2.英雄の娘との模擬戦
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「――英雄の、娘?」
「あぁ、そうなんだよ。かつて魔王軍との戦いにおいて、命を賭して戦った者たちがいてね? ハリエットはその中の一人、賢者アレナドの娘なんだよ」
「へぇ……そんな凄い人の」
「それに加えて、彼女自身は剣術の才に恵まれていてね。齢はまだ十四だが、先ほどのようにAランク冒険者程度なら簡単に倒してしまえる実力だ」
「あ、エルフだけど年齢は見た目通りなんですね」
「カイルよ。ツッコむところはそこなのか?」
広場に出てボクとニールさんが話していると、レミアがそうツッコんだ。
なにやら良く分からないうちに、エルフの少女剣士――ハリエットと模擬戦をすることになっていた。突拍子もない話ではあるけれど、英雄の娘、というのには少しだけ興味がある。そんな少女がどうして、この街にやってきたのか、とか。
「それは、ボクとハリエットの勝負の後に――ですか?」
「そうだね。これも彼女をなだめるためなんだ。少し手を貸してくれないかい?」
しかし、それはこの模擬戦の後ということだった。
特に断る理由もなく、むしろ気になるネタであったためボクは大きく頷く。
それを見たニールさんはにっこりと微笑んだ。レミアの方も確認したけど、どうやら彼女もこの闘いには賛成派の様子。その理由というのも――。
「カイルよ。ここでしっかり叩いておかねばならないぞ?」
「え、どうしてさ」
「あの娘――」
レミアは目を細めて、やや不機嫌そうにこう言った。
「――妾と、キャラが被っておる」
――え、そこですか?
ボクは思わずそう口にしかけた。
だが、どうやらハリエットの準備がちょうど整ったらしい。木刀ではなく、腰から本物の剣を抜き放って天に掲げながら、こう宣言した。
「カイル・ディアノス! EXランクの魔法使いよ、いざ尋常に勝負だ!」――と。
「…………!」
宣誓を耳にして、ボクは感動を覚える。
そして、つい口に出してしまった。
「久しぶりに――魔法使い扱いしてもらえた! やった!!」
「そこか! そこなのか!?」
すると後方から、レミアのツッコみが飛んでくる。
「だって、最近は誰もボクのこと魔法使いだって、言ってくれないんだもん!」
「だーかーらー! どうしてお主は、そんなに魔法使いにこだわる!?」
「こだわってないよ! 当然のことを言ってるだけで――」
そうしていると、どこかジト目になったハリエットが言った。
「なぁ、そろそろ始めても良いのか?」
どこか毒気の抜かれたように。
その姿を見て、ボクは慌てて杖を構えるのだった。
「あ――うん! こっちも、準備できてる!」
「ならば――行くぞ!!」
彼女に答える。
すると、間髪入れずにハリエットは距離を詰めてきた。
唐突ではあるが、模擬戦は開始である。瞬きの間に、少女剣士はボクに肉薄する。そして剣を左下に構えて、斜め上に振るった。
「お、っと……!」
「ほう。いまの一撃目を避けるか!」
ボクは少し、身体の軸をズラして躱す。
ハリエットは感嘆の声を漏らして、しかしすかさず第二撃目。
「喰らえ――獅子牙斬!」
「え、なにそのカッコいい名前!?」
照準を微調整して、掲げた剣を素早く振り下ろした。
思わずそのネーミングセンスに声を上げてしまうボクだったが、後方に軽くのけ反ることで再び回避。それでも、目測より切っ先が速い。前髪を数本切られてしまった。なので、ここは一度仕切り直し。後方に大きく飛び退り、体勢を整えた。
その隙に、ボクは魔法を詠唱する。
ボクの行動を読んだハリエットは、むしろ歓迎するように待ち構えた。
そして、ニヤリと笑って言う。
「こい! EXランクに相応しい魔法を見せてみろ!!」
「あぁ、行くよ――!」
それにボクは、大きく息を吸ってこう答えるのだ。
「――【ファイア】!」
唯一使える、攻撃魔法を――!
「…………」
「…………」
ひゅるるるるるるるる~、ぽん!
エンシェントドラゴンの鱗から作成した杖の先端。
そこから放たれた炎の塊は、ふよふよとハリエットへと迫り、叩き落とされた。小気味の良い音と共に消えたそれに、周囲の人々はみな黙ってしまう。
だけど、ボクにとってそれは――。
「見た? 見た!? ――レミア、魔法を発動できたよ!?」
――人生で一番の大成功だった。
なので、大喜びで後方に控える彼女にその気持ちを伝える。
だがしかし、レミアは手で額を覆ってこう、震える声で言うのだった。
「今さらながら、レオに同情してきたぞ」――と。
ボクはそれを聞いて、首を傾げた。
彼女は何を言っているのだろう。レオとパーティーを組んでいた時は、そもそも発動しないのが当たり前。発動しても、もっと弱々しいそれだった。
だから、これを快挙と言わずして、なんというのだろうか。
「なぁ、お前は儂のことを馬鹿にしているのか……?」
「え……? そんなつもりはないよ?」
「そうか――」
そんなことを考えていると、ハリエットが震える声でそう口にする。
こちらは意味が分からないので、首を傾げるしかない。
さて、そうしていると――。
「ならば、これ以上の茶番は不要だ。次の一撃で、勝負を決する!!」
そう言って、剣を正面に構えた。
怒っているのだろうか、青い髪の毛が逆立っている。
「え、あ……うん」
――あれ。ボク、なにかやっちゃいました?
ともあれ、いまは考えても仕方ない。
ここは魔法ではなく、近接攻撃で対抗するとしよう。
ボクは杖を構えてハリエットの攻撃を待った。そうして――。
「――いざ!」
エルフの少女剣士が駆け出した。
それに応えるように、ボクも真っすぐに走り出す。そして、互いに交差し――。
「そ、そんな……!」
最後に武器を持ち、立っていたのはボクだった。
ハリエットは呆然と、弾かれた剣を眺めてからこちらに視線を向ける。そこにあったのは、明らかな動揺だった。




