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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
宇宙戦艦襲来 分離装甲艦『金剛』
21/69

2-3 全体集会 僕は12歳

 助けは来ない。

 この船の行き先として選ぶべき安全な場所などない。


 それが結論だった。


 リョウハにはその程度の事は最初から予想がついていた。だから驚くことはないし失望することもない。この展開は最初から想定の内だった。すでに生き残るための最善手を模索している。


「我々は自助努力で生き残らなければならない。そういう結論でよいですね? ならば、次に考えなければならないのは補給物資の入手方法です」

「ちょっと待ってください」


 自信満々で新しい議題に移ろうとした彼を天井からの声が遮った。

 ヒサメではない。男の声。


「ギム殿か?」

「はい。私は第一管制室から音声のみでコンタクトさせていただきます。中尉、我々に情報提供しなければならないことがまだ残っているのではありませんか?」

「何のことです?」

「このガスフライヤー『金剛』の中枢システムを乗っ取っていた謎の敵についてです。アレも亜光速で襲撃をかけてきた者たちと同一勢力と考えてよいのでしょうか?」


 リョウハは答える前にもう一回、あのゴキブリもどきとの会話を思い出した。

 おかしなところがある。どう考えても計算が合わない。


「分からない」

「分からない? あなたは先ほど、あの存在と問題なく会話していましたが」

「本当に分からないんだ。俺も最初はアレを亜光速の襲撃者だと思っていた。撃破された瞬間にウイルスのようなものをまき散らして近場の情報処理システムを乗っ取ったのだと。だが、それだと最後に出てきたゴキブリもどきの説明がつかない。アレは確かに物質だった。亜光速で移動している船からこの船に一瞬で乗り移る? そんなことは不可能だ。一応、何らかの理由でこの船に侵入していた何者かを亜光速船の断末魔がさらに乗っ取ったという仮定は成立するが……」

「正体不明の組織をふたつ想定するのは苦しいですな」

「だから素直に『分からない』だ。……ヒサメはどう思う? 俺たちより先にあいつと接触していたはずだが」


 リョウハの問いかけに女性の声が応答する。


「私にも分からない。あいつは私にはゴーストと名乗った。私の情報処理システムを奪おうとした。この辺りでは一番優れたハードだからって。だから、リョウハの最初の推測はたぶん正しいと思う。私はあいつが自身のハードを持っているとは思わなかった」

「姫君の意見としてはゴーストの正体は亜光速の襲撃者由来、と。我々の前に現れた生体ユニットのみが正体不明。そうやって分けるとスッキリしますな。ところで、お二人にもう一つ伺いたい事があるのですが」


 ギム・ブラデストの口ぶりにリョウハは何となく嫌な予感がした。


「ゴーストはお二人をハッキリと名指ししました。心当たりは?」


 リョウハの目が泳いだ。

 答えたくはない。が、そういう訳にもいかない。助けが欲しいが、引きこもり少女は当然のように沈黙していた。


「ある」

「どのように?」

「軍人有志で亜光速船を迎撃したと言ったが、それを主導したのが俺だ。当然、ヒサメのサポートも大きい」


 ブリーフィングルームの皆がどよめいた。


「やれやれ」

「ただの中尉が、主導?」

「亜光速で移動する物体を狙撃したのか?」

「アイツならヤるだろう」

「ま、いつもの非常識だな」

「あり得ない事を普通にやるのがアイツらだ」


 他を圧する厳格な男がいた。

 レツオウ・クルーガルが立ち上がった。


「リョウハ君、ヒサメ君。まず言っておくが、次に似たような重大な非公式情報を手に入れたら私の所にも一報を入れてくれ。頼むから」

「申し訳ない」

「いいや、謝られるようなことではないよ。君たちにはそんな義務はない。むしろ、君たちにそこまでやらせてしまった我々の不甲斐なさを恥じ入るばかりだ。この船に乗って脱出できた事も含めて、こちらこそ助かった。礼をいう」

「軍人として当然の任を果たしただけです」


 答えるリョウハを運行責任者は何故か痛ましそうに見つめた。


「今度こそ次の議題に移りたいと思いますが、どうでしょう? 補給物資の入手方法を考えねばなりません。普通に購入できれば良いのですが、場合によっては残骸からの回収や強奪まで視野に入れる必要があります」

「あー、度々すまんがな、大将」


 レツオウと入れ替わるように立ちあがる者がいた。

 立ってもそんなに高くない。Dタイプの強化人間、ヒカカ・ジャレンだ。


「その前に重要な動議がある」

「何でしょう?」

「俺はお前さんをこの船の責任者として不適格として解任を提案する」


 沈黙。


 リョウハとしても正面から不適格と言われるのはいささかのショックがあった。

 怒りのこもった声が天井から降ってくる。


「ヒカカ、いきなり何を言い出すの? あなただけは味方だと思っていたのに」

「すいませんね、姫様。これは味方であればこその動議と思ってください」

「思えません」


 天井からの声その2もヒカカを責める。


「私から見ても不可解な物言いですよ、ヒカカ班長。中尉はこれまでベストとは言えないまでもベターな選択を続けている。他の誰かがやっても彼以上の事が出来たとは思えません。解任する理由がありません」

「豹の旦那。それはお前さんが大将の事をよく知らないから言える事だ。お前さんとか若造とか以外の基地の人間は誰も解任動議を不思議に思っていないぞ。賛成するかどうかはともかく、解任を求める理由は納得している」

「はて、彼にはそのような重大な欠陥があるのですか? それはますます理由をお伺いしたい」

「私は納得してない!」

「実を言うと俺もだ。ヒカカ班長は俺のどこに致命的な欠陥があると感じたのだ?」


 ドワーフは深々とため息をついた。

 レツオウはしかめ面をしているが、彼の言葉を否定しない。

 カグラは面白がって周りを見ている。


「それが分からないから欠陥なんだよ。はっきり言うとだな、俺たちは大将を見ているのがつらいんだよ。お前はそんなに頑張らなくていいんだ」

「理由になっていないぞ」

「思いっきり単純に言うとだな、大将に足りないのは経験だ」

「……それが理由なら少しだけ理解するが、現在の状況に対応した経験など、積んでいる者が存在するのか?」

「そういう経験じゃないんだ。人生経験ってヤツだ。……大将、お前さん、歳はいくつだ?」

「戦闘用強化人間の第一世代に年齢を尋ねるのはあまり意味のある行為とは思えないが」

「ああ、そうだよな。実戦に使えるようになるまでに10年も20年もかかるようでは費用対効果が悪い。成人してからの実力を判定できないと次を作りにくい。だからお前たちは成長を促進されているんだよな」

「必要な知識のインプットは完璧だ。神経系も成熟している。別に子供なわけじゃない」

「時に、お前さん、ロールアウトしてから何年たった?」

「12年だ」


「……」

「……」

「……」

「……」

「あ」

「うん」

「もうちょっと行ってると思ってた」

「はっきり聞かされると、あらためて、こう、来るものがあるな」

「姫さんも同じぐらいだっけ?」

「あっちは成長促進はされてない。もうちょっと上だったはず」

「姉さん女房だな」


 どうしてこうなったのかリョウハには理解できなかったが、室内の空気が彼の敗北で統一されようとしているのは良くわかった。

 実のところ、彼から見ると一般の人間の能力は戦闘関係以外でもさほど高いものとは思えない。生死がかかっている場面で指揮権を渡すのは抵抗があるのだが……


 天井からの声も不満をにじませていた。


「この反応からすると中尉殿の生存してきた時間の短さが問題になっているのでしょうか?」

「旦那はそうは思わんのかね?」

「はい。私が生きている時間も彼よりほんの少し長いだけですから」

「……まあ、豹だしな」

「その発言は差別的とみなされますよ」


 他者が怒ってくれていると本人は冷静になれるものだ。

 リョウハは肩をすくめた。片手を天井に向けて制止する。文民統制の考え方からすれば遅かれ早かれ指揮権を返上しなければならないのは確実だ。今後の方針を討議する場で返すのならそれほど悪いことではない。


「かまわないでくれ、ギム殿。彼らが『俺に指揮権がある』という状態に不安がある、という事は変えようがない。何もしなくとも無条件で不安や不信を持たれる人間が指揮官として不適格なのは間違いない」

「あなたはそれで良いんですか?」

「俺は進むのみを知り退くのを知らない猪武者ではないつもりだ。……フウケイ・グットード航海士、皆の総意を認めてこの船の指揮権を返還しよう」

「健康状態に不安を持つ身ですが指揮権を受け取りましょう」


 フウケイは指揮権を奪われた時の事をまだ根にもっているようだ。

 当然か。


 もう演壇側にいる理由もない。リョウハは部屋の後ろの方のシートに身をゆだねた。


「お疲れ様、リョウハ」

「疲れたと言うか……。徒労感があるな」

「仕方ないよ。大人たちにも面子っていう物があるからたまには譲ってやらないと、ね」


 ヒサメは周りにもハッキリと聞こえる音量で堂々と言ってのけた。

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