3.レミアの思い
『カイルくん、すまない。少しだけでいいから、リリスくんと話をさせてもらえないかな? 最初に、本当に少しだけで良いんだ……』
ボクはヴィトインさんの言葉を思い出す。
彼はいま、こちらから数歩先を歩いていた。細身でありながらも大きく見えるその背中に、いったい何を背負っているのだろうか。考えても分からない。
それは分かっていても、考えずにはいられなかった。
「…………お父様」
「レミア、大丈夫……?」
「――あぁ、大丈夫だ。妾もこの問題に口を挟めないのは、分かっている」
そうしていると、ポツリ。
隣にいる少女が呟いたのが聞こえた。不安に駆られたのは彼女か――いいや。それはボクだったのかもしれない。そのために、声をかけずにはいられなかった。
するとレミアはどこか、自身に言い聞かせるようにそう答える。
不安なのは、両方だった。
ボクもレミアも、各々にヴィトインさんとリリスさんを案じている。
「ボクたちに出来ることは、ないのかな」
「分からぬ。ただ言えるのは、まずは見守るしかない、ということだけだ」
「うん、そうだね。だけどもし、どちらかが――」
「………………」
「……ごめん」
「いや、大丈夫だ」
ボクは思わず最悪の事態を口にしかけて、止まった。
しかしレミアはそれを察したのか、ややうつむき加減になり押し黙る。謝罪には答えてくれたが、感情はなく、どこか淡白な声色だった。
彼女もやはり、考えてしまっているのだろう。
最悪の事態。
すなわち、二人のうちどちらかが――。
「なぁ、カイル……? 少し、いいか」
「ん、どうしたの?」
考えていたところで、少女の声に思考を寸断された。
声を発した彼女を見ると、そこにあったのはいつもの勝ち気な表情ではない。今にも壊れてしまいそうな、儚い女の子のそれがあった。
それを見て、改めてボクは思い知らされる。
レミアにとって、やはりヴィトインさんが大きな存在なのだと。
「いいや。もしかしたら、でいいのだ……」
赤髪の少女は瞳を潤ませて、懇願するようにこう言った。
「もし、なにか――救うことが出来る手立てがあれば、教えてくれ」
それは、夢物語。
語弊を恐れなければ、レミアの思い描いた妄想だ。
当然ながら、ボクにはこの事態を解決するような力はなかった。そのことは彼女も重々承知のはずだろう。だがそれでも、すがるしかないのだ。
身近な誰かに。それはそう、付き合いの短いボクのような相手でも――。
「レミア……」
「すまないっ、こんな願いは無駄だと分かっているのだ! だがそれでも、頼らなくてはこの場に立っていることすらできない! 本当に、すまないっ……!」
少女はボクの服にしがみ付いた。
顔を埋めて、泣き顔を見せないようにしながら。
「………………」
そんな初めて見るレミアの態度、表情に胸が締め付けられた。
そして思った。もしも、ボクの中にそんな力があるのなら、この一時だけでいいから目覚めてはくれないものか、と。そんな、馬鹿げた本気の願いを。
胸に手を当てる。もう一度、ヴィトインさんの背中を見た。
――始まる。
彼と彼女の百年の物語の終わりが。
同時にそれは、レミアという少女にとっての悲劇の始まりでもあった。
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