5.努力のカタチ
書籍版は3/4発売!(しつこいぐらいいきます!!w
ボクの言葉に、ハリエットは頷く。
それを確認してから、彼女の取り落とした剣を拾い上げる。
それは手に持った瞬間に分かった。恐ろしいほどに手に馴染む。それこそ身体の一部であり、どのように振るえば最適な攻撃が出来るのかが、頭の中に浮かんできた。
「これって、誰から貰ったの? ……凄いな」
「お父さんから。前任の勇者が神々から授かった物だと、聞いています」
――なるほど、と。
それを聞いてボクは納得した。
ならばこの、異常とも取れる性能にも頷ける。
この剣にはおそらく、使用者の力を最大限に引き出す魔法がかけられていた。しかも、人間が使うような安っぽいレベルではない。文字通りに神の領域だ。
「はい、返すよ」
「え……もう、いいのですか?」
さて、一通り確認した。
なのでハリエットに剣を返そうとすると、彼女は不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」
「……いえ。その剣を持った者はみな、譲ってくれと言いましたから」
「あぁ、なるほどね。たしかに、これだけの業物なら――どれだけお金を積んでも手に入れたいって、そう思うだろうね」
「先生は、そうは思わないのですか?」
「んー、ボクはいいかな。だって――」
ボクは頬を掻きながらこの剣の、ある意味での弱点を口にした。
「ハリエットも分かるでしょ? この剣では『自分の力以上』のものは、引き出せないんだって。結局はその人の力量に合わせたことしかできない」
それはつまり、言い換えるなら――『停滞』だ。
たしかに自分の力を最大限に引き出す。それだけ聞けば素晴らしいものであるように思えた。だがそれはこの剣を振るっているのではなく、振り回されていることに他ならない。そこに成長はなく、力が伸びていくことはない。限界はすぐにやってくる。
「……その通りです」
そのことを、ハリエットも理解しているのだろう。
彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、聖剣とも云えるそれを見た。
「最初に冒険者たちを木刀で相手にしていたのは、単純に手加減していた――ってだけじゃないね。ハリエットもどこかで、この剣に頼っていてはいけないと、そう思ってたんだよね?」
「…………………………はい」
長い沈黙を置いてから、小さく少女は答えた。
先ほどのやり取りでも分かる。この幼いエルフの少女は、すでにSランク相当か、あるいはそれ以上の実力を備えていた。
それでも、この剣を頼ってしまった理由。それは――。
「キミの努力を馬鹿にしてきた、そんな人たちがいたんだね」
「え……っ!?」
さっき、泣きじゃくったハリエットは言っていた。
お前も儂を馬鹿にするのだろう、と。それはつまり、過去にそういう経験をしている、ということだった。その悔しさは、少しだけ分かる気がする。
ボクには魔法の才が、まるでなかった。
だからボクもまた、多くの人に理論を学ぶことを馬鹿にされてきたんだ。
「大丈夫。ハリエットの培った力は、ちゃんと分かったから。それに、今までのことは決して無駄じゃないと思うよ。その証拠に、キミの剣はとても綺麗だった」
「先生……。それは本当、ですか?」
「もちろんさ。だから、自信を――『自身』を見失わないでね」
「『自身』を見失わない……」
ボクの言葉を繰り返して、少女は少しだけ涙ぐむ。
これまでの努力を認められなかったのは、きっと英雄の娘という偏見、そして次期勇者という偏見によるものなのかもしれない。
でも今は、諦めなかったこの少女を労うべきだろう。
その結果として、彼女はこの歳で思わぬ高みへと登ったのだから。
「ありがとう、ございました……!」
深々と一礼するハリエット。
きっとこれ以降はもう、鍛錬は必要ないだろう。
面を上げた少女の、涙に濡れたものの晴れやかな、その表情を見れば明らかだった……。
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