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6.始まりであり、終わった場所。






 レーナは母を失ってから、一人で生きてきた。

 父親を頼って魔族の領域に足を運んだもののそこで告げられたのは、彼もまたすでにこの世にはいない、という辛い現実。肉体的にも、精神的にも追い込まれた彼女が壊れてしまうのも時間の問題だった。


 どうして自分はこんな目に遭っているのか、と。

 狂った精神でその答えを探して。弱肉強食、強さこそがすべてとされる世界で魂を削って生き延びてきた。そうして気付けば、周囲に力を認められ、四魔神の一人として数えられるようになっていたのだ。だがそれはあくまで副産物に過ぎず、目的は徐々に明確になってきていた。


「不平等、なんだよね」


 ある者に問われた時のことだ。

 彼女は、そう言った。どこか膨れっ面で、笑っているように。


「オレはこんな目に遭ってるのに、あの男がどこかで幸せに生きているのが不平等に思えて仕方ないの。だから、それが憎いんだと思う。だから、殺したいんだと思うの。願うなら、オレと同じようにすべてを失ってほしい」――と。


 そのためならなんでもする、と。

 少女は微笑みをたたえながら、そう答えるのだった。


「でも、普通に力で奪うのは芸がないよね。どうせなら、オレがここまで色々と築き上げてきたのと反対に、あっちが築いた物をすべて崩すような奪い方がいい」


 レーナはそう語る。

 問いを投げた者はくすくすと、愉快そうに声を漏らす。

 その反応に彼女は少々不機嫌な顔をして、椅子に腰かけたまま足をばたつかせた。駄々っ子そのもののレーナであったが、そんな少女に相手は告げる。


 ――では、私がその者の素性を調べましょう、と。


 そして、細かく話を聞いたレーナは小悪魔染みた笑みを浮かべて言った。


「へぇ、それなら上手くいきそうだね。任せていいかな――」


 少女は目を細めて相手の名を呼んだ。



「アビス」――と。



◆◇◆



 ダースが目を覚ますと、そこは檻の中だった。

 薄暗く感じるものの最低限度の視界は保たれており、周囲の状況を探るには問題ないように思われる。しかし、手足を縛られているようで身動きは取れなかった。


「ここ、は……」


 覚醒したばかりで判然としない思考。

 それを無理矢理に持ち上げて、彼は記憶をたどった。

 憶えているのは一人の『眷属』が強襲をかけてきて、それを撃退したところまで。カイルの声が聞こえた気もしたが、その姿を確認する前に意識は途切れた。


「……どこ、かしら。少なくとも、街の外よね」


 どうにか拘束が外れないかと、手足を動かしながらダースは呟く。

 すると、そんな彼に声をかける者があった。

 一人の――魔族だ。


「おや、目が覚めたのですね。そして思ったよりも元気なようだ」

「あら。いい男じゃない、いったいどなたかしら?」

「さらに、余裕すら感じられますね。感心です」

「ふふふっ、ありがとう」


 立っていたのは燕尾服を着た男性。

 黒い長髪に赤の瞳をした、長身痩躯の彼は目を細めて不敵に笑った。

 ダースも冗談を口にしながらも、警戒は怠らない。だがしかし、相手から殺意を感じ取れないことから、少しずつだが呼吸を整えていった。


「それで? 私を連れてきたのは、貴方かしら」

「いいえ。私はあくまで情報収集をして、それを提供したまで。貴方をここへ連れてきたのは、あの方の判断です」

「そう。あの方というのは――どなたかしら?」

「私からは、残念ながらお伝えできませんね」

「ふぅん、じらすのね。嫌いじゃないわ」


 燕尾服の魔族は、ダースとのやり取りが面白いのか笑みを絶やさない。

 そしてダースもまた、その場の空気からか自然と口角を緩めてしまっていた。とりあえずは命の危機ではない。それだけは確かだからだ。

 しかし、いつまでもこのままで良いわけがなかった。


「ところで、ここはどこかしら? 私の知ってる場所なの?」

「えぇ、ご存知ですよ。ですが、中にまでは入ったことがないでしょうね」


 情報を引き出そうと、そう問いを投げる。

 すると特に気にした様子もなく、魔族はそう返してきた。どうやら『あの方』という人物とは、協力関係にあるものの、密接な関係というわけではないらしい。

 しかし、それを知ったところで何かできるわけではなかった。

 そう、思っていたのだが……。


「では、ヒントを出しましょうか。ここは――」


 思わぬ形で、その答えはもたらされる。

 そしてそれは、ダースにとってあまりに因縁深いものだった。


「貴方が最後に狩りを行った、その場所ですよ」

「なっ――!?」


 ダースは、目を見開く。

 同時に改めて自身の過去の行いを恥じるのであった。


 


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