第228話 カラダ探し
章の初めから遅れてしまい、すみませんm(_ _)m
前章のあらすじ:
蜘蛛人族のプルーナを仲間にしたタツヒト達一行は、王国、連邦、聖国の三国による邪神の共同討伐作戦のため連邦へ向かった。
一行は邪神の眷属と戦う中で弱点を発見。それを活用したヤマタノオロチ作戦が、三国の総力を上げて決行された。タツヒトの友、緑鬼のエラフの助力もあり、犠牲を出しながらも作戦は順調に進行。最後にタツヒトの強力な雷撃が邪神に止めを刺すが、シャムが致命傷を負ってしまった。
その時、大龍穴を統べる神、蜘蛛の神獣が現れた。意外にも友好的な神獣の助けと教皇の治療により、シャムは一命を取り留めた。しかし、その体は童女のように縮んでしまったのだった。
時刻は深夜。聖ドライア共和国の首都である聖都レームのさらに中枢。聖ペトリア大聖堂の一室に、僕らは集まっていた。
面子は僕ら『白の狩人』の七人と、聖国の実質的なリーダーである教皇、ペトリア四世猊下だ。
連邦、王国、聖国の三国合同討伐作戦により、僕らは邪神と呼ばれる強力な蜘蛛の魔物を討伐した。
しかし、機械人形のシャムが僕を庇って瀕死の重症を負ってしまい、治療のために猊下を頼ったのだ。
猊下のお陰でシャムは一命を取り留めたものの、換えの効かない精密機械部品を幾つも損傷してしまっていた。
結果、ちょっと小柄な男子高校生である僕と同じくらいだったシャムの身長は、小学校低学年の童女くらいに縮んでしまったのだ。
今は、全員でひとしきりシャムの無事を喜んだ後、落ち着いて椅子に腰を下ろしている状態だ。
ちなみに、普通に座るとテーブルが高すぎるので、シャムは僕の膝の上に収まっている。
「猊下。シャムを助けて下さり、本当にありがとうございました」
僕の言葉を皮切りに、『白の狩人』の全員が猊下に頭を下げた。
「うむ。難しい施術だったが、命を救うことができてよかった。元通りにはできなかったが……」
「ぺトリア、気にしないで欲しいであります。絶対死んだと思ったのに、助けてもらっただけで大感謝であります! それに、この体も結構楽しいであります!」
シャムはにっこり笑って僕の顔を見上げた。いつにも増して可愛い。つられて笑顔になった僕は、シャムの頭を念入りに撫でた。
「タツヒト…… 次、次は私に抱っこさせてくれ」
子供好きの馬人族の騎士、ヴァイオレット様が手をわきわきさせながらシャムを凝視している。
訊いてみたら本人が良いと言うので、僕は隣のヴァイオレット様にシャムを手渡した。
シャムを手中に収めたヴァイオレット様は、蕩けるような表情でシャムを抱きしめた。良い笑顔。
「じゃ、じゃあタツヒトさんのところには僕が…… な、なんちゃって。えへへへへ……」
今回大活躍してくれた蜘蛛人族の土魔法使い、プルーナさんは、疲労と深夜テンションでちょっと変になっているようだ。
それが労いになるのならばと思って手招きをすると、彼女は赤い顔でおずおずと僕の膝の上に乗ってきた。
「ふむ…… 其方らは本当に仲が良いな。誰も欠けずにまた会えたことを、我は嬉しく思う」
「猊下のご指導と御業のお陰です。 あ…… あの、猊下…… 先ほどは、信徒にあるまじき、大変に失礼な事を口にしてしまいました。本当に申し訳ございません……」
笑顔で僕らを眺めていた猊下に、蛇人族の聖職者、ロスニアさんがテーブルにつく程に頭を下げた。
猊下がシャムの治療を終えて戻られた時、かなり紛らわしい、まるで治療が失敗したかのような口振りだったので、温厚なロスニアさんにしては珍しく失言してしまったのだ。
「いや、あれは本当に我の言い方が悪かったのだ。気に病むことは無い。
ときに、治療を優先して訊けなんだが、そろそろ事の顛末について教えてはくれぬか?
特にその槍と、この布をタツヒトに下賜した存在について、我は問わなければならぬ」
猊下は、僕の隣に立てかけてある漆黒の槍に視線を投げかけながら、丁寧に折り畳まれた白い布をテーブルの上に置いた。
その恭しい所作の中には、僅かな畏れが含まれているように見えた。
「わかりました。では、邪神討伐作戦の初めから説明させて頂きます」
「--そうか。あの古き獣の神とそれほど強く縁を結ぶとは…… 我も永きを生きたが、これほどの驚きは初めてやも知れぬ」
「それでシャムは助かることが出来たのでありますね…… 時間と空間を操る古き獣の神、蜘蛛の神獣でありますか…… 今度会ったら、お礼を言いたいであります!」
僕の説明を聞き終え、猊下は驚きすぎてちょっと引いてる感じで、シャムは驚きよりも興味の方が勝っているようだ。
二人ともアラク様に対面していないのに、対照的なリアクションだ。
「にゃー…… シャムは寝てたから感じにゃかった思うにゃけど、あん時狩場からした気配はヤバかったにゃよ?
ウチはタツヒト達と違って姿も見てにゃいのに、ヤバすぎて漏らしそうだったにゃ。実際、ちょっと漏らしちゃったにゃ」
「……ゼル。あの気配の異常さについては同意いたしますけれど、最後のは言わなくていいですわぁ。こっちは食事中ですのよ?」
猟豹人族の双剣使い、ゼルさんが正直すぎる感想を述べ、蛙人族の斥候、キアニィさんが軽食をパクつきながら反応する。
シャムが帰って来てから、緊張の緩和と共に食欲も解放されたらしい。テーブルの上の軽食は、ほとんどが彼女の胃の中に消えつつある。
僕もほっとしたのと疲労の蓄積で結構眠気が限界だけど、一つだけ猊下に訊きたい事があった。
「猊下。猊下は、アラク様の存在をご存知だったのですか? 彼女を含む、七柱の神獣達の事も……」
「--アラク様、か…… うむ、知っていた。その恐ろしさと共に。
人智を越えるかの存在達が、我らの何に怒りを覚えるかは予想すらつかぬ。ましてや、その眷属に敵対することなど、とても……
それゆえに我は、それが如何に困難な事か知りつつも、其方らに逃げることを勧めたのだ。
大龍穴の支配者たる獣の神の怒りは、即ちこの星そのものの怒り。人の身では絶対に抗うことはできぬ。それは、其方も感じたであろう?」
「はい…… たまたまアラク様が寛大な方だったから良かったものの、苛烈な方だったら僕は塵一つ残っていなかったでしょう。
おっしゃる通り、星そのものと対峙しているかのような、どうしようも無い力の差を感じました」
「うむ。其方らの知恵と勇気が此度の勝利に繋がった事に疑いの余地は無い。しかし、幸運であった事も忘れてはならぬ。
--其方ら、この辺りでそろそろ腰を落ち着けて見てはどうだ? 王国による其方らの手配も無くなり、眷属による脅威も消えた今、其方らが戦い続ける理由はもうなかろう」
猊下の言葉に、僕はハッと息を呑んだ。確かに、旅を始めた理由が無くなり、古巣である王国の危機も去った。
でも、僕のせいで縮んでしまったシャム、彼女をこのままにしていいのか……?
そう思ってシャムの方を見たら、本人と目が合った。
「タツヒト、シャムの体の事なら気にしないで欲しいであります! さっきも言ったでありますが、今みんなと一緒に居られるだけで十分であります!」
「シャム……!」
シャムの言葉を聞いて、ヴァイオレット様が彼女をより強く抱きしめる。
これが壊れてしまう可能性があるなら、確かにもう無茶をしない方が良いのかもしれない。目の前の光景を見て、僕はそう思ってしまった。
しかしそこで、プルーナさんが言いにくそうに呟いた。
「で、でもシャムちゃん。その姿だと、その…… タツヒトさんと出来ないんじゃ……」
「--はっ……!? そ、それは大問題であります! ぺトリア、シャムは元の体に戻りたいであります! 何か方法は無いでありますか!?」
シャムの声に、猊下が能面のような表情で僕を見た。殺気は全く感じないのに、なぜか全身の皮膚が泡立つような感覚に襲われた。
「い、いえ! 手は出していません! まだ……」
「--まぁ、男と女が長く一緒に在れば、そういった事もあろう。人々の融和こそ神の教え。シャムがそれを厭うていないのであれば、我から言う事は無い」
そう言って大きく息を吐いた後、猊下の表情はいつもの悟りを開いたような穏やかなものに戻っていた。こ、怖かった……
「話が逸れたな。元の体に戻る方法か…… シャムの体を童女程に縮めざるを得なかったのは、手元に適切な部品が無かったからで、部品があれば元の姿に戻ることは可能だ。
しかし、シャムに適合する精密機械部品は、特に古い世代のものなのだ。この地上に使用可能な状態で存在している可能性は、甚だ低い」
「そ、そんな……」
先ほどと打って変わって、シャムが絶望の表情を浮かべる。
……なんというか、嬉しいやら恥ずかしいやら。どういう顔をして良いのかわからないぞ。
「--だが、可能性が皆無という事は無い。現に、今までシャムは健やかに過ごしていたのだ。ある所にはある、という事だ」
「……! 古代遺跡ですね。僕がシャムを見つけたような保存状態の良い古代遺跡ならば、使える部品が残っている可能性がある……!」
「うむ、そういうことだ。まずは、シャムを見つけたという遺跡をもう一度調べてみるのがよかろう。そこに求める物が無くとも、手掛かりは得られよう」
猊下の言葉に、僕らは顔を見合わせて大きく頷いた。どうやら、冒険の旅はまだ終わらないらしい。
「しかしその前に、其方らにはまずやるべき事が在るはずだ」
続いた猊下の言葉に、今度は顔を見合わせて首を傾げる僕ら。代表して、ヴァイオレット様が疑問を投げかけた。
「猊下。シャムの件より優先すべきこととは、一体なんでありましょうか?」
「其方ら、連邦から転移して来たと申していたが、今頃向こうは騒ぎになっているのではないか?
アルフとバージィも気を揉んでいよう。一度、連邦に顔を出すべきであろうな」
「「あ……」」
た、確かに……! 完全に忘れていた……
13章開始です。お読み頂きありがとうございます。
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