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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第264話 二正面作戦

火曜分です。遅くなりましたm(_ _)m


「チッ、面倒な…… であれば、俺は地表に残るとしよう」


 魔物の大群襲来の報に固まってしまった僕らをよそに、アシャフ学長は席を立った。

 そのまま会議室を出て行こうとするので、慌てて止める。


「ま、待って下さい! では、魔窟には……!?」


「行かん。だが、都市に押し寄せて来ているという地表の魔物は、俺が何とかしてやる。エメラルダ」


「な、何だろうか。アシャフ殿」


 ひぇ、一国の女王を呼び捨てに…… さすがのエメラルダ陛下も、頬だけでなく目元までヒクつかせている。


「提案だ。地表の魔物も問題だが、魔窟も今すぐに対策にあたるべきだ。だから同時に処理しろ。

 まず、戦士型の冒険者を都市防壁の外壁付近に回せ。俺が撃ち漏らしたのを処理させる。

 そして、魔法型の冒険者もかき集めて魔導師団に合流させろ。冒険者組合のカサンドラあたりに言えば早いはずだ。

 魔導士団には、魔導士協会の連中と魔導大学の教員共も合流させる。こいつら全員にシャムの魔法陣を持たせ、魔窟の補強に当たらせろ。

 騎士団は、魔法陣を持った連中の護衛に当たらせるのが良いだろう。

 魔窟の討伐は、そこにいる『白の狩人』と、王国軍と夜曲(やきょく)の精鋭あたりが組めば可能だろう。

 魔窟が地脈と接続する前に、高位階少数のパーティーで最短時間で討伐するんだ。もたもたするなよ? ではな」


 一瞬で提案、というか命令を下し終わると、アシャフ学長はさっさと会議室から出て行ってしまった。


「……だ、そうだ。騎士団長、魔導士団長。アシャフ殿の提案に異論がなければ、余が全権を与える。全霊を持ってこの国難に対処せよ」


 疲れたように言う女王陛下に、話を振られたお二方は恭しく頭を垂れた。


「は! あの振る舞い様はともかくとして、大筋では納得致しました。

 魔窟の討伐部隊と補強部隊、急ぎそれらの編成を進めます。あとは冒険者への対応…… 誰か、カサンドラ殿を呼んできてくれ!

 夜曲(やきょく)の代表は…… リアノン殿。貴方にも少し相談させて欲しい」


「おぅ。わしらからも腕っこきを出したるわ」


「魔導士団の方でも、冒険者の方や大学のみんなの受け入れ準備を進めませんとね。ガートルード。あなたも手伝って下さらない?」


「あぁ、もちろんだ。シャム、プルーナ、君達も来てくれ」


「「はい!」」


 自信に満ちた言い振りを通り越して、分かりきった事を語るかのようだったアシャフ学長の言葉。

 言い方は酷かったけど、彼女の言葉はこの場の全員を奮い立たせる力に溢れていた。

 それはそれとして、参加者全員がそれぞれ問題の対処に向けて動き始めたので、最早会議の体を成していない。

 

「えっと、ではこの場は一旦解散とします。皆様、一緒にこの危機を乗り越えましょう」






 今この街に大量の魔物が押し寄せて来ている事の原因は、主の二つ考えられるそうだ。

 一つはどこかの魔物の領域で大狂溢(だいきょういつ)が起こり、魔素に飢えた魔物達が龍穴であるこの街を目指して集まっているという説。

 そしてもう一つは、この街の周囲の小規模な魔物の領域から、少しずつ魔物達が集まってきて大規模な群れを成したという説だ。

 龍穴からの魔素の供給量は周期的に変化すると考えられていて、供給量が増えた時期にこの現象が起こるそうだ。

 ここ最近、この街の周りで魔物が増えている事は実感していたので、こちらの説にも納得感がある。


 この街に魔物の群れが押し寄せた事は歴史上何度もあったそうで、どちらが原因の場合も、襲撃が落ち着くまで数日から数週間かかる可能性があるらしい。

 アシャフ学長が魔窟と同時に対応しろと無茶を言ったのも少し納得できる。そんなわけでこの都市は、魔窟と外の魔物の大群の二正面作戦を余儀なくされた形になる。

 けれどこの都市のリーダー達は、あっという間に細かいところまで詰めて作戦の準備を整えてしまった。

 

「では確認だ。まず都市防衛部隊としては、大魔導士アシャフ殿と、戦士型と、聖職者の冒険者達に当たってもらう。カサンドラ殿、差配をお願いする」


 時刻は夜明け前。そんな時間だと言うのにすぐに駆けつけてくれたカサンドラさんは、騎士団長の確認に笑顔で答えた。 


「はい、お任せください。今、職員が冒険者の皆さんに声をかけて回っています。

 残りの魔法型の冒険者の皆さんには、王城前に集合するようにお願いしています。

 魔導士団長閣下、彼女達をお願い致します」


「ええ。お預かりしたみなさんは、アシャフ様の部下の方々と一緒に、魔導士団と動いて頂きます。こちらは副団長に指揮権を委譲しますので、騎士団長、補強部隊の護衛をお願いしますね」


「無論。私の副官が護衛の指揮を執る。それから地下街の防衛に関しては、引き続き夜曲(やきょく)の面々にお願いしたい」


「おぅ。わしの娘が仕切ることになっとる。心配あらへん」


「うむ。最後に、魔窟の討伐に赴くのが、私と魔導士団長を含む王国軍の精鋭、リアノン殿を含む夜曲(やきょく)の精鋭、そして、現在この都市で最も有力な冒険者パーティーである『白の狩人』だ。

 イクスパテット王国出身の君たちを、この最も危険な任務に巻き込んでしまい申し訳無く思う。だが他に頼める当てもない。どうか協力して欲しい」


「はい。僕らもこの都市には愛着があります。一緒に戦いましょう」


 僕の答えに、騎士団長は少し嬉しそうに頷いた。まとめると、都市の戦力は都市防衛部隊、魔窟補強部隊、魔窟討伐部隊に三分される。

 まず都市防衛部隊は、地表はアシャフ学長を筆頭に戦士型と聖職者の冒険者が、地下は夜曲(やきょく)のみんなが担当する。


 次に魔窟補強部隊を構成するのは、副魔導士団長を筆頭とした都市内のほぼ全ての魔導士、魔法使いと、副騎士団長を筆頭としたその護衛の騎士団だ。

 シャムとプルーナさんの合作魔法陣は、魔法を使える面子の殆どに配り終えている。


 最後の魔窟討伐部隊は、王国軍の精鋭、夜曲(やきょく)の精鋭、それから僕ら『白の狩人』の三パーティー合同部隊だ。

 魔窟の(ぬし)は紫宝級であることが予想されるので、各集団で最強の騎士団長や夜曲(やきょく)のお頭さんも参加する。

 もっと人を当てても良さそうに思えるけど、人が増えると移動速度が鈍ってしまうのだ。

 加えて、高位階の魔物に低位階の大戦力を当てても無駄に命を散らしてしまうだけなので、この構成だ。

 ちなみにこの国にも紫宝級の冒険者パーティーが一組存在するけど、今は北の方にいて不在だそうだ。タイミングが悪い。


 編成が決まり次第すぐに行動を始めた僕らは、心配そうな王女殿下達に見送られ、王城前に集合した。

 すでに直ぐそこまで迫っているのか、街の外から幾千幾万もの魔物の咆哮が小さく聞こえてくる。

 それをBGMにソワソワしながら待っていると、暫くしてやっと地下に向かう面子が揃った。

 そして騎士団長が出発の号令を掛けようとしたその時。


 カッ。


 王城の直ぐ隣。魔導士協会の方から強烈な光が放たれた。

 慌てて上を振り仰ぐと、協会の尖塔の頂上から、うっすらと光の帯の残滓のようなものが街の外へ伸びていた。


 ズズン…… ッズガァァァン!!


 そして直ぐに街全体がビリビリと振動し、数秒遅れて街の外から大きな爆発音が聞こえた。

 音の方向に視線を向けると、濛々(もうもう)と巨大なキノコ雲のようなものまで上がっている。

 都市防壁に遮られて見えないけど、今の攻撃で千は下らない魔物が消し飛んだはずだ。

 まるでどこかの(つわもの)の神のような一撃。これを、アシャフ学長一人が撃ったのか……!?

 単なる火線の魔法なんかじゃない。一体どんな……

 

「おぉ…… さすが大魔導士」「凄まじい! これが協会長殿の『破壊の灼光』か」「し、信じられへん……」


「化け物め……!」


 賞賛の声が響く中で聞こえた悪態に振り向くと、やはりガートルード副学長だった。

 彼女は尖塔の頂上を憎しみに満ちた表情で睨みながらも、どこか怯えた様子だ。

 そうしている間にも、学長は次弾、そのまた次弾と光の帯を発射している。

 化け物、か…… 確かに異常だ。龍穴の魔力を使えるからと言って、あそこまで凄まじい魔法を連発できるなんて……

 紫宝級は人外の領域だと言われているけど、アシャフ学長はその中でも飛び抜けている気がする。

 

「み、見よ! 地表はアシャフ殿達に任せておけば大丈夫だ! 我々は地下に専念させてもらおう! 出立!!」


「「お…… おぉーー!!」」


 騎士団長の号令に、アシャフ学長の力を目の当たりにした万を超える集団が応えた。

 僕らはその勢いのまま、一斉に地下街へ向かって歩き始めた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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