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1.これは一人の少女の話 3

一迅社様より、3/4に発売予定。

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 一瞬でも気を抜けば、負ける戦いだった。

 神から授けられたという武器の数々は、的確にヴィトインに傷を付けていく。

 しかしそれでも、ここで死ねないという気持ちの強さで勝ったのか、最終的にその場に立っていたのはヴィトインだった。呆然とへたり込むリリスと二人で、天を仰ぐ。気付けば日は落ちて、空には闇が広がっている。


 星はない。

 分厚い雲に隠されてしまっていた。


「師匠……?」


 リリスは不安気な声で、そうヴィトインに語りかける。

 彼女の胸にあったのはいかなる感情だろうか。おそらくは微かな希望と、しかし先ほどのヴァンパイアハンターの口にした言葉による不信と、それがない交ぜになっているように思われた。少なくとも、少女の顔に浮かんでいるのは、そんな色だ。


「嘘、ですよね? 私たちが神様に見捨てられたなんて……」


 そして、ついにそう訊ねた。

 リリスは瞳を潤ませて、いまにも泣き出しそうな表情。


「……………………」


 ヴィトインは答えない。

 天を見上げたまま、何かを考えている様子だった。


「……師匠、真実を教えてください!」


 そんな彼に、こらえ切れなくなったリリスは声を張り上げる。

 さながら悲鳴のようなそれは、静かな森の中に響き渡って溶けていった。再び訪れた沈黙に、少女は唇を噛む。そして、もう一度だけと口を開けた時。


「私たちヴァンパイアは、世界から爪弾きにされたんだよ」

「――――え?」


 ヴィトインがついに、そう口を開いた。

 彼は悲しげに笑ってこう続ける。


「我々は人の形をしながら、それでいて人とは異なる。神はそのことをついに許さなかった。我らを一介の魔物として断じて、駆逐を始めたんだ」

「そんな……!」


 明かされた事実に、リリスは息を呑んだ。

 覚悟はしていたのだろう。それでもしかし、目の前に突き付けられると話は別だった。人間としての記憶のある彼女は、それによって苛まれる。

 だが、彼女の中にはまだ知りたいことがあった。

 それを詰まりながらも、どうにか言葉にする。


「我々の敵は、魔王軍ではなかったのですか……? 神様はそれでも、私たちを邪魔者として消し去るというのですか!?」

「……………………分からない。ただ、それが事実なんだ」

「そんな、ことって……!」


 少女はうな垂れて、声を漏らした。


「私の村は、魔王軍に滅ぼされたのですよ? 師匠はそんな中から、私を救い出して下さったのです。それなのに、そんな仕打ちを……!」

「あぁ、違うんだ。リリス――すまない」

「なにが違うのですか!? どうして、どうして謝るのですか!!」


 ヴィトインの謝罪に立ち上がり、詰め寄るリリス。

 服を掴んで答えを求めた。すると彼は、ゆっくりと彼女を見て――。


「キミの村は、魔王軍によって滅ぼされたのではない」

「え……?」


 そう、言った。


「キミの村を滅ぼしたのは――」


 そしてリリスが耳にした事実。

 それはきっと、生涯彼女の耳に張り付いて離れないもの。


「――――私だ」



◆◇◆



 深い闇の中で、リリスは意識を取り戻した。

 ずいぶんと懐かしい夢を見ていたような気がすると、そう静かに思う。


「あぁ、私は……何、を……?」


 全身が鉛のように重かった。それでも、彼女は立ち上がり一歩を踏み出す。

 無意識下のうちに、帰ろうと思ったのだろう。大切な仲間たちのいる場所へ。ここがどこかも分からないままに、それでも前に進もうとしていた。

 だが、それも本当に束の間のこと。

 ある記憶がリリスを深い闇へと誘うのだった。



『私が憎いのなら、殺すんだ――リリスくん』



 別れ際に、師が口にした言葉。

 それは決別のそれ。リリスが抱いた不信感に対する、彼の返答だった。


「あ…………っ!」


 リリスは、その時から冒険者となったのである。

 そして同時にヴァンパイアハンターを名乗ることとした。ヴィトインというヴァンパイアをのみ狩る、限定的な存在となったのだ。


 その選択が正しかったのかは、分からない。

 それでも、少なくとも彼女はこの数十年間を生き抜くことが出来た。

 自らを救ってくれた師――ヴィトインを殺すという、その目的を果たすために。


「あぁ、私はもう――」


 だが、それも終わりが近い。

 リリスはそれを、その身をもってして感じ取っていた。


「どこにも、いけないのだな……」



 その小さな呟きは、またも闇の中に溶けていった。


 


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2019/3/4一迅社様より書籍版発売です。 ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=408189970&s 「万年2位が無自覚無双に無双するお話」新作です。こちらも、よろしくお願い致します。
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