそうにしながら席に戻った。


『続いて、魔導技術学部最優秀発表賞、ザスキア工房所属、シャム魔導技術士。壇上へどうぞ』


「はいであります!」


 元気よく返事をしたシャムが、プルーナさんと同じようにアシャフ学長の前へ進んだ。


『シャム魔導技術士。貴様も短時間でよくやった。貴様の提唱した魔法陣加工技術は、魔法陣の製造における属人性を低減させ、製造効率を向上させうる非常に革新的なものだった。よってここに表彰する』


 シャムが賞状を受け取ると、講堂からプルーナさんの時と同じくらい大きな拍手が巻き起こった。

 声をかけながら指笛まで吹いている愉快な人達もいて、よく見ると以前紹介されたザスキア工房の人達だった。

 シャムはそれに気づくと満面の笑顔で手を振りかえしていた。うん。あの子って結構スター性があるよね。

 僕はというと、なんとか魔導士号を取得することができたけど、特に表彰は無しだ。

 なので、講壇に近い前の席に居た二人と違って後ろの方に座っている。

 

「いやー、すごいね二人とも。まさか本当に半年で魔導士号と魔導技術士号を取って、しかも最優秀賞にまで選ばれるなんて。

 あ、もちろんタツヒト君だってすごいんだよ? 僕が魔導士号を取れるのは多分あと二年は先だろうから」


 隣に座っていた同じ研究室のヒュー先輩が僕の方に顔を寄せ、ニコニコと話しかけてくれた。


「いやいや、僕はお情けで卒業させてもらったようなもんですよ。強化魔法について、理論のみで肝心の魔法陣化ができませんでしたから」


「いや、史上初の魔法型による強化魔法の理論を提案したんだ。十二分に魔導士号に値する研究だよ。

 タツヒト君がこの半年間積み上げた研究は、後進の誰かが先へ進めてくれるさ」


「ヒュー先輩…… ありがとうございます。すこし気が楽になりました」

 

 うんうんと頷いてくれる先輩から壇上の方に目を戻した僕は、この都市での半年間、特に後半の数週間に思いを馳せた。


 魔窟の(ぬし)である巨大岩蚯蚓(ルンブサクス)を討伐した僕らは、魔窟補強部隊が(ぬし)の部屋に到達した段階で、直ちに魔窟の本体を討伐した。

 魔窟の本体は、凄まじい硬度と強度を持つ紫宝(しほう)の外殻に覆われていたけど、イヴァンジェリン騎士団長の(こん)を用いた延撃(えんげき)がそれを粉砕してくれた。

 一つ不思議だったのは、魔窟本体の根元に、(ぬし)の部屋には少し場違いな小型の魔物の骨が散乱していた事だ。

 骨はよく見るとモグラ型とネズミ型のもので、それを目にしたルイーズ魔導士団長は、この魔窟の発生について一つの仮説を立てた。

 

 魔窟の生殖方法については諸説があるのだけれど、魔物に胞子のようなものを運ばせて増えているというのが最も支持されている仮説だ。

 先人達の研究により、この胞子は土に擦り付けたりするだけで剥がれてしまうようで、地中性の魔物が胞子を媒介することは無いと考えられてきた。

 しかし例えば、胞子が付着した魔物を食べた地中性の魔物が、その直後に死亡した場合はどうだろうか?

 そしてその死に方が、深い地下空洞への転落死だったら?

 普通であれば消化されて萌芽しなかったはずの魔窟が、都市のすぐ真下、地下深くで成長を続けていたとしてもおかしくは無い。

 --真相は確かめようが無いけど、魔導士団長の仮説は結構真実味のある話に思えた。

 

 さておき、本体が討伐されて魔窟の呼吸が止まった瞬間、魔窟全体に浸透していた補強部隊は即座に行動を開始した。

 彼女達はそれぞれの持ち場で、プルーナさんとシャムの合作魔法陣を使用し、魔窟の壁や天井を支えるように石筍生成魔法を発動させた。

 その後、およそ一週間ほどかけて全員が魔窟の外へ脱出すると、そのほんの数時間後に大きな地震が起こった。魔窟の崩壊が始まったのである。

 固唾を飲んで見守る僕らの前で、魔窟の入り口は音を立てて崩壊した。しかし、大地の揺れが徐々に小さくなり、止まった後も、僕らが居る地下街は崩落せず無事だった。

 それを確認した騎士団長が作戦の成功を宣言すると、その場にいた全員が割れんばかりの歓声をあげた。

 

 そして魔窟に潜っていた全員が地下街を登って地表に出ると、都市防壁へ押し寄せていた魔物の大群は、その殆どが討伐された後だった。

 防壁の上から見た外の光景は、辺り一面に焼けこげたクレーターと夥しい魔物の死骸が散乱する地獄のようなものだった。

 死骸の数は下手したら十万単位に及びそうで、この大半をアシャフ学長一人で仕留めたという話だった。

 紫宝級の魔窟の(ぬし)をみんなで倒して、ちょっとは強くなったかなと思ったけど、僕もまだまだなんだなぁ……


 ともあれ、地表の都市と地下街の双方から迫っていた脅威が全て取り除かれたということで、そのまま街を上げた大宴会が開かれた。 

 本当は、そのまま三日ほどどんちゃん騒ぎをしていたいところだったけど、僕ら三人は大学の卒業式と、肝心の審査会を控えていた。

 宴会の最初にだけ参加したあと、大学へ行ってひたすら論文やら発表資料やらを作成し、なんとか審査会当日に間に合わせたのだ。

 単位も結構ギリギリだったし、本当に大変だった……

 

 少し遠い目でここ最近の苦労を思い起こしている間に会は進み、最後のアシャフ学長の挨拶の時間になった。


『さて、今期それぞれ最優秀賞を受賞した二人は、記憶にも新しい魔窟討伐作戦における最大の功労者でもある。

 無論、それを理由に報奨やら勲章を下賜するのは王家の役割であって、我々の感知するところではない。

 今回あの二人がの表彰されたのは、単にその発表内容が最も優れていたからだ。

 たった半年で卒業、そして優秀賞に値する成果を積み上げた様子を見て、貴様らも大いに刺激を受け、志を新たにしたことと思う。

 もしそうでない学生や教員がここにいるのであれば…… その者は卒業や栄転とは別の形でここを去ることになるだろうな。以上だ。おっと、卒業おめでとう』


 一息にそれだけ言って壇上から去っていくアシャフ学長に、ざわついていた講堂が一瞬で静まり返った。

 うへー…… 卒業生の人達は苦笑いしているけど、在校生や教員の人達の中には表情が凍りついている人もちらほら居るように見える。

 

『ア、アシャフ学長、ありがとうございました…… では、以上で卒業式を終わります。この後は--』


 最後は張り詰めた雰囲気で終わった卒業式の後、僕らは一度それぞれの研究室に戻り、送別会のようなものをしてもらった。

 僕の面倒を見てくれたプリシッラ先生は、こんなに早く出ていってしまう生徒は初めてですよと、いつもの調子で苦笑気味に笑っていた。

 ヒュー先輩や他の先輩方とも思い出話に花を咲かせ、先輩より先に卒業するとは何事だともみくちゃにされた。

 いつまでもこうして居たかったけど、今日はこの後大事な用事が二つもある。

 僕は後ろ髪を引かれながらも、半年間過ごした研究室に別れを告げた。

 





「来たか。ご苦労だったな。貴様らは俺の期待以上の働きをした。褒めてやろう」


 送別会を終えた僕ら大学組の三人は、残りの『白の狩人』のみんなとも合流し、アシャフ学長の元を訪ねた。

 相変わらずの傲岸不遜な様子の彼女に、思わず苦笑いしてしまう。


「お褒めに預かり光栄です。それで、学長が提示された、数ヶ月で魔導士号と魔導技術士号を取得するという条件は達成できたと思います。

 早速ですが、施錠されているという古代遺跡の解錠方法を教えて頂けますか?」


 半年かけて魔道大学に通い、苦労して研究や開発に励んでいた理由がこれである。

 僕らの旅の目的は、縮んでしまったシャムの体を元に戻すため、彼女に適合する機械人形の部品を集めることだ。

 そしてその部品が存在しうる古代遺跡が、この街のどこかにあるはずなのだ。

 場所に関してはこの後エリネンに教えてもらう予定だけど、遺跡への入り方に関しては学長から教えてもらう約束になっていた。

 

「あぁ、もちろん条件の達成を認めよう。シャム、こちらへ来い」


「え? はいであります」


 応接用の椅子から立ち上がったシャムが、学長の元へ歩み寄る。

 すると学長はシャムの手を取り、その(てのひら)を僕らに見えるように掲げて見せた。


「遺跡の入り口には、(てのひら)から生体情報などを読み取る装置が取り付けてあるはずだ。

 そこにこいつの手を当ててやれば解錠される。以上だ」

 

「「……え?」」


 学長の説明に、全員が惚けたような声を出してしまった。そ、それって……


「あ、あの学長。それって…… 教えてもらえなくても、気づけたのでは無いでしょうか……?」


「あぁ、そうだろうな」


 プルーナさんの指摘を、学長は全く悪びれることなく肯定した。こ、この人は……!


「ず、ずるいであります! これではまるで詐欺行為であります! ルフィーナに言いつけてやるであります!」


「ほぉ、面白い。王女ごときが、この俺を裁けるとでも? そして一体何の罪に当たるのと言うのだ?

 詐欺罪というのであれば、俺が一体何を騙し取ったのかご教授願おうか。

 そもそも、俺は条件を示し、貴様らは了承してそれを達成し、約束通り報酬を受け取った。これのどこが詐欺罪に該当するのだ?」


「ぐ、ぐぬぬーっ……!」


 にやにやと嗜虐的に笑う学長。シャムはその場で地団駄を踏むとヴァイオレット様の所へ駆け戻り、その豊かな胸に顔を埋めてしまった。

 何それ、僕もやりたい。


「アシャフ殿…… 我らより遥かに長い時を生きる方にしては、些か以上に大人気ないのではありませんか?」


「よしよし、悪い大人ですわねぇ…… 世界中に支部を持つ魔導士協会の長とは思えませんわぁ」


 ヴァイオレット様とキアニィさんが、シャムの頭を撫でながら学長に非難の目を向ける。


「ふん。何とでも言うが良い。今回の件は、文字通り勉強になっただろう? さて、俺は忙しい。用が済んだのならご退室願おうか」


「言われなくても出ていくであります! アシャフなんて嫌いであります!」


 憤慨するシャムに手を引かれるように、僕らは椅子から立って扉へ向かった。

 そして部屋を出る直前、僕は思い立ってアシャフ学長の方を振り返り、頭を下げた。最敬礼だ。

 隣に居たプルーナさんも、僕に続いて深々と頭を下げた。


「アシャフ学長。思う所が無い訳ではありませんが、学びの機会を頂けたことには感謝しています。ありがとうございました」


「僕もです。おかげで、僕は自分が生きる軸を再確認することができました。アシャフ学長、お世話になりました」


「……何度も言わせるな。さっさと出ていくがいい。 --シャムを、頼むぞ」


「……! はい、お任せ下さい!」


 最後だけとても優しい声色になった学長にもう一度頭を下げ、僕らは部屋を後にした。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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