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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
恐怖の宇宙生物 強襲揚陸艦『金剛』
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3-13 機神覚醒

 ヤシャはその圧倒的な推進力を利用して軌道を変更した。底面をシンジュに向け、大気圏に突入する。

 大気との摩擦で機体の表面温度が跳ね上がる。

 ヤシャのフライングアーマーや本体の装甲部分は超大型大気圏往還機であるガスフライヤーの物をそのまま使っている。強度的な問題は一切ない。

 やがて減速して火の玉状態から空力による飛行へ移る。


 !


 飛行をはじめてからリョウハは眉をひそめた。

 フライングアーマーを装備したヤシャは確かに飛行ができる。だが、スムーズにとは言いがたい。


 バランスが微妙に狂っている。

 安定が悪いのは航空機が運動性を確保するのに有効な手段だが、それならば情報機器によるサポートが必要だ。今のヤシャはCCV機を完全手動で操作しているのに等しい。それなのに星の全域を吹き荒れる暴風の中を飛ばなければならない。


 今回は充分な余裕を持って作製されたと思ったが、実機で風洞実験までした訳ではない。やはり万全ではなかったようだ。


 リョウハはフライングアーマーの設定を変更、翼の上反角を調整する。

 放っておいたらひっくり返りたがる機体を少しでもまともにしようとする。ヤシャが宇宙機としてジャイロで安定を保つ仕組みでなかったら、純粋に空力だけに頼っていたら大気圏突入中に上下が入れ替わって大惨事になっていたかも知れなかった。


 暴れる機体を強引にねじ伏せて飛行を続ける。

 金剛からの通信が入る。


「リョウハ君。センチピード第一分体と無線がつながった」

「その通信、こちらでは傍受できないが?」

「普通の通信ではない。原始的なアナログの電波だ。正直言って、ブラウの状態のせいで雑音がひどい。意思の疎通が出来ているとは言いがたい有様だが、あちらは第二分体がやられたような破壊的なコードやハッキングを警戒しているらしい。原始的な手段以外では話をするつもりはないそうだ」


 過剰な警戒、とは言えない。

 金剛の側に敵対する意思があるかどうかはともかく、まともに通信を繋いだらヒサメのハッキングの餌食にされるのはまず間違いがない。


「それは……。賢明だな」

「とりあえず、こちらの最大戦力が接近中である事は伝えておいた。存分にやりたまえ」

「了解」

「それと言いそびれていた事だが……」


 唐突に通信がプツンと切れた。

 何か緊急事態が起きたかと思ったが、違った。金剛が地平線の向こうへ消えた事による通信途絶だ。

 軌道上に中継衛星をいくつか残しておくべきだったと後悔する。アナログ通信でなくとも電波の状態は悪いのだ。直接見える範囲で無ければ通信は難しい。


 だが、まあ。聞くべき事はすでに聞いている。

 救助対象がいて、敵がいて、攻撃許可が出ているならそれ以上何が必要なのか?


 基本的に宇宙機であるヤシャには熱核ジェットなどという洒落たものはない。

 推進剤を消費して超高温・超高速のプラズマ流を吹かしながら飛行する。音速を超えた衝撃波を発生させまくる。こんな時で無ければ環境破壊とか衛星観測の邪魔だとか文句を言われそうだ。


 今は速さこそが重要。


 レーダーが移動を続けるセンチピードとそれに覆いかぶさったキノコもどきを捉える。

 暴風が地吹雪をおこしていて肉眼では見えづらい。だが、脚部が停止したりまた動き出したりといった不自然な挙動は先刻よりさらに酷くなっている。


 センチピードでもヤシャを確認したようだ。

 発光信号が送られてくる。

 短く三回。長く三回。そしてまた短く三回。……昔ながらのモールス信号、SOSだ。


 遠慮はいらない、って言う事だな。


 獲物を前にした舌舐めずりも、この状況なら三流の所業ではない。


 ヤシャは低空飛行に移る。

 敵の対空戦能力が不明なのが若干不安だ。さすがに高速で飛行する物体を捕捉できるほどではないと期待する。それに、今までの感触からすると核融合炉に対して直接干渉できるほどのパワーも無いだろう。

 万が一、この二つを兼ね備えられたらヤシャでも一瞬で爆散させられるが。


 まずは戦場を整える。

 センチピードの進行方向に生えている赤キノコどもをロックオンする。こいつらが味方という事はあるまい。一瞬だけ「非戦闘員のキノコ」というフレーズが頭をよぎったが、その場合でも「戦闘員のキノコが軍服を着用していないのが悪い」。

 

 レールガン、発射(ファイア)


 宇宙用の武装を地上で使用するのは火力過剰(オーバーキル)だ。

 ヤシャの主兵装はもはや地形と呼ぶべき巨大キノコを複数まとめて吹き飛ばした。


 前方の安全は確保した。


 ヤシャはさらにスピードを落とす。高度も落として地表すれすれを地面効果を利用して飛ぶ。

 そのまま上体を起こす。

 脚部は折りたたんでフライングアーマーの中に残したまま、上半身だけを人型に変形させて移動する。

 空を飛ぶ乗り物としては遅いが、地面の上を走る物体としては非常な高速でセンチピードに追いすがる。


 レールガンはもう使えない。

 補助兵装のハンドガンを引き抜き、半分になった円盤に銃撃する。


 異星生物に穴があく。反対側まで貫通するが、有効打になったかどうかは不明だ。

 キノコに穴を開けただけ、と考えれば無効。レパスの同類と考えればどこかに中枢部があるはずだが、それがどこかはわからない。


 中枢神経を置くのにふさわしい場所は全体の中央か感覚器官の近くだ。

 円盤の中心あたりに銃撃を集中させるが、手応えはない。


 効果のない攻撃を続けるつもりはない。点ではなく面を制圧する方法を選ばなければ。

 人型モードでの接近格闘戦を選択。大規模な破壊をともなう攻撃以外で面制圧を行うにはそれしかない。


 ヤシャは一旦、上空に舞い上がった。

 フライングアーマーを背中へ移動。

 脚部を展開。

 移動基地センチピードの甲板上に着地する。


 ……。


 ソフトウェアの不備がここにもあった。重力下で動き回るためのソフトが足りない。

 これまでヤシャは重力下で運用された事はない。加速するブースターの上に立った事ぐらいはあるが、その状態で本格的な機動戦闘は行なっていない。

 突っ立っているだけなら問題ないが、歩いたり走ったりするのは苦労しそうだ。


 面倒だがやるしかない。


 砲身を縮めたレールガンを背中にマウント。代わりにフライングアーマーから翼の部分を取り外す。

 単分子ワイヤー帷子装甲で造られた翼は格闘武器としての運用が可能だ。


 異星生物もヤシャを意識しているようだった。

 センチピードに絡みついていた菌糸がほどけ、ヤシャを包囲する。


 大きさではキノコの化け物の方に圧倒的に分がある。

 対してヤシャが有利なのは装甲強度。宇宙でデブリを跳ね返す装甲は地上で大砲の弾を跳ね返すそれに等しい。そして、保有するエネルギー量もヤシャの方が上のはずだ。いくら巨大だと言っても生体組織が核融合炉を上回るエネルギーは持てないだろう。


 普通に考えれば負けはない。

 特殊能力抜きならば、だが。


 異星生物が何かを仕掛けてきた。

 ヤシャの手足の動きが鈍る。かわりにセンチピードの動きが回復する。センチピードを止めるのに使っていたリソースをすべてヤシャに回したらしい。


 ただでさえ動きにくいのに、さらに水中にでもいるかの様な抵抗感。

 さしものリョウハも危機感を抱く。


 菌糸がヤシャに絡みつこうとする。


 動け。


 そう念じる。

 祈りやら勇気やらが奇跡を呼ぶなど全く信じていないが、相手と同じ遺伝子が彼にもあるのなら対抗できても不思議ではない。


 大気圏突入前に練習していた事が形になる。

 人型となったヤシャを自分の身体の延長として感じる。その内部のエネルギーの流れを把握できる。

 その流れに干渉してくる無作法な力を見つける事もできた。


 ヤシャは俺の身体だ! 俺の手足だ!

 ヒサメが与えてくれたもう一つの俺自身だ!


 巨大キノコからの干渉を振り払う。

 そして、操縦装置を通さずに自分の意思をダイレクトにヤシャに伝える。

 近づいて来た菌糸に対して翼剣をふるう。人型の機械が武術の達人の動きを行う。

 菌糸が寸断され、風でどこかへ飛ばれていく。


 なるほど、とリョウハは腑に落ちる。

 彼には脳にチップを入れたサイボーグとは違って、脳と機械を直結する事が出来なかった。それは外部からのハッキングを警戒しての事だと思っていた。

 その解釈は必ずしも間違ってはいないだろう。

 彼には外部からのハッキングを受けかねない機械的な脳チップは不要なのだ。生身の脳だけで機械を一方的に操る事が可能だ。そういう反則技(チート)が彼の能力なのだ。


「これが俺の本当の力か。……悪くない」


 とは言え、異星生物もそのまま負けるつもりは無いようだった。

 巨人形態のヤシャが見上げなければならない、半分になった円盤全体がズシャリと動く。


 巨大キノコはその植物的な部分をパージした。

 運動性に優れた戦闘形態の異星生物が現れる。


 怪獣とロボットの戦いが始まる。

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