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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
恐怖の宇宙生物 強襲揚陸艦『金剛』
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3-19 騒ぎの収束と終息の行方

 リョウハとテヅカの戦いが始まった頃、ガスフライヤー『金剛』に関わる者たちは不安であり、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。

 既にテヅカに挑んだ者たちは全員一蹴された。

 リョウハが戦いに敗れる事があるとは考えづらいが、軍用の生体甲冑を着込んだテヅカに対してリョウハは普通の重宇宙服を操作しているだけだ。戦力差は大きい


 ヒカカ班長たちドワーフメンバーは空を見上げて拳を握りしめていた。

 またしても12歳のガキに運命をゆだねる事になってしまったと、自らの無力を嘆いていた。


 レツオウたち金剛の運行クルーはグローリーグローリア内の状況がモニターできない事にヤキモキしていた。女生徒たちの寄宿舎となった元旅客ブロックはヒサメの手によって一種の治外法権地域に指定されていた。外部からでは寄宿舎の中は監視できない。

 ヒサメの指定をかいくぐる方法はないかと奮闘し「この者、女子寮の覗き魔」とか「おまわりさん、この人です」とかの自動メッセージを返されていた。


 ギムのいる降下艇ビーグルだけは少しばかり空気が違っていた。

 マイペースなリコリィ・ウスカや元々人外なギム・ブラデストはともかく、赤毛のミモザ・ヴェールは良くも悪くも常識人だった。


「ギムさん。あの人、リョウハさんはあっちの鬼と戦うつもりなんですよね?」

「そうですね」

「彼は相手を殺すんでしょうか? 自分が兄と呼んだ相手を?」

「殺す、でしょう。彼が手心を加える理由が思いつきません」

「兄、は理由にならないのですか?」

「彼が一般的な家族関係について理解しているかどうか怪しいとは思いますが……」

「では、兄、という言葉に意味はない、と?」

「まぁ、生まれた時から身近にいるやや年長の男性で、自分に大きな影響を与えた人物。ぐらいの意味ではないかと思います」

「それは普通に『兄』です」


 ミモザは断言した。

 正義感に駆られて力強く言葉を紡ぐ。


「そんな『兄』を平気で殺せる人なんて、私は『怪物』だと思います。あのヒサメちゃんの相手にふさわしいなんて、絶対に認めない!」

「……それはあなたが結論を出す問題ではありませんよ」


 黒い破壊者も女の子の意気込みに押され気味だった。

 幸い、と言って良いだろうか? この話題に関わらなかったリコリィが話を遮ってくれた。


「お話し中、悪いのですがまた異常事態なのです」


 何が始まったのかとギムは金剛のデータを確認する。軌道要素に変化なし。エネルギー放射にも異常を認めず。


「そっちではないのです。シンジュの地表。私たちが調査していた所、センチピードの本体に異変です。熱量が急速に増大中。……映像、出します」


 軌道上から見おろす映像が映し出される。

 地吹雪がますます酷くなっているので、あまり鮮明な映像ではない。しかし、赤い何かが動いているのはわかる。


 センチピードの本体はもともと上空からでは発見できなかった。上からでは赤いキノコの群生地しか見えなかった。

 それなのに今、見えている映像には明らかな人工物が切れぎれに見えていた。


「センチピードの生存者が異星生物に反撃している、のでしょうか?」


 ギムの疑問。

 降下艇ビーグルが撤退することになった群生地の只中にあって、反撃に転じる事が果たして可能なのだろうか?


 そもそもの問題点。異星生物の目的は、行動原理はいったい何だ?


 カグラ・モロー女史が言うようにシンジュのテラフォーミングという使命を果たそうとしているのだろうか? そうだとしても降下艇や移動基地に襲いかかってくる理由がわからない。野生動物が襲いかかって来るとしたら食事か安全のためというのが定番だが、有機物ではない機械に襲ってくる時点で食料を得るためという理由はあり得ない。


 本当にそうか?


 食事とは生物が自分の身体を構成する物質を体内に取り込む行為だ。自分の体の一部とするだけでは無く、自身が稼働を続けるエネルギーを得る行為でもある。


 そうだ、エネルギーだ。


 異星生物は惑星ブラウのエネルギー放射の増大を受けて地表に出てきた。

 あの赤い花だかキノコだかの巨大物体はブラウからのエネルギーを受け取るためのアンテナだ。そして彼らは気付いたのだろう、地表を歩き回っている物体には空から降りそそぐものよりずっと大きなエネルギーが有ることに。核融合炉まで持つセンチピードは歩き回る地表の小さな太陽だ。

 普通の有機生命体であれば核のエネルギーを直接摂取する事などできないが、エネルギー吸収能力を持つ彼らにとってはそれこそ「殺してでも奪い取る」価値のある物だったのだろう。センチピード本体の周囲が異星生物の群生地になっていたのもセンチピードのエネルギーを利用していたからなのだろう。


 センチピードを奪われまいとする人類に対して、異星生物たちは攻撃に出るようになった。その流れが第二分体が戦った小型円盤でありリョウハが交戦した巨大生物だ。


 では、今、センチピードの本体におこっていることは何だ?


 そこへリコリィから新しい報告が入る。


「あそこから強力な電波が発信されているのです」

「電波通信?」

「こっちの表示によると『有意信号、ただし解読不能』だそうです」


 そんな事はあり得ない。

 このブラウ惑星系で使われている技術はすべて同一系統のものだ。建造された年代やメーカーによって多少の違いはあってもほかの機械が出す信号をまったく読み取れないなどという事は起こらないはずだ。


 ギムはちょっとした憶測をスピーカーから出力する。


「電波を発信している主体が人間でも自動機械でもないとすれば……」

「それって、どういう事?」

「センチピードを異星生物が本格的に乗っ取った可能性があると」

「赤いキノコが機械を動かしているって言うの? まさかぁ」

「本体が発する熱量が急速に増大して来るのです!」


 炎が見えた。

 地吹雪でけぶる地表からセンチピードの本体がその長大なボディをのたくらせながら上昇してくる。

 本体にだってバーニアは付いているのだ。それ自体は驚きではない。しかし、上昇するボディにはフジツボのように、あるいは鱗のように小さな赤い円盤がびっしりと貼りついていた。


「まさか、ね」





 交戦相手の重宇宙服の左半身を貫いて、テヅカ・ウォードクは勝利を確信した。

 言うまでもない事だが、それは早合点だ。そして致命的な失敗だ。「やったか?」などと不確かな戦果を過信するのが死亡フラグなのは別に空想の世界に限ったことではない。


 どれだけ怒り燃えていようとリョウハの戦闘機械としての動きには微塵も狂いがない。

 何もない空洞部分に突き刺さった振動ブレードを身体をひねってへし折る。その際に伸びきったテヅカの右腕の関節をかためる。突進の勢いからの壁への激突、その衝撃を利用する。強化人間の強靭な骨格も重宇宙服の重量とパワーには耐えられなかった。

 テヅカの右腕があらぬ方向へ曲がった。


「馬鹿な」


 灰色のオーガーロードが喘ぐ。


 勝ったと思った後の残心も足りなければ、追い詰められた時の心構えもなっていない。総じて、自分と同格以上の相手との戦闘経験が少なすぎる、とリョウハは評価する。

 わざわざ、それを口に出したりはしない。

 そんな暇があったら追撃戦だ。折った腕をさらに痛めつけつつ、首を固めにかかる。銃を仕込まれた左腕を自由にしておいたら彼以外が危険だ。そちらの動きも拘束する。


 そうしている間に掃除用の小型ロボットが動き出した。ヒサメともう一人の女の子をラウンジから運び出していく。ヒサメのコピーはいい仕事をしている。


「そうか! 痛覚を切って宇宙服のパワーアシスト機能だけで動いているな!」


 テヅカの考察。

 当たらずとも遠からずだが、正解に近い答えを導き出せたからと言って、何が出来るわけでもない。決着がつくまではあと秒単位の時間ですむ。


「おまえの最後の言葉はそのセリフで良いのか?」

「クソが! 俺は死んでやらねえ! もっともっと、すべてをぶち壊してやる! それが俺の存在証明だ!」

「そんな迷惑な証明は要らない」


 一度戦闘に入ったリョウハに慈悲はない。

 重宇宙服のパワーを最大にする。テヅカの首を折りにかかる。首の骨が折れた程度では死なないだろうが、神経が繋がらなければ首から下が動かなくなるのが道理だ。そうなればとどめを刺すのは造作もない。


「さよなら、兄貴」


 小さなささやきと共に終わらせるつもりだった。


 その時だった。リョウハをとてつもない衝激が襲った。

 リョウハの身体が振り回される。何が起きたのか、彼にもとっさには理解できない。


 自分の居場所がヤシャのコクピット内である事を思い出すまでに、たっぷり1秒以上かかった。今まで自分の身体として使っていた重宇宙服とのリンクが切れている。

 身体におかしなGがかかっている。どうやらヤシャがスピンしているようだ。ヤシャのジャイロで吸収しきれないほどのエネルギーが襲って来たとは一体何事?


 とりあえず、人型に変形させて手足の動きで回転を止める。いわゆるAMBACという奴だ。


「リョウハ、無事ですか? 答えてください!」

「リョウハ君、被害状況の報告を!」


 無線がギムと司令のステレオでうるさい。

 というか、無線は先ほどから繋がっていたようだ。

 それにも気付かないとは自分がどれほど慌てふためいていたのか、軽く自己嫌悪におちいる。


「こちらヤシャ。パイロットには大きな損傷はない。機体の被害も小さい。ジャイロが停止。……あとは、翼の端部がねじ切れている。真空中なら問題ないが再度の大気圏突入は難しい」


 報告しながらヤシャのセンサー系と航行ログをチェックする。

 翼端に何かがぶつかったような動きをしている。それなのに、衝突した相手が見当たらない。テヅカとの格闘戦に集中していた間ならデブリの接近に気付かなくても不思議はないが、激突の痕跡も残っていないのは普通ではない。

 ギムたちが無事で良かったとか何とか声をかけてくるが、今は社交辞令の時間も惜しい。


「ログを見てもこちらからでは事故の原因が特定できない。何があった?」

「リョウハ君。真空エネルギー砲だ」

「なんだって?」

「リョウハ、つい先ほどセンチピードの本体が動き出した。大気圏を離脱して衛星軌道上を周回中だ。それも、どうやら人間が制御していないらしい。奴は現在レーダーから通信機から、持っている機能を片っ端から試している」


 リョウハの思考も一瞬停止した。

 何者かがセンチピードの制御を乗っ取った? その何者かは異星生物?


 だとしたら、その方法を教えてしまったのは彼自身な気がしないでもない。

 異星生物の目の前でヤシャを自分の能力で直接制御したのがお手本になった可能性はある。

 お手本なしでも時間の問題だったかもしれないし、深く考えるのはやめよう。


「乗っ取られたセンチピードがめくら撃ちした真空エネルギー砲がヤシャの翼端をかすめた、という事か。敵対勢力として撃破対象にして良いか?」

「もう少し待ってくれ。生存者がいないかどうか呼びかけているところだ」


 リョウハはうなづいた。

 正体さえ分かれば対処の難しい敵ではない。問題はもう一つの相手と二正面作戦になる事だ。


「ヒサメ、聞いているか? テヅカはどうしている?」

「重宇宙服をふりほどいた。中身がないのに気づいてすごい顔をしている」

「ヒサメ君、無事だったのならこちらにも連絡をくれないかね」

「別に無事でもない。私は本体の人格コピープログラムにすぎない。私の身体はまだ意識不明」

「コピーでも構わないから連絡をよこせ」


 テヅカの脅威度は依然として高い。

 センチピードも放置しておくと戦力が増加しそうな気配だが、その上限は十全に制御された観測用の移動基地のそれに等しい。


「テヅカの相手が出来るのは俺だけだ。ヤシャは金剛とのランデブーを優先する」

「了解した。コピー君、金剛の機能のロックは外せるか?」

「無理、それはが出来るのは本体だけ」

「では金剛ではヒサメ君の治療とテヅカ何某のかく乱と足止めに専念する。金剛の制御が回復次第、センチピードから距離をとる。宇宙を旅する腕で我々が異星生物に遅れをとる事はない。相手は宇宙は素人だ。放っておけば大気圏内に落ちてくれるかもしれない」


 テヅカとリョウハの第二ラウンド、そして金剛とセンチピードの対決の構図が決まる。

 そして、翼を持った黒豹はどこかやさぐれていた。黒い破壊者の名が泣いている。


「あのキノコには私も借りがあるんですけどね」


 宇宙用の武装なし。推進剤不足の降下艇では観測と通信の中継地点として活躍するしかなさそうだった。


「仕方ありません。出来ることをやりましょう」

テヅカ「俺の名を言ってみろ!」

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