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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
恐怖の宇宙生物 強襲揚陸艦『金剛』
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3-6 獅子の率いる羊

 リョウハ・ウォーガードは金剛の自分の船室にいた。

 そこへヒサメ・ドールトが訪ねてきたのは1時間ほど前だ。ランフロールのみんなで作ったという料理を持ってきた。

 その料理は微妙なできばえだった。だが、もちろんリョウハは気にしなかった。必要とあれば野生動物に喰らいついてそのまま食事にしかねないのが彼だ。生焼けの部分があろうと全く問題ない。


 食後は新装備についていくつか打ち合わせをした。そして、シンジュの今の状況を知りたいという話になった。

 データ通信ができる回線が開いていればハッキングによる情報収集が可能だ。

 試してみよう、とヒサメが言い出して現在に至る。


 リョウハとヒサメはベッドに並んで腰かけていて、その前に複数の映像が浮かんでいた。


 指揮官らしい剃髪の男。

 赤い菌糸に巻かれて絶命したパワーアシストスーツの男。

 センチピード内部に散乱する腐乱死体。

 宇宙の彼方から彼らを見下ろす金剛の超望遠映像もあった。


「切実に!」


 剃髪の男の叫びは真実、切実なものだった。


「指揮官殿、状況を教えてほしい。こちらから眺めているだけでは把握しきれない」

「俺だって何もわかんねーよ! 指揮官も何も、俺は他の連中よりほんの少し位が上だってだけで押し付けられただけなんだ!」


 最上位者という事で軍曹が部隊の指揮を任された状態だろうか?

 リョウハは思案する。実際には上等兵の最先任が指揮官に収まっている状態に近いのだが、彼にもそこまでは分からない。


「まずあなたの名前と地位は?」

「名はゴータマ。さっきそう決めた。地位は……解脱者だ。一般人と同等の権利を持っている」


 リョウハは首を傾げる。彼の知識には「解脱者」という存在は無かった。

「一般人と同等」というのが「他の連中より一段階上」につながるのだろうとは、なんとなく理解出来たが。


「ではゴータマ殿。後退した部隊を再編成して下さい。当座は菌糸が届かない距離で阻止線を作ります」

「阻止線?」

「敵がそれ以上侵攻できなくする防衛ラインです。こちらから見る限りでは第3と第4体節の間あたりが適当でしょう。阻止線の敵側にあるエアロックは絶対に開けさせないように。敵を基地内に侵入させてはなりません」

「分かった。……みんな! 第4体節まで後退しろ! そこより先に逃げた者は戻って仲間と合流するんだ!」

「基地内で作業をしている部隊はそれを中断、武装を整えて待機して下さい。そこには白兵戦装備しか無いのですか?」

「いや、白兵戦も何も、もともと戦うつもりが無かったんだ。障害物の伐採と発破をやるだけで」

「ただの菌類だと思って油断したか。得体の知れない異星生物なのに」


 ゴータマが指示を出している間に銀髪の少女がチャチャを入れる。


「みんながみんな、リョウハみたいに戦う事ばかり考えている訳じゃないからね」

「正体不明の相手がいるなら不測の事態にそなえるべきだ」

「彼らはリーダー向きじゃないから仕方ないね」

「そうなのか?」

「指示に対して従順になる様に調整されているはずよ。彼らは通称デッドマン。量産タイプの強化人間ね。強化されているのは量産性と記憶や経験を抽出して次の世代に受け継ぐ能力だけど」

「数で押すタイプか。戦いで損耗しても補充される新兵がみんな古参兵並みの能力があると考えると、それはかなり強いぞ」

「そのかわり個々の能力は控えめ。リョウハなら一人で全滅させられるんじゃないかな」

「俺たちが雑魚だって事ぐらい、言われなくても分かっている」


 解脱者はむくれた。

 彼は「控えめな能力」だけを継承し、デッドマンとしての利点は失っている。


「それで、そちらにはどんな武器がある? 接近して発破をかけようとした、という事は重火器の類はない?」

「ある訳無いだろう。ここは軍事基地じゃないんだぜ。対人用の銃なら何丁かあるはずだが。……それより、アンタはこっちに来れないのか? 軍人なんだろう?」

「公社所属のガスフライヤー『金剛』に乗ってそちらへ向かっている最中だ。到着はおよそ4時間後。俺だけ最大加速で先行しても良いが、大気圏突入前に減速が必要なことを考えると到着予定時刻はさほど変わらないな」

「4時間もか」

「大気圏突入までで4時間だ。そこへ到着するにはもう少しかかる。それまでは様子見に徹した方が……」

「なんだ?」


 映像の中で赤いキノコが蠢き始めていた。

 震え、波打ち、蠢動する。

 キノコの一部が口を開き、そこから赤い何かが現れた。

 それは巨大キノコをそのまま縮小した様な円盤型をしていた。円盤の裏側には足が生えていてモゾモゾと動く。大きさは人間より少し大きいぐらいだろうか?

 円盤型の生き物は一匹では無かった。次から次へ湧き出してくる。


「何だよ、アレ!」

「白血球、あるいは兵隊アリ。何かそんな物だろう。本体の菌糸が届かない所にいる敵にはアレを投入する様だな」

「どーするんだよ!」

「投入って、アレにはそこまで考えるほどの知能があるの?」

「結構賢いぞ。単なる虫ケラだと思わない方がいい。今も防衛ラインには近づいて来ない。もう少し数が揃うまで待っているんだろう」


 これは本格的に対策を考える必要が出てきた。

 リョウハは映像を見回す。武器として兵器として使える物を探す。あっさりと目に入って拍子抜けする。


「何だ、マイクロ波の発信機を持ち出しているじゃないか。なぜ使わない?」

「あれは故障しているんだ」

「使えないのか?」

「いや、違うかも。プラズマカッターも効かなかったし、マイクロ波も何かの理由でダメージにならなかっただけかも」

「プラズマカッターが効かない?」


 最近、同じような話を聞いた。というか戦った。

 リョウハの場合は殴る蹴ると実体弾ライフルが主兵装だったのでエネルギー吸収能力は実感できなかったが。


「ヒサメ、カグラさんの所にこのデータを送信」

「了解」

「司令の所にもシンジュと連絡がついたと言って状況を送って」

「もうちょっと遊びたかったな」

「敵が出てきた以上、遊びじゃ済まない」

「今まで遊んでたのかよ!」

 

 遊び気分でなかった、とは断言できない。

 リョウハにとっては自身の生死がかかった戦いさえ遊びの一種だが。


「そちらこそ、遊んでいる暇は無いぞ、ゴータマ殿。戦列を整えろ!」

「そんな、俺たちには戦う力なんて無い」

「弱いからこそ、戦意が高い事を示すんだ。ドラを鳴らせ! 嚇声を上げろ!」

「そんな無茶な」

「相手だってこちらの戦力を把握している訳では無い。威嚇するんだ。戦う姿勢を見せなければ一方的に蹂躙されるぞ!」


 ゴータマもリョウハの言葉が正しいと理解するだけの知性はあった。

 しかし、戦列を組めと言われても具体的にどうすれば良いのかわからない。ハゲ頭をふってアタフタしている。


「ゴータマ殿。宜しければそちらの前線指揮権をこちらにいただきたい。あなたたちは文民だが、今は軍として行動しなければ生き残る事は不可能だ。今から私はあなた方を義勇軍の一種として扱う」

「リーダー役を引き継いでもらえるのか?」

「戦闘の指揮権だけだ。それ以上は分を超える」

「それだけでも、頼む!」


 ゴータマの言葉と同時にヒサメがリョウハに目を向ける。


「今からリョウハの言葉をセンチピード全体に放送」


 リョウハは頷く。


「こちらはリョウハ・ウォーガード中尉だ。現時刻を持ってセンチピード第二分体の戦闘指揮権を引き継いだ。各員は私の指揮に従って戦闘参加せよ。ゴータマ殿には副官役を頼む」

「すまん、みんな! 俺には戦争の指揮は無理だ! 彼に従ってくれ」

「甲板上の部隊はアックスを装備している者を最前線とする。敵に向かって横一列に並べ。敵に横や後ろを取られないように仲間同士で援護し合うんだ。パワーアシストスーツを着ている者はその後ろに立て。前線が突破された時の穴埋め要員とする。……それ以外の者たちは一旦基地内部に退避。各自の判断により武装を整えろ。ただし、この敵に対しては熱や電磁波による攻撃は効果がないと予想される。武器が見つからなければバリケードになる物を運び上げるだけで構わない。動け!」


 量産人間たちはパラパラと動き出す。

 やや緩慢な動きにリョウハは苛立つ。しかし、何の訓練も受けていない素人ならこんなものだろう。彼らの士気を鼓舞する必要があると判断する。

 彼は声を張り上げた。隣にいたヒサメが耳をおさえて避難するほどの大声だった。


「命令を受けたなら、黙って動かずに声を出せ! いいな!」

「了解」

「声が小さい! 戦って生き残るぞ、デッドマンたち!」

「了解‼︎」


 死者たちが生き残るための戦いが始まる。

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