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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
宇宙戦艦襲来 分離装甲艦『金剛』
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2-2 全体集会 観測と会話

 リョウハ・ウォーガードが入室すると、その場の全員の注意が彼に集まった。

 大会に優勝した時などに似たような経験をした事はあるが、今回の視線はその時のものとは質が違う。心地よい緊張感と共に彼は演台の前に立った。


「みんな席に着いてくれ。席次は気にしなくていい」


 無重力では立っても座っても変わらないが、そのままだと落ち着かない。

 レツオウ・クルーガルが取り巻きとともに入室してくる。リョウハより後に入場するようにタイミングを計っていたのではないかと疑ってしまう。


「リョウハ君、この船の指揮権は君にあるのだろう? 私と部下たちにここの観測機器の使用を許可願いたい」

「許可します。私も惑星系内の情報はざっとしか見ていません。詳細な情報をお願いします」

「感謝する」


 レツオウと配下の運行班メンバーは席に着くと彼らにしか見えないコンソールを呼びだし、空中に指先を踊らせ始めた。


「運行班の方々が観測をする間、少し休憩にしましょう。ここのドリンクサーバーは使用可能なはずです。アルコール以外なら飲食を許可します」

「大将、お前さんには失望した」

「我々なら話を聞きながらでも観測はできる。まず、君の話を聞こうか」


 レツオウは自分の言葉を証明するように、機器の操作を始めながらまったくよどみなく発言していた。


「分かりました。では、そのように。……飲み物は取りに行って結構です。そのぐらいの時間は待ちます」

「今は一刻を争う事態ではない、という事かね?」

「はい。今はこの船は目的地を定めずに慣性飛行しています。早めに行き先を決めた方が推進剤の節約になるのは確かですが、情報の共有と方針の決定には時間をかける価値があると考えます」

「賛成しよう」


 無重力対応の容器に入った飲み物がいきわたり、皆が席に着いた。


「用意は良いようですね。では、これより第一回の『金剛』全体集会を開催します。出席者はざっと数えたところ49名。事務職の方々には後ほど船員名簿を作成していただきたい」

「心得た」

「なお、欠席者は第一管制室で操舵席についているギム・ブラデスト氏。そしていつもの引きこもりが1名」

「ちょっと、私の事もちゃんと紹介して」

「ちゃんと扱われたければキチンと出席するように」

「そもそも私の工場区とそちらはまだ通路がつながってないんだから」

「では通路を接続すればそこから出てくるのだな? 言質はとったぞ。ヒカカ班長、頼みます」

「おうさ。姫様のご尊顔を拝めるとなれば作業の手にも力が入るってもんだ」

「あうぅぅ」


 自爆者1名の事は横において話を進める。まあ、話の内容的に無視はできないのだが。


「まず情報の共有のため、私からの情報提供を行う。ただしこの情報は軍の正式な系統を降りてきたものではなく、ある非公式なチャンネルから流れてきたものだと宣言しておく。軍や政府筋からの命令、報告などは私の知る限りでは一切ない」

「非公式、ねぇ」


 その場の大半の者が天井を見上げていた。

 レツオウが代表して口を開く。


「その非公式はどの程度信用できる?」

「実際に事が起こる以前に警告が来たのでそれなりの確度はあるかと。デマや単なるうわさが混入している可能性は否定しません」

「続けたまえ」

「非公式情報によると、今回の異変はこのブラウ惑星系だけにとどまるものではありません。人類の領域の広範囲にわたって、敵性と判断できる何者かの攻撃を受けています。伝聞情報ですが地球はすでに消滅、その他の主要星系も壊滅的な被害を受けているとか」


 ブリーフィングルームの中が大きくざわついた。

 そんな事をして得をする者がどこにいるのか? 小規模な反体制派程度に実行可能な規模ではない、というのが反対意見の主流だ。

 あとは単純に話が大きすぎて理解できない、理解したくないという者たちだ。


「攻撃の手段はスペースラムジェットにより亜光速にまで加速した宇宙船による爆撃です。タイミングを合わせて主要星系すべてに同時攻撃を行った模様。莫大な費用と時間がかかったはずですが、このような攻撃に対する防御手段はほとんどありません。幸い、本惑星系に対する攻撃は他とは時間的なズレがあったため軍人有志による迎撃作戦が行えましたが、よそではそれすら不可能だったと思われます」

「その口ぶりだと迎撃が成功したように聞こえるぞ」

「はい。敵宇宙船の撃破には成功しました。ですが、敵は最後の力でブロ・コロニーに向けて自爆しました。そこまでは私も確認しています。その後、敵が意図したものかどうか不明ですが、敵宇宙船の破片が惑星ブラウに到達したものと思われます」


 もはや室内にはざわめきさえ無かった。

 静まり返った中、運行班のメンバーの指先が宙を踊っている。彼らの目には網膜投影により様々な情報が見えているのだろう。


「我々の観測でもリョウハ君の報告を否定する要素はないな。まずはこれを見てもらおう。現在の惑星ブラウの姿だ」


 レツオウの操作により、空中に何かの映像が浮かぶ。それが惑星ブラウだとは認識できない。

 何人かがヒッと喉の奥で押し殺した悲鳴をあげた。


 それは球体ではなかった。爆発により大きく形を崩していた。もともとガス惑星なのでいずれは元の真球に戻るだろう。が、今はまだ爆発の影響が波のように広がっている最中だった。そして単なるガス惑星にあるまじき事にそれは自ら光を放っていた。


「レツオウさん、あの光はブラウが恒星化したという事でしょうか?」

「いや、断続的な核反応は観測されているが中心核まで点火した様子はない。あの光の大半は気流の運動エネルギーが放電という形で放出されたものだ」

「全惑星的な雷と核反応さえ生じさせる突風?」

「うむ、亜光速弾でなくともそれに匹敵する破壊力の何かが使用されたのは間違いないようだ」

「あの様子ではブラウ大気圏内にいたガスフライヤーは全滅でしょうね。周辺宙域はどうです?」

「現在までに合計132の救難信号をキャッチした。どれも自動機械によるもので、人間の生存を示すものはほとんどない。第一から第四までの整備基地の崩壊も確認。第二にはガスフライヤー『扶桑』が停泊していたはずだから少し期待したが、『扶桑』も脱出していない。クルーの対応が遅かったのか、緊急発進できないほどの分解整備中だったかのどちらかだな」


 第一から第五の整備宇宙基地間で人員の異動が行われることはよくあった。ここの人間の大半は他の基地に友人がいる……いた。

 誰かが切羽詰まった声を出す。


「それより、ブロ・コロニーはどうなったんです?」

「ない」

「な、無い?」

「全長30キロメートルのシリンダーはどこにも観測できない。それがあるはずの宙域では分離型の太陽電池パネルが制御を失って拡散を始めている。大型の破片が二つほどあって、これには生存者がいるようだ。……聞くに堪えんが」


 レツオウはしかめっ面のまま頭を左右にふった。


「メーデー、メーデーと泣きわめいている。どんな非常時であれ冷静さを失って取り乱すなど、通信オペレーターの恥さらしだ」

「とても人間的な反応だと思います」

「リョウハ君、君だって同僚の強化人間が取り乱していたら似たような苦言を呈するのではないかね」

「……確かに」


 リョウハは認めた。少し考えてから続ける。


「通信オペレーターが錯乱しているという事は『彼の近くに上司となる人間が居ない』のでしょうか?」

「その上司が先に錯乱した可能性もあるが、その場合でも上司はいないのと同じか。あちらはかなり混乱しているようだ。ブロ・コロニー残存部分による政府機能の回復には時間がかかる。あるいは永遠に回復しないかもしれない」

「オイオイ、それって、かなりヤバくないか?」


 ヒカカ班長の顎髭をしごきながらの発言。

 渋面が板についている人物はうなづいて結論を口にした。


「リョウハ君の非公式情報によれば他星系からの救援も期待できない。我々は自力だけで生き延びなければならないという事だ」

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