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4-1:フリーマーケット

「どうだ? 学校は」


 放課後。

 アスカノフに群がっていた生徒たちがようやくいなくなった。

 俺は今日の感想をアスカノフに尋ねた。


 山に住んでいた竜がルルム学園に通うことになる。

 数日前から学園はその話題でもちきりだった。

 俺もミーシェも友達に言いふらしたりしていなかったのに、この小さな町ではウワサはあっという間に広まってしまったのだ。


 そしていざ、竜の姿から人間の姿に変身したアスカノフはルルム学園の生徒になった。

 まず、驚かれたのが人間の姿であること。

 竜がどうやって校舎に入るのか、みんな疑問に思っていたのだろう。


 竜であると紹介されたのが小さな少女だったので最初はみんな戸惑っていた。

 それからアスカノフが「わ、我こそが偉大なる竜、アスカノフであるぞ」と自己紹介したのだった。

 その途端、一気に教室が沸き、次々と質問が飛んできたのだった。


 それからみんなと共に授業を受けた。

 休憩時間になるとアスカノフを中心に人の輪ができて大賑わいだった。

 アスカノフは緊張しながらもどうにか受け答えをしていた。


 とりあえず彼女は受け入れられた。


「人間がたくさんいるのだな。学園には」

「ムーンバレイの子供たちのほとんどがいるからな」

「人間は本当に数が多い」


 個体数が極めて少なく孤独な竜からすればそんな感想が出てくるのだろう。

 こんな盆地の小さな町ですらそんな感想をこぼすのだから、王都の街並みを見たら仰天するだろうな。


「友達はできたか?」

「まあ、な」

「よかったじゃないか。これでもうさみしくないな」

「まだ初日だ。これからうまくいくとは限らない」

「なるさ。俺がいるから安心してくれ」

「う、うむ」


 教室の扉が開く。


「お兄ちゃん、アスカノフちゃん、帰ろっ」


 ミーシェとルナが入ってきた。


「アスカノフちゃん、大人気だったね」

「見てたのか」

「ちょっと心配だったの。でも、よかった。いきなり人気者だね」

「我はうるさいのは苦手なのだがな」


 俺とミーシェとルナ、アスカノフの四人で家路につく。

 ルナが言う。


「アスカノフさまは長い年月を孤独に過ごされてきたのでしょう。他者との交流は心を育みます。ぜひ、多くの人たちと仲良しになってください」

「お前が言うのならそうしてみようではないか」

「はい。そうしてください」


 ルナがにこりと笑った。


「ルナ。手始めにお前が我の友達になれ」

「もうなっていますよ」

「なに? いつそのような契約をした?」

「お友達になるのに契約は必要ありません」

「ふむ、なるほど」


 ミーシェがアスカノフの手を握る。


「わたしとアスカノフちゃんは家族だよっ。もちろんこれも契約はいらないからねっ」


 やわらかな笑みを見せるアスカノフ。


「人間とはそういうものなのだな」


 その後、教会でルナと別れて三人になった俺たちは市場に寄った。

 夕食の材料を買うためだ。

 夕食前の時間ということもあってか、市場は多くの人でごった返している。


 人の波の間を縫うように歩く俺とミーシェ。

 アスカノフはどうどうと波を割って歩いている。

 その姿にわずかながら竜の威厳を感じた。


「ミーシェ。今日の献立は決まってるのか?」

「シチューにしようと思うの」

「シチューか。おいしそうだな」

「アスカノフちゃんもシチューでいい?」

「シチューとはなんだ?」

「あ、そっか。なら、できてからのお楽しみだね」


 野菜を売っている露店の前に止まる。


「タマネギとニンジンをください」

「はいよ」


 体格の大きなおじさんが、木箱の中に山ほど入っているタマネギとニンジンをつかんでミーシェの買い物かごに入れてくれた。

 それからミーシェは代金を支払った。

 そのようすをアスカノフが興味深げに見ていた。


「人間の社会では通貨で取引をするんだ」


 俺が説明する。


「それくらい知っている。実際に目にしたのははじめてだから気になったのだ」


 アスカノフがジト目でそう返事をした。

 しまった。アスカノフはプライドが高いのだった。

 そのあたりは気をつけよう。



 自宅に帰るとさっそく食事の支度をはじめた。

 本格的に料理を作るのはミーシェの役目。

 俺とアスカノフは皿を出したり野菜を洗ったり皮をむいたりといった雑用だ。


「お前、なかなか器用だな」


 俺が包丁でニンジンの皮をむいていると、アスカノフが手元を覗き込んできた。

 ニンジンをくるくる回しながら皮をむいているのをじっと見つめている。


「アスカノフも手伝ってくれ」


 包丁を手渡す。


「この剣で皮をむけばいいのだな」

「剣じゃなくて包丁な」


 俺は包丁を使い方を教えようとアスカノフの背後に回り、彼女の手首をつかむ。

 びくりと身体をすくませるアスカノフ。

 驚かせてしまったか。


「い、いきなり密着するなっ」

「す、すまない」

「まったく、我は偉大なる竜なのだぞ。無礼者め」


 ぷんすか怒るアスカノフだった。

 それから俺に教わりながら、彼女はたどたどしくニンジンの皮をむいていった。


 皮をむき終えると、ニンジンは半分くらいの大きさになってしまっていた。

 初めての包丁だからしかたない。


「ミーシェよ、見るがよい。我が皮をむいたぞ」

「ありがとーっ。じょうずだねっ」


 ミーシェは笑顔でほめた。

 アスカノフはそれをまに受けてドヤッと得意げな顔になっていた。

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