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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
宇宙戦艦襲来 分離装甲艦『金剛』
22/69

2-4 全体集会 決定

 リョウハが演壇から退いた後、周囲の目くばせその他に押されてそこへ登ったのはやはりレツオウ・クルーガルだった。

 彼は遺伝子操作を受けた生まれながらの強化人間ではない。しかし、後天的に電脳チップを埋め込んだ情報処理特化型のサイボーグではあった。メモを見たりする必要もなく、人員を無造作に各所に割りふっていった。


 彼には迷いがない。反論の間さえ与えず決定していく。

 その様子を見て、リョウハは指導者とはこのぐらい有無を言わせぬ方がよいのかと自問する。なるほど、こういうのが人生経験の少なさであるのかと。


 もっとも、軍人を自任する彼が文民に対して頭ごなしに命令するのは問題があるのも確かだ。

 最強の強化人間である彼がその気になればこの場にいる全員を暴力的に制圧することもたやすい。格闘戦能力において多少なりとも相手になるのは黒い破壊者の異名を持つギム・ブラデストぐらいだろう。

 リョウハがレツオウと同じことをすれば暴力による支配の恐怖政治になる。難しいところだ。





 金剛の人員配置は次のようになった。


 全体統括、司令官。レツオウ・クルーガル。

 将来的には組織が『金剛』一隻の中では納まらなくなる可能性が示威され船長職とは分離されることになった。直属の部下には基地の運行班だったメンバーではなく事務職の面々が当たることになる。

 司令官選挙制度の導入やリコールの制度化も検討されたが、現状では無意味であると却下された。司令官などと言ってもリョウハとヒサメがその気になれば瞬く間に消し飛ぶ泡沫のごとき地位だというのがその理由である。


 船長代理。フウケイ・グットード。

 能力が足りないという事で『船長』と呼ばれるのは本人が固辞した。主に基地の運行班メンバーが直接の配下となる。運行班の中には彼より階級が上のガスフライヤー搭乗経験者もいたが、本来のクルーから横滑りということで彼が長となった。

 なお、金剛の留守番役はもう一人いたらしいが、その人物は人知れず息をひきとっていたのが発見された。フウケイが意識を刈り取られたのと同時期に炭酸ガス消火設備にやられたらしい。


 生活環境整備士、兼船医。カグラ・モロー。

 カグラは二職兼任となる。医師の資格を持つ者が他にいないので船医。ただし彼女の本職は人工生態系の構築や新種の生命体の創造であり、そちらの技能もこれから先は必要になると判断された。形式的には食堂のおばちゃんたちが彼女の配下だが、実質的には必要な人手は随時よそから借り入れるという事になるだろう。

 モロー一族がマッドなのは割と有名な話なので一刻も早い本職の医者の加入が切望されている。


 整備班班長。ヒカカ・ジャレン。

 こちらは基地の整備班からそのまま横滑り。班員も同様。問題点も話題も特にない。補給物資の入手が困難になるのでより一層の創意工夫が必要になるだろう、とは班長の弁である。


 情報・各種工作担当。ヒサメ・ドールト。

 既存の役職名を当てはめる事は難しいが、一番しっくり来るのは『技師長』だろうか。

 人形姫の名のとおり人間の部下は存在しない。無人の工場と自律型の自動機械が彼女の手足だ。当面はカグラ発注の食料生産施設の作成が主な仕事になる。


 保安部長。リョウハ・ウォーガード。

 リョウハはギム・ブラデストとともに船内の治安維持を担当する。しばらくの間は単なる雑用係以上のものには成らないだろうが、救助活動を行ない人員が増えたなら問題行動をおこす人間は確実に出る。『そんな時、青鬼と黒豹が目を光らせていれば心強い』と言われた。

 リョウハにとっては基地時代からの横滑りの任務だ。状況の変化によって重要度はむしろ増している。しかし、全責任を負っていた時から考えると拍子抜けするような軽い仕事に思えてしまう。

 彼は不満を口にだす事はなかったが、その内心は周囲にはバレバレだった様だ。さりげなく距離を置かれてしまった。





「人員配置についてはこの様に決定する。現在、船室の割り振りを作成中だ。しばらくしたら配布できるだろう」


 壇上からレツオウが室内を見まわす。


「さて、我々の今後の方針を発表する。我々は今、人類史上類例を見ない大混乱の最中にいると推定される。非公式の情報を見ずともここから観測できる部分だけでも恐るべき物だ。諸君も自分の家族を友人を案じているだろう。しかし、あえて言おう。その者たちの生存はほぼ絶望だと」


 言っている本人が感極まったのか、ここで一旦言葉が途切れた。少し目を赤くして続ける。


「このブラウ惑星系の人口の大半を支えていた大地、ブロ・コロニーは塵と化した。あそこで生活していた者の中で命を繋いだ者はごく少数だろう。その他の場所にいた者も多くは放射線にやられ、またはブロ・コロニーからの補給物資が届かない事でこれから死を迎える事になる。僅かに別の星系に行っていた者だけが我々の観測不能という壁の向こうで生存を夢想可能だ。そんな状況だが、我々に立ち止まるという選択肢はない。自力航宙可能な大型宇宙船はブラウ惑星系にさほど残っていないと思われるからである。助けを求める者がいるのなら我々が助けに行ってやればよい。補給が必要な所があるのなら我々が運んでやればよい。そうやって助ける誰かが我々自身の家族や友人である可能性は低いが、どこかの誰かにとっての大切な人は助けられる。我々だけが助けられるのである」


 レツオウはこぶしを握り締めた。


「我々は人命救助と文明の再建のための行動に打って出る。昨日から続いていくはずだった明日を取り戻すために!」

「おう」

「おうとも」

「やるぜ」

「いよっ、大統領」


 レツオウの演説に熱くなる者たち。

 彼らから少し離れてリョウハの心は冷えていた。昨日から続くはずだった明日など、彼には興味はなかった。彼がとても良いと感じたのは今日だ。今日やったことは『実戦』だった。演習でもトレーニングでもない『実戦』。それはとても良かった。生死をかけた戦いこそが戦闘用強化人間である彼が生み出された目的であり存在意義だ。


(まあ、他者が望む未来を塗りつぶしてまで乱を望むとは言わないが、文明の再建なんてそう上手くいくかな? 亜光速の襲撃者はまだその片鱗しか見せていない)


 戦いが続く可能性は高そうだと判断する。

 仄暗い笑みを浮かべていると、レツオウの側から声をかけられた。


「リョウハ君、この様な集会を開いた以上、これからの行動に関して君にも腹案があったのだろう。参考までに聞かせて貰えないかね?」

「時間稼ぎですか?」

「否定はしないよ。今の演説を考えるのも結構大変だったんだ」

「それを言ったら台なしです」

「私はたった今、情報収集をしながら同時進行で善後策を検討しているんだ。少しは楽をさせてくれ」


 リョウハは肩をすくめた。別に意地悪をしたい訳ではない。

 指揮権を奪っていったんだから自分で考えろ、という思いがない訳では無かったが。


「長期航海の後、整備に入ったところを緊急発進したのです。補給物資が足りていません。推進剤も食料もその他の日常消耗品も。将来的には自力で生産できるようにする必要があるとしても、当座の分はどこかで補給するしかありません。どこかの補給泊地に立ち寄ってそこで入手する事を考えていました」

「普通の判断だな」

「その後は二つの方向性が考えられます。一つは衛星めぐりです」

「衛星か、なるほどな」

「惑星ブラウの大爆発は惑星系全体に大きな被害をもたらしました。ですがその持続時間はさほど長かった訳ではありません。何もない宇宙空間ならともかく、衛星の影にいれば十分に生存可能です。衛星上の観測基地のうち爆発時にブラウと反対側に位置していた物があれはそこには生存者がいるでしょう」

「大型の基地ならば自己完結型の生態系を確立しているはずだ。食料の自己調達も可能。悪くない。逆に彼らは自分たちだけでやっていけるからこちらに協力しない可能性もあるが」

「その場合でも顔をつないでおくだけでも価値があるでしょう」

「そうだな」

「二つ目はブロ・コロニーがあった場所への移動です。あの辺りには多数の宇宙船が往来していたはず。そのすべてが犠牲になったとは思えません。うまくいけば恒星間移動用の船が存在する可能性も」

「残念ながらそれはない。調べてみたが、今日はたまたまスケジュールが空白になっている。ブラウ惑星系を訪れている超光速船はない」

「そうであってもあそこには超空間通信機『ウロボロスの口』が存在します。もう破壊されているかも知れませんが」

「そっちはある程度期待できる。ウロボロスがあったのはコロニーの居住区ではなく宇宙港側だ。泣き言を言っているオペレーターを締め上げれば被害の程が確認できるだろう」


 レツオウは大きくうなづいた。


「リョウハ君の意見は妥当だ。すべて採用する。我々の最初の目的地は補給泊地ダフネ。ダフネは衛星シンジュに付属するLポイントに存在する。ダフネで補給を行いつつシンジュ上の基地と連絡を取り、場合によっては大気圏に突入して支援を行う。この船には地表に着陸する能力はないから補給物資を投下するぐらいしかできないだろうが」

「着陸可能な飛行機械を用意するぐらい難しくない。すぐに作成できる」


 ヒサメが口をはさんだ。


「その時にはお願いする。シンジュの後には他の衛星へ向かう手もあるが、私はブロ・コロニー跡地へ行こうと思う。他星系の正確な情報が欲しい。援助が本当に得られないのかどうか、我々は知らねばならない」


 悪くない結論だ、とリョウハは評価した。

 援助が得られるかどうかの情報は戦闘要員にとっては優先順位が低いが、他の星系が追加の攻撃を受けているかどうかは絶対に知りたい。もし、次の攻撃が来るようなら文明の再建どころではない。今すぐ逃げ隠れの準備を始めなければ。


 さすがの彼も亜光速船をもう一つ落とせると思うほど楽観的ではなかった。


「異論がある者はいるか? 居なければこれで決定する。後は各班に分かれて個別の打ち合わせに入ってくれ。フウケイ船長代理と運行班はダフネ泊地への航路計算を。遅くとも1時間以内には軌道を変更したい。生活班は食料その他の在庫の確認を。整備班は整備のつづきがあるのでは無いかな? 可能な範囲で整備を続行してくれ」


 全体集会は各グループごとの打合せへと変わっていく。

 これから夕食の仕込みに入るというおばちゃんたちはヒサメに案内してもらって厨房へ向かうようだ。整備班は本日の作業は終了と宣言し、トラブル対応にあたる二人を残して残りのメンバーは船内の酒類の捜索に当たる。


 リョウハは当然、手持無沙汰だ。


「我々はどうしますか、中尉殿。それとも保安部長とお呼びした方がよいでしょうか?」

「どうでもいい。……リョウハでいい。たった二人の保安部で肩ひじ張る必要もないだろう」

「では、私の事もギムと。これからどうしましょうか、リョウハ」

「とりあえず、船長代理たちが第一管制室に入るまではそこで当直を続けてくれ。そのあと、夕食まで時間があるようなら船内で武器になるような物の捜索と確保だな」

「船内で暴動が起きても素手で十分だと思いますが」

「念のため、だ。けっこう近いうちに使いそうな気もする」

「そうですか」


 意外な事に一番積極的にあちこちと話を通しているのはカグラ・モローだった。


「それではヒカカ班長、工場区との間の物資搬入路の件、よろしくお願いしますね。有機物の分解槽は早急に必要ですし、将来的には船内に農園を造る事も考えています」

「任せておけ」

「分解槽って、どのぐらいの大きさの物を作ればいいの?」

「その辺りは後ほどデータを作成してお渡ししますわ。それより、ヒサメちゃんにはもっと大切な用事があるでしょう?」

「何が?」

「先ほどまだ指揮権限を持っていたリョウハ君から乗組員全員の健康診断を依頼されたのだけれど、聞いていなかったかしら? 言っておきますけど、例外は認めませんからね」

「え? ……リョウハ、助けて」

「リョウハ君には船医として正式に依頼します。健康診断から逃げ出す者がいたら捕獲してください」


 リョウハはいくつかの欲求の板ばさみになり、少し考えこんだ。

 ヒサメからの救援要請は本来なら無条件で受け入れるのだが、ヒサメの本体に会いたいという感情は彼にも当然ある。

 船医からの正式な要請は断れない、という建前に後押しされ彼はうなづいた。


「その仕事、保安部として引き受けよう」

「こ、この裏切り者!」

「いや、最初に依頼したのは俺だし」

「共犯者になったと思ったら、主犯だった?」

「否定できないな」


 ヒサメ関係でまた一波乱ありそうだった。

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