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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
12章 四八(しよう)戦争:急

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第217話 湖の守護者(1)

深夜になってしまいました…… すみませんm(_ _)m

ちょっと長めです。


 エーデルトラウト将軍の指示の元、三国の戦力は襲撃報告のあった数十の里に次々と割り振られていった。

 どうやら大森林深部側、今の連邦の外郭南西から北西あたりの里が、満遍なく攻撃を受けているらしい。

 そして今回は緊急性が高いため、初動として高速で現場に駆けつけられる精鋭が選抜されている。勿論、僕ら『白の狩人』も出動する。

 一刻も早く現場に駆けつけて邪神の眷属を退けた後、後から追いかけてくる軍が来るまで里の住民を救護、護衛するのが僕らの仕事だ。

 

『御子殿達には、ここから北西に60イング程のエシュロトの里の救援をお願いしたい! そこの君、場所はわかるかね!?』


『は、はい。分かります!』


 将軍に振られたプルーナさんが首肯する。60イングは大体60kmなので、結構遠い。


『承知しました、将軍! 行ってまいります!』


『うむ、ご武運を!』


「お前達、無茶するなよ!」

 

「わかっている!」


 将軍とメームさんに見送られ、僕らは里長の館を飛び出した。そして里に上がる時に使ったゴンドラではなく、最短距離で里の淵まで走る。

 蜘蛛人族の里を上から俯瞰したら、いくつもの巨木を頂点に持つ多角形に見えるだろう。僕らはその内の一つの巨木の側まで行き、地表を覗き込んだ。

 

「……よし、下に誰もいないな。では先に行く!」


 ヴァイオレット様は体を青く光らせて身体強化を最大化すると、ひらりと地上数十mの高さから地表に飛び降りた。


「……え? 今、飛び降りて……」


「籠で降りたら時間がかかるからね。ほら、掴まって。舌噛まないようにね」


「は、はひぃ……!」


 呆然としているプルーナさんを半ば無理やり抱えると、僕も中空に身を踊らせた。

 重力に引かれて体が落下し始め、地表からヴァイオレット様のドカンという着地音が届いた。


「ひっ……!!」


 プルーナさんが小さく悲鳴をあげて僕にしがみつく。ちょと心が痛むけど今は時間が惜しい。我慢してもらおう。

 ほんの一秒ちょっとで地面まで半分ほどの距離まで落下したところで、僕は片手を下の方に向けた。


火よ(イグニス)!』


 バンッ!


 手のひらで火球が爆裂し、爆風を手のひらで受けたことで落下に急制動が掛かる。魔窟都市にいた頃、未管理魔窟討伐の時に偶然編み出した方法だ。

 ヴァイオレット様クラスの身体強化があれば、あの高さから落下しても無事に着地できるだろう。

 でも僕や、ましてやプルーナさんはそうもいかない。なのでこうして制動をかける必要がある。


「うぎゅっ!?」


 予想外の衝撃だったのだろう。プルーナさんが潰れたような声を出す。すまねぇ。

 それから何度か火球を弾けさせ、僕らは怪我なく地表に足を着けることができた。プルーナさんはちょっと放心してしまっている。

 地表にはすでに、シャムを背負ったゼルさんと、ロスニアさんを背負ったキアニィさんが居た。

 猟豹(りょうひょう)人族のゼルさんと()人族のキアニィさんにとって、大木を伝って降りることは地表を歩くのとさほど変わらない。


「よし、全員無事に降りられたな。では魔法型は戦士型が運ぼう。ロスニア、君は私に乗ってくれ。プルーナは…… タツヒトのままで良いな」


「ええ、そうしましょう。陣形は前から順にシャム、僕、ヴァイオレット様。キアニィさんとゼルさんは左右をお願いします。全速力で行きましょう。プルーナさん、案内をお願いできますか?」


「へ?…… あ、はい!」


「よろしくね。それじゃあ、行きましょう!」


「「応!」」


 素早く陣形を組んだ僕らは、プルーナさんの先導でエシュロトの里に向かって走った。


 




「ふぅー…… 冬に外で飲むカッファって、なんでこんなに美味しいだろ」


「ほんとですねぇー……」


 僕の独り言のような呟きに、同じくまったりと珈琲を啜るプルーナさんが応えた。

 僕らが陣取っているのは、エシュロトの里の西側、大森林の深部側に位置した広場の一角だ。

 地べたに座って珈琲を沸かし、全員で呑気に休憩している。この状況からお察しの通り、すでに邪神の眷属達は始末し終えた後だ。


 1時間程走って僕らが着いた時、僕らが居たヴィンケルよりも二回りほど小さいエシュロトの里は、数百匹の邪神の眷属に侵入されている最中だった。

 地表型の魔物には効果的な地上数十mにある蜘蛛人族の里も、同じく蜘蛛型の魔物には障害にならないようだ。

 流石に飛び上がれる程の高さではなかったので、キアニィさんとゼルさんに先に登ってもらって、残りの面子はゴンドラで里に上がった。


 すると、里長の館らしき立派な建物の周りに住民達が集まり、彼女達を後ろに庇った兵士や冒険者の人達が必死に眷属達を牽制していた。

 すでに何十人も怪我人が出ていて、里の聖職者の人では回復が追いついておらず、今にも突破されそうな状況だった。

 僕らはすぐに眷属達の背後から襲撃を仕掛け、次々に眷属達を減らしていった。

 幸い、一番強い個体でも黄金級程の群れだったので、黄金級から青鏡級の位階を誇る僕らは十分程度で群れを殺し尽くすことができた。


 今は怪我人の治療とヴィンケルへの連絡も終え、住民の方々が眷属の死体の処理や、壊れた家屋の修理などを行なっている。

 勿論手伝いを申し出たのだけれど、あんだけ戦って疲れてるだろうからアンタらは休んでいてくれと、感謝と共に固辞されてしまった。

 なので今は、周囲の警戒をしつつお言葉に甘えて休憩している。


「今回は死人は出ませんでしたけれども、邪神側に連邦の場所を掴まれてしまいましたわねぇ……」


「そうですね…… 軍の方々追いついたら、後をお任せしてすぐに作戦を決めないと…… あぁ、でもここの方達のヴィンケル方面への避難も必要ですよね」


「うむ。連邦の文化的側面もあるのだろうが、こう人里が分散していると護りにくい。だが、避難が長期化すると食糧などの問題が--」


 休憩しながらあーだこーだと議論を交わしていると、シャムが里の外に目を向けた。


「むぅ?」


「にゃ? シャム、どうしたにゃ?」


「森の奥で何か動いたような…… 望遠に切り替えるであります」


 シャムが立ち上がって目を凝らすのと同時に、僕らも臨戦体制に入る。


「あっ…… け、眷属であります! 数がさっきより多い…… しかも大きい個体も何体か居るであります!」


「「……!!」」


「プルーナさん! 住民の人達に、里長の館に集まるよう指示を!」


「わかりました!」


 プルーナさんが連邦語で住民の人達に呼びかけ始めた段階で、僕も肉眼で眷属の群れを確認できた。

 木々の間から見え隠れする黒い蜘蛛の群れは、ザカザカという不気味は足音を立てて接近しつつあった。行軍速度が速い……!


「プルーナさん、避難を急がせて! あと30秒くらいで接敵する!」


「わ、わかりました!」


 プルーナさんの急かす声に、住民の人達が必死の形相で里長の館に向かって走り始めた。僕らも大声と身振り手振りで必死に避難を促す。


「次から次へと忙しいにゃ!」


「眷属は一体何万匹いますの…!?」


「みんな構えよ、来るぞ!」


 ヴァイオレット様の声の一瞬後、里を支える大木を伝って黒い異形が姿を現した。


「「ギギギギギッ!!」」


 大小さまざまな大きさの眷属が里に侵入してくる。その中で、僕は一際大きい三体に目が釘付けになった。

 体高は数m、八本の脚も入れた横幅は10mを超えている。邪神の眷属の中でも、かなり成熟した個体のようだ。

 そして最悪なのは、その体が青く発光していることだ。青鏡級。遥か格上の相手を前にし、背中がじっとりと冷や汗で濡れ、体が震えそうになる。


「小さい個体は里の戦力に任せましょう! 僕らは青鏡級の三体を!

 中央がヴァイオレット様、左が僕、右はキアニィさんとゼルさん、後衛組は援護を!」


「「応!」」


 他の前衛組と一緒に突貫した僕は、僕の相手である左手の一体に向けて腕を掲げた。

 正直僕が勝てる見込みは少ない。ヴァイオレット様が中央の一体を倒し、加勢してくれるのを期待してなんとか踏ん張るんだ……!


雷よ(フルグル)!』


 バァンッ!


 放った雷撃が青鏡級の眷属に直撃した。しかし奴は一瞬動きを止めただけで、なんの痛痒も感じていないかのようにそのまま突進してきた。そんな…… 全く効いていない……!?

 後ろの方から後衛組の援護射撃が飛んでくるけど、やつはそれを巨体に見合わない速度で避けてみせた。

 想定外の出来事に狼狽えながらも槍を構え、急いで次の魔法を行使する。


雷化(アッシミア・フルグル)!』


 強化魔法で身体能力が一段階上がったことで、青鏡級の眷属が放った前脚の一撃にギリギリ反応できた。

 スレスレのところで攻撃を前に躱し、懐に潜り込んで全力の突きを見舞う。


 ガキュウンッ!


 僕が放った一撃は、眷属の頭部の甲殻に1cm程の深さで傷を創った。

 しかし、断ち割るまでは行かず、丸みを帯びた形状もあって穂先が流れてしまった。硬すぎる……!

 急いで槍を引き戻そうとしたけど、全力の刺突を受け流されたことで体が泳ぎ、体勢が大きく崩れてしまっている。


「ギギィ!」


 そしてそこに、残像が見えるほどの速度で再度前脚による刺突が迫った。

 崩れた体勢のせいで避けることも捌くこともできない。強力な身体強化が施され、青く光る漆黒の槍が、僕の胴体の中心に迫る。

 確実にやられる。濃密な死の予感が全身をかけ抜け、時間が圧縮され脳裏に走馬灯が流れる。


「--おぉ! デケェのがいるじゃねぇかぁ!!」


 しかし、突如として響いた声と共に、目の前にいた眷属が真横に吹き飛んだ。


 どぱぁんっ!!


 顔に水飛沫がかかり、眷属を吹き飛ばしたのが鉄砲水のような何かだったことが分かった。

 いや、水……? なんでこんなところで……!?

 混乱する僕の目の前を、吹き飛んだ眷属を追う人影が風のように通り過ぎた。

 その人は青い短髪の馬人族で、体勢を立て直そうとする眷属に凶暴な笑みを浮かべながら肉薄した。

 

「ギギッ……!?」


 そうか。そういえば、連邦の外郭らへんはこの人達が哨戒していたんだった。

 王国最強の紫宝級冒険者パーティー『湖の守護者』。そしてそのリーダーは、一太刀で山を割ったという万能型の大剣使い--


「『山脈断ち』のエレイン……!」


「オラァッ!!」


 噂通りの身の丈程の大剣。彼女はそれを烟るような速度で一閃し、巨大な眷属を真っ二つに両断した。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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― 新着の感想 ―
エレインさん、カッコ良すぎる登場で惚れました… タツヒトも気をつけて!笑
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