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2.英雄の娘との模擬戦

書籍は3/4発売です!よろしくです!!






「――英雄の、娘?」

「あぁ、そうなんだよ。かつて魔王軍との戦いにおいて、命を賭して戦った者たちがいてね? ハリエットはその中の一人、賢者アレナドの娘なんだよ」

「へぇ……そんな凄い人の」

「それに加えて、彼女自身は剣術の才に恵まれていてね。齢はまだ十四だが、先ほどのようにAランク冒険者程度なら簡単に倒してしまえる実力だ」

「あ、エルフだけど年齢は見た目通りなんですね」

「カイルよ。ツッコむところはそこなのか?」


 広場に出てボクとニールさんが話していると、レミアがそうツッコんだ。

 なにやら良く分からないうちに、エルフの少女剣士――ハリエットと模擬戦をすることになっていた。突拍子もない話ではあるけれど、英雄の娘、というのには少しだけ興味がある。そんな少女がどうして、この街にやってきたのか、とか。


「それは、ボクとハリエットの勝負の後に――ですか?」

「そうだね。これも彼女をなだめるためなんだ。少し手を貸してくれないかい?」


 しかし、それはこの模擬戦の後ということだった。

 特に断る理由もなく、むしろ気になるネタであったためボクは大きく頷く。

 それを見たニールさんはにっこりと微笑んだ。レミアの方も確認したけど、どうやら彼女もこの闘いには賛成派の様子。その理由というのも――。


「カイルよ。ここでしっかり叩いておかねばならないぞ?」

「え、どうしてさ」

「あの娘――」


 レミアは目を細めて、やや不機嫌そうにこう言った。


「――妾と、キャラが被っておる」


 ――え、そこですか?

 ボクは思わずそう口にしかけた。

 だが、どうやらハリエットの準備がちょうど整ったらしい。木刀ではなく、腰から本物の剣を抜き放って天に掲げながら、こう宣言した。



「カイル・ディアノス! EXランクの魔法使いよ、いざ尋常に勝負だ!」――と。



「…………!」


 宣誓を耳にして、ボクは感動を覚える。

 そして、つい口に出してしまった。



「久しぶりに――魔法使い扱いしてもらえた! やった!!」

「そこか! そこなのか!?」



 すると後方から、レミアのツッコみが飛んでくる。


「だって、最近は誰もボクのこと魔法使いだって、言ってくれないんだもん!」

「だーかーらー! どうしてお主は、そんなに魔法使いにこだわる!?」

「こだわってないよ! 当然のことを言ってるだけで――」


 そうしていると、どこかジト目になったハリエットが言った。


「なぁ、そろそろ始めても良いのか?」


 どこか毒気の抜かれたように。

 その姿を見て、ボクは慌てて杖を構えるのだった。


「あ――うん! こっちも、準備できてる!」

「ならば――行くぞ!!」


 彼女に答える。

 すると、間髪入れずにハリエットは距離を詰めてきた。

 唐突ではあるが、模擬戦は開始である。瞬きの間に、少女剣士はボクに肉薄する。そして剣を左下に構えて、斜め上に振るった。


「お、っと……!」

「ほう。いまの一撃目を避けるか!」


 ボクは少し、身体の軸をズラして躱す。

 ハリエットは感嘆の声を漏らして、しかしすかさず第二撃目。


「喰らえ――獅子牙斬!」

「え、なにそのカッコいい名前!?」


 照準を微調整して、掲げた剣を素早く振り下ろした。

 思わずそのネーミングセンスに声を上げてしまうボクだったが、後方に軽くのけ反ることで再び回避。それでも、目測より切っ先が速い。前髪を数本切られてしまった。なので、ここは一度仕切り直し。後方に大きく飛び退り、体勢を整えた。


 その隙に、ボクは魔法を詠唱する。


 ボクの行動を読んだハリエットは、むしろ歓迎するように待ち構えた。

 そして、ニヤリと笑って言う。


「こい! EXランクに相応しい魔法を見せてみろ!!」

「あぁ、行くよ――!」


 それにボクは、大きく息を吸ってこう答えるのだ。



「――【ファイア】!」



 唯一使える、攻撃魔法を――!


「…………」

「…………」


 ひゅるるるるるるるる~、ぽん!


 エンシェントドラゴンの鱗から作成した杖の先端。

 そこから放たれた炎の塊は、ふよふよとハリエットへと迫り、叩き落とされた。小気味の良い音と共に消えたそれに、周囲の人々はみな黙ってしまう。

 だけど、ボクにとってそれは――。


「見た? 見た!? ――レミア、魔法を発動できたよ!?」


 ――人生で一番の大成功だった。

 なので、大喜びで後方に控える彼女にその気持ちを伝える。

 だがしかし、レミアは手で額を覆ってこう、震える声で言うのだった。


「今さらながら、レオに同情してきたぞ」――と。


 ボクはそれを聞いて、首を傾げた。

 彼女は何を言っているのだろう。レオとパーティーを組んでいた時は、そもそも発動しないのが当たり前。発動しても、もっと弱々しいそれだった。

 だから、これを快挙と言わずして、なんというのだろうか。


「なぁ、お前は儂のことを馬鹿にしているのか……?」

「え……? そんなつもりはないよ?」

「そうか――」


 そんなことを考えていると、ハリエットが震える声でそう口にする。

 こちらは意味が分からないので、首を傾げるしかない。

 さて、そうしていると――。


「ならば、これ以上の茶番は不要だ。次の一撃で、勝負を決する!!」


 そう言って、剣を正面に構えた。

 怒っているのだろうか、青い髪の毛が逆立っている。


「え、あ……うん」


 ――あれ。ボク、なにかやっちゃいました?


 ともあれ、いまは考えても仕方ない。

 ここは魔法ではなく、近接攻撃で対抗するとしよう。

 ボクは杖を構えてハリエットの攻撃を待った。そうして――。


「――いざ!」


 エルフの少女剣士が駆け出した。

 それに応えるように、ボクも真っすぐに走り出す。そして、互いに交差し――。



「そ、そんな……!」



 最後に武器を持ち、立っていたのはボクだった。

 ハリエットは呆然と、弾かれた剣を眺めてからこちらに視線を向ける。そこにあったのは、明らかな動揺だった。 



 


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2019/3/4一迅社様より書籍版発売です。 ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=408189970&s 「万年2位が無自覚無双に無双するお話」新作です。こちらも、よろしくお願い致します。
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