3-2:孤独な竜
「みなさん、お兄ちゃんならきっと悪い竜をやっつけてくれます」
ミーシェがそう言う。
悩んでいた大人たちだったが、最終的に、
「エリオくん。キミに任せてもいいかね」
そう町長が頼んできたのだった。
そうして俺は悪しき竜アスカノフの討伐をすることになったのだった。
翌朝、アスカノフ討伐がはじまった。
町長からはさまざまな道具を支給してもらった。
そして武器となる聖剣『ルーグ』も手にする。
アスカノフ討伐の準備はできた――のだが。
「がんばってやっつけようね、お兄ちゃん」
「神のご加護がきっとあります、エリオさま」
町の門の前まで出てきたのだが、俺のそばにはミーシェとルナもいるのだった。
「ふ、二人ともついてくるのか?」
「だって、お兄ちゃん一人だけじゃ、なにかあったとき大変でしょ」
「戦いはできませんが、治療の薬なら持っています」
困ったな。
気持ちはうれしいが、彼女たちを危険にさらすわけにはいかない。
とはいえ二人ともすっかりついてくる気だ。
もっとも、俺単独で行くのも危険だという言い分もわかる。
もし、ケガをしたとき、治療してくれる人がいたほうが助かる。
「お兄ちゃん。まさかわたしたちを置いてったりしないよね」
「足手まといと思われるかもしれません。ですが、決してエリオさまのじゃまはしません」
二人とも、上目づかいで俺を見ている。
しばし考えあと、俺は首を縦に振った。
「三人で力を合わせてアスカノフを倒そう」
「おーっ」
「おーっ、ですね」
そうして俺とミーシェとルナの三人で、アスカノフの住処である山を登る。
山頂への道のりを歩く。
荷物を持っているせいで身体への負担が大きい。
うしろを見る。
ミーシェもルナも疲れた表情をしている。
結構登ったから、この辺りで休憩しよう。
「なあ、ちょっと疲れたから休まないか」
「うん。そうしよっか」
「そうですね」
ちょうど開けた場所があったので、俺たちはそこに腰を下ろした。
「あー、くたくただよー」
「山を登るというのは大変なのですね」
ミーシェとルナは大きな岩に背中をもたれかけている。
俺も近くにある木に寄りかかっていた。
水筒を開けて水を飲む。
冷たい水が喉を通るのが気持ちいい。
「おなか減ってない? サンドイッチあるよ」
「では、いただきます」
「俺ももらおうかな」
ミーシェが持ってきたランチボックスにはサンドイッチが敷き詰められていた。
それを一つもらう。
新鮮なレタスとトマトがおいしい。
冷蔵庫のおかげだな。
「ミーシェさまのお料理はおいしですね」
「てへへー。でも、サンドイッチなんて具を挟むだけだよ」
「いえ、そこが大事なのです」
俺もそう思う。
俺がサンドイッチを作ったとしても、ミーシェのような味にはならないだろう。
「山頂までどのくらいでしょうか」
「半分くらいかな」
アスカノフの住処が山頂にいる保証はないが、竜というものはプライドが高く尊大な生き物だと言われていて、群れることなく個で生きている。
なので住処とするなら一番高い場所だろう。
「なんかハイキングしてるみたいだね」
「ミーシェさまったら」
「遊びじゃないんだぞ」
「わかってるって。でも、お兄ちゃんなら竜くらい楽勝でしょ」
実際、どうなのかはわからない。
以前、学園に侵入してきた魔物と戦ったときは、勇者セフェウスだったころの記憶がそうしたのか、自分でも信じられない動きをして魔物を倒した。
今度もそうなってくれればいいのだが。
「アスカノフと出会った瞬間に火を吹かれたらわたくしたち、丸焦げになってしまわないでしょうか」
「その心配はないと思う」
昨日、やろうと思えばアスカノフはその場に降り立ち、炎を口から吐き散らしてムーンバレイの町を壊滅させることができたはず。
そうしなかったのは、アスカノフにはアスカノフなりのプライドがあったからだろう。
竜としての誇り。
竜と敵対した英雄セフェウスへの復讐。
アスカノフはおそらく、正々堂々と戦ってくる。
……そうでなければ俺たちに勝ち目はない。
そのとき、ふっと視界が暗くなった。
大きな雲が太陽を遮ったのかと思い、頭上を見上げる。
俺たちの真上にあったのは雲ではなく、巨大な竜の姿だった。
「アスカノフ!」
俺たちのはるか上空をアスカノフが旋回していたのだ。
「ははははは! のんきなものだな」
アスカノフの高笑いが空気を振動させる。
俺は聖剣『ルーグ』を構える。
あっちから打って出てくるとは。
「アスカノフ! ムーンフェザーを返してよ」
「竜であろうと悪事は神が見ております」
「約束したはずだ。我を倒せば羽根を返すとな。だが、お前たちは我には敵うまい。ぐはははは!」
アスカノフは依然として頭上を飛行している。
「勇者セフェウスよ。あのときの雪辱、忘れてはおらんぞ」
あのときの雪辱……?
俺におぼえはない。
前世のセフェウスだったころ、アスカノフと戦ったのか。
そして俺が勝利した。
アスカノフはそのときの雪辱を晴らそうとしてる。
「山頂で待っている。さらばだ」
アスカノフは地上に降りることなく去っていった。
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