7.ある事実
「神様、に……?」
冒険者の言葉を聞いて、リリスは怯えたような表情を浮かべた。
ヴィトインはその言葉に対して唇を噛む。
「おや、知らなかったのか嬢ちゃん? お前たちは神に見捨て――」
「やめろ! それ以上は口にするな!!」
「くくくっ……」
そして、リリスを羽交い絞めにする男が何かを言おうとするのを止めた。あまりに必死なその形相に、冒険者たちはみな邪悪な笑みを浮かべる。
それにはしかし、どこか惨めな存在を憐れむような色さえあった。
少女は意味も分からず、ただ恐怖に震える。
ただ、それでも――。
「私は、神様に……見捨てられたの?」
そのことだけは、理解してしまった。
自分は世界を治める絶対的な存在から、見放されたという現実を。
この世界には神がいる。それは決して人々が作りだした偶像などというものではなく、真に人々を導かんとする者たちであった。
人々はその者たちを神と呼び、崇拝している。
そのような超越者たちから自分は見捨てられたのだという、その事実――リリスはまるで足元が揺らぐような、そんな感覚に襲われた。
「そうだ。嬢ちゃんたちは、この世界に不要だと――そう神様に判断を下されたんだよ。その証拠が俺たち、ヴァンパイアハンター」
「ヴァンパイアハンター……?」
リリスは瞳を潤ませつつ、首を傾げる。
すると男が真実を口にするよりも先に、動いたのはヴィトインだった。
「――黙れ。それ以上を口にするなら、喉を掻き切るぞ」
「ほう……?」
瞬間に、男たちの只中へ飛び込んで、彼は戦斧をリリスを拘束する者に突き付けていた。冒険者たちからは感嘆の声すら漏れる。
なるほど、このヴィトインという戦士は今までの奴らとは違う。
彼らはそう感じ取ったのだ。
「これは、面白い戦いになりそうだ……!」
リーダー格と思しき男はそう言って、銀に輝く剣を抜き放った。
そして、森の中での戦いが幕を開ける――。
◆◇◆
「――それで、どうなったんですか?」
「その戦いは私の勝利で終わった――だけどね、問題はその後さ。私にはリリスくんの心を繋ぎ止めるだけの言葉はなかった。その時をもって、私たちは……」
……袂を別ったのだよ、と。
ヴィトインさんは、そう静かに口にした。
「それでも、どうしてリリスさんはヴィトインさんを殺すだなんて……?」
「………………」
ボクは彼の言葉に、そう疑問を呈した。
それは当然の疑問である。リリスさんにとって、ヴィトインさんが命の恩人であることに変わりはない。それだというのに、殺しにかかる、とはどういうことか。レミアもそのことに首を傾げている様子だった。
そうしていると、ヴィトインさんは――。
「なに、単純な話なんだよ」
そう、おもむろに言った。
続けてボクらを見て、自らを嘲るように笑って――。
「私が、彼女の住んでいた村を滅ぼしたのだから――ね」
事実を在りのままに。
それは、きっと避けては通れない大きな壁だったのだろう。
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