第253話 『白の狩人』は冒険者です
いつもより少し早いですが、相変わらず深夜更新ですみませんm(_ _)m
日中に魔導大学、夕方から地下街で活動する日々を数日間続けて来たけど、本日から二日間は休みだ。
その休みに何をするのかというと、僕らは朝から冒険者組合に来ていた。
学生と夜曲の助っ人の二重生活を送っているせいでたまに忘れそうになるけど、僕らの本業って冒険者なんだよね。
シャムの体を元に戻す為の活動も重要だけど、本業の勘を鈍らせず、依頼をこなして功績点を上げることも大切な事なのだ。
相変わらず立派な作りの組合に入った僕らは、朝から冒険者達で混雑している一階の受付スペースを過ぎ、二階にある黄金級以上の受付に並んだ。
「次の方ー。あ、皆さん!」
待ち行列の順番が来て前に出ると、受付のカサンドラさんが嬉しそうに迎えてくれた。
「おはようございます、カサンドラさん」
「おはようであります!」
シャムも嬉しそうに小さな体を精一杯伸ばし、受付台越しにカサンドラさんと手と手をぱちんと合わせる。微笑ましい光景だ。
「うふふ。おはよう、シャムちゃん。その後、大学や地下街の方は如何ですか?」
「大学の方は順調であります! でも、地下街の方は魔物がすごく増えていて大変そうであります……」
前半は笑顔で答えていたシャムだったけど、後半は少し悲しそうな表情で答えた。
怪訝そうな様子のカサンドラさんに地下街の最下層であったことを話すと、彼女はシャムと同じように沈んだ表情になった。
元から全く同じ顔なので、表情までシンクロされるとほとんど見分けがつかない。
「そんなことが…… 組合としても手助けしたいところなのですが、依頼が無いと動けないのと、色々としがらみがあって難しいんです」
冒険者組合の収益は、主に依頼の斡旋で賄われている。国や都市、個人から出された依頼を冒険者に紹介して、成果報酬からマージンを取っていく形だ。
なので、地下街の魔物の駆除を組合に頼む人間がいないと、冒険者はそもそも依頼を受注することができない。
そして、伝統的にエリネン達のような武闘派の夜曲が防衛してきたので、国や地下街の住人が依頼を出すことがないのだ。
仮に奇特な人が依頼を出したとしても、好き好んで夜曲と揉めたがる人は居ないので、誰も受注しないだろう。
「心配めされるな、カサンドラ殿。少なくとも今は我々がいる。地下街の事は任せてくれ」
「そう、ですね。確かに皆さんがいるなら、よっぽどの事が無い限りこの街は大丈夫でしょう」
ヴァイオレット様の力強い言葉に、カサンドラさんの表情が晴れた。その時。
ズズズ……
立派な石造りの冒険者組合の建屋が、小さく、しかし確実に揺れ始めた。
その場にいた全員が、逃げ出すこともなく無言で天井を見上げていると、揺れは数秒ほどで収まった。
「ほ、本当に地揺れが多い場所ですね…… 今みたいな小さいのも含めると、ほとんど毎日揺れている気がします」
まだ地震が苦手なのか、プルーナさんが僕の背中に引っ付きながら言った。
地下と地表の住民の反応を見るに、これがこの国の日常っぽいんだよね。組合にいる他の冒険者も揺れている間平然としていたし。
「ええ。私も赴任してきて驚きました。今のところ大きな被害は出ていないようですけど…… ところで皆さん、今日はどんなご用で?」
あ、そうだった。依頼を受けに来たんだった。カサンドラさんの言葉を受けて、プルーナさんが僕の背中から慌てて離れた。
「えっと、僕は今橙銀級なんですけれど、黄金級に上がるために功績点を稼げる依頼を受けたいんです。何か良さそうな依頼はありますか?」
「あぁ、それでしたら--」
「ギュィィィィッ!!」
「ひぇぇぇぇ!」
ゴツゴツした山肌を逃げ降りる僕らに、天空から怒りに満ちた咆哮が降り注ぐ。チラリと上空を振り返ると、巨大な影が迫っていた。
翼を広げた長さは数mに達し、その嘴はひと口で人の頭部を噛み砕けそうな程に鋭く大きい。
上半身が鷲で下半身は獅子の威容。全個体が風魔法を操る万能型の強力な魔物、鷲獅子だ。
奴の体の各所には、シャムが射かけた矢が何本も刺さっている。しかし、強力な身体強化に加えて簡単な風魔法まで操る鷲獅子には、一本も有効打になっていないようだ。
シャムを先頭に、僕、ヴァイオレット様、そしてゼルさんは、山頂付近で営巣していた奴にちょっかいをかけ、今絶賛逃走中だ。
「シャム、まっすぐに走るな! ジグザグに走るのだ!」
「わ、わかったでありま……!」
ドガッ!
ヴァイオレット様の言葉に進路を曲げた途端、僕らのすぐ傍に鷲獅子が墜落するように着地した。
奴の鋭い爪は硬い岩肌すらも穿ち、その鋭い眼光が憎々しげに僕らを見据える。
それに怯んで少し速度を落としてしまったシャムの背中を、ゼルさんがグイグイと押す。
「こら! 足を緩めるんじゃにゃいにゃ! 全速力だにゃ!」
「は、はひぃっ!」
最大強度の身体強化による全力疾走。シャムの速度に合わせて走る僕らは、度重なる鷲獅子の攻撃を紙一重で避け切り、山裾まで到達した。
すぐ目の前には深い森が広がっている。
「シャム、もう直ぐだよ!」
「……!」
もうしゃべる余裕も無いシャムを先頭に、僕らは森の中に逃げ込んだ。
「ギュィッ、ギュィィィッ!」
木々の隙間から見える鷲獅子は、怨嗟の声を上げつつも上空を旋回するだけで、森の中には入ってこない。
そしてしばらく息を殺していると、やっと諦めたのか、鷲獅子は山頂の方に帰って行った。
「ーーはぁ〜…… く、くたびれたであります」
「うむ、格上相手に良く逃げ延びた! よくやった、シャム。見事な陽動だったぞ」
「えへへ……」
へたり込むシャムの頭を、ヴァイオレット様が満面の笑みで撫で回す。
少しの休憩の後、僕らは残りの面子との合流場所に向かった。
合流場所である街道付近の森の淵には、すでにプルーナさん、キアニィさん、そしてロスニアさんが待っていてくれた。
「あ、シャムちゃん! 見てこれ! 結構いいのが摂れたよ!」
僕らを見つけたプルーナさんが、バスケットボールほどの大きさの卵を掲げた。
卵には滑らかな光沢があり、青系統の色が木目状に綺麗にグラデーションを描いている。まるで巨大な宝石のようだ。
「プルーナ! やったであります!」
嬉しそうに走り寄ったシャムが、プルーナさんと二人で小躍りし始めた。
「あらあらぁ。気をつけなさぁい。落として割ってしまったら大変でしてよ?」
「うふふ。あ、皆さんお怪我は無いですか?」
「ええ、幸い全員無傷です。さぁ、ディニウムに帰りましょう」
今回カサンドラさんから紹介されたのは、首都ディニウムから一日ほどの岩山に住まう鷲獅子、その卵の採集依頼だった。
彼らの卵はバスケットボールほどの大きさがあり、色は木目状に綺麗なグラデーションがかかっていて、大きな宝石のようだ。
この色合いやグラデーション具合は一つとして同じものが無く、好事家の人が高値で買い取ってくれるらしい。
もちろんそのままだと孵ってしまう可能性があるので、目立たないところから中身を抜いてしまうそうだ。結構美味らしい。
ディニムを出た翌日の朝、鷲獅子の巣を発見した僕らは、シャムを中心とした陽動組と、プルーナさんを中心とした採集組に分かれて事に当たった。
位階にものを言わせて鷲獅子を討伐する手もあったけど、それでは現在黄金級の位階にあるシャムやプルーナさんの経験にならない。
そいうわけで、二人をメインに据え、残りのメンツは補助と助言に留める形にしたのだ。
その後、また一日ほどかけてかけてディニウムに帰った僕らは、すぐに組合に卵を届け、満点の評価で依頼を終えた。
こんな感じでいくつか依頼をこなしていけば、プルーナさんもすぐに黄金級になれるはずだ。
そうして、みんなして笑顔で組合を出た僕らだったのだけれど、それに水を差すようにまた小さい地震が起こった。
本当に多いな。あれ。でも依頼で街の外に居た時は全然揺れなかったような……
まぁ、偶然かな。今は依頼達成の打ち上げの方が重要だ。お子様二人が喜ぶお店を探さないと。
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