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5.選択肢






「――どうして、こんなことに」


 孤児院の一室で眠るココさんを見つめながら、ボクはそう呟いた。

 院長もあの後にすぐ倒れてしまい、話を聞けていない。だから現状として分かることは、二人の間になにかしらの因縁があった、ということだけ。

 そしてそれが、何かを引き金に動き始めたということだった。


「この傷の治り方は、ヴァンパイア――『眷属』か?」


 ボクはココさんの傷の回復速度を見て、そのように思考を巡らせる。

 以前のリリスさんのように。加えて、レミアもそうだった。彼女たちは深手を負っても、常人では考えられない速度でその傷を癒す。赤い髪の少女は、それがヴァンパイアの長命たる理由の一つだ、とも語っていた。もっとも致命傷では、その限りではないらしいが……。

 今回は奇跡的にも心臓を外れていたようだった。


「………………」


 それでも、状況が芳しくないのは一目瞭然だ。

 どのような繋がりがあったのか分からないが、家族だと思っている人たち傷付くのは心苦しい。いいや、そんな陳腐な言葉では語れないものがあった。

 悲しくて仕方がない。思わず泣き出しそうな、そんな気持ちで――。


「……カイル、様ですか?」

「ココさん!?」


 その時だった。

 今にも消えてしまいそうな声量で、ココさんがボクの名前を呼んだ。すぐに彼女の顔を覗き込むと、そこには苦悶に歪んだそれがあった。だが呼吸は徐々に安定していっているようで、薄く開かれた目には、若干だが光が戻ってきている。

 一瞬だけ安堵するボクに、しかしココさんがこう告げた。


「いまの私は、私ではありません……。また、いつ何時、あの男の命を狙ってしまうか――自分を制御できるか分からないのです」

「え……? それって、どういうこと」


 熱のこもった息を感じながら、ボクは眉をひそめる。

 そんなこちらの様子を察したらしい、ココさんはこれまでのことを語った。



◆◇◆



 ――すべてを知ったボクは、言葉を失う。

 なにも言えない。なにかを口にすることが、はばかられた。

 それだけ彼女たちが抱えてきたものは大きくて、重くて、そして深い闇のようなもの。なにも知らないでいたボクが、安直で単純な、そんな言葉をかけることはできなかった。

 でも、それでも……。


「どうして、すぐに言ってくれなかったの……?」


 その感情だけが、漏れ出していた。

 決してココさんやニナを責めるつもりはなかった。

 それでも、思わずにはいられないのだ。もしも、もっと早くに教えてくれていたのなら、このような事態に陥らずに済んだかもしれないのに、と。


 拳を震わせていると、それに触れてココさんはこう答えた。


「私は……守りたかったのです。いまの環境を、関係を、壊したくはなかった。こんな薄汚れた私たちを家族と呼び、そのように扱って下さったカイル様のお心遣いをむげにしたくはなかったのです。だからエリオさんに知られてからも、押し留めようと決意したのです」――と。


 それは、とても優しいもので。

 ボクは本当に泣き出しそうになりながら、訊ねるのだった。


「どうして、こんなになるまで……!」――と。


 こんなことになるまで、どうしてそれをひた隠しにしたのか。

 そんなの辛いだけでしかなかった。それだというのに、何がココさんの心を、気持ちをそのように傾けたのか。彼女の手を握ってボクは喉を震わせた。


 すると、彼女は小さく微笑んで……。


「ふふふっ、これはニナも苦労しそうですね」


 一言、そのように口にするのであった。

 その意味は分からなかったが、きっとなにかの答えであることには違いない。

 でも追及するのは野暮であるようにも思えて、ボクはただただ、唇を噛みしめるだけだった。そして、そのまま時間が流れていくと――そのように思われた時だ。



「残念。キミには失望したよ、ココ?」



 そんな、どこかで聞いたような声が聞こえた。

 それは窓の外から。いつの間にか開け放たれていたそれの向こうにいたのは、緑の髪をした少女――エルだった。近くにあった樹の枝に器用に立っている。

 満月を背にしたそんな姿に、思わず息を呑む。だが、すぐに気付いた。


「――――院長っ!?」


 エルの細腕に、屈強な男性――院長が抱えられていることに。

 彼は完全に意識を失っているようで、力なく頭を垂れていた。


「あはは。安心してね、カイル兄さん? ダースはちゃんと生きてるから」


 息を呑むボクに、少女はそう言う。

 しかし、下手に動けば何をするか分からないのは分かった。

 だから何も出来ずに、ボクとココさんは窓の外を見つめるだけ。自身の優位性を理解しているエルは、それを保つようにしながらこう続けた。


「一つ、ゲームといこうか」――と。


 無邪気に笑って。


「ゲーム……? なんの、つもりなんだ」

「それは秘密。まだ、そこまで語るには時期が早いから。でも単純な話だよ? オレはこれから、この男を連れ去る。場所は後日指定するから、兄さんは今から出題する問題の答えを持ってきてね」


 ボクの言葉に対して、彼女は口元で人差し指を立てながらそう言った。

 言葉を一度そこで切って、また小さく笑う。

 ホントに無邪気に、遊ぶようにして。


「カイル兄さん、さっきの話の続きだよ? 兄さんはどっちを選ぶかな」


 こう言って、姿を消すのだった。



「家族という繋がりか、それとも罪への罰という倫理観か」――と。



 


2日ほどお休みしてすみませんでした!<(_ _)>

風邪を引いてました(^_^;)

てなわけで更新ですが、アマゾンさんでは書影が公開された模様。

3月4日発売ですので! 何卒!!w


<(_ _)>

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2019/3/4一迅社様より書籍版発売です。 ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=408189970&s 「万年2位が無自覚無双に無双するお話」新作です。こちらも、よろしくお願い致します。
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