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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
恐怖の宇宙生物 強襲揚陸艦『金剛』
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3-1 新兵器開発中?

 オプションパーツその他を大量に取り込んだ金剛は宇宙空間を順調に航行中だった。


 行く手を遮る物はない。

 レツオウ・クルーガル司令は金剛とビッグアイの戦闘について宇宙に宣伝していた。曰く「暴走状態にあったブラウ惑星系最強の戦闘艦と交戦し、それに勝利した」と。

 どんな勝ち方であったかは関係ない。ビッグアイを撃破したという事実のみが重要だ。そしてその事実はブラウ惑星系で生き残ったどの宇宙船・宇宙基地からも確認する事ができる。

 結果、こと武力という分野においては惑星系内に金剛と張り合おうという勢力は皆無となっていた。


 が、ヒサメ・ドールトにとって先の戦いは満足がいく物ではなかった。

 彼女は今、難しい顔をしてコンソールとにらめっこをしていた。


 実は彼女はリョウハに引きこもり状態から引きずり出された後、彼の部屋を占領していた。

 そのまま事実婚へ、という勢いだったが直後にリョウハが遠征に出たので「同棲」とは言えなくなった。そのままリョウハの部屋に寝泊まりしていたが、彼が救助された後に追い出された。

 単純に「狭い」という理由で。


 リョウハは本人の身体が大きい上にガンロッカーなど職業上必要な家具も多い。体格的には小さいとはいえ、女の子を同居させる空間はないというのが彼の主張だ。

 それでもヒサメが押し切れば同居を継続するのも可能だっただろうが、彼女もつい納得してしまった。


 朝早くから起きだして日課のトレーニングを始めるリョウハは暑苦しい、と。


 不規則な引きこもり生活が基本のヒサメと規則正しい修行僧のような生活のリョウハでは、生活のリズムが会うはずもない。この金剛全体が自分の身体とも言えるヒサメならリョウハの様子を伺うのに苦労する心配はない。彼女はあっさりと二人での生活を諦めた。


 躍動するリョウハの肉体美を見て身悶えするのはこっそりやればいい。


 そして彼女は引っ越した。

 現在は旧グローリーグローリアの客室ブロック、現ランフロール女学院の学生寮で寝泊まりしている。


 彼女が頭を悩ましているのは新兵器に関してだった。

 コクピット以外のほとんどの部分を喪失したヤシャについてはヒカカ・ジャレンに再建を依頼している。元々があり物のパーツを組み合わせた機体だ。ヒカカ班長たちに任せても不安はない。「あり物のパーツ」がもはや存在しなければ部品の製作依頼がくるだろう。


 しかし、ヤシャの再生産を行うだけでは同じような敵が出現した時にまたしてもリョウハが生命をかけた戦いをしなければならない。

 戦艦を相手にしても互角以上の戦いができる戦力を得ること、それがヒサメにとっての課題だった。


 最初はリョウハのとった戦術をそのままオートで再現するシステムを構築しようとした。

 高速のブースターと囮となる物を含めた多弾頭弾からなるシステム。

 対ビッグアイ戦と同じ条件でシミュレートしてみると勝率は三割を切った。あの状況が金剛側に有利だったことを考えると「次」の戦いではお話にならない勝率にしかならないだろう。加えて「前回の戦い」を敵側が承知している前提でシミュレートすると勝ち筋はほぼ無くなった。リョウハが乗り込んで戦うのなら敵の戦術に対応して柔軟に行動を変えるのだろうが、あの戦況判断のカンまで自動化するのはさすがのヒサメにも無理だった。


 リョウハの模倣による戦力の増強には限界があると判明した。

 ならば、と火力のアップを考える。


 粒子ビームぐらいなら造れない事もない。

 しかし、反陽子砲が相手ではどう考えても破壊力で負ける。同等の破壊力を実現しようとしたらそれだけ大きな運動エネルギーを与えなければならず、金剛の核融合炉では動力の確保に問題が出る。


「そもそも、相手は最初から戦闘艦として設計されていて異星人由来のオーパーツもふんだんに使用できる。そんなヤツにあり合わせの材料だけで戦いを挑もうって考えるのが無謀なのよね」


 どうやら正しい答えにたどり着いた様だ。

 それでもなんとか出来ないかと常識外の手段も夢想してみる。


 自己増殖する宇宙機雷を大量にばら撒いて戦闘宙域に必ず一個以上の味方機雷がある様にする方法(何年かかるんだ?)。

 相手の探知能力を上回るステルス性能を獲得する方法(これはまだしも可能性がある。しかし軍用艦のセンサーの限界は推測しか出来ない)。

 多段式の爆発で極めて大きな初速の物体を射出する方法(その多段式の爆発をひとつながりにすればただのロケット噴射だ。ついでに噴射炎を束ねて遠くまで届く様にすればそれがビーム砲だ)。


「ヒサメちゃん、ヒサメちゃん」


 考えが煮詰まって正常な思考能力を失っていると自覚した頃、彼女は自分の肩が揺さぶられているのに気づいた。

 相手は彼女と同い年ぐらいのはずなのに身体の成長では大きく差をつけられている金髪の少女、パトリシアだった。その胸部が羨ましい。カグラぐらいになるともう異次元の存在だから羨望も湧かないが、このぐらいなら「そのうち自分だって」と思ってしまう。


「パット? どうしたの?」

「ああ、良かった。ピクリとも動かないから死んでいるのかと思った」


 どうやら意識を身体から離し過ぎていた様だ。

 少し反省する。こんな事だから脳細胞がフラットになるのだ。


「大丈夫。金剛の強化案を考えていただけ」

「今より? 今のこの船だって元の姿より倍ぐらい大きいじゃない」

「中空の部分が多いから質量だと倍まではいかない。ペイロードは十分だと思うけど戦闘能力は足りない」

「戦わないのが一番だと思うけどね」


 確かにそうだ。ヒサメはうなずく。

 レツオウが対ビッグアイ戦の勝利を宣伝しているのはそのためだ。実態よりも強く見せる事により敵となる相手を少なくする。だが、その事はヒサメが手を抜く理由にはならないと判断する。政治的な努力で戦いを避けるのは司令の役目だ。ヒサメの役目は金剛に必要な機能を実装すること。彼女がサボれば万が一戦いになった時にリョウハが苦労することになる。


「それより、ヒサメちゃんは知ってる? この船が次にどこへ向かうか?」

「なんだか迷っているみたい。あちこちから救援要請があってどこからまわるべきか決めかねてる」

「緊急性の高いところから、とか出来ないの?」

「航路の関係もあるし、レツオウとしては大きくて強い所との関係を強化したいみたい」

「難しいんだ」


 パトリシアは難しい顔をして、そこから一転して笑顔になった。


「そんな金剛に対して私たちから提案があります。ブラウ惑星系観測プロジェクト、略してブラカン!」

「え?」

「ええっとね、私たちも役に立つ所を見せるためにブラウ惑星系の観測のやり直しをやろうという話が出たの。協力してくれるよね」

「レツオウたちだって素人が気づく様な異常は見落とさないと思うけど」

「そんなの分からないじゃない。見張る目と評価する脳は多いほど良いのが観測の鉄則。やってみて損は無いでしょう? それにさ、私たちには自分の目で現在の状況を確認したいという思いがあるんだよ。今がどんな状況か周りから聞かされるだけで納得したく無いってね」

「つまり私とかレツオウとかを経由していない一次情報が欲しいっていう事ね」


 それならば、とヒサメは了解した。

 どうせ大した手間ではない。グローリーグローリアの船室から金剛の外部センサーへアクセスできる様にする。操作の優先権は最低だから操船の邪魔にもならないはずだ。

 ついでに亜光速物体飛来前のブラウ惑星系の観測データもかいつまんで送っておく。


「これでよし、っと」

「ありがとう、ヒサメちゃん。愛してるわ!」


 パトリシアに抱きしめられ、肉体的接触に慣れていないヒサメは目を白黒させた。


 この話はこれで終わったはずだった。

 機械少女は気をとりなおして金剛の強化案の作成に挑む。今度は手元にあるパーツの種類など考えずに何でも手に入る想定で何が作れるか思案する。複数の案を出してその上で足りない部品の入手方法を考える。


 ブロ・コロニーの残骸がある宙域まで到達すれば何か良いものが手に入るだろうか?


「ヒサメちゃん、ヒサメちゃん!」

「なに?」


 パトリシアがまたしても駆けよって来る。


「私たちに色々と隠していたの? それとも本当に気付いてないの?」

「何か発見したの? 私は船外の事はあまり気を配っていなかったけれど」

「ちょっと観測しただけの範囲でも衛星シンジュに異変! ブラウのすぐ近くにもおかしな物が浮いている。アレは何なの?」


 ヒサメはパトリシアの提示した観測データにざっと目を通した。

 そして金剛の運行班が惑星系の光学観測をしていない事を確認する。彼らは惑星系内の人工物体に対してその安否を調べただけだ。それも金剛の情報処理系で加工されたデータしか見ていない。比較的無事な人工物体に対してメッセージを送るのが基本的なスタイルだ。

 非人工物体の探査は二の次以下。マンパワーが限られている事を思えばそれが間違っていたとも言えない。

 素人の女学生たちが乗り出すまでその穴が埋まらなかっただけで。


「このデータは検討の必要があるわね」


 ヒサメは新兵器開発の手を止めて、ある所へ通信をつなげた。


「リョウハ、話がある。すぐ来て」

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