4.彼が選んだ結末
注意:今回、凹む話かもです。
物語には、いつか終わりがやってくる。
それでもそこに込められた想いは、きっと永遠だ。
「リリスくん――私はキミに謝らなくてはならない。それをあの日に口にする勇気を持てなかったんだ。それだけ、キミの存在が私の中で大きくなっていた」
ヴィトインは微笑みをたたえながら、うずくまるリリスにそう告げた。
「まるで、そう……レミアのように。本当の娘のように。キミのことを、私はいつの間にか失った『家族』であるかのように錯覚していたんだ」
リリスはそれを呼吸を乱し、歯を剥き出しにして聞いている。
漏れ出す息の端からは、うわ言のようにヴィトインの名前。それは果たして、彼の耳に届いていただろうか。悲しみに満ちたその音は、生まれてすぐ消えた。
彼女の頬を伝うのは、涙だ。一筋のそれは、血のような瞳から零れた。
「この物語は、私が思い描いたものではなかった――が、それでも責任はすべて私にある。あの日の選択をここで清算しよう。そして、願うなら……」
戦斧を取り出して、深呼吸するヴィトイン。
「……最後はまた、あの日々のような笑顔を」
そして、そう呟くように口にして。
彼はリリスに向かって駆けだすのだった。
「ヴィト、イン――!」
それに呼応して、獣と化した彼女が飛び出す。
二人の距離は心のそれとは異なり、一気に縮まっていく。
そうやっていよいよ、互いの攻撃が届く範囲に入った時だった。
「――――――――お父様っ!?」
悲鳴だ。それは悲鳴だった。
ただレミアが父を呼んだだけだが、それは悲鳴だった。
何故なら彼女の目の前に広がっているのは、惨劇に他ならないから。ヴィトインは戦斧を振りかざしたまま、それを下ろすことはなかった。
一直線にリリスに向かって猛進しただけ。それはつまり、なにを意味するのか。考える必要もない。明白な事実が、残酷な現実がそこにあった。
「…………かふっ!」
――――致命傷だ。
リリスの突き出した手は、腕は、狙いを過たずに心の臓を貫いていた。
彼女の手に握られた脈打つ臓器は、血を滴らせ、次第に動きを緩やかにしていく。それでもヴァンパイアとしての生命力の強さか、ヴィトインの意識はいまだ失われずに、その顔には変わらぬ微笑みが浮かんでいた。
「さぁ、キミが生き長らえるために必要なものだよ」――と。
彼はリリスに語りかける。
まるでそれは、教え子に指導する師のようで。
「師、匠……!」
リリスはそれに従った。
首筋に乱暴に喰らいついた彼女は、息を荒らげながら。
大粒の涙を流しながら、かつての師の肉を食んだ。そして血を啜り、だんだんと瞳に宿した狂気を収めていく。嗚咽が漏れだし、静かな空間に広がった。
そして――。
「ごめんなさい、師匠――私は……っ!」
「これで、いいんだよ。キミが手を下したのではない。これもまた、私が選択したことなんだ。だから、決してキミが憂いを持つ必要はないんだよ」
「そんな、こと――」
これが、一つの物語の終わりなのか。
あまりに悲しい。そして、悲劇的な選択が正解なのか。
それは本当に、望まれた世界なのか。誰にも、分からなかった。
ただ、それがヴィトインの選んだ結末。
倒れ伏した彼と、その場にへたり込んだリリス。
「師匠、師匠……!!」
「お父様……!!」
だが少なくとも、残された者たちにとっては不幸でしかなかった。
注意:安心してください。次回ちゃんと……。




