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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
恐怖の宇宙生物 強襲揚陸艦『金剛』
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3-18 オーガーロードとリビングメイル

 テヅカは一見すると油断しているようだった。

 目の前の女の子に無造作に蹴りを入れ、肋骨の何本かをへし折った。ラウンジへ乱入した重宇宙服には目も向けない。

 だが、戦闘用強化人間の聴力なら重宇宙服の接近になど気づかないわけがない。つまり女の子に暴行したのは乱入者を怒らせ冷静さを失わせるためのポーズだ。

 実際にはリョウハはヒサメの無残な姿を一目見ただけで激怒しているのだが。


 バーニア全開で突進するリョウハにテヅカは超高速で反応した。

 頭からぶつかって来る重宇宙服の進路から身をそらす。すれ違いざまに斬って捨てるべく、右手首から伸縮式の振動ブレードを伸ばす。


 テヅカは油断はしていなかった。が、最大限の警戒をしていたとも言えない。相手は民間船のエアロックに常備されているただの重宇宙服なのだから。


 リョウハが操る重宇宙服の腕が振動ブレードを巻き込むように動いた。

 振動ブレードは重宇宙服を両断し得る。だが、それはキチンと刃筋が通っている場合に限られる。宇宙服の装甲には深い傷が付いたがブレードを受け流すことに成功する。

 受け流しに失敗しても「重宇宙服の」腕が落ちるだけなので気楽な物だ。


 ただの民生品に攻撃を受け流される。

 普通ならあり得ない出来事にテヅカの反応が遅れた。


 リョウハが操る機械仕掛けの手が振動ブレードが伸びる生体甲冑の手首を掴んだ。

 重心の関係で一回転する。

 重宇宙服と壁の間でプレスする形でテヅカを投げて叩きつけた。……さすがにいつかのように関節を極める余裕まではなかった。


「グハァ!」


 テヅカが思わず声を漏らす。

 内臓にダメージを与える事に成功。再生能力も高い強化人間だ、致命的なダメージにはならない。しかし、一時的にせよその動きは鈍るはず。

 このまま一方的に撃滅する。

 リョウハは拳で蹴りでバーニアでラッシュをかけた。


 生体甲冑(タイタン)には名前に反して大した装甲はない。タイタンの主要な機能は装着者に対するエネルギーの供給と宇宙空間を移動するためのバーニアだ。打撃技に対する防御は装着者の筋肉に頼っている。

 つまり、殴れば殴っただけテヅカの体力を削りとれる。


「グウォ! ボケが!」


 テヅカの肌色は濃いグレーになっていた。

 リョウハの青鬼と同じ、超人的な身体能力を発揮できるモードだ。タイタンからのエネルギー供給があるためタイムリミットは存在しない。


 テヅカは重宇宙服と拮抗する自らのパワーとそれを上回るスピードと柔軟性でリョウハの技に対抗した。

 テヅカの手足が重宇宙服の装甲を叩く。しかし不十分な体勢からの打撃など何の効果もない。頼みの振動ブレードは腕を掴まれているため使用できない。反対側の腕には小型の銃も内蔵されているが、装甲板に対して有効な武器ではない。


 リョウハは細かい打撃の連続でスタミナを奪う。隙があれば関節を極めようとする。


「ありえねー、って言うんだよ!」


 テヅカは闇雲に自分のバーニアを噴射する。何でもいいからとにかく動く、という戦術。


 その程度、とリョウハは思う。

 今は彼の方に余裕があるのだ。勢いをつけてくれるなら、その勢いを利用してまた壁に叩きつけてやる。


 !


 しかし、余裕があるからこそ、彼は気づいた。

 回転しながら移動する彼とテヅカの進路上に意識のないヒサメの身体がある。普通の人間としても体力のない彼女がこの回転にぶつかったら、良くて重傷。高確率で即死もある。


 肝が冷えた。


 とっさに手を放す。

 テヅカの身体をヒサメを巻き込む進路から蹴り飛ばす。


 テヅカも戦闘用強化人間、リョウハの同類だ。無様に壁に激突したりはしなかった。

 壁面に綺麗に着地する。そして、ニタリと笑った。

 意識のないヒサメに目を向ける。隙があればそちらを攻撃するぞ、という意思表示。

 リョウハとしてはヒサメをかばう位置に移動せざるを得ない。


 手を放してしまったのでリョウハの優位は失われた。それどころか行動の自由度を失った分、不利になったとも言える。リョウハはヤシャの到着まで時間をかせぐという本来の戦術に立ち返る。


 テヅカは身体の埃をはらう仕草をした。


「ずいぶんとゴツイ物を着込んできたじゃないか。おまえ、リョウハだろう」

「……」


 リビングメイルは答えない。

 だんまりでの時間稼ぎ、ではなくてこの身体でどう喋ればよいかとっさに見つけられなかったせいだ。

 スピーカーから声を出そうとして可聴域から外れた超音波を発してしまう。

 見かねたヒサメ(ソフトウェア上の分身体)がサポートに入ってくれた。クリアな音声をいつものリョウハの声で出力できるようになる。


「なんとか言えよ」

「今のお前に話す言葉など、降伏勧告だけだ」

「言うようになったじゃないか。だが、口の利き方に気を付けろよ。先輩が相手だぞ」

「その言葉、そっくり返そう。上官に対する態度がなっていないぞ、少尉!」


 リョウハは叱責した。

 テヅカはポンと手をたたく。


「そういえば、お遊戯大会の優勝で昇進したんだっけ? おめでとう、って言っとくべきか?」

「それが普通の礼儀だろう」

「普通ってのは、俺たちには一番縁が遠い言葉だな」


 まぁ、その通りだ。

 戦闘用強化人間が一般人から遠いというばかりではない。同じオーガーと比較しても遠い。

 普通の同胞たちは今は何をしているだろう?

 上官の命令に盲従しているか、命令を得られなくて延々と待機しているのではないだろうか?


 リョウハに自分で考えるという事を教えてくれたのは、このテヅカだ。その事は感謝している。その為に問題児あつかいされるようになったとも言えるが、そうなる素養は元からあったような気もする。


「昔のよしみで一応、聞いておく。投降する気はないか? 戦時捕虜、ではないか。脱走兵扱いにしてやるぞ」

「それって銃殺だろうが。……交渉にもなっていないぞ」

「投降しないのなら、遠慮なく殺そう」

「投降しても殺すんだろう?」

「少し気がとがめるが、殺そう」


 即答するリョウハにテヅカは失笑した。コイツらしくもない言い草だ。論理で動いていない。

 戦闘中に論理より感情を優先する? 精密な戦闘機械のようなこの男が?


「リョウハ、お前、怒っているのか?」

「こういうのが怒りなのか? 何故だか知らないが、貴様を無性に殺したい」

「何故だか、ねぇ」


 テヅカはやれやれと両手を広げた。

 彼はリビングメイルを面白そうに眺めると、その後ろのヒサメに目をうつす。


「よし、決めた。お前を殺したらそっちの()の味見をしよう」

「!」


 ブチギレた。

 何故だか知らないが、リョウハの心が殺意で埋め尽くされた。


 リビングメイルは突進した。

 技巧も駆け引きもない、殺意のみに彩られたまっすぐな突進。


 テヅカは待ち構えていた。

 最初の接触とよく似た構図だが、今回はテヅカも相手が自分と同等の反応速度を持つと承知している。

 テヅカは振動ブレードで最速の突きを放った。リョウハの反応速度であっても重宇宙服の性能上、絶対に回避できない突きだ。

 振動ブレードは重宇宙服の左の肩口から内部に向けて深々と突き刺さった。

 位置からしてこれは確実に心臓を貫いている。

 戦闘用強化人間の生命力なら即死はしない。しかし、心臓が壊れたまま自由に動き回るのも無理だ。再生能力に頼ろうにもブレードが刺さったままではどうにもならない。


 勝った!


 テヅカは確信してニンマリと笑った。

テヅカ「殺ったか?」

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