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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第245話 只の受付係

とても遅くなりましたが、月曜分ですm(_ _)m


 ヴァイオレット様とロスニアさんは、当然ながら僕らが三人だけで夜の地下街に行った事に激怒していた。

 彼女達からしたら、自分達抜きでやましいことをして来たであろう僕らだ。当然の怒りだろう。

 僕らはひたすらに謝りたおし、正直に昨晩の行動や出来事の全てを説明した。


 一応、夜曲(やきょく)と有益な取引を行なえた実績があったことで、ヴァイオレット様はため息を吐きながら僕らを許してくれた。

 その後、あまり不安にさせないでくれと悲しい表情で言われてしまい、僕は昨晩の軽率な行動を大いに恥じた。本当、何やってんだ……


 一方ロスニアさんは、手持ちを全て溶かしてしまったゼルさんを激しく叱責していた。

 けれどそれ以上に、仮にも犯罪組織である夜曲(やきょく)と、僕らが取引をしてしまった事にも難色を示していた。

 自分の前職について思うところがあったのだろう。その様子を見て、キアニィさんは少し悲しげな表情を見せた。

 それを目にした瞬間、ロスニアさんは慌てて意見を翻し、地下街の人々を助ける事には違いないと賛成してくれた。

 うん。清濁併せ持ってこその聖職者だよね。


 そんな感じでお説教がひと段落したころ、お子様組の二人が、朝ごはんを食べようと大人組の部屋を訪ねてくれた。

 大人組全員がちょっとホッとしながら頷き、全員で宿の一階の食堂に移動した。

 そして、味のしっかりした全粒粉のパンと具沢山スープの朝食を摂りながら、僕はプルーナさんとシャムに昨日の出来事を共有した。


「なるほど…… 犯罪組織だからこそ持っている情報もあるわけですね。さすがです、タツヒトさん!」


「あはは…… ま、まぁね」


 純真なプルーナさんの目が眩しく、ヴァイオレット様とロスニアさんの視線が痛い。


「むぅ…… シャムも夜の地下街に行ってみたかったであります」


「にゃはは、すまんにゃ。でも、夜曲(やきょく)の手伝いでそのうち行く事になるにゃ」


 ピンクの毛並みを持つ兎人族(とじんぞく)、エリネンには、僕らが七人パーティーであることを伝えてある。

 魔物退治の手伝いには後日全員で伺うと伝えると、じゃあまずは夜曲(やきょく)の首領に面通ししてくれと言われた。ますますそっちの人達っぽいな……

 ともあれ、その面通しは明日以降の予定だし、魔導大学側の受け入れ準備もまだのようだ。

 なので今日のところはとりあえず、全員で冒険者組合に行く事になった。カサンドラさんに、魔導士協会長殿の横暴を報告しないとね。






「そ、そんなことが…… 私の紹介でタツヒトさんを危険な目に遭わせてしまい、大変申し訳ありません。アシャフがそんなことをするなんて……」


 場所は冒険者組合の応接室。昨日の出来事、特にアシャフ協会長の暴虐を耳にしたカサンドラさんは、僕らに深々と頭を下げた。

 いやー、参りましたよって感じのテンションで話したら真剣に謝られてしまったので、ちょっと焦ってしまった。


「いやいや、頭を上げて下さい。カサンドラさんとしても予想外だったんですよね?」


「はい…… もちろん、彼女は誰にでも即死級の魔法を撃つような人間ではありません。その程度の分別はあります。

 ただ、能力を認めた人間に対しては期待も大きい分、相応の厳しい対応をする節がありました。

 タツヒトさんには迷惑なお話しかもしれませんが、その、よほど気に入られてしまったのだと思います」


 頭を上げたカサンドラさんは、さらに申し訳なさそうな表情でそんな事を言った。


「あー…… そんな雰囲気はありましたね。まぁでも、そのおかげで遺跡の手がかりが手に入りそうなんです。結果良ければ全てよしですよ」


「そうですか…… お気遣い、ありがとうございます」


「でもびっくりしたであります。カサンドラとペトリア、そしてアシャフ…… シャムは今まで、シャムと同じ顔をした人に三人も出会っているであります。三人は姉妹なのでありますか?」


「うふふ。ごめんねシャムちゃん、ちょっと驚かせたくって。でも姉妹ですか…… そうですね。そのようなものです」


 カサンドラさんは、自分の膝に座るシャムの頭を微笑みながら優しく撫でた。二人は今日も親子のようだ。

 --あれ、今サラッと重要な事を言わなかたか?


「ところで皆さん、そろそろ黄金級になってから長い方もいますよね。この辺りで昇級試験を受けては如何でしょう?」


「「あ……」」


 カサンドラさんに言われて全員が思い出した。カサンドラさんに再会したりして忘れていたけど、元々昇級試験のためにこの都市の組合を尋ねたんだった。


 そこからすぐに試験をしてもらうことになり、全員で位階と功績点の確認、簡単な筆記テストを終え、実技試験を行うことになった。今回も試験管はカサンドラさんだ。

 冒険者組合の中庭にある訓練場。ちらほらと見物客がいる中で等級の低い順に試験が行われ、今はヴァイオレット様がカサンドラさんと対峙している。


「最後はヴァイオレットさんですね。では、いつでもどうぞ」


 普段着にゆるく木剣を握っただけの状態のカサンドラさんが、にこにこと開始を宣言する。

 対するヴァイオレット様は、完全武装で武器も青鏡の刃がついた斧槍(ハルバート)だ。

 武装の差は歴然。しかし、ヴァイオレット様は全く油断する事なく武器を構え。


「うむ、胸を借りさせて頂く。では参る!」


 ドッ!


 爆音を上げて地を蹴り、数m程の距離を一瞬で詰めたヴァイオレット様は、大上段からの袈裟斬りを放った。

 試験とは思えないその必死の斬撃は、いつの間にか半歩横にずれていたカサンドラさんにかすりもしなかった。

 しかしそこはヴァイオレット様。斧槍(ハルバート)が地に着く寸前で引き戻し、今度は横薙ぎにカサンドラさんに斬撃を見舞った。

 カサンドラさんはそれをひょいとしゃがんで躱し、立ち上がると同時にほんの少しだけ斧槍(ハルバート)に木剣を当てた。


 コンッ。


「うっ……!?」


 たったそれだけでヴァイオレット様が斧槍(ハルバート)に振り回され、体制を崩してしまう。

 その致命的な隙を突いて肉薄したカサンドラさんが、ヴァイオレット様の首筋に木剣をすっとあてがった。


「--非常に良いですね。ですが、まだ上昇した位階に慣れていないように見えます。焦らず、基本に忠実に慣らしていきましょう。さあ、もう何回か続けますよ」


「--ご助言、感謝する!」


 意表を突いた斧槍(ハルバート)の石突によるコンパクトな薙ぎ払い。それすらもカサンドラさんは紙一重で避けてしまった。


「うんうん、そうです。相手が勝利宣言した時が、相手の敗れる時です! 少し楽しくなって来ましたよ!」


 それから二人は何十合と高速の撃ち合いを演じ、そのいずれにおいてもカサンドラさんが勝利した。

 試合は段々と激しさを増していき、カサンドラさんの笑みがより深く、野生味を帯びていく。そして。


 ガァン!


 カサンドラさんの木剣によって、ヴァイオレット様の手から斧槍(ハルバート)が弾き飛ばされてしまった。

 なんで木剣であんなことができるんだ……


「あ…… す、すみません! ちょっと熱くなってしまいました」


 ハッとしたように野生的な笑みを消したカサンドラさんが、慌ててヴァイオレット様の斧槍(ハルバート)を拾ってくる。


「--あ、ああ。大丈夫だ、問題ない。ありがとうカサンドラ殿。とても、勉強になった」


「いえいえ。お役に立てたのならよかったです。試験結果ですが、全員合格ですね。皆さんおめでとうございます」


 ぱちぱちと笑顔で手を叩くカサンドラさん。つられて拍手している見物客達が、興奮したように周囲の人達と話している。


「いやー…… そうだろうと思ってましたけど。カサンドラさん、いくらなんでも強すぎじゃないですか?」


「ですわねぇ…… とても、ただの組合の受付の方とは思えませんわぁ」


 僕の言葉に、隣にいたキアニィさんが呆然と応えてくれた。

 ですよねぇ。今のヴァイオレット様は、英雄と呼ばれる青鏡級の中でもかなり上位の実力者のはずなんだけど……


 ともあれ、これでシャムとプルーナさん以外は緑鋼級に上がることができた。受注できる依頼の幅もぐっと広がる。

 位階的には僕とヴァイオレット様は青鏡級だけど、等級をもう一段階上げるには功績点がまだまだ足りない。

 シャムは位階の面で黄金級に据え置き、プルーナさんはまだ功績点が足りなくて橙銀級のままだけど、すぐに黄金級に上がれるだろう。

 

「さて、それじゃあ皆さん、受付の方に戻りましょうか」


 機嫌良さそうに訓練場から立ち去ろうとするカサンドラさん。それを、先ほどの試験内容を噛み締めるように考え込んでいたヴァイオレット様が呼び止めた。


「待ってくれ。 --カサンドラ殿。私は先の邪神討伐で、連邦周辺国家における最強級の戦士達と(まみ)える機会に恵まれた。

 王国騎士団長ベアトリス殿、連邦軍将軍エーデルトラウト殿、『山脈砕き』のエレイン殿、そして、聖堂騎士団長アルフレーダ殿……

 誰もが遥かなる高みに座す紫宝級の使い手だったが、彼女達と比較しても、未だあなたの底が全く見えない。あなたは、一体何者なのだ……?」


 僕らの疑問を代表したかのようなヴァイオレット様の問いに、カサンドラさんは少し驚いた表情で立ち止まった。


「--うふふ。お褒め頂きありがとうございます。以前も言いましたが、私は只の受付係です。

 でも、そうですね…… 私から一本取れたら、違う答えを教えて差し上げます」


 彼女は、まるで子供のように無邪気な笑顔でそう答えた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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