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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
恐怖の宇宙生物 強襲揚陸艦『金剛』
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3-15 邪鬼進撃

 レツオウ・クルーガルは顔面蒼白になっていた。

 失態だ。

 大失敗だ。

 テヅカ・ウォードク、この男の危険性は認識していた。軍や人体工房内の細かい事情はわからない。しかし、この男の容姿と名前はリョウハとの繋がりを予想させるのに充分だ。


 この男に対して隙を見せない。

 当初はそれを念頭において行動を決定していたはずだ。


 それが、赤いキノコたちへの対応に追われて、知らず知らずのうちに優先順位が下がっていた。ほんの僅かでも隙を見せたらすかさずそこを突いてくる。テヅカという男はやはりリョウハの同類なのだろう。


「リョウハ君をすぐに呼び戻したまえ! フウケイ船長、少しでも良い。可能な限り時間を稼いでくれ! ヒサメ君は居るか?」

「聞いている」

「あらゆる手段の使用を許可する。なんとしてでもあの男を食い止めてくれ!」

「大気圏内用装備の作製に時間をとられすぎた。金剛の防衛システムの構築は未完成。あの男の戦力がリョウハの半分もあったら食い止めるのは不可能」

「半分もあるのか? リョウハ君はチャンピオンだろう?」

「リョウハの同型が全員大会出場していたわけじゃない。テヅカ・ウォードク、で検索。リョウハより一年年長。化学物質の合成・散布能力を持った暴徒鎮圧用の強化人間として作製された。階級、少尉。先月、亜光速物体の到来直前にダフネ補給泊地に駐在武官として赴任。賞罰、特になし。不自然なぐらいになし。……記録抹消の痕跡を発見」

「軍の記録が書き換えられているのか?」

「なんらかの不祥事があったものと思われる。前任地で問題を起こし、ほとぼりを冷ますためにダフネ補給泊地にやって来たと推測」

「リョウハとは逆のタイプだな。リョウハなら問題を起こすにしても堂々とやるし、それで罰を受けるなら平然と受け入れる」

「同意」


 レツオウがヒサメと話している間にも、第二管制室のフウケイは動き出した。

 メインロケットを噴射してテヅカの機体ストームバグSSRから離れようとする。


 しかし、相手は正式採用の軍用機だ。大気圏離脱時に見せた10G加速もまだまだ余力を残したものに過ぎない。金剛の加速性能は通常時で3G、かなりの無理をして5G程度。とてもではないが勝負にならない。


 ストームバグは宇宙用高機動モードに変形していた。

 人型になるヤシャのような趣味的な変形ではない。デルタ翼と機首を折りたたんで全長と全幅を抑え、よりスムーズな旋回ができるようになった。

 まあ、それは誤差程度のものでしかない。機動性に関しては最終的には搭乗員の対G能力という絶対的な差が存在する。


 金剛とストームバグの間の距離が縮まる。

 フウケイは逃げきるのは諦めたようだ。今度は回頭して推力方向をストームバグに向ける。お互いの相対速度を増大させてすれ違ってしまおうという意図だったが、テヅカはそれに軽々と対応した。あざ笑うかのように金剛の直前で停止してみせる。


「司令、無理です。機体の性能も、悔しいけれどパイロットの腕も違いすぎます!」

「リョウハたちは神経の反応速度も演算能力も強化されている。脳チップを入れた程度では性能諸元的にかなわなくて仕方ない」


 フウケイの叫びにヒサメの解説が入った。


「ヒサメ君、なんとかならないか?」

「悪あがきはして見る。……効果の保証は出来ない」


 ストームバグから単分子ワイヤーが射出される。

 金剛の外殻に吸着。

 軍用コードによる有線ハッキングが行われる。通常の船舶であれば強制的に停船させられる所だが、ヒサメはそれに抵抗・無効化する。


 ワイヤーを巻き取りストームバグが接近してくる。

 ワイヤーが吸着しているのは金剛の上面の増加装甲部分だ。


「船長、しばらく動かないで」

「了解」


 テヅカの油断を誘うべく、メインロケットを停止させる。

 戦闘用の強化人間がこの程度で油断するとは思えない。油断したところでその反応速度が目立って低下するとは考えづらい。それでも、何もしないよりはマシだ。

 接近してくるストームバグを充分に引きつけ、ヒサメは爆発ボルトに点火した。ワイヤーを吸着された上面増加装甲を分離、ストームバグにぶつけに行った。

 当たらなかった。

 軍用の快速艇はひらりと避けた。


 ヒサメは二の矢を用意していた。

 装甲を分離した下にグローリーグローリアから取り外した小型のバーニアを並べていた。ロボットアームに保持されたバーニアが炎を吐き出す。本来の用途はバーニアだが、現在の使用目的と機能は近距離用の拡散ビーム砲だ。軍用機を破壊はできないまでも直撃すればそれなりのダメージを与えられるはずだ。


 それは奇襲と呼べる攻撃だった。

 しかしテヅカは効果範囲の広い拡散ビームすら軽々と回避した。


 反撃がやって来る。

 ストームバグは連絡機であり非武装だ。だが「効率的な反動推進機関はそのまま効率的な武器になる」という法則は金剛側にだけ適用されるものではない。

 ストームバグの噴射炎が拡散ビーム砲群を襲った。快速連絡機の噴射炎はグローリーグローリアの物より高速であり収束率も高かった。ロボットアームごとバーニアたちが爆散する。


 軍用の強制通信がふたたび繋がる。

 邪悪なる鬼は嗤っていた。


「少しは楽しませてくれたが、まだまだ甘いぞ。言っておくが、俺は兵器として造られたのだ。民生品ごときが殺し合いで俺の相手になれるはずがない」


 レツオウは苦虫を噛み潰しつつ、自分からの通信を繋いだ。

 フウケイの奮闘もヒサメの機転も多少の時間かせぎにしかなっていない。かくなる上は彼が弁舌でもって相手をするしかない。


「テヅカ君、レツオウだ」

「あん?」

「今さら何の為にこんな事を、などとは問わん。が、少し疑問があってね。リョウハ君は自分を『軍人である』と定義している。それなのに君は『兵器』なのかね?」


 どうでも良い疑問ではある。しかし、今は少しでも長く会話を交わしたい。ならば相手が興味を持ちそうな話題を持ち出すべきだ。


「リョウハの奴はまだそんな甘い事を言っているのか?」

「彼は自分を軍人であるとして、その範疇で行動しようとしている。……それが成功しているかどうかは別だがね。正直な話、彼がやっているのは軍人ごっこじゃないかという疑惑が晴れん。周りに『真っ当な軍人』と言うものが居ないから仕方のない話ではあるが」

「アンタが結論を出したじゃないか。今どき軍人らしい軍人なんて居ない。無茶振りをして下の者を苦しめる上位者(アホ)か最初から戦力として製造された物体のみ。ならば俺がどちらの側かは問いかけるまでもない」

「君が兵器ならば誰かに使われるべきだとは思わんのかね?」

「リョウハに聞いていないのか? 俺は不良品だ。人体工房時代、工房の二大問題児が俺とリョウハだった。俺を制御する枷が無くなった以上、誘導が外れたミサイルとして好きなように飛んでせいぜい派手に爆発してやるさ」


 こいつは上位者が居なくなって制御が外れた狂戦士(パーサーカー)、先日の戦艦ビッグアイの同類だ。人の姿をしている分よけいにタチが悪いと見るか会話が成立するだけまだマシと見るかは微妙なところだ。


「君にはリョウハ君と敵対する事に思うところは無いのかね? 自身を軍人と定義する彼が、自分の乗る船に武力を行使されて黙っているとは思えないのだが」

「アイツがどこまで腕を上げたか見てやるのも一興さ」

「彼が強化人間同士の闘技大会で優勝しているのを知らないのかね?」

「五分の条件で始めるお遊戯大会の成績なんか実戦戦果とは何の関係もないね」


 スクリーンの向こうでテヅカは話を断ち切るようにヘルメットを被った。

 それは黒い仮面だった。テヅカの素顔は見えなくなるが、ヘルメットにも角のような意匠がある。汎用品ではなく戦闘用強化人間の専用兵装だ。


 なぜあらためてヘルメットを着用した?


 レツオウは疑問に思ったが、その疑念は部下からの報告によってすぐに晴れた。

 最悪の報告だった。


「テヅカの宇宙機、金剛の増加装甲内に侵入!」

「なんだと!」


 強化人間たちのマルチタスク能力は高い。

 テヅカ・ウォードクにとってはレツオウとの会話など宇宙機の操縦の片手間にこなせる作業に過ぎなかったようだ。


「時間稼ぎも出来ないのか、私は!」


 レツオウの嘆きに、邪鬼の哄笑がかぶさった。

 ストームバグのキャノピーが開いていく。ストームバグから送られて来る映像に金剛に取り込まれたグローリーグローリアの姿が映っていた。


「あそこの女たちは俺が確保していたはずなんだがな。……取り返させてもらうぜ」


 どこかで悲鳴が上がった。

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